愛猫が突然口を開けて苦しそうに呼吸をし始めたら、驚いて不安になりますよね。犬のように舌を出して荒い息をする姿は、猫では滅多に見られないため「もしかして命に関わる病気では?」と心配になることでしょう。この記事では、猫のパンディング(開口呼吸)について解説します。愛猫の異変に落ち着いて対応できるよう、一緒に学んでいきましょう。
猫のパンディング(開口呼吸)に関する基礎知識

まずは猫のパンディングに関する基礎的な知識から確認しましょう。
パンディングが見られるときの猫の様子
猫がパンディング(開口呼吸)をしているときには、次のような様子が見られることがあります。
- 口を開けて呼吸をする
- 呼吸が荒く速い
- 首を伸ばす姿勢をとる
- 舌の色が紫色や青紫色に変化する
- よだれや咳・くしゃみが出る
こうした口を開けて荒く呼吸しているというサイン以外にも、パンディング時にはさまざまな症状が現れることがあります。ただし、症状の出方は原因や重症度によって異なり、必ずしもすべてが同時に見られるわけではありません。とはいえ、猫が口で息をするのはまれで緊急性の高い状態です。
本来、猫は口呼吸をしない動物
猫は本来口で呼吸しない動物です。猫は普段、静かに鼻から呼吸しています。犬が暑いときや運動後に舌を出してハアハアと息をするのは一般的ですが、猫が同じように口を開けて荒い呼吸をすることは基本的にありません。たとえ運動で疲れたときや興奮したときでも、通常は鼻呼吸のまま身体を休めます。
そのため、猫が口を開けて呼吸をしているのを見たら要注意です。多くの場合は身体に何らかの異常が生じている可能性が高いです。過度の興奮状態で一時的に見られることもありますが、苦しいとき(呼吸困難)に起こることがほとんどで、その背景には呼吸器疾患や心疾患などの緊急性の高い状態が疑われます。
猫にパンディングが見られる主な原因

猫が口を開けて荒い呼吸をする原因として考えられるものには、大きく分けて以下のようなものがあります。愛猫の状況を振り返りながら、思い当たる要因がないか確認してみてください。
呼吸器疾患
鼻や喉、気管支、肺など呼吸器系の病気は、猫にパンディングを引き起こす代表的な原因です。呼吸器のどの部分に問題があるかで症状も若干異なります。
上部気道の問題
鼻や喉の奥が原因の場合、典型的なのは猫風邪(ウイルス性鼻気管炎など)による鼻炎・副鼻腔炎です。鼻腔内に分泌物がつまって両鼻がふさがるほどになると、猫は息苦しさから口で呼吸を補おうとします。この場合、呼吸数自体はそれほど著しく増えないものの、くしゃみや鼻水を伴います。
下部気道・肺の問題
気管支や肺が原因の場合、代表的なものは猫喘息や気管支炎、肺炎、さらには肺水腫や肺腫瘍などがあります。こうした疾患では、空気の通り道が炎症や分泌物・液体で狭くなり、十分な酸素を取り込めなくなるため呼吸困難に陥ります。
循環器疾患
心臓など循環器の病気も、猫がパンディング状態になる主な原因です。なかでも多いのが肥大型心筋症を代表とする心臓疾患です。心筋症では心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなるため、代償的に呼吸が速くなります。特に病状が進行して心不全に陥ると、肺の血管に高い圧がかかって血液中の水分が染み出し、肺水腫や胸水の原因となります。肺に水が溜まるとガス交換ができずに極度の酸素不足に陥るため、猫は通常の鼻呼吸では間に合わず、口を開けて呼吸を続けるようになります。これはとても危険な状態で、早急な治療が必要です。
高熱・熱中症・中毒による異常反応
発熱や高体温を伴う状態も、猫がパンディングする原因になります。また、炎天下の屋外や真夏の暑い室内に長時間いた場合、水が飲めない環境にいた場合などは要注意です。熱中症に陥った猫は、体温が著しく上昇し体内にこもった熱を逃がすために口で息をします。さらに、何らかの中毒によってパンディングが引き起こされるケースもあります。例えば、タマネギ中毒のように重度の貧血を起こす中毒では、血液の酸素運搬能力が低下するため少し動いただけで息が荒くなり、猫がふらついてほとんど動けなくなってしまいます。
極度のストレスや興奮状態
最後に、精神的なストレスや興奮によって一時的にパンディングが起こるケースについてです。猫は繊細な動物なので、緊張状態に置かれると一時的に呼吸が荒くなることがあります。特に恐怖や緊張でパニックに陥ったときや、運動で興奮しすぎたときなどに見られます。
猫のパンディングと一緒に現れやすい注意すべき症状や異変

