猫に血尿がみられる場合、何らかの病気にかかっているのではないかと不安になるでしょう。
猫の血尿は病気のことももちろんありますが、怪我をしている可能性もあります。
この記事では猫の血尿の原因だけでなく、考えられる病気・対処法・予防法を解説していくので参考にしてください。
猫の血尿の原因は?
猫の血尿の原因は病気だけではありません。ここでは、怪我によるものと病気によるものを解説します。
強くぶつけたなど尿路にダメージを受けた
外飼いしている猫に多いのが交通事故によって、腎臓や膀胱などの尿路にダメージを受けてしまうと血尿が出ることです。
交通事故は骨折などだけではなく尿路に傷がつく可能性があります。しかし、家の中で飼っていて交通事故の心配がないから大丈夫と思ってはいけません。
家飼いの猫でも机にぶつけたり、棚からおりることに失敗したりして尿路にダメージを受けることがあります。
何らかの病気
血尿が出ているときは体に何らかの病気が起こっている可能性があります。主な病気としては尿石症・尿道炎・膀胱炎・泌尿器の腫瘍・生殖器系の疾患です。
また、ヘモグロビンが混ざっている「溶血尿」の場合、フィラリア症・タマネギ中毒・免疫介在性溶血性貧血・猫ヘモプラズマ感染症などが疑われます。
このように、ぶつけたり交通事故に遭遇したりしていなくても、多くの病気が潜んでいる可能性が捨てきれません。
必ずしも病気になっているわけではありませんが、血尿がみられたら検査を受けると安心です。また、血尿以外にも食欲や活動具合など他に異変がないかも注視してください。
感染症が原因の場合、泌尿器に問題がない場合が多く外科的処置はできません。そのため、治療が長期にわたる可能性があります。
オスの場合はペニスに傷がついている場合も
排尿時以外でペニスが傷つくと、そこから出血した血液が尿に混ざって血尿が出ることがあります。
ペニスが傷つくと舐める回数が増えていることもあるので、雑菌が繁殖してしまうこともあるでしょう。
排尿後以外にも頻繁にペニスをなめているようなら、傷がついていないか確認してください。
傷がついている場合は、そこから炎症が広がっていないかなど動物病院で確認する必要があります。
また、傷があると猫も違和感があってストレスを感じてしまうので、早めに処置してあげることが大切です。
猫の血尿で考えられる病気
猫の血尿には病気からくる症状ということがあります。その中でも猫がなりやすい尿石症・尿道炎・膀胱炎・泌尿器の腫瘍・生殖器系疾患についてみていきましょう。
尿石症
尿石症は猫がなりやすい病気の1つです。尿中のミネラルが増加したりpHバランスが崩れたりすることで結石ができます。
猫は他の動物よりも水分を摂る量が少ないので、尿石症が起こりやすいのです。
オスメスどちらでもなりやすい病気ではありますが、雄の場合尿道が細いこととカーブがついていることで重症化しやすいでしょう。
また、肥満猫も尿道が圧迫されやすいので尿石症になりやすいです。尿を出すときにいたがっていないのに血尿が出る場合は、尿石症の可能性があります。
尿石症は食事だけでなく手術によって治療することが多いので、猫の身体に大きな負担をかけてしまうでしょう。
そのため、日頃から水分を多めに摂り、食事に注意することが大切です。
尿道炎・膀胱炎
まず、尿道炎は尿道の粘膜に炎症が起こっている状態です。
これは尿路結石が尿道に詰まっていることと、陰部を舐めて雑菌が入り込んでしまうことが原因といわれています。
炎症を起こしているといつもと違う姿勢で尿を出したり、陰部を舐めたりすることが増えるのが特徴です。放置してしまうと尿路が閉塞してしまうので早めに治療を始めましょう。
続いて膀胱炎は細菌性のこともありますが、猫の場合は特発性膀胱炎であることが多いです。
膀胱炎の場合、初期症状で気づかず放置してしまうと腎不全や尿毒症など命にかかわる病気に発展するので猫の行動に注視しましょう。
細菌感染・膀胱結石・尿道結石以外の原因だと、検査しても何が原因になっていることがわからないことが多いです。
特に若い猫に多いので、血尿以外に頻繁にトイレに行く・陰部を舐める・ニオイが違うといった症状があったら動物病院を受診してください。
泌尿器の腫瘍
血尿は膀胱腫瘍・尿道腫瘍・腎臓腫瘍によっても引き起こされ、主に高齢猫に多い症状です。
多くの場合、悪性のため移行上皮がんや前立腺がんなどに分類されます。
膀胱の内側がただれて炎症を起こしていることなどが原因で、血尿以外にもトイレの回数の増加や食欲不振といった症状がみられるでしょう。
検査してすぐに腫瘍があると判断されることは少なく、尿石症や膀胱炎の治療をしても回復しないことで発見されることが多い病気です。
尿検査・エックス線検査・超音波検査などで腫瘍を確認し、外科手術で取り除いたり抗がん剤治療を行ったりして治療していきます。
膀胱炎などと症状が似ていて発見が遅れてしまうケースが多いので、少しでも異変があったら動物病院を受診しましょう。早期発見できれば猫への負担も軽減してあげられます。
メスの場合は生殖器系の疾患の場合も
避妊手術をしていないメス猫の場合、子宮や卵巣などの生殖系に疾患が起こることで血尿が出ることがあります。
特に子宮蓄膿症が引き起こされることが多く、血尿以外に膿が出ていたり食欲がなかったりといった症状が出るので重篤になりやすいです。
合併症として急性腎不全・血液凝固異常・腹膜炎・DIC・敗血症など命にかかわる病気になることもあります。子宮蓄膿症は膿が溜まった子宮と卵巣を摘出しなければなりません。
また、摘出後も抗生物質によって治療を続ける必要があります。子宮蓄膿症にならないためには、避妊手術をおこないましょう。治療期間には1週間ほどかかります。
進行すれば進行するほど、死亡する確率が高くなるので早めに治療していくことが重要です。
猫に血尿がみられた場合の対処法は?
