愛犬がよく咳をしたり、階段を嫌がったりするといった変化に気付いたとき、「歳のせいかな」と見過ごしていませんか。
僧帽弁閉鎖不全症は、特に小型犬の中高齢期に生じやすい心臓病で、早期発見と丁寧なケアが予後を大きく左右します。この記事では、病気のしくみと進行、注意すべき症状、診断と治療の流れ、自宅でのケアや予防のポイントをわかりやすく整理していきます。
犬の僧帽弁閉鎖不全症とは

まずは症状の出方と進行の考え方を整理し、見逃したくないサインと受診の目安を具体例でわかりやすく示します。
- 犬の僧帽弁閉鎖不全症とはどのような病気ですか?
- 僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁がうまく閉じず、血液が逆流してしまう病気です。血液が後戻りすることで、心臓や肺に余計な負担がかかるようになります。
特に中高齢の小型犬に多く、初期には症状がないこともありますが、進行すると乾いた咳、呼吸が速い、疲れやすい、失神などの症状が現れることがあります。夜間や運動後に悪化しやすいのも特徴です。
聴診で心雑音が見つかることから発見されるケースも多く、進行すると肺に水がたまる肺水腫を起こすことがあります。
早期の診断と、病期に応じた治療・生活管理がとても大切な病気です。日々の観察と定期検診を通じて、できるだけ進行を防ぎましょう。
- 犬が僧帽弁閉鎖不全症になるのはなぜですか?
- 僧帽弁閉鎖不全症の主な原因は、心臓の弁が年齢とともに変性し、うまく閉じられなくなることです。弁が厚く短くなる粘液腫様変性によって、血液の逆流が起こりやすくなります。
特に小型犬や遺伝的な素因をもつ犬に多く、長年の拍動により弁や弁を支える腱索に負担がかかることで、徐々に進行します。まれに腱索が切れて、急に悪化するケースもあります。
発症の多くは7〜8歳以降で、マルチーズ、ポメラニアン、キャバリアなどの犬種でリスクが高いとされています。また、肥満や興奮、塩分のとりすぎ、治療されていない高血圧やホルモン疾患があると、心臓への負担がさらに強まり、心臓の拡大や肺のうっ血につながることもあります。
なお、歯周病菌が心臓に入り込んで弁に付着する感染性心内膜炎は、別の仕組みで起こるまれな病気であり、僧帽弁閉鎖不全症とは区別して考えられます。
- 僧帽弁閉鎖不全症を発症しやすい犬種や年齢を教えてください
- 僧帽弁閉鎖不全症は、中高齢の小型犬に多く見られる心臓病です。特に7〜8歳を過ぎる頃から発症リスクが高まり、定期的な検診が勧められます。
なかでもキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは、遺伝的な要因から若いうち(3〜5歳)に発症するケースも多く注意が必要です。
その他にも、トイ・プードル、ポメラニアン、マルチーズ、チワワ、シーズー、ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・シュナウザーなどの犬種でよく見られます。大型犬にも発症はありますが、頻度は少ない傾向です。
また、雄にやや多く発症しやすい傾向があり、肥満や歯周病を併発していると進行が早まる可能性があります。症状がなくても、心雑音の有無などを定期検診でチェックしておくことが早期発見につながります。
僧帽弁閉鎖不全症の症状と進行
次に受診と検査の流れを解説します。症状の伝え方、検査の種類と目的、結果の見方を整理していきます。
- 犬の僧帽弁閉鎖不全症ではどのような症状が現れますか?
- 僧帽弁閉鎖不全症の症状は、進行段階によって少しずつ変化します。
初期には目立った異変がなく、健康診断などで心雑音が見つかることがあります。
中期になると、乾いた咳や疲れやすさ、運動を嫌がる様子が出始めます。呼吸が浅く速くなり、夜間や安静時に息苦しそうにする、散歩後に咳き込む、肩で息をする、首を伸ばして呼吸するような仕草も見られます。
進行すると、ぐったりする、失神する、舌や歯茎が紫色になる、泡やピンク色の痰が出るなど、肺水腫を疑う深刻なサインが現れます。
そのほかにも、咳で眠れない、落ち着かない、食欲が落ちる、体重が減る、お腹がふくらむ(腹水・胸水など)といった変化にも注意が必要です。
これらの症状が見られたら、早めに動物病院へ相談しましょう。
- 症状が進行すると犬の日常生活にどのような影響が出ますか?
- 僧帽弁閉鎖不全症が進行すると、日常生活にさまざまな変化が出てきます。
散歩や階段の昇り降りで息切れしやすくなり、段差を避けたり、活動量が減って遊びや食事への関心が薄れることがあります。夜間の咳で眠りが浅くなる場合もあります。
体重減少や筋力低下が見られることもあり、利尿薬の影響で尿量が増える場合は、水分補給やトイレの間隔を調整する必要があります。
散歩は短めに、こまめに休憩を取りながら、暑さや興奮を避けて静かな環境で過ごしましょう。
日々の観察では、安静時の呼吸数や体重を記録しておくと、病状の変化に早く気付けます。
抱き上げるときは胸を圧迫しないようにし、寝床の頭側を少し高くすると呼吸が楽になります。
- 僧帽弁閉鎖不全症の重症度はどのように分類されるか教えてください
- 僧帽弁閉鎖不全症の重症度は、ACVIMの段階分類がよく使われます。目安は次のとおりです。
A=まだ病気ではないがなりやすい犬種
B1=症状はなく心臓の大きさもほぼ正常
B2=症状はないが心臓が大きい(心エコーやレントゲンで確認)
C=咳や呼吸が苦しく治療が必要
D=通常の治療でも抑えにくい段階
B2から薬と生活管理を開始し、C・Dでは呼吸を補助する酸素吸入や、肺の負担を軽くする利尿薬などを使って集中的に治療します。自宅では安静時呼吸数を毎日測り、増えたら早めに受診します。日々の記録は診断と治療方針の決定に役立ちます。
僧帽弁閉鎖不全症の治療と日常管理

最後に治療と生活管理、再発予防を整理します。薬・外科の選択、自宅ケア、緊急時の備えを示します。
- 僧帽弁閉鎖不全症はどのように診断されますか?
