散歩に出かけた時や家の中で遊んでいる時に、犬がうっかりと異物を飲み込み、ひやりとした経験はないでしょうか。異物のなかには犬に毒になる物もあるので、できれば避けたい事態です。
そこで犬に異物の飲み込みをやめさせるために飼い主が気をつけたいポイントを紹介します。併せて異物誤飲をしたときの対処法や治療費についても紹介しましょう。
犬に異物の飲み込みをやめさせるには?
犬は好奇心旺盛な動物です。興味のある物を見つけると匂いをかいだり口に入れたりして、それが何であるか確認しようとする習性があります。そのため飼い主が思いもよらない物を飲み込んでしまうリスクが高いです。
では、犬に異物を飲み込ませない方法にはどのような方法があるのでしょうか。まずはそこから紹介しましょう。
片付けと行動範囲の制限で物に近づけさせない
犬の目が届くところに異物になりうる物を置かないというのは、犬の異物誤飲を防ぐ基本中の基本です。好奇心旺盛な犬にとっては目につくあらゆる物が興味の対象になる可能性があります。一度飲み込んだ物は再び飲み込む可能性がある物と考えてください。
また犬はジャンプしたり、机やいすなどを使って予想外のところまで移動したりできます。犬の手や口が届く場所に物を置かないように片付けを心がけましょう。また犬が簡単に開けられないよう、しっかりと蓋が閉まる容器を使うのもおすすめです。
交換で持っている物を放すようしつける
犬が異物をくわえているのを見ると、とにかく口から離さなくてはと焦ってしまうものです。
ところが今述べたように、犬がくわえている物は犬にとっては興味がある物であり、無理に取り上げようとすると逆に飲み込んでしまうことも少なくありません。また慌てて引っ張ったり騒いだりすると、犬はかまってもらえていると勘違いし、ますます拾い食いをするようになる場合もあります。
ですから、もし異物をくわえたことに気付いても、冷静にふるまうようにしましょう。さらに、日頃からくわえた物をすぐに放すようにしつけをしておくことが大切です。
例えば飼い主が「ちょうだい」といい手を出したら口から放すというようにしつけておけば、異物をくわえているのを見た時でも慌てずに対処できます。犬にとって害にならない食べ物などと交換するようにしつけるのもおすすめです。
散歩中にごみが落ちている場所は避ける
家のなかでは異物になりそうな物を極力排除することが可能ですが、散歩の際にはそうはいきません。犬は散歩が必要ですし、散歩をする外の世界にはふだん犬が生活している場所にはない、興味を引くような物が多くあります。予想外の物に興味を持ち、つい口に入れてしまうことは珍しいことではありません。
ですから散歩の時には犬から目を離さず、ごみや異物になりそうなものを見つけたら、犬が気付く前にその場所を避けるようにしましょう。万が一くわえてしまった場合は先程述べたように、「ちょうだい」といい口から放すようにすればいいのです。
散歩中にフードで飼い主に注目させる
散歩の際に犬が興味を引きそうな物をすべて排除しながら進むというのは現実的ではありません。ですから異物誤飲をする可能性がある物を見つけたら、犬が口にしないようにする方法を考える必要があります。
具体的にはフードなどを使い、飼い主に注目させるという方法です。異物を見つけたら、フードなどを使って犬の興味を飼い主に向けさせ、そのすきに異物から離れるようにします。
こうすれば口にくわえた異物を無理やりに取り上げたり、犬を無理やり引っ張ってその場から遠ざけたりしなくても、安全性を確保しながら散歩できるでしょう。
犬が誤飲しやすい注意すべき物
さて、最初に述べたように犬は好奇心旺盛な生き物であり、飼い主には考え付かないような物ですら誤飲してしまうことがあります。さらに犬は自分が飲み込めないような大きさの物でも飲み込んでしまうという習性があるため、それが命に関わる大きな事故につながることも少なくありません。
