飼い犬が歩行する際に片足を上げるといった異様な様子がみられたら、股関節脱臼を発症しているかもしれません。
犬の股関節脱臼は交通事故や高所からの着地などさまざまな原因で発症する可能性がある病気です。
自然に治癒するケースもありますが、再脱臼することも多く、手術による治療が必要になることもあります。
本記事では、犬の股関節脱臼(Hip Luxation)の原因・症状・治療法・予防法を徹底解説します。犬を飼っている方はぜひ参考にしてください。
犬の股関節脱臼(Hip Luxation)が発症する原因・症状
- 犬の股関節脱臼とはどのような病気ですか?
- 犬の股関節脱臼とは、交通事故などの何か大きな衝撃を受けたことで通常は骨盤にはまっている大腿骨頭が外れてしまう病気です。
大腿骨頭は足の付け根付近にある球体上の部分で骨盤と大腿骨をつなぎ止める役割があります。
足周辺や腰に大きな衝撃を受けると、足の付け根にある靭帯が断裂し、股関節を覆っている間接包という膜が破けてしまいます。すると、骨盤と大腿骨頭をつなぎ止めていた靭帯や膜がなくなり、股関節脱臼が起こりやすい状態になってしまうのです。
一度股関節脱臼になると再び脱臼を繰り返す可能性が高く、再発を防ぐための治療が必要になります。
- 発症する原因について教えてください。
- 犬の股関節脱臼とは、交通事故などの何か大きな衝撃を受けたことで通常は骨盤にはまっている犬の股関節脱臼は、大半が交通事故やその他の大きな衝撃を受けたことによって発症します。
例えば、散歩中の交通事故や高いところから飛び降りるなどで発症することが考えられます。ただし、普段生活しているなかでは、股関節周りの靭帯や膜が損傷する程の状態になることは考えにくいです。
ほかには先天的に股関節の形状に異常をきたしている場合やホルモンの病気を発症したことで関節の筋力低下により緩みが生じる場合などで発症するケースが挙げられます。そのため、生まれた頃には問題なく歩行していても成長が進むにつれ、股関節脱臼を発症することもあります。
日常的な運動や軽い衝撃で股関節脱臼を発症した場合は、もともと股関節に亜脱臼や緩みが存在したと考えられます。
- 発症しやすい犬の特徴はありますか?
- 股関節脱臼はすべての犬種に起こりうるといえますが、股関節形成不全により緩みが生じるケースでは特定の犬種で股関節脱臼が発症しやすいといえるでしょう。
股関節形成不全は大型犬では、ゴールデンレトリーバー・ラブラドール・バーニーズマウンテンドッグなどが挙げられます。小型犬では、トイプードル・チワワ・柴犬などがよくみられるでしょう。
これらの犬種では遺伝的に股関節形成が不完全な状態ですと急激な体重の増加に筋力が追いつかなかったり運動不足で機能低下がみられたりして、少しの衝撃でも股関節脱臼を発症する可能性があります。
- どのような症状が見られますか?
- 股関節脱臼を発症した場合、脱臼した足を地面につくと痛みが生じるため、足を上げて歩行する様子がみられます。
また、脱臼した足以外の3本の足で支えながら歩行するため、普段よりも歩きにくそうにしている場合は可能性が高いです。加えて、股関節脱臼した部分は痛みが生じやすいため、抱っこや触られるのを嫌がるでしょう。
しかし脱臼を繰り返し引き起こしていたり、股関節形成不全やホルモンの病気などの発症による慢性的な脱臼の場合は症状が現れないケースもあり、普段と変わらない様子で歩行していることもあります。
犬の股関節脱臼(Hip Luxation)における治療法
- 股関節脱臼の検査はどのように行われますか?
- 犬に股関節脱臼の症状がみられた場合は、臨床的な方法とX線学的な方法によって検査し、診断されます。
臨床的な方法では、脱臼が疑われる股関節を触診する検査です。股関節脱臼を発症した場合、片側で脱臼しているケースが多く、脱臼していない側の股関節との高さや位置と比較します。股関節を捻ったり、回転させたりすることで大腿骨頭の浮き方や可動域制限の有無からも股関節脱臼が発症しているかをみていきます。
X線学的な方法では、X線撮影を行い、X線写真から股関節脱臼を判断する項目としては大腿骨頭の位置や骨折の有無などです。股関節形成不全による股関節脱臼はX線写真によって初めて判明するケースが多くみられます。
臨床的な方法とX線学的な方法を組み合わせることで、正確に股関節脱臼を診断できると同時に脱臼の原因を知ることができるでしょう。
- 手術をせずに治療ができますか?
