犬の耳垢が黒いのはなぜ?考えられる病気や併発しやすい症状、対処法を解説

犬の耳垢が黒いのはなぜ?考えられる病気や併発しやすい症状、対処法を解説

愛犬の耳掃除をしているとき、黒い耳垢がでてきて驚いたことはありませんか?健康な犬から黒い耳垢がでることはないので、感染症やアレルギーなどの健康面で異常が起きているサインの可能性があります。こちらの記事では、犬の耳垢が黒くなる原因や黒い耳垢から考えられる病気についてお伝えしたうえで、併発しやすい症状、治療方法、予防ポイントを解説します。愛犬の健康を守るため、黒い耳垢が気になった際には、参考にしてみてください。

耳垢が黒くなる主な原因

耳垢が黒くなる主な原因

犬の耳垢が黒くなる背景として、何かしらの身体異常が隠れていて、放置すると悪化する恐れがあります。ここでは、犬の耳垢が黒くなる主な原因を解説します。

耳ダニや細菌、真菌

耳は、外の環境と直接つながっている構造のため、耳ダニなどの寄生虫や細菌、真菌(カビ)が入り込んで感染症を引き起こすことがあります。耳ダニに感染している動物との交流や使用済みのブラシやベッドが主な感染経路です。

多頭飼いをしている環境下では、一匹から感染拡大につながる恐れがあるので注意が必要です。また、野外イベントやペットホテル、トリミングサロンなど犬が集まる場所でも、感染リスクがあります。免疫力の低い子犬やシニア犬、基礎疾患を持つ犬は、感染の症状が重症化しやすいため、早期治療が欠かせません。

アレルギーや脂漏体質

食物アレルギーやアトピー性皮膚炎、脂漏症など体質的な要因で耳垢が黒くなることがあります。アレルギー体質の犬は、免疫力が低下して耳の自浄機能が弱まり、脂漏体質の犬は、皮脂の過剰分泌によって雑菌が繁殖しやすい環境になりやすいため注意が必要です。脂漏症になりやすい犬種として、シーズー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、アメリカン・コッカー・スパニエルなどが挙げられます。

高温多湿の季節は皮脂の分泌量が増えやすいため、梅雨から夏の時期には体調や耳垢の色に変化がないか確認しましょう。また、フード内容や運動量を変えたタイミングで変化がでる場合もあります。

酸化した古い耳垢

感染症やアレルギーなどの症状がなくても、耳垢が長期的に放置されると黒く変色する場合があります。そもそも耳垢とは、耳のなかで分泌される皮脂が酸化したものです。皮脂が酸化すると、雑菌が繁殖したり、臭いにつられてダニを寄せ付けたりする恐れがあります。耳垢が黒いだけで健康被害が起きているとは限りませんが、何かしらの異常が起きる可能性が隠れているので、注意が必要です。黒い耳垢が大量にでたり、臭いや痒み、腫れなど別の症状が併発している場合は、何かしらのトラブルが起きている可能性を想定して、かかりつけの動物病院に相談しましょう。

黒い耳垢から考えられる病気

黒い耳垢から考えられる病気

耳垢の色は、愛犬の病気や健康被害のサインになることがあります。病気になっている場合、迅速な治療が早期回復につながるので、小さな変化を見落とさずに動物病院を受診することが大切です。ここでは、黒い耳垢から考えられる病気について解説します。

耳ダニ感染症

耳ダニ感染症とは、0.3mm程度のミミヒゼンダニと呼ばれるダニによる感染症です。耳の表面から鼓膜につながる外耳道と呼ばれる部位に寄生して、角質や組織液を食べながら卵を産んで繁殖します。黒い耳垢は、ミミヒゼンダニの糞が原因とされており、きつい臭いが特徴的です。

耳のなかをミミヒゼンダニが徘徊するときの刺激や唾液によって、強い痒みを引き起こします。痒みが原因で頭を振ったり耳を掻いたりすると、二次症状として炎症、細菌感染、脱毛などの皮膚トラブルを引き起こし、重症化すると神経症状がみられることもあります。

マラセチアによる外耳炎

マラセチアによる外耳炎とは、耳のなかにあるマラセチアと呼ばれる酵母菌が増殖することで発生する炎症です。垂れ耳や耳道が狭い犬、脂漏症になりやすい体質の犬は、マラセチアが増殖しやすいです。マラセチア自体は常在菌なので犬の耳にも少量いるのは問題ありませんが、異常に増えると外耳炎を引き起こします。そのほかにも、甘酸っぱい臭い、茶〜黒い色の耳垢、赤みや腫れ、かさぶたなどの症状がみられます。

