愛犬に元気がないと、「どうしたんだろう」と不安を感じる飼い主さんは少なくないのではないでしょうか。
私たち人間と同じように、犬が脱水症状を引き起こすことも決して珍しくありません。
愛犬の様子が気になると感じたら、それは脱水症状を知らせるSOSの可能性があります。
犬が発しているSOSを見分けられれば、早期治療に努められるでしょう。本記事では、犬の脱水症状を解説します。
犬が脱水症状を起こしているか見分ける方法・原因・対処法・予防法を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
犬が脱水症状を起こしているか見分ける方法
まずは、犬が脱水症状を起こしているかどうかを見分ける方法からお伝えしていきましょう。
犬の脱水症状とは、体から必要な水分が過剰に失われて健康維持ができなくなる症状です。
普段の様子と比べて違和感を覚えるようなら、脱水症状である疑いがあります。脱水症状の疑いがある場合には、歯肉・皮膚・尿・体重に注目してみましょう。
それぞれの注目ポイントを下記で詳しく解説します。
普段の様子と比べる
犬が脱水症状を起こしているか見分ける方法で大切なのは、普段の様子と比べることです。
健康な体に必要な水分が失われているため、普段と違う行動をみせる傾向にあります。
- 食欲が落ちている
- 寝たり横たわったりすることが増えた
- 眼球にわずかな陥没がある
- 肉球に明らかな陥没がある
- ハァハァと舌を出して息をする状態が続いている(パンティング)
上記のような行動をしている場合には、脱水症状を引き起こしている可能性が高いため注意が必要です。
暑い時期にはハァハァと舌を出して息をする状態がよくみられますが、ほかにも脱水症状に該当するものがないか注意深く観察してみましょう。急にハァハァとした呼吸がみられた場合には注意が必要です。
歯肉をみる
犬の歯がみえている場合も、脱水症状を引き起こしている可能性が高いでしょう。なぜなら、水分が失われると口のなかが乾いて歯肉に唇が引っかかるためです。
また、健康を維持できている場合の犬の歯肉はピンク色です。しかし、歯肉を押してからしばらく白いままだったり、歯肉に潤いがなくネバついたりしている場合には脱水症状が疑われます。
歯肉を押して白いままだったり口腔内の乾燥が著しかったりする場合には、脱水症状の緊急性が高いため注意が必要です。
皮膚をつまむ
「脱水症状かもしれない」と気になった場合は、犬の首の皮膚をつまんでみてください。
首の皮膚を優しくつまんで、もとの状態に戻るまでの時間をカウントしてみましょう。時間によって、脱水症状がどのレベルなのかを判断できます。
- 軽度:2秒~3秒
- 中度:6秒~10秒
- 重度:20秒~45秒
通常は1秒以内につまんだ皮膚は元に戻ります。
脱水症状を引き起こしている場合、つまんだ皮膚はなかなか元に戻りません。また、重度の脱水症状の場合には皮膚がつまんだ形のまま残ってしまいます。
ただし、皮膚が硬かったり太っていたりする犬の場合は、判断が難しいです。普段からどれくらい皮膚をつまめるかや、つまんだ皮膚の戻る様子を確認しておきましょう。
寒い時期でも暖房器具から長時間離れない犬も少なくないのではないでしょうか。水を飲みに行くことが減り、脱水症状につながってしまう可能性があります。
その際には暖房器具の側にいる犬が水分補給を取りやすい位置に水を置いたり、水を飲むように促してみたり、口元を濡らしてみたりなどの対策を心がけてください。
尿をみる
脱水症状を引き起こすと、尿にも影響がみられます。尿の色が濃くなり、量が少なくなることが特徴です。
また尿の色も、脱水症状を判定するのにわかりやすいチェックポイントといえるでしょう。
健康な状態では、尿は薄い黄色をしています。 ところが、体内の水分量が低下するにつれて、尿の色は変化するのです。
- 濃い黄色
- オレンジ色
- 茶褐色
このように尿の色が変化します。 濃い黄色の尿が出ている場合には、脱水症状になっている可能性があるでしょう。
体重を測る
体の水分が失われていくと、体重が減る傾向にあります。そのため、脱水症状かもしれないと気になった場合には、犬の体重を測ってみましょう。
体重の減少率によって、脱水症状がどのレベルなのかを判断できます。
- 軽度:1~2%減少
- 中度:3~4%減少
- 重度:5%減少