血尿が出た場合は何らかの病気や損傷があるので、動物病院を早めに受診しましょう。
食事療法・環境整備療法・抗炎症治療・鎮痛剤投与などで対処することが多いです。
しかし、これらは完全治癒を見込めません。あくまで緩和ケアによる対処法だと覚えておきましょう。
完治は難しいですが、症状が和らぐ可能性は高くなります。最終的には外科手術をしないと完治は目指せないでしょう。
ただし、外科手術をすることで負担がかかりすぎてしまう場合は手術を行わないこともあります。
また、重症でない場合であれば、このように緩和ケアによる対処法で改善していきます。
猫の血尿の予防法
猫の血尿予防のためには、水分・ストレス・トイレの環境が重要です。ここでは、どのように予防していくか詳しくみていきましょう。
水分をしっかり摂らせる
血尿トラブルは水分をしっかり摂ることが大切です。
猫は特に水分不足になりやすい動物なので、水分の多い食事にしたり水を定期的に交換したりして水分摂取しやすい環境を作ってあげてください。
尿の結晶形成因子が高濃度だと血尿になる可能性が高いでしょう。そこで、濃度を低くするために水分を摂らせるようにしてください。
また、水道水ではなくろ過した水を飲ませた方が、血尿のリスクが下がります。
あまり水分を摂ってくれないならドライタイプではなく、ウェットタイプのキャットフードに切り替えるのがおすすめです。
ウェットタイプのキャットフードの方が、水分量が多いので食事から水分補給ができます。
尿pHを低下させる効果が認められているウェットフードだと、血尿のリスクを下げられるでしょう。
ストレスに気を付ける
1頭飼いよりも多頭飼いの方がストレスになりやすいので気を付けましょう。
遊んだり適度に運動させたりすることで、ストレスが緩和されます。猫は構いすぎや環境の変化でストレスを強く感じてしまいます。
ストレス性の膀胱炎にならないためにもストレスが少ない環境作りをしてあげてください。高い場所・暗い場所・狭い場所は猫が好みます。
キャットタワーを置いたりクレートを用意したりと、猫が安心できる場所を用意しましょう。また、安心できる場所だけでなく室温や湿度にも注意してください。
猫は毛皮で覆われているので、人が熱いと感じる温度は猫にとってはかなり熱くなっています。冷えたマットを用意したりエアコンで調節したりしましょう。
トイレを清潔に保つ
ストレスにならないようにトイレは頭数分ではなく、頭数分に対して多めに1台用意しておきましょう。
猫は自分の排泄物のニオイや場所に敏感です。中には他の猫が使っても気にしない猫もいますが、ストレスを感じてしまう猫もいるので注意しましょう。
また、毎日掃除して清潔に保つことはもちろんですが、静かで落ち着いた場所に設置することも重要です。人があまり通らない場所に設置してあげましょう。
トイレの猫砂にも好みがあるので、なかなか排泄をしないようなら変えてください。掃除は1日に何回か行いましょう。
便が溜まっていると猫はトイレを我慢します。また猫砂が尿で湿った状態が続くことも猫にはストレスになるので注意が必要です。
すぐに獣医師に診せたほうが良いのはどのようなケース?
