体がやわらかく運動神経がよい猫ですが、発育不全や強い衝撃を受けることで脱臼します。
脱臼とは、足・手首・肘などの関節がずれたり(亜脱臼)、外れたり(完全脱臼)する状態をいいます。
走り回ったり高いところから飛び降りたりした際に、バランスを崩し四肢にダメージを受けると脱臼することがあるのです。
脱臼は一度起こすと、何度も繰り返すため注意が必要です。
この記事では、猫が脱臼する原因・症状・治療法を解説します。また、脱臼を予防する方法もご紹介しますのでぜひ参考にしてください。
猫は痛みや異変を言葉で伝えられないため、飼い主がいち早く異常に気付き、適切な治療を受けられるようにしてあげましょう。
猫の脱臼は自然治癒する?
猫の脱臼は、自然に治ることはとても稀です。脱臼は通常、外部からの衝撃や先天性の関節の異常などにより、関節が正しい位置から外れたり関節を形成する組織が損傷することで起こります。
脱臼した状態を放置すると、異常な位置に関節があることで痛みや不快感を引き起こします。
さらに、関節や周囲の組織にダメージを与えることになり関節の変形や動きに制限が生じることにつながるので注意が必要です。
脱臼を疑う場合は、猫を動かさないようにし患部を安静にして病院で受診するようにしましょう。
猫の脱臼の原因
元気に走り回ったり、高いところから飛び跳ねたりすることが得意な猫ですが、どのようなことが原因で脱臼になってしまうのでしょうか。
猫が脱臼になる原因は4つ挙げられます。
- 外傷
- 病気
- 先天性
- 加齢・肥満による足への負荷
ここでは猫が脱臼になる原因を解説します。
外傷
外傷とは、外からの強い衝撃が体の一部に加わることで生じる体の異変のことです。外傷によって生じる脱臼を外傷性脱臼といいます。
猫の脱臼は外傷によるものが主な原因とされています。
外で過ごすことが多い猫は、交通事故や落下事故に遭う可能性があり、外傷を受ける確率が室内で過ごす猫よりも高いでしょう。
また、猫同士でけんかする場面もあるため、その際の衝撃で脱臼することも考えられるのです。
室内で飼われている猫の場合も、キャットタワーからの転落や同居している猫とのじゃれ合いなどによって関節に衝撃を受けると脱臼する可能性があります。
外傷による脱臼は骨折や靭帯・腱の損傷を伴っている場合もあるため、異常に気付いたら早めに病院で受診するようにしましょう。
病気
猫が脱臼する原因として、骨粗鬆症や関節の異常な発達を引き起こす関節疾患が挙げられます。
骨は体を支える働きとカルシウムを吸収し貯蓄する役割を持っています。
しかし、加齢・栄養不足・運動不足などが原因でカルシウムが不足したり吸収できなくなると、人間と同じようなメカニズムで骨粗鬆症になる場合があるのです。
このような病気による脱臼を病的脱臼といいます。
また、猫でよくみられる関節の疾患としては変形性関節関節症が挙げられます。
変形性関節症は、骨を保護するクッションの役割を持っている関節軟骨が変性や摩耗を繰り返すことで、関節内の構造が変化し関節の慢性的な炎症が起こっている状態です。
その他には、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)のように筋肉が収縮する機能が低下する疾患や、脳疾患による神経の異常などもあります。
先天性
脱臼しやすい原因の一つとして、先天性の異常が挙げられます。遺伝的な要素により関節の異常な発達や構造に問題を抱えて生まれてくる場合、脱臼しやすい傾向にあると考えられています。
脱臼しやすい猫の種類についての報告もあるため、遺伝が関係していると考えられていますが因果関係は定かではありません。
脱臼の症状が出る年齢は個体差がありますが、早ければ生後1~2ヵ月頃から発症するケースもあるようです。
先天性の脱臼の場合、遅くとも生後4ヵ月までに治療を開始することが望ましいとされているため、早期に異変に気付くことが大切です。
加齢・肥満による足への負荷
脱臼を起こしやすい原因として、加齢や肥満により足への負担がかかることが挙げられます。
加齢により骨を支える筋肉や腱が衰えてくると、正常な位置で関節が保持されなくなるため脱臼を起こしやすくなります。
また、肥満になると体を支えている足に負担がかかり、筋肉や腱が損傷し関節を正常な位置で保持することが難しくなるため、脱臼する原因となるのです。