健康な状態の体重から上記の割合で体重が減少している場合には、軽度であっても動物病院へ受診しましょう。
犬の脱水症状を起こす原因
犬の脱水症状は水分補給に時間が空いてしまったり、環境の温度変化によって発症することがあります。
しかし、脱水症状を起こす原因になってしまうものもあるのです。それでは、原因について詳しくみていきましょう。
下痢・嘔吐
脱水症状を引き起こす原因の1つ目は下痢・嘔吐です。犬は下痢や嘔吐により、体内の水分が失われて脱水症状を起こす傾向にあります。
下痢や嘔吐をしてしまう理由はさまざまです。
- ストレス
- 車酔い
- 食物アレルギー
- ドッグフードの変更による拒否反応
ほとんどの場合は一時的なもので、理由となったものを取り除けば数日で治るでしょう。
しかし、ほかの病気が隠れている危険性も否定できません。2日目も下痢・嘔吐が続いているようなら、獣医師に相談することをおすすめします。
熱中症
私たち人間は、命の危機にさらされる熱中症の対策に関する注意喚起が毎年行われています。これは人間だけではなく、犬も同じです。
しかし、前もって環境を整えたり熱中症対策を知ったりすることで、脱水症状を未然に防げます。
全身に汗をかいて熱を発散することができる人間と違い、犬は舌の表面や肉球からしか熱を発散できません。
そのため、暑さに大変弱い動物です。犬は熱中症になりやすいため、暑い時期でなくとも環境には注意が必要になります。
- 気温が高い
- 地面が熱い
- 風が通らず熱がこもる
- 落ち着きがなく興奮気味である
上記に当てはまりやすい環境をたとえるなら、車の中です。
愛犬と車で出かけた場合に、「少し待っていて」と車内に置いていくことはありませんか?
車内の温度は、エンジンやエアコンを切ってから急上昇します。ドアを閉めてから5分後には、25度だった車内温度は38度近くと約10度も上昇するのです。
さらに、1時間後には50度以上にもなります。これは夏に限らないので、注意が必要です。
窓を開けていたりサンシェードをつけたりしていても、車内の温度は上昇することがわかっています。熱中症のリスクを高めてしまうため、車内に置いていくことを避けてください。
糖尿病
犬の糖尿病は、脱水症状を合併する傾向にあるといわれています。そのため、脱水症状を引き起こした場合には、糖尿病を発症している可能性も懸念されるでしょう。
また人間の糖尿病と同じように、犬の糖尿病も合併症や治療の大変さを要します。多飲多尿・痩せるなどの糖尿病の典型的な症状に加え、脱水症状が現れたら糖尿病を疑って一度検査を受けてみてはいかがでしょうか。
腎臓病
10歳以上のシニア犬が脱水症状を発症した場合、腎臓病が疑われます。犬の腎臓病は、10歳以上での発症率が約30%以上とされているからです。
尿の変化や体重の変化など、脱水症状と同じ現象がみられるため注意が必要です。
副腎皮質機能低下症(アジソン病)
あまり聞き馴染みがない病気ではありますが、副腎皮質機能低下症(アジソン病)も脱水症状を引き起こす原因となります。
副腎皮質機能低下症(アジソン病)とは、副腎から分泌されるホルモンが不足してさまざまな症状を引き起こす病気です。
- 元気消失
- 虚脱
- 食欲不振
- 嘔吐
- 下痢
- 腹痛
- ショック状態
上記のようにみられる症状は多岐にわたり、最悪の場合は死に至ることもあります。
人間では難病指定されているアジソン病ですが、犬では人間の約数十倍の頻度で発症が確認される程、よくみられる病気の1つです。
しかし、その発症原因は未だ解明されていません。
犬の脱水症状が引き起こす影響・合併症
糖尿病でも少し触れましたが、犬の脱水症状が実はほかの病気が隠れているサインである可能性があり懸念されています。
糖尿病以外にも脱水症状から引き起こされる影響や合併症はいくつかあります。
- 循環器疾患(心臓弁膜症)
- 慢性呼吸器疾患
- 内分泌疾患(副腎皮質機能亢進症)
- 脳神経系疾患(痙攣発作をともなう病気・四肢麻痺をともなう病気)
- 腎疾患(慢性腎臓病)
- 多臓器不全
- 泌尿器系疾患
- ARDS(急性呼吸促迫症候群)
- DIC(播種性血管内凝固症候群)
上記以外にも、シニア犬の場合には認知機能不全症候群に陥っていると脱水症状や熱中症を引き起こしやすくなっているため、注意が必要です。