マラセチアによる外耳炎は、体質や生活環境が原因になることから、再発しやすい病気として知られています。慢性化させないためにも、早期発見と生活環境の見直しが必要です。

細菌性外耳炎

細菌外耳炎とは、耳のなかにいる細菌や外部から侵入した病原菌による炎症です。マラセチアによる外耳炎と比べて、細菌外耳炎の方が重症化しやすい特徴があり、早期発見による迅速な治療が欠かせません。

痒みから耳を頻繁に掻いたり頭を振ったりする動作が目立つだけではなく、腐ったような悪臭を放つのが特徴的です。耳垢は、黄色から茶色、黒色、緑色に変色し、膿や血液のような分泌物が一緒に垂れてくることがあります。重症化すると、内耳にも影響がでて平衡感覚の乱れや聴覚低下の症状のリスクが高まります。

アレルギー性皮膚炎

アレルギー性皮膚炎には、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ノミアレルギー性皮膚炎などの種類があります。いずれにしても耳のなかの皮脂の過剰分泌や免疫低下などを理由に、耳の痒みや耳垢の変色を引き起こします。原因によって症状は異なりますが、完治するものとそうでないものがあります。

アトピー性皮膚炎は、生後6ヶ月〜3歳ごろに発病しやすく、生涯かけて管理が必要です。食物アレルギーは、生後1年以内に食物アレルゲンの有無が認められ、食事療法で対応します。ノミアレルギー性皮膚炎は、ほかの犬や毛布などの物が感染経路になりやすく、ノミを死滅させて再発防止に努めます。


黒い耳垢とあわせて見られる症状

黒い耳垢とあわせて見られる症状

耳垢の色だけで健康状態を判断するのがむずかしい場合、併発する症状を見落とさないことで病気の兆候に気付きやすくなります。

ここでは、耳の痒み、臭い、腫れなど、黒い耳垢とあわせて注意すべきサインを解説します。

耳を頻繁に掻く

片耳や両耳を頻繁に掻いている様子がみられる場合、耳のなかの炎症や感染症の疑いがあります。足を使って強く掻いたり、地面や家具に擦り付けたりして耳周辺を気にする行動が目立ち始めます。強く掻きすぎると、皮膚が傷ついて出血や痛み、二次感染を招く原因になるので注意が必要です。

黒い耳垢が溜まった状態で耳を頻繁に掻く仕草がみられる場合、ミミヒゼンダニや酵母菌のマラセチアなどの病原体が侵入している可能性があります。動物病院で検査を受けてダニや真菌が原因だとわかれば、適切な処置を受けられるので早期改善につながります。

耳が臭い、膿のような分泌物が出る

耳から異臭がしたり、膿のようなドロっとした分泌物がでたりする場合、外耳炎や中耳炎が進行している可能性があります。正常な健康状態の犬の耳垢はほとんど無臭ですが、細菌・マラセチア感染や外耳炎になると、発酵臭や腐敗臭のような臭いを放つことがあります。

また、耳から黄色や緑色の粘着性の高い耳垢や液体がでてきた場合は、耳のなかに膿が溜まっている可能性があり、細菌感染による炎症が疑われます。臭いや膿を放置すると、耳の内部で炎症が進み、重症化するケースがあるので早期診療が必要です。

耳の腫れや赤み、熱っぽさがある

耳の外側や内側に腫れや赤みがあったり、耳周辺を触ったときに熱っぽさを感じたりする場合、炎症が起きているサインです。耳全体が腫れている場合、耳血腫(じけっしゅ)と呼ばれる状態になっている可能性があります。痒みや痛みが原因で耳を強く掻いたり頭を激しく振ったりすることで、血管が破れて耳のなかに血液が溜まる状態を指します。また、細菌や真菌の感染で赤みや熱っぽさがでる場合もあります。炎症反応を放置すると、皮膚が硬くなったり慢性外耳炎を発症したりするおそれがあるため、注意が必要です。

動物病院で行われる治療

動物病院で行われる治療

耳垢が黒く変色している愛犬を動物病院に連れて行くと、まずは原因を特定するための検査を行い、診断結果に応じて治療方針を決定します。適切な診療が早期回復と再発防止につながります。

ここでは、動物病院で行われる治療を解説します。

耳垢検査、耳鏡検査

まずは耳垢の状態を把握するために、耳垢検査や耳鏡検査を実施します。耳垢検査では、専用器具を使って採取した耳垢をスライドガラスにのせて顕微鏡で観察します。必要に応じて耳垢の染色、細菌培養や薬剤感性試験を行うことで耳ダニ、細菌、真菌(マラセチア)などの存在が確認可能です。耳鏡検査では、耳鏡の先端を差し込んでライトで照らしながら、耳道内の腫瘍や異物、鼓膜損傷の有無を確認します。耳垢検査と耳鏡検査を両方することで耳道内の検査精度を高めることが可能です。

