糖尿病は人間の病気の中でも代表的な病気で、患者数も多いといわれていますが、実は犬も糖尿病になるというのはご存知でしょうか。
本記事ではそんな犬の糖尿病について、以下の点を中心にご紹介します。
- 犬の糖尿病とは
- 犬が糖尿病になる原因
- 犬の糖尿病の治療法
犬の糖尿病について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
犬の糖尿病とは?
犬の糖尿病は、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が持続的に高い状態を指します。この状態は、インスリンというホルモンの働きが十分に発揮されないことにより引き起こされます。
インスリンは膵臓で生成され、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込む役割を果たし、糖がエネルギーとして使われることを助けます。そのため、インスリンが不足することなどでインスリンがうまく働かないと、血液中のブドウ糖が利用できなくなり、さまざまな問題を引き起こします。
糖尿病の初期段階では病気の発見が困難であり、病状が進行するにつれて白内障、腎臓病、肝臓病などの複数の合併症を伴うことが多いとされています。ですので、犬の健康管理には注意が必要となっています。
犬が糖尿病になる原因
犬の糖尿病の原因は解明されていませんが、いくつかの要因が考えられています。
1. 自己免疫による膵島の破壊:
体の免疫システムが誤って膵島細胞を攻撃し、インスリンの生産が減少します
2. 原因不明の膵島の減少(特発性):
特定の原因なく膵島細胞が減少します。
3. 急性/慢性膵炎の影響:
膵臓の炎症が膵島細胞にダメージを与え、インスリンの生産が減少します
4. 遺伝的要因(先天性、若年性):
遺伝的な要素が膵島細胞の減少や機能不全を引き起こします
5. 雌犬のホルモンの影響:
発情後や妊娠時の女性ホルモンが糖尿病を引き起こす可能性があります
6. 各種ホルモン疾患(クッシング症候群、卵巣疾患など):
これらの疾患はインスリンの働きを阻害し、血糖値を上昇させます
7. 長期に渡るステロイドの投与:
ステロイドは血糖値を上昇させ、糖尿病を引き起こす可能性があります
これらの要因は、犬の糖尿病の発症に寄与する可能性がありますが、必ずしも糖尿病を発症するわけではありません。
犬の糖尿病は複雑な疾患であり、その発症は多くの要素が絡み合って起こると考えられています。
犬の糖尿病の症状
ここからは犬の糖尿病の症状について解説します。まずは、初期の症状です。
初期に現れる症状
前述した通り、犬の糖尿病は初期段階では発見が難しいです。
初期段階では、水分摂取量や排尿量の増加といった多飲多尿の症状が現れます。
また、食欲はあるにも関わらず、体重が減少するという症状も見られるとされています。
症状が進行すると
犬の糖尿病が進行すると、体内に有害なケトン体が増え、「ケトアシドーシス」という状態になります。これは食欲低下、元気の低下、嘔吐、下痢などの症状を引き起こします。
さらに重篤化すると、神経障害や昏睡状態を引き起こし、命に関わることもあります。
合併症
犬の糖尿病は、人間と同じく、合併症を引き起こす可能性があります。
主な合併症には以下のようなものがあります。
1. 白内障:
犬の白内障は糖尿病により、眼のレンズの役割を果たす水晶体に糖分とその代謝産物が蓄積して発症し、白内障が進行する可能性があります。
白内障の初期段階では、レンズがわずかに濁って見えますが、病状が進行すると目が白くなり、視力が失われていきます。特に若年で発症した場合や、進行が早い場合には、緑内障や網膜剥離などにより、失明につながる可能性があります。
2. 感染症:
糖尿病により体の免疫力が低下し、細菌や真菌などのバクテリアが体に侵入しやすくなります。それにより、細菌性の皮膚炎や膀胱炎(頻尿や、血尿、排尿痛、尿臭の変化など)といった感染症を引き起こす可能性があります。
3. 腎臓病:
犬の糖尿病は、腎臓への影響が大きいとされています。
糖尿病が進行すると、腎臓の機能が低下し、腎臓病を引き起こす可能性があります。この状態は「糖尿病性腎症」と呼ばれ、糖尿病の長期的な合併症の一つです。
糖尿病性腎症の主な原因は、持続的な高血糖によるものです。高血糖が続くと、腎臓の糸球体が障害を受け、微量のアルブミンが尿中に漏出します。これが進行すると、タンパク尿が明らかになり、さらに腎機能の低下が進行します。
糖尿病性腎症は早期発見と治療が重要で、そのためには尿中のタンパク質のモニタリングが推奨されています。
腎症の初期段階から尿中のタンパク質が漏れ出し始めます。この現象を指標として利用することで、腎症の早期診断と治療につながります。
4. 糖尿病性ケトアシドーシス:
「糖尿病性ケトアシドーシス」は、急性の代謝失調です。糖尿病によってインスリンが不足すると、体がエネルギー源として脂肪を使用し、その結果としてケトン体が生成され、体内に蓄積します。これにより、体が酸性化(アシドーシス)し、さまざまな症状を引き起こします。
具体的な症状としては、高血糖、脱水、意識障害、昏睡、ショックなどがあります。これらの症状は、1日~1週間位の間で急速に現れます。
糖尿病性ケトアシドーシスの予防と治療には、定期的な血液検査や尿検査が必要で、ケトン体を減らすための治療が行われます。
また、糖尿病の管理も重要で、適切な食事とインスリン治療が必要です。
犬の糖尿病の治療方法
犬の糖尿病も人間と同じように生活習慣の改善が大切です。
ここからは、犬の糖尿病の治療方法をいくつか解説していきます。
