犬の前立腺がん|症状や受診目安、治療法、早期発見の重要性を解説

犬の前立腺がん|症状や受診目安、治療法、早期発見の重要性を解説

前立腺がんは人間の病気として知られていますが、犬にも発症します。犬の前立腺がんについて、人間との違いを疑問に感じる方もいるでしょう。

医学の発達で高齢化する犬も増えており、それに伴い前立腺がんの発症報告も増加傾向にあります。

犬の前立腺がんは、病態だけでなく検査や治療、予後まで理解しておく必要がある病気です。

本記事では、犬の前立腺がんについて症状や受診目安、治療法や早期発見の重要性まで解説します。愛犬の健康を守りたい方の参考になれば幸いです。

犬の前立腺がんとは?

犬の足

犬の前立腺がんは前立腺疾患の一つで、移行上皮がんや扁平上皮がんと比較して発生頻度が高い病気です。

前立腺がんは、犬の寿命に関わる重大な病気です。本章では、犬の前立腺がんについて病態や原因をはじめ、予後やなりやすい年齢なども解説します。

犬の前立腺がんの病態

犬の前立腺は、近位尿道を取り囲むようにして膀胱の近くにあります。良性の前立腺過形成は、去勢していない6歳以上の犬の約80%以上に発生すると報告されています。

前立腺過形成は、去勢していない犬の腫瘍や嚢胞の罹患率を上昇させることが示唆されている病気です。

前立腺がんは、犬の前立腺の悪性腫瘍です。去勢の有無に関わらず、主に高齢で発症します。

発生率は0.2〜0.6%程度とされていますが、進行が緩やかなため発見が遅れやすい病気です。発見された時点で、転移している場合もあります。

犬の前立腺がんの原因

犬と獣医

犬の前立腺がんの原因は、明確にはわかっていません。遺伝的因子や環境因子、ワクチンやホルモンの影響が考えられています。

副腎のような精巣以外から分泌されるアンドロジェンが原因ともいわれていますが、前立腺がんとホルモンの関係については、さらなる研究や分析が求められます。

はっきりとした原因がわからない以上予防が難しいといえますが、日頃から愛犬の体調の変化に気を配りましょう。

犬の前立腺がんの予後の傾向

犬の前立腺がんは、一般的に予後が不良とされています。転移しやすいがんであり、生存期間は約2ヶ月、治療しても1年生存率は50%と報告されています。

前立腺がん悪化のリスクは転移だけでなく、敗血症になって重篤な状態に陥ることです。敗血症は、命に関わる臓器障害やショックを起こすこともある重大な病気です。

転移やほかの病気のリスクがなく、根治治療を行った場合は1年以上生存する可能性があります。

転移があって予後不良の場合は緩和治療を行って、生活の質を向上させることが大切です。

前立腺がんになりやすい犬種

座る犬

前立腺がんは犬種に関わらず見られますが、中型から大型犬での発生が多数確認されています。

発症しやすい犬種は明確には特定されていません。

ただし日本ではゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバー、シェットランドシープドッグなどに見られやすいといわれています。