洗浄液による耳道クリーニングと点耳薬の処方

黒い耳垢や膿などが溜まっている場合、専用の洗浄液を使った耳道クリーニングをします。耳垢や膿などの分泌物をきれいに除去することで、耳のなかを清潔に保ち、治療効果を高められます。洗浄後は、検査結果に応じて点耳薬(耳に直接入れる薬)を処方されるため、獣医師からの指示にしたがってホームケアをしてください。点耳薬の種類には、抗菌薬、抗真菌薬、抗炎症薬などがあり、耳トラブルの原因や炎症の程度によって使い分けられます。初期症状や軽症であれば、耳道クリーニングと点耳薬のホームケアで改善が見込まれます。

耳ダニ駆除薬や抗菌点耳薬、抗真菌点耳薬などの使用

黒い耳垢が溜まっている場合、炎症を抑えるデキサメタゾン酢酸、ミミヒゼンダニを駆除するチアベンダゾール、細菌のタンパク質を合成を阻害するゲンタマイシン硫酸塩などの有効成分が含まれている点耳薬を使用して根治を目指します。点耳薬の種類は複数あり、それぞれ配合されている有効成分が異なります。駆除薬は1回の投与から、ノミを24時間以内、マダニを48時間以内に駆除できるものがあるので、痒みや痛みから素早く解放してあげられる点が強みです。

鼓室胞切開などの外科的治療

外耳炎が慢性化すると、中耳や内耳まで炎症が広がり、耳道クリーニングと点耳薬だけでは痛みや腫れを完全に取り除くことは困難です。CTなどで精密検査をして、病変や耳道の骨の変化、鼓膜の損傷などから慢性的な炎症が確認された場合、さらに進行する前に全耳道切除術や鼓室胞切開などの外科手術を行う選択肢があります。外科手術で耳道を切除することになれば、鼓室胞の剥離と洗浄をして、切除した組織の一部を病理検査に出します。病気検査にだすことで、耳トラブルの根本的な原因の追求が可能です。

家庭でできる耳のケアと予防のポイント

家庭でできる耳のケアと予防のポイント

黒い耳垢が溜まるような耳の病気やトラブルは、生活環境の見直しをしなければ再発しやすい傾向があります。普段から愛犬の耳を清潔に保ち、トラブルの原因になる環境や体質に配慮することで健康維持につながります。

ここでは、家庭でできる耳のケアと黒い耳垢を溜めないための予防策を解説します。

犬用イヤークリーナーで優しく掃除する

犬の耳は、入り口から鼓膜までがL字になっており、耳の構造が耳垢がたまりやすくなっています。そのため、定期的な耳掃除が雑菌の繁殖防止と健康状態のチェックのために効果的です。ただし、犬の耳には自浄作用があるので、頻繁に耳掃除をするとかえって逆効果になるので注意しましょう。

適切な耳掃除の頻度は、1ヶ月1回程度が目安です。人間用の耳かきなどは絶対に使用せずに、犬専用のイヤークリーナー(犬用の耳洗浄液)を使います。耳のなかに数滴のイヤークリーナーを垂らすと、自然にブルブルと頭を振るので、そのときにでてきた液体を優しくふきとったら完了です。

垂れ耳や多毛の犬種は、被毛をカットして通気性を確保する

垂れ耳や多毛の犬種の場合、必要に応じて被毛をカットすることで通気性を確保できます。飼い主さんの自己判断ではなく、トリミングサロンや動物病院で相談してから実施すると、愛犬が快適に過ごしやすくなります。

耳が汚れやすい特徴を持つ犬種として、トイプードル、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ミニチュアダックスフンド、パグなどが挙げられます。立ち耳でもフレンチブルドッグやヨークシャーテリアのように脂漏症になりやすい犬種、ミニチュアシュナウザーのように多毛の犬種は、耳が汚れやすいです。

まとめ

まとめ

犬の耳垢が黒くなる理由として、耳ダニ、細菌、真菌などさまざまな要因が考えられます。感染症や外耳炎を発病している場合、迅速な治療が早期回復につながるので、小さな変化に気付いたら、すぐに動物病院を受診しましょう。

また、耳トラブルは再発しやすい傾向にあるので、定期的な耳掃除やトリミングなどで愛犬の耳の健康を守れるように、日々のケアを怠らないようにするのがポイントです。

【参考文献】