- 診断は、まず問診と身体検査で症状の出方や既往歴を確認し、聴診で心雑音の有無を評価します。
続いて、胸部レントゲンで心臓の大きさや肺の状態を確認し、うっ血や肺水腫の兆候がないかを見ます。心エコーでは、僧帽弁からの逆流や心拡大、腱索(弁を支える構造)の異常がないかを詳しく調べます。心電図では不整脈の有無を確認し、血液検査では臓器機能や炎症の状態に加え、心臓への負荷を反映するNT-proBNPの数値を参考にします。
呼吸状態が悪いときは、血中の酸素飽和度(SpO₂)や動脈血ガスで酸素化の程度を確認することもあります。
緊急時にはまず酸素吸入で安定を図り、段階的に検査を進めます。
咳の動画や安静時呼吸数の記録があると、診断の助けになります。
- 動物病院で行われる心臓の検査にはどのようなものがあるか教えてください
- 心臓の検査は、症状や病期に応じて段階的に行われます。
まず聴診で心雑音や不整脈の有無を確認し、胸部レントゲンで心臓の大きさや形、肺のうっ血を調べます。
さらに心エコー(ドプラー)で、心臓の動きや僧帽弁からの逆流の程度、左心房・左心室の拡大、腱索(弁を支える構造)の異常を確認します。
心電図や24時間ホルター心電図で不整脈を調べ、血液検査では心負荷の指標NT-proBNPや臓器機能・炎症の有無も確認されます。
必要に応じて血圧測定、酸素飽和度(SpO₂)、動脈血ガスなども行います。
これらの結果は、病期分類(ACVIM分類)や治療効果の判定に使われ、再診時にも同様の検査を繰り返して経過を見守り、薬の調整に役立てます。
また、自宅での安静時呼吸数の記録も大切な指標で、日々の変化に早く気付くために役立ちます。
- 定期検診で僧帽弁閉鎖不全症を早期発見することは可能ですか?
- はい、定期検診で早期発見は可能です。
特に聴診で心雑音が確認された場合は、僧帽弁閉鎖不全症が疑われます。早期に胸部レントゲンや心エコー(ドプラー)で心臓の逆流や拡大を調べ、必要に応じて心電図や血液検査(NT-proBNPなど)、血圧測定も行います。
このときの検査結果や画像を基準として保存しておくと、将来の変化に気付きやすくなります。
定期チェックの目安は、小型犬や中高齢犬では年1回、シニア犬やキャバリアなどのリスク犬種では半年に1回が推奨されます。
ご家庭でも、咳の有無や回数、安静時の呼吸数、体重の増減、運動後の息切れなどを日々記録しておくと、受診時に役立ちます。こうした変化の積み重ねが、重症化の予防につながります。
- 僧帽弁閉鎖不全症の治療方法を教えてください
- 治療内容は、病期や症状の進行度によって異なります。
心臓が拡大しているがまだ無症状(B2期)では、ピモベンダンという心臓の働きを助ける薬を中心に、ACE阻害薬やスピロノラクトンなどを併用することもあります。
咳や呼吸困難など症状が出ている(C期)では、フロセミドなどの利尿薬、酸素投与、安静管理で肺水腫の改善を図ります。必要に応じて不整脈の治療薬も使われます。
重度(D期)になると、薬の用量調整や多剤併用、入院による集中管理が必要になります。
一部の施設では外科的な弁の修復手術が検討されることもあります。
あわせて、体重管理、塩分控えめの食事、暑さや興奮の回避、ハーネスの使用、歯周病対策、安静時呼吸数の記録など、日常のケアも大切です。
薬は自己判断で中止や減量せず、必ず再診で服用調整を受けてください。
- 僧帽弁閉鎖不全症の犬との生活で注意すべき点を教えてください
- 生活の基本は、無理をさせず変化に気付くことです。散歩は短く、坂や階段は避けましょう。首輪ではなくハーネスを使い、興奮も控えます。室温・湿度は一定に保ち、煙・芳香剤・ほこりなどの刺激は避けます。体重と塩分を管理し、薬は指示どおりに与え、再診日も守ります。
安静時の呼吸数、咳、食欲、体重の変化は日付入りで記録し、治療に役立てます。食事は消化のよいものを少量ずつ分けて与え、水分補給も忘れずに。寝床は頭をやや高くして呼吸を楽にし、抱き上げは胸を圧迫しないようにします。トイレ回数を増やすことで負担を軽くします。
咳が増える、息が速い、ぐったりするなどの変化があれば、早めに動物病院へ相談しましょう。
編集部まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は進行性の病気ですが、早期発見と段階に応じた治療、自宅での丁寧なケアで、多くの犬が穏やかに暮らしています。咳や息切れ、呼吸の変化は見逃さず、安静時呼吸数や体重の記録を続けましょう。病院での診断・治療と、家庭での配慮をうまくつなぎ、再発や悪化を防ぐ工夫が大切です。大切なのは焦らず観察し、必要なときに相談できる備えを持つこと。飼い主さんの気付きと行動が、愛犬の健やかな毎日を支える力になります。
