猫のヘルニアとは?原因・症状・治療方法を徹底解説

猫ヘルニア

猫の平均寿命は12~18歳と人間よりかなり短いものです。そんな猫を家に迎え入れた瞬間から、少しでも元気で長生きするよう祈らない飼い主はいないでしょう。

食生活や住環境にどんなに気を使っていても、予防が難しい先天性の病気が見つかる場合もあります。事故に遭わないよう室内飼いを徹底していても、家の中で遊び過ぎて転倒することもあるでしょう。

猫は物言わぬ生き物です。先天的な理由から臍ヘルニア(でべそ)などの病気を抱えている場合もあります。軽い場合は無症状の場合も多く、飼い主は予備知識によって適切に判断しなければなりません。

そこで今回は、猫のヘルニアの原因・症状・治療方法などについてくわしく解説します。もし愛猫がヘルニアになったらどうすれば良いのか、いざというときの参考にしてください。

猫を悩ませるヘルニアの種類・原因

見上げる猫

ヘルニアとはどのような病気ですか?
体内の組織や臓器が本来あるべき場所から脱出してしまう状態をヘルニアといいます。軽度のヘルニアでは脂肪だけが脱出するため、特に症状はありません。指で触るとやわらかい膨らみとして触知されるだけです。
もし猫がヘルニアを起こしている場合は、元気消失・食欲不振・嘔吐・呼吸困難など何かしらのサインがあるのでわかるでしょう。
また、腹部などヘルニアが起こっている部位を触られると痛むことが多いので嫌がります。内股に膨らみを感じた場合は、動物病院を受診してください。 病状が進むと「腸閉塞」など合併症を引き起こす危険性もあります。先天性のヘルニアを持って生まれた猫の飼い主は、発症サインを見逃さないように観察してください。
猫がかかりやすいヘルニアの種類を教えてください。
猫がかかりやすいヘルニアには以下のようなものがあります。
  • 横隔膜ヘルニア
  • 鼠径ヘルニア
  • 腹壁ヘルニア
  • 臍ヘルニア
  • 椎間板ヘルニア

猫に最も多いのが、横隔膜のヘルニアです。横隔膜ヘルニアは、胸とお腹を分ける横隔膜という筋肉の仕切りに穴が空いた状態をいいます。横隔膜があることによってお腹の中の臓器が胸腔内に入ることはありません。
また、横隔膜が上下に動くことによって肺に空気がたくさん吸い込まれます。呼吸の一端を担う横隔膜に異常が生じるため、呼吸が苦しそうな症状が出るでしょう。
また、鼠径ヘルニアは、鼠径部と呼ばれる後ろ足の付け根部分に起こるヘルニアです。お腹の中から血管などが内股へ通る穴を「鼠経輪」と呼びますが、その穴から腹腔内の脂肪や腸など臓器が皮下に飛び出てしまう状態を指します。重度の場合は子宮や膀胱が鼠経輪から脱出してしまい、危険な状態になるので十分注意してください。

猫がヘルニアになる主な原因は何ですか?
猫にヘルニアが起こる原因としては、事故・外傷などによる後天性と、先天的な異常や疾患・遺伝によるものがあります。
たとえば鼠径ヘルニアや臍ヘルニアは、通常では生まれつきの原因で発症することが多いヘルニアです。横隔膜ヘルニアの原因には、先天性の横隔膜形成不全があげられ、横隔膜がしっかり形成されずに生まれてくるために起こる場合が多いです。
生まれつき未発達なために発症するヘルニアは、以下のようなものがあります。
  • 腹膜心膜横隔膜ヘルニア
  • 食道裂孔ヘルニア
  • 胸膜腹膜ヘルニア

腹膜心膜横隔膜ヘルニアは、生まれつき心膜と腹腔がつながっているために心膜内に腹部臓器が入り込んでしまう状態です。食道裂孔ヘルニアは、横隔膜にある食道裂孔(れっこう)という穴が生まれつき緩いため腹腔内臓器が胸腔内に入り込むヘルニアです。
また、胸膜腹膜ヘルニアは、横隔膜の欠損が致命的に広範囲に及んでいるため、生後すぐに命を落としてしまうことも多々あります。また、外傷性の横隔膜ヘルニアは、先天性で慢性的な経緯をたどってきた場合と異なり、症状がはっきり出るので注意しましょう。高い所から飛び降りたときの事故による外傷が原因で、後天的に発症する場合もあります。

ヘルニアになりやすい猫の種類について教えてください。
腹膜・心膜・横隔膜ヘルニアにおいては、メインクーンやヒマラヤンなど長毛種の猫に多く発症することが確認されています。椎間板ヘルニアは、マンチカンなど短足胴長の猫に多い傾向があるでしょう。
その他のヘルニアにおいては、好発猫種は特に確認されていません。原因についての種特異性の報告もありません。

