猫の水頭症(水痘症)| 症状・特徴から治療法・予防法まで徹底解説

猫 水頭症

子猫が発症しやすい病気の一つとして、水頭症が挙げられます。猫での発症率は犬に比べると低いとされますが、水頭症は一度発症すると命に関わることが多い病気です。

今回の記事では、猫が水頭症になった場合の症状・身体的特徴・原因・診断方法・治療方法などを詳しく解説します。

記事の後半では、水頭症の予防・早期発見のポイントなど、猫の命を守ることにつながる疑問にも答えていきますので併せて参考にしてください。

猫が発症する水頭症(水痘症)の症状・特徴

寝ている猫

水頭症(水痘症)とはどのような病気ですか?
人も猫も同じく、脳は頭蓋骨の中で液体に浮かんでいるような状態です。この液体を脳脊髄液と呼び、脳の内部にある脳室という部分で生成されています。
脳の周囲を循環した脳脊髄液は脳の表面で吸収されることで一定の量を保ち、脳の水分量・形状を保つ役割を果たすと考えられている液体です。しかし、下記のような状況では脳の周囲に過剰な脳脊髄液が貯留することがあります。
  • 脳脊髄液が過剰に作られている
  • 脳脊髄液の循環経路が塞がっている
  • 脳脊髄液を吸収する機能が低下している

このように貯留した脳脊髄液によって脳が圧迫され、正常な構造・機能を保てなくなる病気が水頭症です。
水頭症になると脳機能が障害されるため、感情の制御・感覚機能・運動機能などさまざまな面で異常が現れます。

水頭症の原因は何ですか?
水頭症の原因は、大きく分けて先天性と後天性があります。
先天性とは、生まれつき脳の形状・機能に異常があるタイプです。水頭症の原因となる代表的な先天性疾患は脳奇形・尾側後頭骨奇形症候群などです。こうした先天性疾患は遺伝との関連が深いと考えられていますが、原因となる遺伝子は特定されていません。
一方、外的要因による水頭症もあります。主な外的要因は、外傷・感染症です。感染症のなかでも、猫伝染性腹膜炎(FIP)は特に水頭症につながりやすい病気とされています。また、脳腫瘍が原因で水頭症を発症することもあります。
水頭症の症状を教えてください。
水頭症になると、前述のとおり感情の制御・感覚機能・運動機能などさまざまな異常が現れます。具体的な症状は下記のとおりです。
  • 怒りっぽい
  • 活気がない
  • 食欲がない
  • 異常によく食べる
  • ほとんど寝ている
  • 歩行時のふらつき
  • 一方向に回転する
  • けいれん
  • てんかん発作
  • せん妄(軽度の意識障害)

飼い主からみると少し疲れているのだろうかと感じる症状も含まれますが、症状が1~2日経っても改善しなかったり、以前できたことができなくなったりといった場合には動物病院の受診をおすすめします。

水頭症は身体的な特徴が現れますか?
水頭症になると、過剰な脳脊髄液により脳が圧迫されるだけでなく、頭蓋骨にも内側から圧力がかかります。そのため、頭部がドーム状に変形して頭頂部が丸みを帯びたり、おでこが前に張り出したりします。
頭蓋骨はもともと丸い形なので、症状の程度により健康な猫と見比べなければわからない場合もあるでしょう。しかし、重症例では、額が大きく張り出しているために両眼の間隔が開いてみえたり、外斜視のように両眼の瞳がやや外を向いているようにみえたりすることもあります。
水頭症にかかりやすい猫の特徴はありますか?
品種では、シャムネコに水頭症が好発する傾向があるといわれます。しかし、猫の水頭症は品種による傾向を確認するには、症例が少な過ぎる可能性があります。
そのため、水頭症になりやすい猫の特徴として品種を挙げることは難しいです。なお、原因となる脳奇形・脳腫瘍・猫伝染性腹膜炎(FIP)の既往歴や、頭部に強い衝撃が加わるような受傷歴がある猫は、健康な猫と比較すると水頭症になる可能性が高いといえるでしょう。

水頭症(水痘症)を発症した猫の検査・治療法

獣医師と猫

水頭症はどのような検査で診断されますか?
水頭症が疑われる場合、まずは診察でドーム状頭蓋・泉門の開き具合・斜視の有無など水頭症に特徴的な症状の有無を確認します。加えて、脳機能の障害により意識・運動機能に問題が出ていないか、脳神経の機能に問題がないかを調べることも重要です。こうした検査を神経学的検査といって、主な検査項目には下記があります。
  • 視診
  • 触診
  • 反射機能検査
  • 脳波測定