前章で述べた原因に関連して、猫がパンディング状態のときに併発しやすい症状や異変があります。これらのサインは緊急度の判断材料にもなりますので、見逃さないようにしましょう。
よだれ・嘔吐・舌の変色などの併発症状
パンディング中の猫は、口を開けっぱなしにする影響や全身状態の悪化により、いくつかの症状を併発しやすいです。
よだれが出る
開口呼吸をしている猫は口腔内が渇きやすく、唾液のコントロールが難しくなります。その結果、口の端から唾液が垂れ落ちてよだれが見られることがあります。
嘔吐・吐き気
パンディングを起こすような状態では、しばしば吐き気を催したり実際に嘔吐することもあります。
舌や粘膜の色の変化
前述のとおり、舌が紫色~青紫色に変色している場合(チアノーゼ)は酸素不足の危険信号です。
ぐったりして動かない・声が出ないなどの行動の変化
パンディングを起こしている猫の全身状態や行動の変化にも注意が必要です。特に以下のような様子が見られるときは緊急度が高い可能性があります。
ぐったりして反応が鈍い
苦しくて呼吸ができない状態が続くと、猫はどんどん体力を消耗し、横になってぐったりしてしまうことがあります。
ふらついて歩けない
酸素不足や血圧低下により脳や筋肉に十分な血液が行かないと、猫はふらつきを起こします。
声が出ない・弱々しい
呼吸困難に陥っている猫は、鳴きたくても声を出す余裕がないことがあります。
呼吸音が荒い、早い、苦しそうなどの呼吸の異常
パンディングに至る前段階として現れる呼吸の異常にも目を向けましょう。普段と比べて以下のような呼吸状態の変化があれば要注意です。
呼吸数の増加
安静時の正常な呼吸数は猫では1分間に15~30回程度ですが、40回以上と極端に速くなっている場合は異常です。
努力呼吸(呼吸が苦しそう)
鼻だけでは息が足りず、肩で息をしていたり、お腹を波打たせて呼吸している様子は開口呼吸の前兆の可能性があります。
異常な呼吸音
「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴や、「グーグー」「ブーブー」といういびき様の音など、呼吸音に明らかな異常がある場合も重症度が高い可能性があります。
低い音でいびきをしている
猫がいびきのような低い呼吸音を立ててパンディングしている場合、気道のどこかに狭窄や閉塞があることが疑われます。これは空気が狭い通路を無理に通ろうとしている音で、重度の猫風邪や鼻咽頭ポリープ、軟口蓋の異常などで見られることがあります。
緊急性のあるパンディングの見分け方

ここまで述べたように、猫のパンディングは多くの場合何らかの異常のサインですが、すべてが命に直結する緊急事態というわけではありません。この章では、飼い主さんが知っておくべき緊急性の高いケースと、落ち着いて様子を見てもよいケースの違いを解説します。
命に関わるケースと飼い主が取るべき行動
次のような状況に当てはまる場合、猫のパンディングは命に関わる緊急ケースと考えてください。一刻も早く適切な対応を取る必要があります。
- パンディングが10分以上続いている
- チアノーゼや重度の脱力が見られる
- パンディングに加えて痙攣や意識障害がある
- 明らかな怪我や異物による窒息の可能性
飼い主が取るべき行動は、できるだけ早く猫の呼吸を楽にしてあげつつ、緊急対応してくれる病院につなぐことです。具体的には以下のような手順になります。猫のパンディングは基本的に緊急事態であると考え、少しでも様子がおかしければ迷わずすぐ受診するのが鉄則です。
猫を安静にさせる
まずは動揺する気持ちを抑え、猫がこれ以上興奮しない環境を作ります。大きな音や刺激を避け、静かで涼しい場所に猫を移しましょう。
呼吸を助ける姿勢を取らせる
猫が自然に楽な姿勢を取れるようにします。無理に仰向けにしたり押さえつけたりしないでください。
室温・換気を調整する
室内が暑かったりこもっている場合は、エアコンで室温を23~25度程度まで下げ、湿度も50%前後に保ちます。
可能なら酸素を供給する
在宅酸素療法の設備(酸素ボンベや酸素ハウスなど)をお持ちの場合は、ためらわず使用してください。
動物病院へ緊急連絡・受診
同時進行で、かかりつけ医または近隣の夜間救急病院に電話し、状況を伝えて指示を仰ぎます。
自宅で様子を見ても問題ないケース
一方で、状況によっては慎重に様子を見てもよいケースも存在します。以下に該当する場合は、ひとまず落ち着いて経過を見守りつつ、猫の状態記録やケアを行いましょう。以下のようなケースでは、命の危険はなさそうだと判断できます。しかし注意していただきたいのは、決して目を離さないことです。猫の状態が少しでも悪化したり、新たな症状が出たりしたら、病院を受診するようにしましょう。
運動や興奮直後で、短時間で落ち着いた
若い猫が激しい遊びの直後に一時的に口呼吸をしたが、数分以内に口呼吸が収まって普段どおりに戻ったような場合です。
明確なストレス要因があり、一過性だった
恐怖や緊張による過呼吸が原因と考えられます。この場合も、呼吸が通常どおりに戻り、食欲や元気が普段どおりなら過度に心配する必要はないでしょう。
鼻づまり以外に症状がなく元気がある
鼻風邪で鼻がつまったために口呼吸になっているケースでは、呼吸の仕方以外は元気で食欲もある場合があります。
猫のパンディングに対して動物病院で行われる診断と治療法