猫のヘルニアによる症状

毛布の上にいる猫

ヘルニアになるとどのような症状が見られますか?
猫にヘルニアがあっても、ほとんど多くの場合は無症状です。横隔膜ヘルニアでは、嘔吐・食欲不振・呼吸が速いなど消化器症状と呼吸器症状がみられます。鼠径ヘルニアでは、脂肪が脱出しているだけの場合には全く症状がありません。鼠径部にやわらかい膨らみとして蝕知されるだけで、指で押すと脂肪をお腹の中に戻すことができます。ただし、重度の場合は腹腔内の脂肪だけでなく、腸・子宮・膀胱がヘルニア輪という穴から脱出するため、痛みが出て動けなくなります。
鼠経ヘルニアの猫で、便秘や妊娠時のような強い腹圧がかかっている状態のときは、ヘルニア輪が広がるためより多くの腹腔内臓器が脱出してしまう可能性があります。脱腸の量が多いと腸閉塞・腸の壊死といった「嵌頓ヘルニア」を引き起こす危険性があるので注意してください。
「椎間板ヘルニア」の場合も、背骨の中にある太い神経を潰してしまうほど進行すると、激しい痛み・麻痺を起こして立てなくなることもあります。重度のヘルニア・腸閉塞を起こした場合には、以下のような急性の症状が出ます。
  • 食欲不振
  • 元気消失
  • 嘔吐
  • ヘルニア部の硬結
  • ヘルニア部の熱感・痛み

このような症状が起こると緊急手術が必要なので、すぐにかかりつけの獣医に診せてください。

ヘルニアになった猫は安静にさせるべきですか?
椎間板ヘルニアの猫の場合は、最低でも2週間以上安静にさせることが多いです。犬ほど一般的ではなく、発生頻度が0.24%と非常にまれな疾患ですが、猫でも椎間板ヘル ニアを発症する可能性はあります。軽い痛みなら家で安静にしているだけで症状が落ち着く事もありますが、麻痺している場合は少しでも早く治療することで症状を改善させられます。すでに重症である場合には手術を行います。
また、嘔吐や痛みなどヘルニアの症状がみられたらすぐに獣医師に診せてください。今後臓器が出てしまい、危険な状態になることを防ぐため手術を行う場合があります。長時間気づかないで過ごしてきたヘルニアに関しては、臓器が癒着して手術中に出血するリスクがあるため、主だった症状がなければ安静にして経過観察をすることもあるでしょう。
猫のヘルニアを放置するとどうなりますか?
「臍ヘルニア」のように、そのまま放置しても問題にならないようなヘルニアもあります。放置していても成長とともに小さくなって自然消滅する場合が多く、そのまま成猫になっても残っている場合もあります。
ただし、ヘルニア嚢の中で腸管が絞扼されて壊死してしまう・臓器が出てしまうなどの緊急事態が起こった場合は、すぐに獣医師に診せましょう。外科的に開腹してヘルニアを起こしている部位を塞ぐ手術を行う必要があります。嘔吐・痛み・食欲不振・元気消失などのサインに気づいた場合も、放置せずに動物病院に連れて行ってください。

猫のヘルニアに対する治療方法

猫と獣医

ヘルニアが疑われる場合はどのような検査を行いますか?
獣医師が触診で検査し、異常が認められる場合はレントゲン検査を行います。レントゲンに加えて、CTやMRI検査より副作用が非常に少ないとされるエコー検査をすることもあります。
なるべく猫の体を動かさないよう安静な状態で来院して、早目に検査を受けさせましょう。
ヘルニアの治療方法について教えてください。
横隔膜ヘルニアの根本治療は、開腹による外科手術です。胸腔内に移動した臓器を元の場所に戻し、横隔膜に開いた穴を縫合して閉じる手術を行います。
また、横隔膜の欠損が大きすぎて閉じきれない場合には、腹筋・心膜・医療用のメッシュなどを使用して整復します。
先天性のヘルニアの場合は、できるだけ早期に手術を行う方が良いとされていますが、高齢の猫や心疾患など持病のある猫で、これまで整復しなくても支障なく生活できていた場合、本当に手術が必要かどうかよく検討して決めてください。
手術の後遺症はありますか?
重度の椎間板ヘルニアでは、足の麻痺・排尿障害などの後遺症が残る場合があります。また、肺がほかの臓器に長期間圧迫されていた場合は整復後に肺機能が元に戻らない可能性があります。整復しても肺にかかる圧力が変化することによって「再拡張性排水腫」という合併症を併発する恐れもあるので、十分注意してください。
また全身麻酔は、体の小さな猫には負担となってしまいます。麻酔や術後の肺水腫と呼ばれる合併症のリスクを伴うため、年齢や時期など慎重に検討しましょう。体への負担を軽減するため、避妊手術や去勢手術の際に同時に手術を実施すると良いです。全身麻酔の回数は少ないに越したことはないので、治療のタイミングは獣医師とよく相談して決めてください。

編集部まとめ

椅子の上にいる猫

今回は猫のヘルニアについて、病気の原因・症状から治療法までくわしく解説しました。

猫は遊びに熱中するあまり高い所から落ちたり、思いがけない場所から飛び出してきたりと、自由気ままで目が離せません。猫が一旦家から外に出てしまうとどこにいるのか飼い主が把握することは至難の業でしょう。

愛猫が先天性のヘルニアを持っているという飼い主は、日頃からその部位の色や大きさ・熱感・硬さなどの変化に気づいてあげる努力をしてください。そのうえで、獣医師による定期健診が必要です。もし外から帰ってきた猫が苦しそうな症状を示していたら、動物病院に連れて行きましょう。

また、外傷性ヘルニアのほとんどは交通事故など外出時に起こります。家の中で起こることは滅多にありません。子猫の時期は室内飼いを徹底することで、外傷のリスクを減らすのも1つの選択肢です。猫が家に帰ったときの体の様子や状態を観察し、病気のサインを見逃さないようにしてください。

参考文献