猫の脱臼の症状
猫は痛みや異変を言葉では訴えることができません。そのため、飼い主が脱臼していることに気付いてあげる必要があるのです。
では、猫が脱臼しているとどのような症状があらわれるのでしょうか。ここでは下記の4つの症状について解説します。
- 関節が変形している
- 足を引きずる
- 足の長さが左右で違う
- 尻尾の脱臼は排泄コントロールが難しくなる
これらの症状がみられた場合、足や尻尾を脱臼している可能性があります。
関節が変形している
関節が不自然に変形している場合、脱臼していることが考えられます。
例えば、手首(手根関節)や足首(足根関節)が不自然な方向へ曲がっていると脱臼している可能性が高いです。
脱臼だけではなく、骨折や腱の断裂を伴い関節が変形している可能性もあります。
そのため関節の変形に気付いたら、まずは安静な状態を保てるようにし、病院を受診しましょう。
足を引きずる
股関節や膝関節、肘関節などが脱臼していると、脱臼している足を地面につかないようにして歩いたり、脱臼している足を引きずる状態がみられます。
また、脱臼すると痛みを伴い、脱臼している部位をかばおうとするため歩き方が不自然だったりふらふらと歩いたりする姿がみられる場合もあります。
歩き方がおかしいなと感じたら脱臼している可能性があるため、早めに病院で診察を受けるようにしましょう。
足の長さが左右で違う
足関節が脱臼していると、正常な関節の位置からずれるため、脱臼している足が長くなります。
そのため、足の長さに左右差が生じ長さが違うことに気付き、脱臼していることがわかる場合があるのです。
左右の足の長さが違うためバランスが悪く、足を引きずったり歩きにくさを感じている様子がみられます。
いつもと歩き方が違うと感じた場合は、なんらかの異変のサインです。早めに獣医師に相談しましょう。
尻尾の脱臼は排泄コントロールが難しくなる
尻尾を脱臼すると、尻尾の神経がダメージを受けるため排泄コントロールに影響が出ます。
猫は排泄する際、バランスを取ったり姿勢を維持したりするために尻尾を使っています。
そのため、尻尾が脱臼するとトイレでバランスを崩したり痛みを感じ、トイレでの排泄を避ける場合があるのです。
排泄をいつもトイレで行えていたのに、トイレ以外の場所で排泄するようになった場合は、尻尾を脱臼している可能性があります。
単なるトイレの失敗だと思っていたら、脱臼していたという可能性もあります。
日常の活動状態をよく観察することで、異常に気付けるでしょう。
猫の脱臼の診断方法
猫の脱臼は症状により判断することもできますが、確定診断を行うためには、触診やレントゲン検査を行います。
脱臼の状態を詳しく調べ、脱臼の治療方法を決めるためにも大切な検査です。
ここでは、触診とレントゲン検査について解説します。
触診
触診とは、実際に患部を触って異常がないか診察する方法です。
脱臼していると関節を触った際に、明らかに痛がる様子を見せたり、骨と骨がこすれるような音がするのが特徴です。
また、脱臼している関節の部位により、骨の周囲の靭帯や腱が断裂していたり、関節包が剥離している場合があります。
そのような場合は、関節の可動域が通常よりも広くなるため脱臼していると判断されます。
レントゲン検査
触診で脱臼している部位の確認をした後、レントゲン検査で患部の写真を撮り、脱臼や骨折の有無を確認し、確定診断を行います。
外傷による脱臼の場合、骨折も併発している可能性があります。
そのため、骨の状態を正確に確認するためにレントゲン検査が必要なのです。
レントゲン検査は、X線を照射して撮影を行う検査です。通常は、獣医師や看護師などが体を保定し撮影を行うため、麻酔の必要はありません。
しかし、痛みや違和感で動いてしまう場合には麻酔を使用することもあるでしょう。
猫の脱臼の治療法
猫の脱臼はどのようにして治療を行うのでしょうか。治療法として下記の3つが挙げられます。
- 非観血的整復法
- 観血的整復法
- 救済的手術
脱臼している部位や症状により、適切な治療法が選択されます。
非観血的整復法
非観血的整復法とは、手術を行わずに手で整復する方法です。軽症である場合には、非観血的整復法で脱臼を整復できます。