ですから犬が誤飲しやすい物を知り、それらを極力排除することで、誤飲が起こらないようにすることが大切なポイントとなります。犬が誤飲を起こしやすい物、命に関わる可能性がある物を次にご紹介しましょう。
タバコ・薬類
人間と一緒に生活するペットの犬にとって、飼い主のタバコや薬は当たり前に目の前にある物です。しかもそれらを摂取する人間にとっても定期的に口にする物なので、テーブルの上などに当たり前のように放置することが少なくない物でもあります。
テーブルに置かれている物を口に入れた、飼い主が飲もうとして床に落とした物をくわえたなどから誤飲につながることがあるのです。
特にタバコのニコチンや薬に含まれる成分は犬にとって有害なことが多いので、誤飲に気付いたらすぐに獣医師に診せることをおすすめします。
ネギ類・チョコレート・観葉植物
異物誤飲で気をつけなければいけないのは、その異物そのものが犬にとって中毒などを起こす危険性がないのかという点です。人間にとってはなんということがない物でも、犬には命に関わるという場合も少なくありません。
その代表例がネギ類やチョコレートなどで、このことは飼い主の方にもよく知られていることです。ネギや玉ねぎなどのネギ類に含まれる有機チオ硫酸化合物は赤血球を破壊し、チョコレートはカカオに含まれるテオブロビンが嘔吐や下痢などの症状を引き起こします。いずれも飲んだ量、時間を確認し、できればパッケージ持参で獣医師に診せましょう。
また同様に、観賞用のユリやアイビー、シクラメンなどの観葉植物などのなかにも、犬にとっては有害な物があります。こちらはチョコレートなどと比べ、あまり知られていないようです。
ネギやチョコレート、ユリなどは犬にとって大変危険です。命を落とすことも少なくありません。植木鉢を室内に置いている方やガーデニングを楽しんでいる方は、十分に注意しましょう。
糸・ひも・布・ビニール
糸状の異物は腸の蠕動運動で伸ばされると、腸にひだを作ります。これが腸閉塞や腸重積といった重大な病気の原因になるのです。
そのため、ひも状の物は犬が口にしないように、十分に注意をしなければなりません。ひもやリボン、布といった物は犬が遊んでいてつい飲み込んでしまったという事故が少なくないのです。もし腸閉塞などに至らなくても、嘔吐や食欲不振などの症状を起こすことは珍しくありません。
また犬の口やお尻からひもの先が出ている場合、無理に引っ張り出そうとすると、消化管や粘膜を傷つける可能性があります。無理に自分でなんとかしようとせず、獣医師に診せることをおすすめします。
おもちゃ・ボタン
犬と一緒におもちゃなどで遊ぶのは楽しいものです。しかしこのおもちゃも犬の異物誤飲の原因としてよく見られます。
先程も述べたように、犬は自分が飲み込めないような物でも口に入れ、そのまま飲み込もうとすることがあります。喉や食道などに詰まると、異物自体が無害な物であったとしても、窒息などの重大事を引き起こす可能性があるのです。
またお気に入りでよく遊んでいるおもちゃが劣化した場合、おもちゃのかけらやひも、飾りなどが外れ、それを飲み込んでしまったという事故も少なくありません。飼い主とじゃれていて、服についているボタンなどを飲み込んでしまったということもあります。
このようにおもちゃやボタンなど、予想外の物を誤飲してしまうこともありますので、遊んでいる時なども油断せず、しっかり観察するようにしましょう。
串・針などの尖った物
焼き鳥などの竹串、つまようじ、さらに糸のついた縫い針などといった先端が尖った物も大変危険です。人間であれば先端が尖っている物を飲み込むことはあり得ないかもしれません。しかし犬は危険だということを知らず、飲み込んでしまうことが少なくないのです。
先端が尖っている物は消化管を通る際に刺さり、消化管穿孔を起こします。消化管に穴があくわけですから、そこから内容物が漏れ出し、腹膜炎などを起こすことにつながる可能性もあるのです。
