愛犬が突然倒れて意識がない様子を見たら、飼い主さんはとても驚き不安になることでしょう。ですが、いざというときに飼い主さんが冷静に状況を判断し、正しい対処を行うことが愛犬の命を救う鍵になります。本記事では、犬の意識がないと感じたときに何を確認すべきか、応急処置の方法、すぐに動物病院へ連れて行くべき判断基準、さらに意識消失の裏に考えられる病気を解説します。万が一の際にもパニックにならず、愛犬を助けてあげられるよう一緒に学んでいきましょう。
犬に意識がない状態のチェックポイント

- 犬の意識がないとどのような状態になりますか?
- 犬の意識がない状態とは、呼びかけや痛みなどの刺激にまったく反応しない状態のことです。普段なら飼い主さんの声や物音に反応する犬が、まったく動かず目も合わせず、身体を揺すっても起きない様子が見られます。一見寝ているだけにも見えることがありますが、刺激に反応しないようなら本当に意識を失っている可能性が高いです。まったく反応がないことが意識消失の大きなサインですので、まずは落ち着いて呼びかけや刺激に対する反応の有無を確認しましょう。
- 犬の意識障害レベルの区分を教えてください
- 犬の意識障害の深刻さは段階的に分けて考えられます。意識レベルは5段階で評価されることがあります。
・レベル1(明識困難):呼びかけには反応しますが普段より元気がなく、意識がはっきりしない状態です
・レベル2(昏蒙):浅い眠りに入ったようにぼんやりしており、刺激への反応が鈍くなっています
・レベル3(傾眠):名前を呼ぶなどすると一瞬目を開けますが、刺激が止まるとまたすぐ眠り込んでしまいます
・レベル4(嗜眠・昏迷):痛み刺激など強めの刺激を与えると辛うじて目を開けたり身じろぎしたりしますが、刺激をやめると反応がなくなり深い無反応状態に戻ります
・レベル5(昏睡):呼びかけても反応がなく、痛み刺激にもまったく反応しません
以上のように、数字が大きくなるほど深刻な意識障害であり、レベル5の昏睡が意識障害の最も重い段階です。飼い主さんが日常で細かいレベル分けを覚える必要はありませんが、反応の仕方によって軽い意識混濁から昏睡状態まで段階があることを知っておきましょう。愛犬の様子が普段と比べてどの程度反応が鈍いかを観察することで、緊急度の判断に役立ちます。
- 犬の意識障害レベルのチェック方法を教えてください
- 愛犬の意識レベルを確認する方法としては、段階的に刺激を与えて反応を見ることが基本です。まず、声をかけたり音を立てたりして反応を見ます。名前を呼んだり手を叩いたりして、犬の耳が動くか、目を開けるか、尻尾を振るなどわずかでも反応があるか確かめてください。反応がなければ、次に身体に触れて揺すったり、軽く叩いてみたりします。それでも応答しない場合、痛み刺激を与えて確認します。ただし、てんかん発作の直後は無理に痛み刺激を与えたりしないようにしてください。
犬に意識がない場合の対処法

