犬の前立腺肥大症とは、オス犬の生殖器である前立腺が異常に大きくなる病気です。前立腺肥大症は、去勢していない高齢犬に多く見られます。
本記事では犬の前立腺肥大症について以下の点を中心にご紹介します。
- 犬の前立腺肥大症とは
- 犬の前立腺肥大症の症状
- 犬の前立腺肥大症の原因と予防
犬の前立腺肥大症の原因や症状について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
犬の前立腺肥大症とは
前立腺肥大症は、雄犬の前立腺が大きくなる病気です。前立腺は精液の一部を生成する臓器で、未去勢の高齢犬によく見られます。
また、8〜10歳以上の高齢犬で発症しやすいとされています。
犬の前立腺肥大症の症状
犬の前立腺肥大症は主に排尿困難などの症状を引き起こします。具体的な症状は以下の通りです。
排尿障害
犬の前立腺肥大症は、前立腺の肥大により尿道が圧迫され、排尿障害を引き起こします。
主な症状には、血尿や尿が出にくいことが挙げられます。また、尿失禁の問題も発生する場合もあります。
排便障害
肥大が進行するにつれて、細い形状の便を排出、便秘やしぶり(便が出にくい状態)といった排便困難が生じることがあります。また、下痢や血便のような症状も見られることがあります。
無症状
犬の前立腺肥大症は、軽度肥大の段階では無症状であり、症状が現れることは少ないとされています。
前立腺が肥大すると、尿道や直腸の圧迫など、二次的な障害が発生し、症状が現れることがあります。
このため、犬の定期的な健康診断は、早期発見に不可欠です。
犬の前立腺肥大症の原因と予防
犬の前立腺肥大症は主に加齢による自然な変化やホルモンの影響が原因です。以下で解説していきます。
原因とかかりやすくなる条件
犬の前立腺肥大症の主な原因は、良性前立腺過形成です。良性前立腺過形成は、前立腺細胞の増殖により前立腺が肥大することに起因し、精巣から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)の影響が大きいと考えられています。また、アンドロゲン以外のホルモンも肥大の発症に関与している可能性があります。
さらに、ドーベルマン、スコティッシュ・テリア、バーニーズなどの犬種では遺伝により前立腺肥大症にかかりやすいとされています。
予防
若いうちの去勢手術を受けることによって発症リスクを軽減できます。ただし、去勢手術は全身麻酔を必要とし、高齢犬では各種臓器の障害や麻酔リスクも考慮する必要があります。
家庭では、犬の排便・排尿の様子を定期的にチェックし、排便困難や血尿などの異常に気づいた際は、動物病院へ相談することが重要です。
犬の前立腺肥大症の診断と治療
犬の前立腺肥大症の診断には、触診、血液検査、エコー検査、レントゲンなどが用いられます。以下で見ていきましょう。
検査・診断
犬の前立腺肥大症の診断には、前立腺の大きさや直腸、尿道への圧迫状態を確認するために、レントゲン検査、超音波検査、直腸検査が用いられます。検査により、前立腺の異常を詳しく調べられます。
さらに、前立腺肥大の原因を特定するため、精液検査や細胞診検査を行うこともあります。
治療
犬の前立腺肥大症の治療は、症状の有無や重さに応じて異なります。無症状の場合、特に治療を行う必要はありませんが、症状がある場合、去勢手術を行います。去勢手術により、前立腺に影響を与える男性ホルモン(アンドロゲン)が減少し、前立腺の肥大が治まります。多くの症例では、去勢後数か月で前立腺の大きさが元に戻ります。
しかし、腎臓や心臓などの疾患を抱え、全身麻酔が困難な高齢犬の場合、去勢手術ができないこともあります。
去勢手術ができない犬は、抗アンドロゲン薬を用いた内科的治療が行われますが、症状の緩和に留まり、投薬を中止すると再発する可能性があります。