様子をみるのではなくすぐに診察を受けなければいけないケースがあります。ここでは、4つのケースを詳しくみていきましょう。
血尿の程度がひどい場合
血尿の程度がひどい場合、すでに病気が重篤なことがあります。血尿がひどくなくても出ている場合には動物病院を受診しましょう。
血尿は体に何らかの異変があることを伝えています。軽めの膀胱炎から重篤な腎不全など、血尿が出ている場合には多くの病気が隠れている可能性が考えられます。
もし、重篤な病気の場合は治療が間に合わない可能性も捨てきれません。そのため、少し様子をみるのではなく、動物病院でしっかりと検査をしてもらうことが大切です。
また、尿の色だけではなく猫の様子も注視してください。日頃から猫の尿の色や出方をチェックしておくことで、急な異変にも気づけるでしょう。
血尿がみられたら問診でもすぐに応えられるように普段の様子と異変についてよく確認してください。
食欲がない場合
血尿が出ているときは、食欲不振の症状を伴うことが多いです。腫瘍ができて悪性のがんになっていたり、生殖器疾患に陥っていたりすると食欲不振になります。
食欲不振だと栄養が足りず、さらに尿石症などを引き起こしやすくなるので注意が必要です。また、しっかりと栄養が取れないと体力が持ちません。
そのため、外科手術や薬物療法に体が耐えられない可能性が出てきます。そこで、食事療法によって少しでも栄養を摂らせるようにすることが大切です。
キャットフードの種類や食事回数などの指導を受けるためにも、動物病院を受診して適切な指示を受けましょう。
特に夏場は単なる夏バテと思わないようにしてください。実は夏バテではなく病気が原因ということもあります。病気かをはっきりさせるためにも、動物病院を受診してください。
尿がほとんど出ない場合
血尿が出る以外にも尿がほとんど出ない症状のこともあります。これは尿道炎や膀胱炎が悪化して尿路閉塞が起こっているときに起こりやすい症状です。
特にオス猫は尿道が狭く発症しやすいので排尿できているか確認してください。長時間排尿できていないと腎不全になってしまいます。
腎不全になると尿毒素が溜まって死亡するケースも珍しくありません。水分補給ができているかも確認しつつ、排尿できていないようなら動物病院を受診しましょう。
尿道を短くしたり広げたりする手術によって改善されることもあります。予防としてはFLUTD対策のキャットフード・水分補給・トイレを清潔に保つことが大切です。
特に綺麗好きな猫だとトイレに汚物があるだけで排尿しなくなることもあります。
吐いている場合
猫は嘔吐が多い動物で、特に毛玉を吐くことが非常に多いです。しかし、嘔吐しやすい動物だからといって、よくあることで済ませてはいけません。
ご飯の食べ過ぎ・空腹・毛玉吐き以外で嘔吐がみられる場合は、動物病院を受診しましょう。血尿以外に嘔吐の症状がある場合、腫瘍や尿路閉塞などの病気が疑われます。
連続で何度も吐いたり吐しゃ物に異物が混ざったりしているなら、早急に動物病院を受診してください。
また、嘔吐後は脱水症状や栄養不足に陥ることもあるので注視していかなければなりません。動物病院での処置後以外も家でしっかり様子をみてあげましょう。
持参できるのであれば吐しゃ物を持っていくことで、より詳しく検査結果が出ることもあります。
ただ、感染の可能性もあるのでゴム手袋を着用し、袋を何重にもして持参しましょう。
猫の血尿の治療方法
身体の内側から改善していく療法食で治療していきます。
療法食は抗酸化成分によって酸化ストレスを軽減したり、組織損傷を低減させたりして身体の調子を整える方法です。
猫の突発性膀胱炎には確立された治療法がないため、このような療養食による緩和ケアが行われます。
尿石症などでは尿路水圧推進法・バスケットによる回収・レーザー結石破砕法・経皮的膀胱切石術などの治療法もありますが、すべての猫に施術できるわけではありません。
尿道が細いオス猫などには、施術ができないケースが多いです。腫瘍には部分切除を行うこともあり、膀胱の一部を切除して元の形に縫い合わせることで治療します。
全身麻酔を使用したり数日入院になったりするので覚えておきましょう。
まとめ
猫の血尿は決して放置してはなりません。そのうち治まると思っていると、取り返しのつかないことになってしまいます。
血尿の症状が現れたら早めに動物病院を受診しましょう。また、普段の食生活や水分摂取量にも注意が必要です。
猫の健康のためにもストレスのない環境で、安心して過ごせるようにしてあげましょう。
参考文献
- 尿の色がおかしい・尿が濁る(尿異常)|鳥取大学農学部附属動物医療センター
- 猫の特発性膀胱炎――再発率低減のための栄養学的戦略
- ネコの尿石症
- ガイドラインに基づく尿路結石症の診断と治療 2. 下部尿路結石症
- Sulfonamid化合物二依ル淋疾ノ療法二就テ第1報臨殊層篇附軍純性尿道炎及ビ膀胱炎ノ治療
- 猫の特発性膀胱炎とその対処法、特に栄養学的管理について
- 膀胱腺風,特二膀胱頂部腫瘍(尿膜管腫瘍)二就テ附膀胱Endometrisisトノ異同
- 犬猫におけるメチシリン感受性とメチシリン耐性ブドウ球菌感染症の治療成績
- 犬猫の排尿障害を克服する3. 神経疾患以外の腎泌尿器系の異常による排尿障害とその治療
- 猫の癌性胸膜炎・胸水症を示した腎癌
- 猫におけるトキソプラズマ抗体の調査と,2-Sulfamoy1-4,4′-diaminodiphenylsulfone長期間投与による抗体価の推移
- 猫の子宮蓄膿症に対するProstaglandinF2αの応用
- (12)泌尿器疾患の栄養管理 ∼尿石症の食餌療法を中心に∼
- 若齢猫における膀胱結石を伴った下部尿路閉塞症の1例
- 猫の尿管閉塞に対する非X線透視下におけるSUBの設置に関する検討
- 猫の尿管結石症Ureterolithiasis in Cats