しかし、猫の脱臼は一度正常な位置に戻しても、また脱臼することが多いのが特徴です。そのため、整復をした後はギプスで固定してある一定期間、安静を保つ必要があります。
整復する際には、痛みが強く激しく動いてしまうため通常は麻酔をかけて行います。
観血的整復法
観血的整復法とは、手術により脱臼を治療する方法です。骨折や靭帯・腱の損傷を伴う脱臼の場合、手術を行います。
手術により関節を正常な位置に戻した後、関節を残した状態で再脱臼を起こさないように固定をする手術です。
非観血的整復法を行っても再脱臼を繰り返す場合には、手術による整復法を選択されるケースが多いでしょう。
固定の方法はさまざまあり、脱臼している部位や周りの靭帯や腱の状態により選択されます。
例えば、関節を固定するための専用のピンを骨に挿入し一定期間留置して、脱臼を整復する方法です。
また、骨折している場合には、プレートやスクリューを用いて固定する方法や、断裂した靭帯の再建に人口靭帯を挿入する方法などがあります。
近年では、傷が小さく関節の可動域制限が少なく、術後早期に歩けるようになる手術法が選択される傾向にあります。
手術後は、ギプスで固定したり手足を吊るすなどし関節を固定して安静が必要です。そのため、数日~数週間入院になる可能性もあります。
救済的手術
救済的手術は、関節を正常な位置に戻す観血的整復法を行っても再脱臼を起こす場合に行われます。
また、関節部に複数の骨折がある場合・変形性関節炎が強い場合など、関節を温存するのが難しい場合に選択される手術方法です。
例えば、大腿骨頭切除術(FHO)や股関節全置換術(THR)が挙げられます。
関節炎で変形した骨頭を切除したり、関節ごと人工関節に置換する手術です。
猫の体に大きな侵襲を与えるため、手術後はリハビリを行い、元の運動機能を回復できるように関わることが大切です。
猫の脱臼を予防する方法
猫が脱臼しないようにするためには、日々の生活のなかで気を付ける点がいくつかあります。
猫の脱臼は外傷性によるものがほとんどで、その原因は交通事故や高いところからの落下です。
飼い主が知らないところで危険な目に遭わないようにするためには、猫を屋外に出さないことが効果的な予防法です。
完全に室内飼育にし、猫が脱臼しないように室内環境を整えるようにしましょう。
フローリングが滑りやすいと、走り回った際に関節に負担がかかり脱臼する原因となります。
そのため、滑りにくいようフローリングをコーティングしたり、カーペットを敷いたりと対策することが大切です。
家具やキャットタワーの配置も、段差が大きくならないようにし、スムーズに上下運動ができるようにすると、着地の際に関節に負担がかかりにくく脱臼のリスクを減らせます。
また、肥満で体重が重くなると、関節に負担がかかりやすく脱臼するリスクが高まります。
日頃の食生活や運動量をよく観察し、体重の管理を行うようにしましょう。
反対に栄養状態が悪い場合も、骨や筋肉の衰えから脱臼のリスクが高まります。そのため、バランスのよい食事を与え、健康を維持させることも大切です。
まとめ
猫の脱臼は自然に治ることはなく、そのまま放置しておくと、重症化したり関節が変形したまま固まってしまったりすることがあります。
猫は痛みや異変を隠そうとするため、飼い主さんが異変に気付くのが難しい場合もあるでしょう。
しかし、脱臼をしていると足を引きずって歩いたり、関節が変形していたり、排泄がうまくできなかったりなどの症状があらわれます。
普段とは違う様子に気付いたら早めに獣医師に相談するようにしましょう。
猫の脱臼の原因は、外から無理な力が加わる外傷によるものがほとんどです。事故や高いところからの落下が多いといわれています。
そのため、外で過ごすことが多い猫は脱臼になるリスクが高いといえます。脱臼のリスクを少なくするためには、完全室内飼育が効果的な対策です。
また、室内の飼育環境も脱臼予防に配慮したものにする必要があります。フローリングを滑りにくくする・カーペットを敷く・家具やキャットタワーの高低差を少ない配置にするなどの対策が効果的です。
万が一、猫の脱臼を発見した場合は自分で治そうとせず、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
骨折や靭帯などの損傷がないか検査を受け、適切な治療を受けることが猫の健康寿命を伸ばすために大切です。
参考文献