「犬は歳を重ねると心臓病になりやすい」と耳にしたことのある飼い主さんは少なくないでしょう。
国内でペットとして飼育されている犬の死因、第2位は心臓病です。あるペット保険会社が調査したデータによると、12歳以上の犬の5頭に1頭が心臓病を発症していると報告されています。
長年生活をともにした愛犬が苦しむ姿を見たくないと感じる飼い主さんがほとんどなはずです。なぜシニア犬が心臓病を発症しやすいのでしょうか。
本記事では、犬の心臓病の症状・原因・治療法・注意したいことについて詳しく解説していきます。
心臓病といっても種類は多岐にわたり、先天性か後天性かによって病態や治療法などが異なります。ここでは、発症率が高い僧帽弁閉鎖不全症に絞って解説していきましょう。
愛犬を守りたい飼い主さんは、ぜひお目通しください。
犬の心臓病の症状・原因
- 犬の心臓病とはどのような病気ですか?
- 心臓に関わる病気を総称して心臓病と呼ばれています。ひとことで犬の心臓病といっても、病気の種類や症状はさまざまです。よくみられる犬の心臓病の特徴は以下のとおりです。
- 一般的には左房室あるいは僧帽弁に影響があるもの
- オスはメスより発症リスクが1.5倍高い
- 20kg以下の犬に有病率が高い
- 一般的に進行はゆっくりだが予測はできない
- 心臓病の症状が発現する数ヵ月~数年前から認識可能な心雑音を有する
心雑音は飼い主さんでも気付きやすく、愛犬の健康状態で不安を抱きやすいでしょう。僧帽弁閉鎖不全症の場合、心音の間に「ズー」「ザー」といった収縮期雑音が聞こえます。心雑音があればすべてが病気と診断されるわけではありませんが、違和感を覚えたら初期段階で病状を発見するよう心がけることが大切です。不安なことがあれば獣医師に相談するようにしましょう。
- 犬の心臓病の症状は何がありますか?
- 心臓病は心臓に関係する病気の総称であるため、発症している病気によって症状が異なります。例えば、犬の心臓病のなかでも発症率が高い僧帽弁閉鎖不全症では、疲れやすいなどの運動不耐性がみられる傾向にあります。肺動脈高血圧であれば、せき程度の軽い症状から、腹水や胸水が溜まるなど重い症状に陥りやすいです。ほかにも、以下のような症状が見られる場合、心臓病を患っていると疑ってよいでしょう。
- 呼吸困難
- チアノーゼ
- 体重減少
- 食欲不振
- 体のむくみ
- ふらついたり倒れたりする
- 横になると苦しそうにしている
シニア犬に発症しやすい病気のため、体重減少や食欲不振などは見分けにくい症状になります。また、僧帽弁閉鎖不全症に続いて症状が強くなったときには、三尖弁閉鎖不全症の可能性が高いでしょう。三尖弁閉鎖不全症で症状が強く出ることは稀ですが、右心房と右心室の間の弁に異常がみられる犬は少なくありません。急激に体重が減ったり食欲不振が2日も続くようであれば、動物病院で受診しましょう。
- 犬の心臓病を引き起こす原因は何でしょうか?
- ひと昔前までは心臓病が不治の病とされていました。しかし、近年の研究が進むにつれていくつか心臓病を引き起こす原因が判明しています。心臓病に該当するものを大まかにお伝えすると以下のとおりです。
- コラーゲン含有量とコラーゲン線維の配列の変化によるもの
- 心臓の心房筋という部位で産生されるペプチドホルモンの変化によるもの
- 血液を体に送り出す機能を持つ僧帽弁(そうぼうべん)の不具合によるもの
- プロテオグリカン含有量の変化による海綿体層の拡大
上記の原因に加えて、心臓病は年齢が上がるにつれて罹患率が上昇する傾向にあることから、身体機能の低下が大きな原因であると考えられています。
- 僧帽弁閉鎖不全症の症状を教えてください。
- 僧帽弁閉鎖不全症は、犬の心臓病のなかでも発症率が高い病気です。5〜7歳頃から心臓病は進行していると考えられており、症状が顕著になるのは10歳以上の老年期に入ってからになります。無症状のまま別の病気で死亡するケースも報告されているため、僧帽弁閉鎖不全症を見逃してしまうリスクも否定できません。代表的な症状は響くようなせきです。運動時や夜間に症状がみられる傾向にあります。せきの原因は、2つあります。1つ目は肥大した心臓が気管支を圧迫し、刺激するためです。2つ目は三尖弁閉鎖不全症による循環不全で肺の毛細血管がうっ血し、分泌液が肺胞に溜まること(肺水腫)によるものとされています。この状態が悪化すると、呼吸が早くなったり体を横にすると苦しそうにしたりするでしょう。
- 胸を床につけたように寝るようになる
- 運動をしなくなる
- 元気や食欲が低下する
- 意識がややにぶくなる
- 激しいせきが出る
- 昏睡状態に陥る
軽いせきの症状から徐々に上記のような重い症状に進行していきます。愛犬がせきをしているときには注意が必要です。
犬の心臓病の治療法・予防法
- 犬の心臓病の治療法はありますか?