猫にパンディングが見られた場合、動物病院ではどのような診断・治療が行われるのでしょうか。ここでは、一般的な診察の流れと初期治療の内容について説明します。
問診と聴診による疑われる疾患の絞り込み
動物病院に着いたら、まず獣医師による問診と身体検査が行われます。問診では症状発症時期や状況、そのときの様子などをできるだけ正確に伝えてください。それを踏まえて獣医師は視診・触診しながら、聴診器で胸の音を確認します。また、猫の口の中を見て粘膜の色(チアノーゼの有無)を確認したり、触診で喉やお腹に痛みや腫れがないかも調べます。必要に応じて体温測定も行い、高熱がないかチェックします。
血液検査・画像検査による精査
パンディングの原因など絞り込みができたら、さらに詳しい精密検査へ進みます。一般的に行われるのは以下のような検査です。検査結果を総合して、最終的な診断が下されます。
血液検査
血液を採取して、炎症の有無や貧血の有無、脱水状態、各臓器の機能などを調べます。
画像検査(レントゲン検査・超音波検査)
胸部レントゲン検査はほぼ必須で行われます。また、心臓超音波検査(エコー)も重要です。
その他の検査
状況によっては気道内視鏡検査、CT検査などが行われることもあります。ただし猫への負担も考えて、必要最小限の検査で診断をつけるのが一般的です。
特定された疾患に合わせた初期治療
原因が判明したら、続いてそれぞれの疾患に適した初期治療が開始されます。代表的な治療法をいくつか紹介します。
- 酸素投与:呼吸が苦しい猫には、まず酸素吸入によって体内の酸素レベルを上げる処置が取られます
- 薬物療法:原因疾患に応じた薬物治療が行われます
- 液体除去・ドレナージ:胸水や気胸のように、胸腔内に余分な液体やガスが溜まって呼吸困難を起こしている場合は、胸腔穿刺やドレーン挿入によってそれらを抜去します
- 冷却・保温・輸液などの支持療法:点滴による輸液で脱水を改善しつつ、体温が下がりすぎないよう管理します
猫のパンディングが深夜~早朝に発生したときの対処法

まず大前提として、時間帯に関係なく緊急性の高い症状なら即座に行動すべきです。夜間だからといって朝まで待つのは危険です。命に関わるケースに該当するような状態であれば、深夜であってもすぐに動物病院へ連れて行ってください。また、具体的な対処法としては、基本的に緊急時の項で述べた内容と同じです。まずは猫を落ち着かせて応急処置を施し、そのうえで速やかに夜間診療可能な医療機関に連絡・受診することになります。
まとめ

口呼吸が見られた時点で手遅れとなるケースや突然死も少なくありません。ですから、愛猫がもし口を開けて荒い呼吸をしていたら大丈夫と楽観せず、早急に獣医師に相談・受診することが大切です。
日頃から猫は症状を隠しがちな動物であることを念頭に置き、普段の呼吸状態をよく観察しておくことも予防のポイントです。安静時の正常な呼吸数を把握していれば、いち早く異常に気付けるでしょう。この記事の内容が、皆さまの大切な家族である猫の健康を守る一助になれば幸いです。
参考文献