犬の皮膚病の原因は?症状・治療方法・獣医師にかかる目安を解説

犬の皮膚病の原因は?症状・治療方法・獣医師にかかる目安を解説

犬がかかりやすい病気の中でも身近なものに皮膚病があります。愛犬が痒そうにしていたり、脱毛が目立ったりして皮膚病を疑ったことがある方も多いのではないでしょうか。

犬は毛が長い犬種も多く、皮膚の変化に気づきにくいため、注意が必要です。この記事では犬の皮膚病の原因や症状に加えて、治療法や予防法といった実用的な知識もご紹介します。

「愛犬が皮膚病かもしれない」とご不安な方はもちろん、「愛犬を皮膚病から守りたい」とお考えの方も、ぜひ参考になさってください。

犬の皮膚病の原因は?

ダニ

ひとえに皮膚病といっても原因は様々です。症例数が多いのは寄生虫や細菌感染などによるものですが、内科的な疾患が原因となることもあります。

皮膚病の原因について詳しくみていきましょう。

アレルギー

ドッグフード

アレルギー性の皮膚炎の多くを占めるのが、アトピー・食物・ノミによるものです。

アトピー性皮膚炎は遺伝的な素因が大きく、ダニ・ノミ・花粉などの様々な環境アレルゲンに対して過敏に反応を示します。非常に強い痒みや赤みを伴うのが特徴です。

診断基準として、初めての発症が3歳未満・室内飼育を主とする・前脚や耳介の罹患などがあります。初発時は多くが皮膚病変が無く痒みのみのため、症状を見逃さないよう注意しましょう。

また、アトピー性皮膚炎の多くは長期間の治療継続が必要です。信頼できる獣医師と連携して治療に当たることが大切です。

食物アレルギーはアレルギー全体の10〜20%ほどを占める症状で、2歳前後での発症が多いといわれています。ほとんどは食後30分以内に症状が発現し、痒み・紅斑・脱毛などの皮膚症状が現れます。

初期では顔や耳の周りのみに限定的に発症しますが、慢性化すると全身に症状が広がり二次感染の危険もあるのです。治療としては食事を減感作食に変えて経過観察を行います。

減感作食とは、食物アレルギーの原因となるタンパク質が分解された状態で含まれていたり、それまで摂取したことがないタンパク質のみで構成されていたりする食事です。

食物アレルギーはアレルギーの中でもある程度コントロールしやすいので、犬・飼い主・獣医の連携で症状とうまく付き合っていくことが大切です。

ノミアレルギーは、ノミが吸血時に分泌する唾液によってアレルギー症状が起こります。肉眼でノミの寄生を確認し、診断されます。駆除剤を用いて治療するとともに、犬小屋やケージの洗浄が必要です。