こういった先端が尖った物は人間にとってもけがをする可能性の高い物ですから、その管理には十分に気をつけなくてはなりません。
犬が誤飲したときにみられる症状
異物誤飲は飼い主の目の前で起こるとは限りません。しかし、犬が異物誤飲をした際にどのような症状が出るのかを知っておくことで、すぐに対処することができる可能性が高まります。
犬が異物誤飲をすると、異物は喉を通過しようとします。その結果喉が詰まったようなおかしな咳をしたり、嘔吐したりという症状があらわれるのです。喉に異物が詰まると呼吸もできなくなりますから、呼吸困難といった症状も出てくるでしょう。
さらに消化器の方に進んでいくと、食欲がなくなったり、元気がなくなったりします。震えや痙攣が起きている場合は、その異物による中毒の場合もあるので、早急の対処が必要です。
血便や下痢、そして便秘なども異物誤飲であらわれる症状です。サイズが小さく特に中毒を起こすことがない異物の場合、特に犬の様子に変化がないのに、便に異物が出て気付くということもあります。
このように異物誤飲の際にあらわれる症状はさまざまです。なかでも呼吸困難や震え、痙攣などの症状がみられる場合は特に命に関わる可能性が高いので、早急に獣医師に診てもらうようにしましょう。
犬の誤飲が疑われるときの診断方法
では犬が異物誤飲をした可能性がある場合、獣医師はどのような検査をするのでしょうか。犬が誤飲をした際に問題なのは、誤飲した物の毒性の有無、飲み込んだことによりどのような問題が起きる可能性があるのか見極めることです。
誤飲をしたペットを連れて獣医師を訪れた場合、必ず聞かれるのが飲み込んだ異物の種類とそれをいつ、どのくらい誤飲したのかということです。異物の内容によって緊急性が違ってくるだけでなく、誤飲した物を確定する際の検査にも違いがあります。
石や金属などの場合はレントゲンを通さないので、腹部のレントゲン検査をすれば異物の様子がわかりますが、ひもやビニールのような物はレントゲンで見つけることができません。このような場合は造影剤を飲ませたり、エコーを使ったりして検査をします。
特にエコー検査は人間の場合でもそうであるように、犬の体に負担がかからず、簡単に検査ができます。また異物の場所によっては、内視鏡検査を行い、見つけた異物をその場でつまんで取り出す方法をとることもできるでしょう。
もちろん触診や血液検査などの基本的な検査も使います。これらの結果を総合して、異物の種類を特定し、それに合わせたよりよい治療法を決めるのです。
犬が誤飲したときの治療法
先程挙げた方法で誤飲した異物の種類と場所が特定できたところで、異物を取り除くための治療に入ります。異物の量が少なく毒性がない場合で、すでに胃を通過してしまっている場合などは、経過観察をしながら排泄されるのを待つこともあります。しかし多くの場合はさまざまな方法でより早く体外に異物を出させる方法をとるのです。
それでは具体的に、犬が誤飲した際にどのような治療法をとるのかご紹介します。
催吐処置
異物が胃の中にある場合は、胃の内容物を吐き出させるために催吐処置を行います。吐き気を催す薬を注射などで投与し、吐き出させる方法です。口から摂取された物はいったん胃にとどまり、少しずつ腸に流れ、粘膜から吸収されます。腸に流れる前の段階でどれだけ吐き出させることができるかが、中毒を起こす異物などの際には大変重要なのです。
これはボールなどの物理的な異物の場合にも有効な手段です。異物が胃にとどまったままだと食欲がなくなり、ご飯を食べなくなってしまいます。また腸に流れて詰まると、腸閉塞を起こすかもしれません。
異物を吐かせる治療法はあくまでも異物が胃の中に残っている場合に有効です。そのため、誤飲が起こってから短時間のうちに処置を行う必要があります。