- 意識障害レベルがいくつであればすぐに病院に連れて行くべきですか?
- 明らかな意識障害が見られたら、可能な限り早急に動物病院へ連れて行くべきです。特に前述のレベル4(刺激に反応しない状態が続く)やレベル5(昏睡)に相当する場合は、一刻を争う緊急事態と考えてください。呼びかけても目を覚まさない、痛みにも反応しないといった状態は、脳や全身に重大な異常が起きているサインですから、迷わず緊急対応が必要です。
- 昏睡状態の犬に対してまずやるべきことを教えてください
- 犬が反応せず昏睡状態であれば、飼い主さんが最初に行うべきはABCの確認です。それぞれを詳しく解説します。
【気道(Airway)の確保】
意識のない犬は舌が喉の奥に落ち込んで気道を塞いだり、嘔吐物で喉が詰まったりする危険があります。まず犬の首をまっすぐ伸ばし、口の中を確認してください。もし嘔吐物や異物があれば可能な範囲でかき出し、空気の通り道を確保します。舌が喉に落ち込んでいる場合は、舌先をつかんで前に引き出し開放します。
【呼吸(Breathing)の確認と人工呼吸】
胸の上下動を見るか、鼻先に指や頬を近づけて息が感じられるか確かめます。もし呼吸が停止・または極端に弱い場合には、人工呼吸を施します。やり方は、犬の舌を引き出して気道をまっすぐ確保した状態で、犬の鼻先に自分の口を密着させ、息を優しく吹き込みます。胸がふわっと膨らむ程度の強さで1回1秒かけて吹き込み、これを約5~6秒おきに繰り返しましょう。
【循環(Circulation)の確認と心臓マッサージ】
左胸に手を当てて心拍の有無を感じ取るか、後脚の付け根(内股)に指を当てて大腿動脈の拍動を探ります。脈が感じられない、心臓の音が聞こえない場合は心肺停止の可能性があります。すぐに心臓マッサージ(胸骨圧迫)を開始しましょう。1分間に約100~120回のテンポでリズミカルに圧迫し、小型犬なら片手、大型犬なら両手重ねて行います。30回圧迫したら人工呼吸を2回入れる、というサイクルを繰り返す方法が推奨されています。
以上が昏睡状態の犬に対する一次救命処置の基本です。呼吸や心拍が確認できている場合でも油断せず、静かに声をかけながら速やかに動物病院へ向かってください。
- 犬が昏睡しており動物病院も開いていない場合に自宅でできることはありますか?
- まず、先ほど説明した気道確保・呼吸と心拍のチェックは常に行い、必要に応じて人工呼吸や心臓マッサージを続けます。呼吸や心拍が安定している場合でも、油断せず様子を監視しましょう。次に、犬を安全な体勢にします。犬の身体を右横向きにし、頭より胴体をやや低めに保ちます。舌が喉に落ち込まないよう外に引き出し、静かな場所で安静に寝かせてください。可能であれば毛布やタオルで犬の身体を包み保温します。ただし、熱中症が疑われる場合は逆に冷たいタオルや保冷剤を身体に当て、ゆっくり体温を下げる努力をしましょう。
- 意識のない犬を動物病院に連れて行く際の注意点を教えてください
- まず、意識のない犬は自力で姿勢を保てませんので、移動の際はできるだけ水平な姿勢で支えます。小型犬であれば毛布やバスタオルを広げて犬を包み、赤ちゃんを抱くように身体全体を優しく支えて抱きかかえてください。中~大型犬の場合は、可能ならば薄手のマットや丈夫な板の上に犬を乗せ、担架のように水平を保ったまま運ぶと安全です。頭部や首に怪我の疑いがある場合は、首を固定し、頭の位置が極端に上下しないよう注意します。
犬に意識がないときに考えられる病気

- 犬の意識がなくなったときはどのような病気が考えられますか?
- 犬が意識を失う原因として考えられる病気は多岐にわたりますが、主に下記の理由が挙げられます。
・脳・神経系の病気:てんかん発作
・心臓・血液循環の病気
・代謝性の病気(内臓疾患など):末期腎不全や肝不全、低血糖発作
・熱中症
・中毒(毒物の摂取)
・外傷・事故
愛犬の身体にどのような持病があるか、直前の環境や状況をよく観察し、獣医師に伝えることで原因特定の助けになります。
- 老衰で意識がなくなることはありますか?
- 老衰そのものが意識消失を起こすわけではありませんが、老衰に伴う体調の悪化によって結果的に意識を失うことはあります。高齢の犬では心臓や腎臓など複数の臓器が徐々に機能低下する多臓器不全が進行しやすく、最終的に昏睡状態に陥るケースがあります。これは老衰そのものというより、老衰で弱った身体が生命維持機能を保てなくなった結果といえます。
- 事故などによる外傷で意識がなくなるケースがあるか教えてください
- はい、事故や怪我によって犬が意識を失うケースはあります。例えば交通事故で車にはねられた場合や、高所から落ちて頭を強く打った場合など、衝撃で脳にダメージを受けると脳震盪や脳挫傷により一時的あるいは長時間の昏睡状態に陥ることがあります。また事故でなくても、喧嘩による噛み傷や転倒による内出血などで大量の出血が起これば急激に血圧が下がりショック状態となって意識を失うことがあります。
編集部まとめ

犬の意識がない状態はとても危険なサインであり、飼い主さんの迅速な判断と対応が求められます。まずは呼びかけや痛み刺激に反応しないか確認し、本当に意識を失っているかを落ち着いてチェックしましょう。飼い主さん自身がパニックにならないことも大切です。深呼吸をして心を落ち着け、今回紹介したポイントを思い出して対処すれば、きっと愛犬の力になれるはずです。万が一の事態に備え、本記事の内容を参考にしていただければ幸いです。
参考文献