なお、チワワやビーグル、バーニーズに悪性腫瘍が見られやすいという研究結果もあります。

前立腺がんになりやすい年齢

前立腺がんは若齢期の犬にも発症しますが、発症が多い年齢は、8〜10歳程度です。高齢犬の方が前立腺がんになりやすい傾向があります。

前立腺が加齢に伴い過形成になると、前立腺液の流れが悪化して嚢胞ができ、嚢胞に感染が起こると腫瘍になりやすいといわれています。

犬の平均寿命は飼育方法の変化や獣医療の発達に伴って伸びており、その分、より前立腺がんの発症の増加につながっている可能性があるといえるでしょう。

去勢との関係

犬の精巣腫瘍や肛門周囲腺腫などは去勢によって予防できますが、前立腺がんは、去勢の有無に関わらず発症します。

しかし、去勢されていない犬よりも去勢された犬の方が、前立腺がん発症率の割合が2~3倍程度高い傾向があるといわれています。

去勢では前立腺がんを完全には予防できませんが、前立腺がんに罹患しやすくなるという前立腺肥大や嚢胞は防げるため、リスクを減らせるという説もあります。

犬の前立腺がんの疑いがある場合の症状

疑問のある犬

犬の前立腺がんの疑いがある症状はさまざまなものがありますが、初期には目立ちにくく発見が遅れる傾向があるため、注意が必要です。

主な症状は血尿や頻尿、排尿困難のような膀胱関連の症状のほか、排便時の疼痛や排便困難などが報告されています。

過形成や嚢胞などの前立腺疾患に似た症状や食欲低下や活力低下なども見られることがあります。

歩くとふらついたり、立ちあがるのを嫌がったりする場合も、前立腺がんの可能性は否定できません。

これらの症状が必ずしもがんを示すとは限りませんが、早期発見が重要です。少しでも気になることがあれば、獣医師に相談することが大切です。

犬の前立腺がんの検査から診断までの流れ

犬と女性獣医

犬の前立腺がんも人間の場合と同様に、病気の分析をするために検査から診断まで実施することが必要です。

1つの検査では判断できないため、多くの場合は複数行います。

正確に診断するには、さまざまな検査の結果を適切にとらえる必要があります。この章で、犬の前立腺がんの検査内容や診断までの流れを見てみましょう。

主な検査内容

犬の前立腺がんの主な検査内容は、以下のとおりです。

  • 体温や心拍数
  • 触診や視診
  • 血液検査
  • 尿検査
  • レントゲン
  • CTやMRI検査
  • 超音波検査

前立腺に感染があると発熱することがあるため、体温を測定する必要があります。心拍数、呼吸数も測定すれば、全身状態をおおまかに知ることができます。

視診で外側を確認したり、直腸から手を入れて直接前立腺を触診したりすることも重要です。

血液検査では腫瘍がある場合、白血球数やCRPが上昇する可能性があります。CRPは体内に炎症があると増加するたんぱく質です。

前立腺がんに伴う排尿障害によって、血清尿素窒素やクレアチニン濃度の上昇が認められることもあります。

尿検査では感染の有無や細胞成分を確認し、レントゲン検査では前立腺の大きさや位置を評価します。次にCT検査やMRI検査は全身麻酔で行い、腫瘍の広がりや転移などの評価が可能です。

超音波検査は前立腺の大きさや形態だけでなく、左右対称性や嚢胞の存在も確認できます。

個別の検査だけでは十分なデータは得られないため、さまざまな検査を併用することで、しっかりと分析する必要があります。敗血症のリスクを抑えるため、定期的な血液培養も重要な検査です。

診断までの流れ

抱えられる犬

犬の前立腺がんの診断までの流れは、以下のとおりです。

  • 症状の聴取
  • 検査
  • 治療の検討

犬の前立腺がんの場合、排尿障害を起こす前に排便障害が現れる傾向があります。そのことを踏まえたうえで、まず症状が出現した時期や去勢の有無、生活環境などを聴取します。

体調の確認や外側から視診、触診することで前立腺疾患の有無を確認して、疾患が疑われれば直腸から直接前立腺を触診する流れです。

血液検査や尿検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査、超音波検査を駆使して前立腺がんを精査します。特にレントゲンや超音波検査は、幅広く情報が得られる可能性がある検査です。

レントゲンで前立腺内に石灰沈着が認められた場合は、前立腺がんである可能性が高いといわれています。

Bradburyらによると、レントゲンの画像上で去勢済みの犬に石灰化所見が見られる場合、前立腺がんである確率は高いとされています。

超音波検査では前立腺の形態学的な変化を確認して、石灰沈着の有無も合わせて病態を判断することが重要です。

検査結果から、治療法の方向性を十分に検討することが大切です。詳しい治療法については次項で解説します。

犬の前立腺がんの治療法

押さえつけられる犬

犬の前立腺がんの治療法は、大きく根治治療と緩和治療に分けられます。根治治療は積極的にがんを治療するものであり、転移がない場合であれば生存期間を延ばせる可能性があります。

一方で、すでにがんが進行していたり転移していたりする場合、積極的な治療は適用外です。その場合は緩和治療が中心になります。

犬の前立腺がんの治療法について、詳細を見てみましょう。

外科的手術

犬の前立腺がんの治療法について、主な外科的手術は以下の4つです。

  • 前立腺ドレナージ法
  • 前立腺部分切除術
  • 前立腺全切除術
  • 膀胱・前立腺・尿道一括切除術

前立腺ドレナージ法は、大網設置術とチューブを用いたドレナージ法があります。超音波ガイドでの吸引や抗菌剤管理を行っても病状が改善しない場合に行います。

大網設置術は前立腺の内部を洗浄し、必要に応じて一部を切除した後、膜で包む方法です。チューブを用いたドレナージ法は、ほとんどすべての排液が出されるため、感染のリスクを抑えられます。