また脱水症状が重症化すると、ぐったりとして意識がない(虚脱)・嘔吐下痢・震え・意識消失などのショック症状がみられる傾向にあります。
犬に脱水症状がみられる際の対処法
「もしかして脱水症状かも」と感じたら、早急に対応することが大切です。そのために知っておいて欲しい対処法を2つ紹介します。
対処法は以下のとおりです。
- 水分を補給させる
- 点滴による水分・ミネラル補給を行う
それではそれぞれの対処法を詳しくお伝えしましょう。
水分を補給させる
脱水症状は体から必要な水分が抜けてしまい発症する病気です。脱水症状を防ぐためには、定期的に水分を補給させることを心がけましょう。
脱水症状が軽度であれば、水分補給をさせるだけでもある程度の回復効果がみられることもあります。
しかし、脱水症状における水分補給で効果的なのは犬用の経口補水液です。人間用の経口補水液は、犬にとって塩分と糖分が濃すぎるため与えないようにしましょう。
もし犬自身が水を飲めない場合には、口もとを濡らすことで、水分を補給させることができます。あくまでも応急処置なので、水分を補給させながら速やかに動物病院へ受診してください。
点滴による水分・ミネラル補給を行う
脱水症状を引き起こした場合には、水分だけでなくミネラル補給も大切です。ミネラル補給も含めて犬用の経口補水液や水に溶かすパウダーを準備しておくことを推奨しています。
もし犬用の経口補水液や水に溶かすパウダーがなければ、以下の材料で簡単に作ることが可能です。
- 水道水 500ミリリットル
- ブドウ糖(黒砂糖やはちみつでも可) 約20グラム
- 塩 約1グラム
すべての材料をよく混ぜて飲ませましょう。
脱水症状が進行している場合には、動物病院にて点滴による水分・ミネラル補給が行われます。
犬が脱水症状にならないための予防法
言葉でコミュニケーションを取ることが難しい犬を脱水症状から守るためには、予防法を知っておく必要があります。
予防法をうまく生活に取り入れることを心がけましょう。具体的な予防法は以下のとおりです。
- 水の与え方を工夫する
- ウェットフードに切り替える
では詳しくみていきましょう。
水の与え方を工夫する
脱水症状は暑い時期に限らず発症する危険性があります。いつでも水分を補給できる状態を保つことが大切です。
また、水を定期的に補給するように与え方を工夫するよう留意しましょう。具体的には以下のとおりになります。
- 水は涼しいところにたっぷり置く
- いつでも水が飲めるようにしておく
- いくつか場所を分けて水飲み場を設置する
- 外出時には犬用の水筒を常備する
これらを意識することで、愛犬を脱水症状から守れます。
ウェットフードに切り替える
愛犬に与えるご飯をウェットフードに切り替えることも、脱水症状の予防法として有効です。
水分量だけでなく、ドライフードに比べて風味がよいため、ウェットフードを好む犬も多いのではないでしょうか。
開封しなければ長持ちするウェットフードですが、開封後は品質が変化しやすいため注意が必要です。
ほかにも、ドライフードより水分量のあるセミモイストタイプやソフトドライタイプもあります。愛犬の好みに合わせたドッグフードを準備しましょう。
犬が脱水症状を起こしたときの病院を受診するべきタイミング
動物病院へ受診するタイミングがわからないと悩まれる飼い主さんは少なからずいるのではないでしょうか。
基本的には犬が脱水症状を軽度でも引き起こしていれば、病院を受診するべきタイミングになります。
脱水症状が長引けば、ほかの影響や合併症につながるリスクを高めてしまうでしょう。また病院へ向かう際には、水分補給を忘れないように留意してください。
いつ・どこで・どのように愛犬の様子が変化したのか、獣医師にしっかり伝えることで早期発見と早期治療に努めましょう。
まとめ
犬が脱水症状を起こしているか見分ける方法・原因・対処法・予防法を解説しました。
脱水症状は暑い時期に関係なく、暖房器具や補給のタイミングが遅れた状態でも発症する危険性があります。特に子犬やシニア犬は脱水症状になりやすいため、注意が必要です。
また、犬は人間と言葉でコミュニケーションを取ることが難しいため、普段の様子から変化を把握する必要があります。
普段の触れ合いから脱水症状のサインが出ていないかチェックし、愛犬の健康を維持できるよう心がけていきましょう。
何か1つでも飼い主さんの参考になれば幸いです。
参考文献