活性炭の投与
人間の薬など中毒を起こす可能性がある物を誤飲してしまった場合、活性炭を投与して中毒物質を吸着させるという治療を行うことがあります。活性炭には細かな穴があり、この穴でさまざまな物質を吸着します。この特性を利用し、中毒物質が体内に吸収されることを防ぐのです。
薬のように口から飲ませるので、犬の体に与える負担は少ないですが、数日続けて投与する場合が少なくありません。
内視鏡による摘出
先程も紹介したように、誤飲した物質を特定するために内視鏡を使うことがあります。この時、内視鏡につけた鉗子で異物をつまんで取り除くという治療法もよく行われます。内視鏡で実際の異物を見て治療ができますし、お腹を切らなくてよいので犬の負担も少ないです。
ただし、この方法も万能ではありません。布のような物だと簡単につかむことができますが、ボールのような丸い物だと鉗子でつまみにくいのでこの方法は使えません。またサイズが大きい場合、せっかくつかむことができても口から取り出せない場合もあります。
なお、内視鏡を使う場合は全身麻酔をかけての治療となることが少なくありません。そのため、全身麻酔に関わるリスクはゼロではありません。
胃洗浄
中毒性のある物を誤飲した場合は、早急の処置が必要です。先程催吐剤で吐かせる治療法を紹介しましたが、この治療でうまく吐き出せない場合には、胃洗浄を行うことがあります。
特に胃の中で吸収されたり、カプセルなどが溶けてしまったりする物の場合は、この処置によりすぐに胃から誤飲した物を排出させるのです。口や鼻からチューブを入れて、生理食塩水などを使い胃の中の物を洗い流します。
こちらの治療も全身麻酔を使い行われます。そのため、治療中の犬の状況に十分に注意する必要があるでしょう。
開腹手術
ここまで述べてきたいろいろな手段を使っても異物を体外に排出させることができない場合もあります。また先程述べたように、異物によっては胃や腸の閉塞や穿孔を起こすこともあるでしょう。
さらに先程述べましたが、糸などのひも状の物は腸閉塞や腸重積の引き金となることがあります。そして先端が尖っている物は吐き出させる際に食道などを傷つけることもあり、吐かせて取り出すことはできません。このような場合にとられる最終手段が開腹手術です。
文字通りお腹を切り開く手術ですから、犬の体に与える負担も大きくなります。全身麻酔のリスクのほかに手術後の合併症の可能性も考えなければなりません。そのため多くの場合、数日間の入院が必要になります。
犬が誤飲したときの治療費の目安
犬の異物誤飲の治療には、誤飲した物の種類や量により、さまざまな方法があることがわかりました。ではその治療にかかる費用はどのくらいなのでしょうか。
催吐剤で吐かせたり、活性炭を飲ませたりする程度であれば、費用はさほど高くありません。数千円程度で治療を済ませることができるでしょう。
しかし内視鏡での処置、開腹手術となると、全身麻酔が必要になるため費用は高くなります。内視鏡などを使う場合で数万円というのが一つの目安です。開腹手術で胃の切開をする場合、手術の費用だけでなく、さらに入院費がかかるため状況によってはかなりの費用になることが考えられます。
またここまで述べてきたように、費用が高い治療法は犬への負担も大きい場合が少なくありません。なので、異物誤飲が起こらないよう、十分に注意しましょう。
まとめ
犬は好奇心が強く、いろいろな物を口に入れてしまいます。飼い主が思いもよらない物を誤飲してしまい、大変な事態を引き起こすことは少なくないです。
誤食は飼い主がいくら気をつけていても起こります。うちの子に限って誤食は起こらない、という概念は捨てるようにしましょう。
異物誤飲は誤飲した物が無害な物であったとしても、治療などで犬に大きな負担をかけます。日常生活の中で異物誤飲を起こさないように、十分な注意を怠らないようにしましょう。
参考文献