また、糖尿病などの副作用が生じる薬もあり、慎重な使用が求められます。
治療による改善がみられるか判断するため、治療開始後は定期的に超音波検査などを含む診察が行われます。
犬の前立腺肥大症に関連した病気
犬の前立腺肥大症は、尿路感染症、前立腺腫瘍などの複数の関連病気を引き起こす可能性があります。以下で関連する病気を見ていきましょう。
前立腺炎
老犬に多く見られる前立腺炎は、細菌感染によって前立腺に炎症が生じる病気です。症状は初期から中期の前立腺肥大症と似ており、感染が膀胱に広がると膀胱炎のような症状も現れることがあります。排尿時の痛み、濁った尿や血尿が多く見られます。重症化すると、発熱、嘔吐、食欲減退などの症状も出現します。
前立腺炎の治療は主に抗生物質を用いて行われますが、慢性の場合は感染が重く、一時的に治まったとしても再発することがあります。
前立腺膿瘍
前立腺膿瘍は、犬の前立腺部分に細菌が感染し化膿する深刻な病気です。
前立腺膿瘍の主な症状は、尿に膿が混ざり、尿の色が濁ることです。多くの場合、膀胱炎に似た症状で、頻尿や排尿困難が生じることもあります。重症化すると、発熱、食欲不振、活力の低下、お腹の痛みなどの症状が現れます。
前立腺膿瘍の診断と治療は困難であり、適切な治療が行われない場合、命にかかわる恐れがあります。治療後も、前立腺が細菌感染を繰り返し、再発するリスクがあります。
膿が溜まり前立腺が破裂すると、お腹の中で細菌が広がり、非常に危険な状態に陥るため、気づいた時点での手術が必要です。
会陰ヘルニア・鼠経ヘルニア
会陰ヘルニアは、犬の会陰部、すなわち肛門と外陰部(ペニスの根本や膣前庭)及びその周囲に発生するヘルニアの一種です。特に中高齢の未去勢のオス犬に多く見られ、コーギーやミニチュアダックスフント、マルチーズ、トイプードルなどの犬種が発症しやすいです。
一方、鼠経ヘルニアは、鼠径部の体壁に穴が開き、腸管や脂肪、膀胱などの腹腔内が皮膚の下にある状態を指します。
会陰ヘルニアの治療は、大半が外科手術によります。この手術では、飛び出した臓器を正しい位置に戻し、筋肉の隙間を塞ぐことが主な目的です。男性ホルモンがこの病気の発生に影響を与えるため、未去勢の犬では再発を防ぐために去勢手術も同時に推奨されます。
一方、鼠経ヘルニアの場合、小さい穴から脂肪が飛び出している状態であれば、状況を観察することが多いですが、穴が大きい場合や嵌頓ヘルニアが発生し、腸などの組織に壊死が見られる場合は、飛び出した臓器や組織を元の位置に戻し、穴を閉じる手術が行われます。
前立腺腫瘍
前立腺腫瘍・前立腺癌は悪性度が高く、転移する可能性があります。
前立腺腫瘍・前立腺癌は尿道を塞ぐことがあり、その結果、排尿が困難になり、急性腎不全を引き起こすリスクがあります。
また、肺への転移が起きると呼吸困難を引き起こす可能性があります。
前立腺癌の診断が下された場合、平均余命は2ヶ月程度といわれています。
尿路閉塞が起きた場合には、救済手術として前立腺の全切除が行われることがあります。この手術は寿命を延ばすことを目的とするものではなく、排尿困難などの症状を緩和するための措置です。
前立腺腫瘍の治療にあたっては、犬の快適さと生活の質を考慮し、適切な対応を行うことが重要です。
まとめ
ここまで犬の前立腺肥大症についてお伝えしてきました。犬の前立腺肥大症の要点をまとめると以下の通りです。
- 前立腺肥大症は、雄犬の前立腺が大きくなる病気のこと
- 犬の前立腺肥大症は、「排尿障害」「排便障害」などの症状が現れる。ただし、無症状の場合もある
- 犬が前立腺肥大症になる原因は良性前立腺過形成で、予防するには若いうちから去勢手術を受けることが重要
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。