人畜共通感染症とされるクリプトコッカス症は、猫にも感染する病気の1つです。体内に真菌が入り込むことで感染を起こします。
一般的に健康な状態であれば感染するリスクは少ないとされますが、免疫力が落ちていると発症しやすいといわれています。
鼻水や鼻の変形などが見られる場合は、クリプトコッカス症の感染の疑いがあるでしょう。
そこで、今回の記事では猫のクリプトコッカス症の症状・治療法・予防法を解説します。飼っている猫にクリプトコッカス症の感染の可能性がある場合は、ぜひ参考にしてください。
人畜共通感染症のクリプトコッカス症とは
クリプトコッカス症とは、クリプトコッカス属に分類される真菌に感染することで発症する病気です。あまり聞き慣れない病気であるため、どのような病気なのかよくわからない方が少なくないでしょう。
では、クリプトコッカス症とはどのような病気なのか詳しく見ていきます。
真菌による感染症
クリプトコッカス症は、クリプトコッカス属の真菌が原因で発症する感染症です。
真菌とは酵母・カビのことで、細菌やウイルスと同一視されがちですが、実は人の細胞に近い生物といわれています。
クリプトコッカス症の原因となる菌には、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)とクリプトコッカス・ガッティ(Cryptococcus gattii)があります。
クリプトコッカス・ネオフォルマンスは、世界中に存在しており、主にハトなどの鳥の糞で汚染された土壌に存在する菌です。
一方で、クリプトコッカス・ガッティは熱帯や亜熱帯の地域に限定される菌でしたが、近年では世界中に拡大しています。
国内では、クリプトコッカス・ネオフォルマンスが原因となって発症するケースがほとんどといわれています。
また、クリプトコッカス症には、感染する部位によっていくつか病型があります。主な病型は以下のとおりです。
- 肺クリプトコッカス症
- 中枢神経系クリプトコッカス症
- 皮膚クリプトコッカス症
- 播種性クリプトコッカス症
猫の場合は、主に皮膚クリプトコッカス症と播種性クリプトコッカス症の感染の報告があります。
皮膚クリプトコッカス症は、さまざまな皮膚症状が現れるタイプです。
主な症状は、皮膚が部分的に腫れて膿がたまった状態である膿疱・しこりとも呼ばれる結節・皮膚が炎症を起こしただれている潰瘍などが挙げられます。
播種性クリプトコッカス症は、感染が全身に広がってしまうタイプです。
感染が広がった部位によって症状が異なり、発熱・頭痛・発疹・倦怠感・咳などが挙げられます。また、けいれん・意識障害などの症状も現れることがあります。
特に免疫力が低下している際に感染すると、重症化しやすいため注意が必要です。
家庭内で伝染
クリプトコッカス症は、家庭内でも伝染する可能性があるといわれています。
主なクリプトコッカス症の感染源は、鳥の糞や鳥の糞で汚染された土壌と考えられています。
ただし、鳥自体はクリプトコッカス症の原因菌を持っていないため、排出されたばかりの鳥の糞には含まれていません。
原因菌であるクリプトコッカス・ネオフォルマンスは、土の中に存在しており、鳥の糞によって増殖します。汚染された土が乾燥すると、空気中に飛散し動物や人に感染するといわれています。
そのため、家庭に庭のように土があり鳥が来る環境であれば、感染する可能性はあるでしょう。
猫がクリプトコッカス症を発症する原因
動物にも人にも感染するクリプトコッカス症は、なぜ発症してしまうのでしょうか。ここからは、猫がクリプトコッカス症を発症する原因について解説します。
吸入による感染
クリプトコッカス症は原因菌に汚染された土壌が埃となって空気中に飛散し、それを吸い込んでしまうことで感染します。
また、皮膚の傷口から原因菌が入ることでも感染する場合もあります。
ただし、通常では原因菌を吸い込んでも無症状であることが少なくないようです。
基礎疾患による免疫力の低下
クリプトコッカス症を発症するのは、ほかの疾患によって免疫力が落ちてしまうことが関係しています。
特に以下の疾患は、クリプトコッカス症の発症と関連するといわれています。
- 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)
- 猫エイズウイルス感染症(FIV)
猫白血病ウイルス感染症は、猫白血病ウイルスの感染によって引き起こされる病気です。発症すると、発熱・貧血・リンパの腫れなどの症状が現れます。
また、免疫力が低下し、クリプトコッカス症や皮膚炎などの感染が起こりやすくなったりします。
その他にも、腎不全を発症し多飲多尿・食欲不振・体重減少などが見られることもあるようです。