- 近年では犬の心臓病は不治の病ではなくなりつつあります。あまり浸透していないようですが、発症率の高い僧帽弁閉鎖不全症も外科手術が可能です。外科手術によって心臓病所見の消失や、投薬の中止または減量にもつなげられます。外科手術は以下のような病気にも適応が可能です。
- 心房中隔欠損症(ASD)
- 心室中隔欠損症(VSD)
- 不整脈(房室ブロック)に対するペースメーカー設置
- 肺動脈弁狭窄症(PS)
- 動脈管開存症(PDA)
- 心臓腫瘍
外科手術は国内での術後半年後の生存率は90%を超えており、高い成功率を誇っています。ほかにも薬物療法や食餌療法と併用して行われることもあります。愛犬にとってよりよい治療の選択肢を広げられる可能性もあるでしょう。
- 犬の心臓病の予防法を教えてください。
- 犬の心臓病を予防する方法はいくつかあります。そのなかでも特に大切なことは犬の健康的な生活を保障してあげることです。これは愛犬と生活していくうえで大切な飼い主さんの義務であり、責任でもあります。
- 衛生的な生活環境
- 定期的な入浴やブラシをかけて体を清潔に保つ
- 栄養管理
- 適度な運動
- 健康診断や予防接種を受ける
上記の予防法はあくまでも後天的な心臓病を予防するために意識してほしい内容です。犬の心臓病には先天的あるいは遺伝的要因が発症に関わっていることがあります。健康的な生活を保障することは大切ですが、心臓病を完全に予防するのは難しいと留意しておきましょう。
- 犬の心臓病の検査方法について教えてください。
- 犬の心臓病の検査方法はレントゲン・心電図・エコーなどで確認します。まずは動物病院を受診して問診や聴診を受けましょう。愛犬の健康状態によっては、レントゲン検査やエコー検査を追加で行う流れが一般的です。またスムーズに検査を行うためにも、いつ頃からどのように愛犬の体調に変化がみられて受診に至ったのか、経緯をしっかり獣医師に伝えることで早期発見・早期治療に努めていきましょう。
- 心臓病にかかりやすい犬種や好発年齢はありますか?
- 犬の心臓病を発症する約95%は小型犬であることが判明しています。そのなかでも発症しやすい犬種は以下のとおりです。
- マルチーズ
- ポメラニアン
- ヨークシャーテリア
- キャバリアキングチャールススパニエル
年齢を重ねるごとに発症リスクが高まりますが、16歳になると75%がこの心臓病を発症するといわれています。一方で、キャバリアキングチャールススパニエルは、1歳ですでに33%が心臓病を抱えているとの報告もあります。4歳以上では約60%にも達するとされているため、遺伝性の病気であることも否定できません。あくまでも参考程度に、もしかかりやすい犬種だと心配な場合は、獣医師に相談することをおすすめします。
犬の心臓病で注意したいこと
- 心臓病にかかった際に注意したいことはありますか?
- 心臓病は徐々に症状が進行する病気です。軽い症状の段階で治療できれば、予後が良好になる可能性は高まるでしょう。少しでも気がかりになる症状があれば受診するようにしましょう。長く様子見をしたり、愛犬に無理をさせたりしないよう注意が必要です。
- 心臓病にかかった際の余命はどのくらいになりますか?
- 心臓病にかかった際の余命は、さまざまステージや治療方法による予後によって異なるため、一概にお伝えすることはできません。余命を考えるよりも心臓外科治療により根治可能な疾患もあるため、愛犬のために治療やストレス緩和などのケアに努めることが大切です。
- 治療後の生活で気を付けたいポイントを教えてください。
- 治療後はとにかく無理をさせないようにしましょう。安静にする期間や、気を付けたいポイントは心臓病の進行具合や愛犬の状態によって異なります。獣医師と相談して、愛犬のストレスにならない選択をしてあげられるように留意してください。
編集部まとめ
今回は、犬の心臓病の症状・原因・治療法・注意したいことについて解説していきました。
心臓病は小型のシニア犬がかかりやすい病気です。徐々に進行していく病気なので、軽度でも症状がみられたら動物病院で受診することを心がけましょう。
また、心臓病を発症していても無症状で気付かないこともあります。愛犬の健康を守るためにも、衛生的な生活や健康診断を定期的に受けることを意識してみてください。
愛犬と飼い主さんが幸せな生活を送れる手助けができれば幸いです。
参考文献