- 犬の股関節脱臼で手術をせずに行われる治療法として、非観血的な整復方法が挙げられます。
非観血的な整復方法とは、脱臼した股関節側の大腿骨頭を骨盤の深いところにある寛骨臼(かんこつきゅう)に滑り込ませるようにしてはめ込む方法です。
脱臼した箇所は痛みが生じており、脱臼した箇所を元の位置に戻すためには大きな力を加えて征服するため、全身麻酔をして痛みを和らげたのちに行われるのが一般的です。
非観血的な整復方法で単純な脱臼では股関節を元の位置に戻した後は、8字包帯で数日から1週間程固定します。固定している間は脱臼した足をつかないよう注意し、かつ包帯による皮膚の炎症にも気をつけなくてはなりません。
非観血的な整復方法では約半数が再脱臼してしまうというデータもあり、固定を外した後も滑りやすい場所を歩行させないよう心がけましょう。
- 手術による治療について教えてください。
- 犬の股関節脱臼で手術による治療法としては、観血的な整復方法が挙げられます。
観血的な整復方法とは、脱臼した股関節を元の位置に戻しメスを入れてピンやインプラントなどで固定したり、股関節形成不全の場合は大腿骨頭を一部切除して機能改善を図ったりする方法です。
股関節機能の改善を行うため、観血的な整復方法では原因に応じてさまざまな方法が用いられています。
外的要因による股関節脱臼の場合に行われる観血的な整復方法として、トグルピン法があります。トグルピン法は大腿骨頭靭帯の付着部分外側から大腿骨頚にあけた穴に糸を通し、骨頭からのループにトグルピンを通して、寛骨臼にあけた穴をアンカーとして入れて股関節の整復をする治療法です。
トグルピン法は、股関節の形態に異常がなく、大腿骨や寛骨臼に骨折がない再脱臼しにくい治療法として股関節脱臼の治療で採用されています。
飼い犬を股関節脱臼(Hip Luxation)から守る予防法
- 自宅で股関節脱臼を起こさないためのポイントを教えてください。
- 犬の股関節脱臼は大きな衝撃を受けることで発症するため、高いところからの着地や足元が滑りやすいところでの転倒などで引き起こされる可能性があります。
自宅で股関節脱臼を起こさないためには、階段の上り下りを控える・段差の大きいところを行き来させない・普段過ごすところでは絨毯やマットを敷くなどが効果的です。
階段の上り下りや段差は習慣化してしまうと股関節に負担がかかり、脱臼の危険性を高めることにつながります。また、フローリングの床では犬にとって足元が滑りやすく、転倒したタイミングで脱臼してしまう恐れがあるでしょう。
ほかにも犬の急激な体重増加や運動不足は股関節に負担をかけすぎたり、機能不全を引き起こしたりするため、注意が必要です。
- 散歩の際に気をつけることはありますか?
- 犬を散歩させる際には、段差に注意が必要です。特に散歩に出かける時の玄関の段差は股関節に負担がかかりやすいため、犬を抱きかかえたり、簡易的なスロープを設けたりすることで高さのあるところからの着地を少なくします。
また冬で道路が凍結している日の散歩は犬の足元が滑りやすいため、道路の状況が良くなってから散歩したり、滑り止めの靴下などを装着したりするなど工夫するとよいでしょう。
散歩により運動させることで股関節周りの筋力を上げる効果があるので、緩やかな傾斜地を駆け回るなどは股関節脱臼の予防に適しています。
- マッサージやサポーターには予防効果がありますか?
- マッサージやサポーターは股関節脱臼を発症し、治療を終えた後に再発予防として効果があります。
股関節脱臼は発症したのち、非観血的な整復方法では約半数が再脱臼してしまう可能性があります。また、脱臼を慢性的に繰り返してしまうことも考えられるでしょう。
マッサージによって股関節を正常な位置に戻してあげたり、サポーターで固定したりすることで再脱臼を防ぎます。ただし、マッサージの方法やサポーターの使用方法を誤ると逆効果になることもあり得るため、正しい方法を身につけて行うことが大切です。
編集部まとめ
本記事では、犬の股関節脱臼(Hip Luxation)について原因・症状・治療法・予防法を解説しました。
犬の股関節脱臼はすべての犬種に発生する可能性があり、非観血的な整復方法にて優先的に治療されるものの再脱臼する可能性も高いといえます。
股関節形成異常などの機能不全がみられる場合は観血的な整復方法によって根本的な治療が行われます。
外的要因による股関節脱臼は犬が段差のある場所に行くことを避けたり、足下が滑らないよう工夫したりすることで防げるので、普段の生活環境を見直すとよいでしょう。
参考文献