インスリン療法
まずは、インスリン療法についてです。
「インスリン療法」は、犬の糖尿病治療の主要な手段であり、経口血糖降下剤の代わりにインスリンが使用される薬物療法です。インスリン療法は、
インスリンの分泌が不足している犬に対して必要とされます。
治療は、1日2回、食事後にインスリンを注射する形で行われます。
小型犬と大型犬では、インスリンの期待できる効果時間が異なるため、それぞれに適したインスリン製剤が選ばれます。
小型犬は効果が期待できる時間が短いため、長時間の働きが期待できる製剤を、大型犬は長時間効果が期待できるとされているため、短時間の製剤が選ばれることが多いようです。
治療開始時には、数日間の入院が必要となり、その間に血糖管理が行われます。
インスリン注射後の血糖値の変動を把握するため、注射前と注射後の3時間、6時間、9時間の血糖値を測定し、血糖曲線を作成します。この曲線を元に、適切なインスリン製剤と投与量が決定されます。
血糖コントロールが安定したら、飼い主の方が自宅でインスリン注射を行う場合もあります。その場合、飼い主の方は、注射の方法や低血糖時の対処法、尿糖検査の方法などの指導を受けます。
退院後も、定期的に病院で検査を受け、血糖曲線をもとにインスリンの種類や量を調整します。
自宅では、尿糖検査を通じて血糖管理を行う必要があります。
人間用の血糖測定器でも測定できますが、血糖値が低く表示される傾向にあるので、犬猫専用の血糖測定器の使用も検討してみましょう。血糖値だけでなく、飲水量、尿量、体重、脱水状態なども血糖コントロールの指標となります。
インスリン療法は、生涯にわたる治療であり、飼い主の方自身が行う部分もある治療法です。そのため、治療の進行には、飼い主の方の理解と協力が不可欠です。
食事と運動の管理
犬の糖尿病管理には、人間と同様に食事と適度な運動が重要です。
食事は、血糖値を安定させるために、獣医師の指導のもと、血糖値をコントロールできるように設計された糖尿病専用食などの食物繊維が豊富な特別な食事を1日2回、一定の時間に提供します。
食欲が低下する場合や、犬の好みでない場合、成犬や老犬用のドライフードや缶詰を使用することもあります。
また、血糖値を管理するためには、必要でない限り間食は避けるべきです。
運動については、毎日同じ種類の運動を行うことが推奨されます。急激な強い運動は、低血糖を引き起こす可能性があるため避けるべきです。
しかし、各犬の状況は異なるため、具体的な治療計画は獣医師と相談することが大切です。
対症療法
犬の糖尿病の治療には、血糖値の管理や食事管理が中心となりますが、さらに、症状に応じた対症療法も行われます。
例えば、下痢を伴う場合は下痢止めの投与、脱水症状やケトアシドーシスがある場合は点滴治療が行われます。
犬が糖尿病にならないために
犬の糖尿病予防は、主に食事と運動、そして体重管理に注意を払うことが重要です。特に、脂肪や炭水化物が多い食事は避け、犬のライフステージに適した食事を提供することが求められます。
また、適度な運動は、犬の健康的な体重の維持につながります。
メスの犬については、避妊手術を行うことで、女性ホルモンによる糖尿病のリスクを減らすことが可能とされています。
ただし、避妊手術後は代謝が落ち、肥満になりやすいため、体重管理は常に重要です。
さらに、糖尿病の早期発見のためには、定期的な健康診断が必要です。飲水量や尿量、体重のチェックを行うことで、多飲多尿や肥満などの症状に気が付きやすくなります。
犬の糖尿病は、人間の2型糖尿病と同様に、食べ過ぎや肥満、運動不足、加齢などが重なると発症する可能性があります。
一度糖尿病になると、進行が早く、血糖コントロールが難しくなり、白内障や腎症などの合併症を避けることは難しくなります。
したがって、愛犬の健康を守るためには、日々の生活習慣を見直し、早期発見・早期治療を心がけることが大切です。愛犬が水を多く飲むようになったり、尿量が増えたり、体重が減ったりした場合は、すぐに獣医へ相談しましょう。糖尿病の兆候かもしれません。
愛犬の健康を守るために、飼い主の方ができることを考えていきましょう。
糖尿病になりやすい犬種
糖尿病は犬種によって発症しやすさが異なるとされています。
特に、トイプードル、ヨークシャーテリア、ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・シュナウザー、ゴールデン・レトリーバー、ビションフリーゼ、ジャーマン・シェパードは糖尿病を発症しやすいとされています。
体重管理の難しさによる肥満や、遺伝的に糖尿病にかかりやすい傾向にある為と考えられます。
まとめ
ここまで犬の糖尿病についてお伝えしてきました。犬の糖尿病についての要点をまとめると以下の通りです。
- 犬の糖尿病は、インスリンというホルモンの働きが十分に発揮されないことにより引き起こされ、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が持続的に高い状態を指す
- 犬の糖尿病の原因は解明されていないが、自己免疫による膵島の破壊や、原因不明の膵島の減少、遺伝的要因、各種ホルモン疾患、長期に渡るステロイドの投与などが要因として考えられている
- 犬の糖尿病の治療法は、経口血糖降下剤の代わりにインスリンが使用されるインスリン療法や、血糖値を安定させるため、血糖値をコントロールできるように設計された食餌や適切な運動の管理、症状に応じた対症療法などがある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。