真菌

真菌はカビ・酵母・キノコ類などを含む生物群です。このうち、犬に皮膚病を引き起こすものに糸状菌やマラセチアと呼ばれる常在菌があります。

糸状菌はいわゆるカビのことで、症状が表皮に留まる表在性のものと、皮膚の奥深くまで及ぶ深在性のものがあります。

表在性では患部の赤み・脱毛・膿疱・かさぶた・フケなどの症状が主です。深在性では皮下に肉芽腫病変を伴い、治療においては外科的な切除が必要になるケースもあります。

人への感染もみられるので、接触の際は注意しましょう。マラセチア性皮膚炎は皮膚の免疫機能が弱まると発症します。

マラセチアは普段から皮膚に存在する真菌で、人の皮膚にも常在しています。健康な時には何ら影響はありません。

しかし、高温多湿で皮膚のバリア機能が低下する梅雨などの時期は注意しましょう。マラセチア菌が異常に増殖し、皮膚炎を引き起こします。

また、皮膚の乾燥がひどくなることも皮膚の免疫が弱まる原因の一つです。例えば、シャンプーのし過ぎが原因となるケースが多く見られます。

適切なシャンプーの頻度は犬種や個体によって変わるため、心配な方は獣医師に相談してみるとよいでしょう。

マラセチア性皮膚炎は強い痒みを伴うのが特徴で、皮膚の赤みやべたつき、独特の臭いなどの症状がみられます。

掻きむしってしまうことで脱毛するケースも多く、アトピー性皮膚炎との併発にも注意が必要です。

細菌

細菌によって引き起こされる皮膚炎もあります。その1つが膿皮症です。

他の皮膚疾患や基礎疾患によって、皮膚の表面に常在するブドウ球菌が表皮などに入り込んで発症すると考えられています。

湿疹や膿疱がみられ、多くは痒みを伴う他、脱毛・フケ・皮膚の臭いなどの症状が現れる場合もあります。主な治療方法は抗菌薬やシャンプー療法です。

皮膚の再生サイクルとともに改善することがほとんどですが、薬剤耐性菌の出現により、稀に治療が難しくなるケースもみられます。

寄生虫

犬の皮膚に寄生する寄生虫には20種近い種類がいます。中でもニキビダニとヒゼンダニは身近な寄生虫です。

ニキビダニはほとんどの犬の毛包(毛穴の奥)に寄生している微小ダニです。皮膚のバリア機能が弱まると異常増殖して皮膚疾患を引き起こします。

比較的若年かつ狭い範囲で発症した場合は自然治癒することもありますが、成犬以降に発症すると治癒まで時間がかかり、完治が難しくなることもあります。

脱毛・かゆみ・皮膚が薄くなるなどの症状が特徴です。

ヒゼンダニは感染している動物との接触によってうつります。感染力が強く、愛犬が感染した場合は飼い主も注意が必要です。

ヒゼンダニが寄生して起こる皮膚炎を疥癬症といいます。非常に強い痒みを伴い、掻きこわしてしまったり毛をむしってしまうこともあります。

掻きこわした傷跡から細菌感染などを起こさないよう、なるべく早く診察を受けましょう。

疾患

白い犬

全身性の疾患が原因となって皮膚症状が現れるケースもあります。中年の中型または大型犬種に好発する内分泌疾患の1つが甲状腺機能低下症です。

甲状腺機能低下症では、よく眠る・ボーッとしている・肥満気味になるなどの全身症状に加え、皮膚症状として尾や背中の脱毛がみられます。

身体の左右で対称に脱毛するのが特徴です。

他に、自己免疫疾患による皮膚病を天疱瘡と呼びます。免疫機能が自らの皮膚を攻撃してしまうことで生じる病変です。

4・5歳での発症が多く、耳や鼻などにできた膿疱が破れてかさぶたになります。細菌感染を起こしやすいので注意しましょう。治療は長期に及び、再発を繰り返すケースもあります。

ストレス

犬は不安や欲求不満などを感じる環境に置かれると自分の尾を執拗に追いかけたり、過度に体を舐めたりします。このような行動を常同行動と呼び、悪化すると常同障害となります。

常同障害では手足を舐めるなどの行動が長い期間続くのです。そのため、次第にその部分が炎症を起こし、痒みや脱毛などの症状が出ます(肢端舐性皮膚炎)。

愛犬が執拗に手足を舐めるような行動をとっていたら、何らかのストレスを感じているのかもしれません。

ストレスを和らげるような工夫をし、改善がみられなければ獣医師に相談すると良いでしょう。

犬の皮膚病の症状

柴犬

ご紹介したように、犬の皮膚病にはさまざまな原因があります。中には人に感染する可能性がある寄生虫や全身疾患が原因のものもあるので、症状には早く気がつきたいものです。

犬の皮膚病の症状にはどのようなものがあるのか、詳しくみていきましょう。

湿疹

アトピー性皮膚炎でみられる皮膚の炎症のように、継続的に出ている症状を湿疹といい、多くは無菌性です。

赤みから小さく盛り上がったブツブツができ、やがて水疱に変化、その後ただれたような状態へと経過します。

毛の密度が高い部位に好発するため、ただれるまで気づかないケースが多いです。舌で舐めてしまうと細菌感染を起こし治りにくくなるので注意しましょう。

発疹

顔を掻く犬

発疹とは、感染やかぶれなどで皮膚に生じる変化全般を指します。ほとんどの皮膚病で発疹の症状がみられ、その形状などによって皮膚病の原因がわかります。

紅斑

紅斑は赤い湿疹のことです。膿皮症で膿疱が破れた後にみられることが多いです。また、天疱瘡の初期症状として、鼻や耳介などに現れます。

天疱瘡では紅斑の後に膿疱ができ、それがすぐに破れてかさぶたになります。そのため、飼い主は紅斑には気付かず、かさぶたになって初めて疾患に気付くケースもあるでしょう。

掻痒

皮膚疾患の多くは掻痒を伴います。実際、皮膚症状で動物病院を受診した犬の約95%に痒みの症状がみられたというデータがあります。

痒みのあまり掻きこわしてしまうと細菌感染を起こし、症状が悪化してしまいかねません。ひどく痒がる様子がみられたら早めに獣医師に相談しましょう。

また、アトピーやノミアレルギーなどが原因の痒みの場合は時間帯や時期によって痒みの程度に差がみられます。

犬がどんなときに痒がっていたのかを医師に伝えると、診断の助けになるでしょう。

脱毛

脱毛も掻痒に次いで多い症状です。掻痒と同時に認められることが多くあります。

一方で、甲状腺機能低下症のように内分泌疾患などが原因の皮膚症状では、掻痒を伴わない脱毛がみられます。

その場合、身体の左右で同じように脱毛の症状が出るため、症状を見分ける際の参考になさってください。

脂漏症

感染・炎症・内分泌疾患などをきっかけとして生じる皮膚の異常増殖です。油性と乾性の2種類あり、油性ではベタついたフケ・痒み・臭いがきつくなるなどの症状がみられます。