さらに、飼い主から生活歴・異変に気付いた契機などの聞き取ることも診断の手がかりとなります。また、視診・問診などの結果をふまえて、頭蓋内の状態を確認するために行われるのが下記の検査です。

  • 超音波(エコー)検査
  • MRI検査

なお、腫瘍・炎症の有無などを調べるためには脳脊髄液(CSF)検査も有用とされています。加えて、現在の症状が水頭症以外の病気によるものではないことを判別するために尿検査・血液検査などを行う場合が多いでしょう。

水頭症の治療法を教えてください。
水頭症の治療法には、大きく分けて内科的治療・外科的治療があります。
内科的治療とは、薬を用いて脳にかかる圧力を下げたり、脳を守ったりする治療です。使用される薬には、ステロイド剤・利尿剤などがあります。また、てんかんなどけいれん性の症状がある場合には、抗けいれん薬を併用するケースもあります。
一方、外科的治療で行われるのは、余剰な脳脊髄液の排出経路を作るための手術です。主な手術方法としては、脳室と腹腔などをチューブでつなぐバイパス術が挙げられます。
ただし、全身状態・年齢・原因などを検討し、手術が適さないと判断される猫もいます。なお、手術の合併症として術後感染のほか、脳脊髄液の過剰な排出による脳出血・脳虚脱などがある点にも注意が必要です。
こうしたリスクがあるため、外科的治療は内科的治療では十分な効果が得られなかった場合や、水頭症が重度の場合に検討されます。
水頭症を治療しないとどうなりますか?
初期の水頭症では、食欲不振・活気がないなどどこか具合が悪いのだろうかと気になるものの、様子をみていても問題ないと考える飼い主もいるかもしれません。
しかし、水頭症を治療しないまま放置すると歩行が困難になり、立ち上がれなくなったり寝たきりの状態になったりする可能性があります。また、意識障害・てんかん発作などが重症化するほか、最終的には命に関わる病気です。
なお、水頭症の原因が猫伝染性腹膜炎(FIP)だった場合、適切な治療を行わなければ数日~1ヵ月程で死に至ります
そのため、もし水頭症を疑う症状に気付いたら、放置せず早期の受診をおすすめします。

猫の水頭症(水痘症)に対する予防法

猫

猫の水頭症の予防法はありますか?
前述のとおり、水頭症には先天的な原因・後天的な原因があります。
先天的な原因については、発症に関わる遺伝子が明確にはわかっておらず、予防は難しいでしょう。
一方、後天的原因の予防が、結果として水頭症の予防にもつながる可能性があります。
例えば、猫伝染性腹膜炎(FIP)は感染した猫・排泄物との接触により罹患するとわかっています。国内ではワクチンが認可されていないため、多頭飼い・トイレの共有を避けるなど生活の工夫で予防に努めましょう。
また、割合としては少ないですが、外傷も水頭症の原因になり得ます。そのため、事故を避けるために室内飼いにすることも、水頭症になる確率を少しでも下げるために役立つかもしれません。
早期発見のために気を付けておくべきことはありますか?
水頭症には、運動機能・相貌・意識状態など、いくつかの症状があります。症状が軽いうちに異常に気付くためには、まず毎日欠かさず猫の様子を確認することが大切です。
また何か普段と違うと気付いたり、外見などから水頭症が疑われたら、まずは動物病院への受診が早期の診断・治療につながります。
なお、普段の様子も診断に役立つ大切な手がかりです。そのため、いつ頃からどのような異常に気付いたのかを獣医師へスムーズに伝えられるように、簡単にまとめておくことをおすすめします。

編集部まとめ

男性と猫

猫が水頭症になると、脳脊髄液の異常な貯留により脳機能が障害されて、さまざまな症状が現れます。

水頭症ではいくつかの原因がわかっており、先天性疾患・神経系の腫瘍など、予防が難しい原因も多いのが実状です。

しかし、後天的な原因をできるだけ避けるほか、発症したら早期に適切な治療を受けることが重症化の抑制につながる可能性があります。

予防・早期発見の確率を高めるためには、飼い主が水頭症の原因や症状をよく知っておくことが大切です。

参考文献