家族の一員として過ごしてきたペットが亡くなった際、深い悲しみから抜け出せなくなる飼い主さんもいるでしょう。しかし、飼い主さんが悲しむ姿を見せていると、亡くなったペットも安心して旅立つことができません。そこで大切になるのが、エンゼルケアと呼ばれるサポートです。
こちらの記事では、エンゼルケアの基本概要をお伝えしたうえで、動物病院での費用相場を解説します。
ペットのエンゼルケアの基礎知識

家族として迎え入れた大切なペットが亡くなった際、飼い主さんはとても辛く寂しい気持ちになることでしょう。それでも前向きな気持ちで生きていくためには、ペットが穏やかな気持ちで旅立てるように、お別れの機会を作ってあげることが重要です。
ここでは、ペットのエンゼルケアとはなにか、エンゼルケアを受けられる施設やタイミングを解説します。
エンゼルケアとは?
エンゼルケアとは、ペットが亡くなった後に、安らかに旅立ちを見送るための処置です。
エンゼルケアを実施する主な目的は「家族であるペットとの最後の大切な時間を共有する」「その子との思い出を振り返り、お別れを受け入れる準備をする」「生前のきれいな姿で旅立てるようにサポートする」の3つです。エンゼルケアを通して、感謝の気持ちを伝え、安心して旅立てるように心を込めて行ってあげましょう。。
エンゼルケアを受けられる施設
エンゼルケアを受けられる代表的な施設は、動物病院やペット霊園などです。動物病院では、動物医学の専門知識を持つ獣医師が在籍しているので、感染リスクや体の変化にスムーズな対応をしてもらえます。一方のペット霊園では、火葬、葬儀、納骨、供養まで一緒に対応してもらえることがあります。それぞれメリットがあるので、ペットが亡くなったときの状態やサービス内容を踏まえて、選択するようにしてください。
また、施設を利用せずに自宅でエンゼルケアをする選択肢もあります。ペットと過ごす最後の時間を、家族だけで過ごしたいと考えるのであれば、施設に頼らずに自宅でお手入れをしてあげてもよいでしょう。なお、自宅で行う場合は、感染や体の変化などの気をつけるべきこともあるので、わからないことがあればかかりつけの獣医さんに相談しましょう。
エンゼルケアはいつ行うのか
エンゼルケアは、ペットが亡くなってからできる限り早く行うことが望ましいです。呼吸や心拍が止まったことを確認したら、死後硬直が始まる前に体勢を整えてあげて、瞼が開いたままになっていれば、優しく閉じてあげます。動物病院やペット霊園でエンゼルケアを行うのであれば、すぐに連絡してお手入れの準備に入ってもらいます。
自宅でエンゼルケアをする際には、時間が経つと筋肉が解けて体液が漏れ出てしまうため、体の下にはペットシーツを敷いてお手入れしましょう。息を引き取ってから可能な限り時間を置かずに、清潔なタオルやコットンなどを使って身体をきれいにして、生前お気に入りだった毛布やベッドのうえに寝かせてあげればよいでしょう。
何よりも大切なことは、家族であるペットが安心して旅立てるよう、感謝の気持ちを込めて想いを伝え、お別れに向けて最後の時間を一緒に過ごしてあげることです。。
ペットのエンゼルケアを受ける前にすべきこと

ここでは、エンゼルケアを受ける前にするべきことを解説します。
体温、心拍、呼吸の確認
まずは、ペットが本当に息を引き取っているのかどうかのバイタルチェックが必要です。自宅で亡くなった場合は、飼い主さんがペットの状態を確認するようにしてください。失神、ショックなどで判断が難しい場合もあります。不安な場合にはすぐにかかりつけの獣医さんに連絡し相談しましょう。、ご自分で確認する場合は、目視だけで判断するのではなくて、バイタルチェックをすることが大切です。
- 体温の確認:亡くなると室温前後まで体温が下がる
- 心拍の確認:胸に顔を近づけたときにトクントクンと心臓音が聞こえてこないか
- 呼吸の確認:呼吸をしていない、顔の前に鏡を置いても鏡が曇らない
これらのバイタルチェックをしたうえで残念ながら死亡が確認されたのであれば、まずは、感謝の気持ちを言葉で伝えてあげてください。聴覚は一番最後まで残っているといわれています。後悔のないように、話しかけてあげてください。それからペットが安らかに旅立てるようにエンゼルケアの準備に取りかかりましょう。何かわからないことがあれば、、かかりつけの獣医さんに連絡して、指示を仰ぐようにしてください。
動物病院への連絡
ペットが息を引き取ったことを確認したら、かかりつけの動物病院に連絡します。すぐにエンゼルケアの対応をしてもらえる可能性が高いですが、夜間や休日などの診療時間外に死亡した場合は、注意が必要です。また、連絡したタイミングで外科手術や検査などが入っていると、すぐにエンゼルケアを行なってもらえない場合があります。
エンゼルケアの依頼をする際には、亡くなった時間、動物の種類、体重、亡くなった原因(病気、老衰など)を伝えることで、お手入れの準備がしやすくなります。
ペットのエンゼルケアで用意するもの