猫エイズウイルス感染症は、猫免疫不全ウイルスの感染によって引き起こされる病気です。猫免疫不全ウイルスは潜伏期間が長く、一度感染すると最後まで体内に残ります。
症状が出ない場合もありますが、感染すると免疫力が低下しクリプトコッカス症などの感染症にかかりやすくなります。
猫白血病ウイルス感染症と比べると、命を落とす危険性は少ないといわれているようです。
クリプトコッカス症に感染した猫のうち、およそ半数が猫白血病ウイルス感染症となっていると報告されています。
また、播種性クリプトコッカス症に感染した猫は、高い確率で猫エイズウイルス感染症を患っているようです。
猫白血病ウイルス感染症や猫エイズウイルス感染症は、どちらも猫同士の喧嘩でひっかかれたり噛まれたりしてしまうことで感染します。
そのため、クリプトコッカス症に感染しないためには、猫白血病ウイルス感染症や猫エイズウイルス感染症を予防することが大切です。
さらにグルココルチコイド製剤の長期投与も、クリプトコッカス症に感染するリスクが高まる可能性があります。
グルココルチコイド製剤はステロイドホルモンとも呼ばれ、抗炎症作用や抗アレルギー作用などのはたらきを有しますが、免疫力が低下するなどの副作用もあります。
そのため、ほかの病気の治療でグルココルチコイド製剤を長期投与している猫にも注意が必要でしょう。
猫のクリプトコッカス症による症状
猫がクリプトコッカス症に感染すると、鼻の症状・皮膚症状・目の症状・神経症状などさまざまな症状が現れる可能性があります。
主な猫のクリプトコッカス症による症状は、以下のとおりです。
- くしゃみ・鼻水
- 肉芽腫
- 網膜剥離
- 神経症状
上記以外にも肺炎・リンパ節の腫れなどの症状も現れるようです。
ここからは、猫のクリプトコッカス症による症状を詳しく見ていきましょう。
くしゃみ・鼻水
呼吸器に感染すると、くしゃみ・鼻水などの鼻の症状が現れます。また、鼻の先にこぶのような腫瘤ができたり、鼻筋が変形することで顔が変形したりすることもあります。
肉芽腫
肉芽腫も猫のクリプトコッカス症による症状の一種です。肉芽腫は皮膚症状の1つで、慢性的な炎症によって生じる腫瘤です。
肉芽腫以外にも紅斑・びらん・丘疹・結節・潰瘍などの皮膚症状も現れる場合があります。
なお、紅斑は血管が拡張することで皮膚が赤くなること、丘疹は皮膚がぶつぶつしているように皮膚の表面が小さく盛り上がっている状態を指します。
網膜剥離
猫のクリプトコッカス症では、目に感染して症状が現れます。
目の症状の1つである網膜剥離とは眼球の内側にある網膜が剥がれて、視力が低下する病気です。
場合によっては、失明してしまうこともあります。一般的に網膜剥離は高血圧が原因となって起こるケースが少なくないようです。
その他にも、瞳孔散大・網膜炎を引き起こす可能性があります。
瞳孔散大とは、目の黒い部分の瞳孔が通常よりも大きくなることです。通常は光の強さによって瞳孔の大きさは変化しますが、瞳孔散大となると大きさが変化しなくなります。
また、網膜炎とは網膜に炎症が起こる病気です。網膜炎は網膜剥離・視力低下の原因となる可能性があります。
神経症状
猫のクリプトコッカス症は中枢神経にも影響を及ぼします。中枢神経とは多くの神経細胞が集まっている領域で、脳や脊髄のことです。
中枢神経に感染すると、発作・運動失調・後躯麻痺などの症状が現れます。なお、後躯麻痺とは下半身が思うように動かなくなることです。外傷や心臓病によって発症することもあります。
猫のクリプトコッカス症を診断する検査
猫のクリプトコッカス症による症状はほかの病気も関連するものであるため、症状のみで判断するのは難しいでしょう。
そのため、病変している部位を採取したうえで詳しく検査することで診断がつけられます。
猫のクリプトコッカス症を診断する検査は、以下の54つが挙げられます。
- 顕微鏡検査
- 病理組織検査
- 培養検査
- X線検査
- 血液検査
それぞれの検査を詳しく解説しましょう。
顕微鏡検査
顕微鏡検査とは、病変を採取したものを顕微鏡を使って細菌や真菌の存在を調べる検査です。猫のクリプトコッカス症では、結節や潰瘍などが発生している皮膚を採取して検査します。
顕微鏡検査では、採取したものをスライドグラスに乗せて、薬液で処理し皮膚を溶かすことで真菌の有無の確認が可能です。
また、真菌や細胞を見分けられるようにライトギムザ染色などの染色を使用します。
病理組織検査
真菌が確認できたら、病気を特定するために病理組織検査を行います。病理組織検査によってクリプトコッカス症の感染が認められます。
培養検査