前立腺部分切除術は切除時の出血への対応が可能であれば、病状の回復を早めることができます。

前立腺全切除術は、転移が認められない症例に適応される手術です。術中放射線療法を組み合わせることで、寿命を延長させる効果が期待できますが、リスクもしっかり理解する必要があります。

膀胱・前立腺・尿道一括切除術は、前立腺がんが膀胱や前立腺尾側の尿道に浸潤した場合に、適応となります。遠隔転移が認められないことも、適応条件です。また、術後は尿失禁状態となり、介助が必要になる点は飼い主側も知っておく必要があります。

追加手術として、前立腺全切除術後には尿道再建術、一括切除術後には尿管を包皮に開口する尿路変更術を行う必要があります。

前立腺の位置や大きさによって、恥骨骨切り術や恥骨坐骨骨切り術も併用することも把握しておきましょう。

外科的手術はほかの内臓への影響や出血などの合併症を考慮しなくてはなりません。薬剤感受性試験を実施して、適切な抗菌剤を使用することも大切です。

前立腺周囲は複雑であり、尿道や直腸などへの血流や神経を損傷する場合があるため、解剖を十分に理解したうえで実施する知識と技術が必要です。

内科的治療

診察を受ける犬

犬の前立腺がんに対する内科的治療は、主に以下の方法があります。

  • ホルモン療法
  • 抗がん剤治療
  • 分子標的治療
  • 抗炎症薬
  • 放射線治療

犬の前立腺がんに対して行われるのは、主にホルモン療法や抗がん剤治療、抗炎症薬の投薬などです。

例えば、がんの増殖抑制が期待される抗炎症薬と、抗がん剤であるミトキサントロンの併用が行われます。

ミトキサントロンは、抗炎症薬と併用して高い抗腫瘍効果が期待できる薬剤です。

また、非ステロイド系抗炎症剤であるCOX-阻害薬は、長期寛解が認められたとの報告があります。

放射線治療は、排尿や排便困難に対する症状緩和や、骨転移に対する疼痛緩和を目的に実施される場合があります。

緩和治療

前立腺がんが進行しすぎていたり、転移していたりする場合は、緩和治療の適用になります。ほかの病気を持っていて、手術できない場合も対象です。

緩和治療でも、抗がん剤治療や抗炎症薬の投与、放射線治療が行われます。放射線治療を行った結果、血尿の消失、前立腺周囲の腫瘍浸潤の改善が報告されています。

栄養補助食品やマッサージ、レーザー治療などを組み合わせたり、食欲不振の際には点滴を実施したりすることも緩和ケアには重要です。

犬の緩和ケアは、できるだけ痛みを緩和してゆっくり快適に過ごせる環境で、質を維持しながら生活していく必要があります。

自然死に至るまでは、疼痛緩和と快適さの管理が大切です。

犬の前立腺がんは早期発見が重要!

警戒している犬

犬の前立腺がんでは、早期発見が重要です。犬の前立腺がんは初期には症状が現れにくく、進行も緩やかなため、気付かれにくい病気です。

そのため発見時には進行しすぎていたり、転移していたり、治療が困難である場合も少なくありません。

食欲不振や歩行異常、腹部を触ると痛がるといった症状を見逃さないことが大切です。

また、日頃から排尿や排便をチェックすることも習慣づけておくことをおすすめします。

排尿障害といった泌尿器の病気にも症状が似ているため、少しでも違和感があればしっかり検査を受けましょう。定期検診を行っている動物病院に行くことも一つの方法です。

特に8歳以上の高齢犬の場合、たとえ小さな異変でも動物病院を受診することが早期発見につながるでしょう。

まとめ

女性獣医と白い犬

犬の前立腺がんは前立腺の悪性腫瘍であり、ゆっくり進行するため、悪化していても気付きにくい病気です。

原因ははっきりとはわかっていないものの、高齢犬に発症しやすく、予後は不良といわれています。

検査は触診や血液検査に加え、レントゲン検査やCT検査、超音波検査などが用いられます。治療は外科的治療や内科的治療、緩和治療があり、個体の病状に合わせて対応しなくてはなりません。

転移がなければ外科的治療や内科的治療で積極的に治療し、転移があり病状が進行している場合は、緩和治療が選択される傾向があります。

緩和治療は、生活の質を守りながらゆっくり快適に過ごすことが目標です。

犬の前立腺がんではわずかな違和感を見逃さず、早期に対応する視点が重要です。

愛犬の体調が気になる点がある場合は、小さなことでも遠慮なく獣医師に相談しましょう。

参考文献