動物病院やペット霊園でエンゼルケアを受けるにしても、自宅でエンゼルケアを行うとしても、体をきれいに維持するために必要なものがあります。
ここでは、ペットのエンゼルケアで用意するべきものを解説します。
保冷剤・ドライアイス
ペットは亡くなってから間もなく死後硬直が始まります。普段の室温でそのままにしておくと、夏場は約1日、冬場は約1〜2日程度で腐敗が始まってしまいます。腐敗が進むと、体から悪臭を放ってしまいます。そのため、まずは冷却処置が欠かせません。
家庭用保冷剤にはハードタイプとソフトタイプの2種類がありますが、ペットの体を保護することを目的とする場合は、どちらの保冷剤でも同じだけの冷却効果があります。数時間程度で常温に戻ってしまうため、ペットの体の下に敷き詰められる量をを目安に準備しましょう。もしも保冷剤が足りないときは、ビニール袋に氷を入れても代用できます。どちらにせよ保冷剤や氷が直接体に触れてしまうと、体が濡れてしまうので、タオルなどに包んでおく対策が必要です。
保冷剤や氷が溶けるたびにこまめに取り替えることができない場合は、ドライアイスを使うことで冷却を維持できます。ただし、ドライアイスは冷却能力が高い反面、ご遺体が凍って固まってしまう恐れがあります。
タオル・ペットシーツ
体の下にはタオルやペットシーツを敷いてあげてください。亡くなってから、体の筋肉は弛緩し、さまざまな排出物が出てきてしまう可能性がある為です。このように汚れてもよいものとしてタオルやペットシーツを用意しましょう。
また、お手入れが終わった後には、生前から大切にしていた毛布やタオルで体を包んであげると、ペットが安心して旅立てます。静かに眠っているような姿に見えるので、飼い主さんも感謝の気持ちや愛情を伝えやすくなるでしょう。
棺として使える丈夫な箱
動物病院や自宅から火葬場に連れて行く際に使用する棺が必要です。エンゼルケアを行なった動物病院やペット霊園が用意してくれる場合もありますが、飼い主さんが用意する場合もあるため、依頼時に確認しておきましょう。
なお、オンラインショップではペーパーボックス、木箱、布などさまざまな素材のエンゼルボックスが販売されています。ペットの移動時に衝撃から体を守るためには、ある程度頑丈な素材が安心です。飼い主さんの好みで選ぶとよいでしょう。
ペットのエンゼルケアの具体的な流れ