培養検査は、病変を培地という細菌が発育するのに必要な栄養素を含んだものに接種して真菌が発育するかを調べる検査です。
これは感染している真菌を特定するために行われます。外部の検査機関に依頼するケースが一般的です。
X線検査
胸部や鼻腔の状態を確認するために、X線検査を行うことがあります。
X線検査とはX線を用いて体内を調べる検査です。X線を人体に照射し、各組織を通過してきたX線の量の違いを画像として表示します。
この検査によって、炎症やできものの有無を調べられます。
血液検査
脳内や全身に感染して病変を採取できない場合は、血液検査を行うことがあります。血液検査では、貧血・腎機能・肝機能などを調べる検査です。
また、クリプトコッカス抗体検査も行います。抗体検査とは検査したい菌の抗体を使用して菌が持つ特有のたんぱく質を検出する方法です。
この検査によりクリプトコッカス症を発症しているかどうかを判定できます。
猫のクリプトコッカス症に対する治療法
飼っている猫がクリプトコッカス症となってしまった場合は、どのような治療法が行われるのでしょうか。
一般的にクリプトコッカス症の治療では、抗真菌薬を投与します。主に使用される抗真菌薬は、フルコナゾール・ケトコナゾールなどです。
フルコナゾールはトリアゾール系の内服抗真菌薬の一種で、臨床試験でクリプトコッカス症の治療に有効とされた薬です。飲み薬として経口投与します。
一方で、ケトコナゾールはイミダゾール系の外用抗真菌薬の一種で、皮膚症状に対して使用する薬です。クリームとローションの2つのタイプがあります。
猫の症状・状態によって、内服薬や外用薬の両方、もしくは内服薬のみが処方されるでしょう。
また、別の病気が原因で発症した場合は、その病気の治療も行います。さらに症状に対して対症療法を行うことがあります。
ただし、治癒しても環境が汚染されていれば再感染する可能性があるため注意が必要です。
猫が過ごしている環境を清潔にし、鳥が集まる公園に連れて行くのを控えるなど環境を整える必要もあります。
猫と飼い主がクリプトコッカス症にかからないための予防法
クリプトコッカス症は、予防できる薬はありません。そのため、猫が過ごしている環境を整え感染源となるものに近づけないことが大切です。
特に免疫力が落ちている猫には注意しましょう。
ここからは、クリプトコッカス症にかからないための予防法をお伝えします。
猫を外出させない
基本的に猫は室内で飼育し、外出させないようにしましょう。
前述したとおり、猫がほかの病気を患っている場合は免疫力が低下しています。特に猫白血病ウイルス感染症や猫エイズウイルス感染症を発症すると感染のリスクが高まります。
また、治療のためにグルココルチコイド製剤を服用している場合も注意しましょう。副作用として免疫力が低下する可能性があるため、感染しないように十分な配慮が必要です。
室内で飼っている場合は配慮の必要はないかもしれませんが、いつでも外に出られる環境にしている場合は窓や扉を閉めるといったことをするとよいでしょう。
鳥が集まる場所に近づかない
鳥が集まる場所に近づかないことも、クリプトコッカス症の予防法の1つとして挙げられます。
クリプトコッカス症は、主に鳥の糞によって汚染された土壌が原因となります。そのため、公園や広場などのように鳥が集まる場所には、糞が落ちて感染源となる可能性があるでしょう。
猫や飼い主の健康を守るためにも、できるだけ鳥が集まる場所に近づかないことが望ましいです。
猫の飼育環境を清潔に保つ
猫の飼育環境を清潔に保つことも重要です。インコやオウムなどの鳥を飼っている家庭は、猫が糞を触ってしまう可能性があるため、できるだけこまめに清掃するとよいでしょう。
庭のある家に住んでいる場合は、庭に鳥の糞が落ちている可能性があります。鳥の糞が落ちているのを発見したら取り除き、庭の土を触ったら十分に手を洗いましょう。
さらにベランダのある家庭は鳥がベランダに糞を落としていく可能性もあるため、掃除することで予防につながると考えられます。
まとめ
クリプトコッカス症は、猫や人にも感染する人畜共通感染症の一種です。主に鳥の糞によって汚染された土壌が空気中に舞うことで、感染するといわれています。
猫がクリプトコッカス症に感染すると、鼻水・しこり・視力低下・運動失調などさまざまな症状が現れます。
これらの症状はほかの病気でも現れる可能性があるため、少しでも気になる症状があれば医療機関を受診することが大切です。
クリプトコッカス症は免疫力が低下すると、感染のリスクが高まります。そのため、日頃から猫の体調管理をすることが大切です。
また、生活環境によっても感染リスクを高めることになるため、清潔にして猫や飼い主が過ごしやすい環境を整えましょう。
参考文献