乾性ではフケが多くなります。感染をきっかけとした脂漏症の場合、感染症の症状も併発するため診断が難しくなるでしょう。

また、感染などのきっかけが無くても、家族性で発症する場合もあります。コッカー・スパニエルやジャーマン・シェパードなど、一部の犬種に好発するため注意しましょう。

犬の皮膚病の治療方法

犬用の注射

犬の皮膚病にはさまざまな原因や症状があります。アトピー性皮膚炎やニキビダニによる皮膚炎などは治療が長期に及ぶこともあり、ご心配の方も多いでしょう。

では、実際に行われる治療はどのようなものなのでしょうか。犬の皮膚病の治療方法には以下のようなものがあります。

  • 内服薬
  • 外用薬
  • 注射
  • シャンプー剤

詳しくみていきましょう。

内服薬

糸状菌の治療には抗真菌薬の内服が基本です。外用薬では患部まで薬効が届かず治癒の遅れを招く可能性があるためです。

特に皮膚の奥まで症状が進んでいるものは外用薬による効果は期待できません。その他にも、皮膚病変が全身に及ぶ場合などは内服薬が用いられる場合が多いです。

外用薬

投薬される犬

外用薬には患部に塗布するタイプのものと身体に滴下するタイプのものがあります。

寄生虫を駆除する際には、残存性や即効性が強い滴下タイプが使われることが多いです。

軟膏などの塗布するタイプの薬は有効成分と基剤を混ぜ合わせてつくられます。基剤は有効成分を皮膚の表面に留める役割を果たし、皮膚の状態によって使い分けられます。

たとえば、ただれがみられたり広範囲に塗布したりする場合は、刺激が少ないワセリンなどの油脂性基剤が用いられることが多いです。

皮膚の状態に合わない薬を使うと症状を悪化させる可能性があります。自己判断で使用せず、獣医師の指示のもとで使用するようにしましょう。

注射

疥癬症の治療では薬剤が注射によって投与されることがあります。

また、アトピー性皮膚炎の治療の1つである減感作療法ではアレルゲンを少量ずつ皮下注射し根治を目指します。

しかし、副反応がみられる・費用が高額である・治療が長期に及ぶなどの理由から、治療を中断してしまう例もあるようです。

シャンプー剤

膿皮症やノミ・シラミの治療などに用いられ、即効性が高いのが特徴です。

特に膿皮症では皮膚を清潔に保つため、殺菌作用のあるシャンプーを使い、必要に応じて剃毛します。

また、糸状菌による皮膚炎の際には、二次感染やフケによる周囲の汚染を防ぐためにシャンプー剤が用いられる場合があります。その場合、内服薬との併用が基本です。

マラセチアによる病変が全身に及ぶ場合も内服薬と併用して使われます。その他、疥癬症の治療ではシャンプーと併せて薬浴が有効とする研究もあります。

皮膚病で獣医師にかかる目安は?

子犬と?マーク

皮膚病はさまざまな原因が合わさり、複数の疾患を同時に発症することも珍しくありません。

例えばアトピー性皮膚炎とマラセチア性皮膚炎、ニキビダニ症と膿皮症などは併発することが多いため注意しましょう。

複数の疾患を併発していたり症状が進行してしまうと、治療が難しくなる場合があります。また、不適切な治療は症状を悪化させてしまいます。

自己判断や「様子見」で症状が悪化しないよう、ご心配の場合はなるべく早く獣医師に相談しましょう。

犬の皮膚病の予防方法は?

タオルにくるまれる犬

皮膚病を予防するためには、以下のような対策が有効です。

  • 皮膚が本来持つバリア機能を高める
  • 清潔な環境で生活する
  • 感染個体との接触を避ける

まず、シャンプー・保湿・栄養のある食事などで健康な地肌を手に入れましょう。シャンプーの後はしっかり乾かし、保湿を欠かさず行います。

シャンプーや保湿剤は愛犬の皮膚の状態や体質に合ったものを選びましょう。

皮膚を健康に保つためには食事も大切です。ビタミン類やオメガ-3脂肪酸などが含まれたフードを選ぶと良いでしょう。

また外部寄生虫の感染を防ぐために小屋やケージの中は清潔にし、野生動物や野良犬など、感染している可能性がある個体との接触は避けるようにしましょう。

犬の皮膚に異常がみられたら早めに動物病院へ

犬と獣医

赤みから徐々に症状が進行しただれに移行するような経過をたどる皮膚炎では、症状が進行するまで病変に気付かないことも少なくありません。

そして、症状が進行すると二次感染を引き起こしやすくなります。

犬の皮膚病に早く気付けるよう、愛犬が執拗に体を舐める・噛む・引っ掻くなどの行動がみられたら地肌をチェックし、早めに受診しましょう。

犬の健康を守るため、ブラッシングや保湿などの地肌ケアをコミュニケーションの一環とするのもおすすめです。

まとめ

飼い主と犬

ご紹介したように、犬の皮膚病には体質的なものから寄生虫感染によるものまで、さまざまな原因があります。

そして、いくつかの原因や疾患を併発していることも多いのです。日頃のケアで予防を心がけ、それでも発症してしまった場合は早めに獣医師に相談しましょう。

愛犬の皮膚病にいち早く気付けるのは飼い主だけです。掻痒や脱毛などの小さな変化を見逃さないよう、日頃から愛犬の体調チェックを心がけましょう。

参考文献