ペットのエンゼルケアをする際には、適切な順序に沿って行う必要があります。お手入れの順序を間違えると体の腐敗や悪臭の原因になるからです。
ここでは、動物病院、ペット霊園、自宅で行うエンゼルケアの具体的な流れについて解説します。
医療用カテーテル類を外す
入院、自宅療養をしていたペットには、医療用のカテーテルが装着されていることがあります。ペットが息を引き取ったことを確認したら、「お疲れさま」という気持ちを込めて丁寧に取り外してあげましょう。無理に引き抜こうとすると体を傷つけてしまうので、むずかしいようであれば動物病院で取り外してもらいましょう。取り外した後は、傷が目立たなくなるように毛並みを整えたり傷口を保護したりしてあげましょう。大変な闘病生活を終えたペットも医療カテーテル類を外してあげるだけで、穏やかな気持ちで残りの時間を飼い主さんと一緒に過ごすことができるでしょう。
排泄物を処理する
動物が息を引き取ると、時間が経過するとともに筋肉が解けて、体内に残っている尿や便が漏れてくることがあります。ペットシーツを敷いてから、下腹部を軽く押してあげると、排泄物が外に出てくることがあります。むずかしい場合は、かかりつけの獣医さんに相談してみましょう。
目を閉じて固定する
犬や猫などの動物は目を開けたまま亡くなることも多いです。
死後硬直が始まる前に人差し指と親指を使って上下の瞼をくっつけるようにして数分間固定してあげると、そのまま目を閉じてくれることもあります。もしも、この方法で目を閉じなかった場合、接着剤やテープで固定したり、そのままの状態で布を被せてあげたりして臨機応変に対応しましょう。
出てくる体液を取り除く
動物が息を引き取ると、尿や便のほかにも血液や吐物などの体液が漏れてくることがあります。ペットシーツを敷いておくことで、体が体液まみれになる心配を防げます。また、鼻、口、耳、肛門など、体液が漏れている箇所をみつけたら、しばらくはコットンや布などを押し当てて吸収しましょう。
身体を清拭またはシャンプーする
動物が息を引き取った後に、排泄物や体液などで被毛が汚れてしまったのであれば、清拭またはシャンプーできれいに整えてあげます。また、亡くなる前の病気などで満足いくだけのシャンプーができなかった場合は、体臭が強くなってしまっていることもあります。軽く清拭またはシャンプーしてあげるだけで、清潔感を取り戻せることがあります。た普段のケアと同じように、声をかけながら優しく丁寧に洗ってあげましょう。
身体に詰め物をする
体内の体液をすべて取り除くことは不可能なため、口、鼻、耳、肛門などに脱脂綿、コットン、ティッシュ、ガーゼなどを詰めておくことで、体の状態を清潔に維持できます。詰め物をする際には、無理に奥まで押し込こもうとするのではなく、あくまでも外に漏れてくる体液を吸収するために、軽く詰めるようにしてください。また、定期的に詰め物を取り替えることで、悪臭や腐敗の防止につながります。
グルーミングをする
ここでのグルーミングとは、被毛を整えるためのブラッシング、爪切り、耳そうじなど全身のお手入れを意味します。生前から愛用していたブラシを使って、撫でるように毛並みを整えてあげることでペットの見た目も清潔な印象に変わります。毛玉が気になる箇所があれば、カットして整えてあげます。その他にも、爪切りや耳そうじなど、生前にやっていたお手入れをしてあげると、最期まで飼い主さんの愛情がペットに伝わることでしょう。
体を冷却する
亡くなってしまった動物の体は、時間の経過とともに腐敗や進行するので、できる限り早く被毛のケアを済ませて冷却してください。保冷剤やドライアイスを活用し、腹部・首元などの体液が溜まりやすい部分を集中的に冷やしてあげると効果的とされています。高温多湿な夏場は、腐敗が進みやすいので、冷却効果を最大限に引き出すためには、エアコンや扇風機などを使って室温を20度以下に保ち、直射日光が当たらないようにカーテンを閉めます。また、保冷剤は2〜3時間おきに交換して、常温のまま安置することがないように工夫してください。
体を棺に安置する
エンゼルケアが終わった後、棺に入れる、抱えて連れて帰る、ブランケットに包むなど飼い主さんの意向によって自宅や火葬場に連れて行く方法は異なります。移動時に体がダメージを受けないようにするためには、棺ブランケットや毛布などで包んであげると、傷つくことなく移動することができます。
動物病院でのエンゼルケア費用相場

動物病院でエンゼルケアを依頼する際には、ペットの種類、大きさ、処置の内容によって費用は大きく異なりますが、ここでは一般的な小型犬・猫、中型犬、大型犬ごとの費用相場を解説します。
小型犬・猫
小型犬・猫のエンゼルケアを動物病院に依頼する場合、費用相場は約10,000円です。清拭・グルーミングなど基本的なサービスが付いてることが多いですが、シャンプーなどのオプションをつけると、その分の費用が必要になることもあります。。
中型犬
中型犬のエンゼルケアを動物病院に依頼する場合、費用相場は約12,000円です。小型犬や猫と比べると身体が大きい分、2名以上の複数人でのお手入れが必要となれば、その分費用は高くなることもあります。また、冷却作業に必要な保冷剤やドライアイス、用意する棺の大きさなども金額が変わる1つの理由です。
大型犬
大型犬のエンゼルケアを動物病院に依頼する場合、費用相場は約15,000円です。大型犬は、身体が大きいので、お手入れをするために必要なスタッフが複数人必要な場合があります。その場合はその分費用が高くなることもあります。、。また、体重が重いので強度の高い棺、冷却作業のための保冷剤やドライアイスの量も多く必要になる為、その分費用が高くなることもあります。動物病院によっては、エンゼルケア料金に大型犬のプラス料金を設定していることがあります。。
まとめ

ペットのエンゼルケアは、飼い主さんとペットが最期の時間を穏やかな気持ちで過ごし、お別れと向き合うための大切なプロセスです。動物病院では、感染リスクや体の変化にスムーズな対応ができる環境が整っているのが特徴的です。なお、費用相場は動物病院によって大きく異なりますが、約10,000〜20,000円に設定されていることが多いです。
家族であるペットとの別れは、何事にも言い表せないほど辛く、悲しく、寂しいものです。
家族との最後の時間をゆっくりと過ごす為にも、エンゼルケアは、最後の大切なお世話です。
体は亡くなってしまっても、その子は飼い主さんの心の中で必ず生き続け、天国から見守ってくれていることでしょう。無理に忘れようとせず、ご家族でその子の話をいっぱいしてあげてください。
後悔のないように、想いを込めて、最後の瞬間まで愛情をたっぷり伝えてあげてくださいね。