動物は人間と同様に怪我や病気になり、日常生活に支障をきたすとリハビリテーションを受けます。
動物病院でのリハビリがなぜ必要なのか、どのような内容なのかがわからず、大切な動物を預けることに不安を感じる方も少なくありません。
またリハビリはどのようなことを行うのか、どのくらい費用がかかるのかなど気になることもあるでしょう。
今回は動物病院のリハビリ科がある目的や内容、メリット、料金などについて詳しくご紹介します。
動物病院のリハビリ科の基礎知識
怪我や病気などが理由でリハビリを必要とする動物は少なくありません。そのため、リハビリ科を設置する動物病院は年々増加しています。
ここでは、動物病院のリハビリ科の目的や診療内容についてご紹介します。受診を迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
リハビリ科がある目的
動物病院のリハビリ科は、怪我や病気、加齢による筋力低下などが原因でリハビリを必要とする動物に対して治療が行われます。
動物医療の進歩や飼育環境、食事の改善により、助かる命や寿命が延びる動物が増えています。
一方で、生活動作に介助が必要な場面が増え、飼い主の介護負担や精神的、経済的な負担が課題です。
そこで動物病院でリハビリテーションを展開することで、動物の回復を早めて生活の質(QOL)を向上させる取り組みが広がっています。
これまで獣医学において理学療法とは、関節を動かすことのみに注目が集まっていました。しかし、実際は関節を動かすだけではなく体幹のバランスや関節周囲の筋肉量など全身のバランスが大切です。
全身のバランスの改善を目的として、理学療法士や認定資格のある動物看護師など、動物の身体や疾患について知識が豊富なスタッフが担当してリハビリを実施します。
リハビリ科の診療内容
動物病院のリハビリテーション科では、整形外科疾患や神経外科疾患により手術を必要とする動物に対して手術前後のケアや退院後の生活動作の回復を早める目的で診療を行っています。
また手術を伴わない場合でも、痛みを緩和したり、機能を改善させたりする目的で診療を行います。
健康な動物でも、高齢な場合は筋肉量を保てるように関わったり、肥満の場合は体型を戻す取り組みをしたり予防医療も可能です。
徒手療法や運動療法、レーザーを用いた治療など、さまざまな物理療法を組み合わせて行うのが一般的です。
寝たきりの状態を可能な限り防ぐことを目指し、万が一そうなった場合でも苦痛の軽減に努めます。
動物にもリハビリが必要な理由
動物にリハビリが必要な理由は、関節や骨などに損傷が生じると、行動や姿勢が変化し生活動作に介助が必要になるためです。
生活動作に支障をきたすと、飼い主の介護負担や精神的な負担が増えて、動物の生活の質も低下します。
病気や加齢の影響により機能が低下した動物が、痛みが少ない状態で生活するためにも、リハビリは重要です。
また神経麻痺や手術後は適切なタイミングでリハビリを実施すると、回復をサポートできるので、獣医師の指示に合わせて行います。
リハビリの種類やタイミング、どの程度行うかは動物の症状や年齢、現在の機能などによります。
リハビリには飼い主の精神的・身体的なサポートが必須です。無理のない程度に、動物の症状や頑張っている気持ちに寄り添っていきましょう。
リハビリ科を受診した方がよいケース
リハビリ科の受診が推奨されるケースには、骨折や脱臼などの怪我、整形疾患による手術や痛みがある動物など、さまざまな状況があります。
また、特に病気や怪我をしていなくても、高齢な動物や肥満で運動量が減っている動物も対象です。
以下に、リハビリ受診が必要とされる症状をまとめました。
- 背中が曲がっている
- 歩くときに腰がふらついたり遅くなったりする
- つまづく
- 階段や段差が登れない
- 座るときや起き上がるときに苦労する
- 足が震える
- 椎間板ヘルニアや骨折などの整形疾患になる
- 神経疾患になる
- 加齢により寝ていることが増えた
- 肥満で思うように身体を動かせない
上記以外にも、日常生活に支障が見られる場合には、早めにお近くの動物病院へ相談しましょう。
動物病院で行うリハビリ内容
動物病院で提供されるリハビリ内容は、物理療法をはじめとする4つの主な分野に分類されます。動物病院では、さまざまな技術を組み合わせてその動物の症状に合ったリハビリを提供します。
損傷した部位を完全に治すことは難しいようですが、リハビリを行うことで痛みを緩和させ、関節や筋肉を少しでも動きやすくさせて今の生活より身体が動かしやすい日々に導いていくのです。
ここでは、それぞれのリハビリ内容について詳しくご紹介します。
物理療法
物理療法は、電気や超音波などの光線や温熱、電気などの刺激を使用し、症状を和らげる治療法です。痛みのコントロールや神経を刺激する、筋力を回復させるなどの目的で行われます。
マッサージや運動と組み合わせることで効果を発揮します。物理療法は主に以下の4種類です。
- 温度療法
- 超音波治療法
- レーザー治療法
- 電気刺激療法
温度療法は、患部を冷やしたり温めたりします。超音波治療法は、さらに深部を温める療法で、骨折や前十字靭帯断裂などの疾患に効果的です。
レーザー治療は、損傷部位に照射することで細胞を活性化させ、回復を促進させたり痛みを緩和させたりする治療法です。組織を治癒させる効果もあるため怪我をした動物にも使用できます。
電気刺激療法は、刺激により筋肉の緊張と弛緩を繰り返し筋力アップにつなげる治療法です。刺激部位の循環をよくする効果があるため、痛みの緩和にもつながります。
徒手(マッサージ)療法
マッサージ療法は、手で筋肉をやさしく触れて揉みほぐす方法で、筋肉の緊張を和らげたり、血流を促進したりする効果があります。マッサージ療法にはさまざまな方法があります。
- ストローキングマッサージ
- ニーディングマッサージ
- フリクションマッサージ
- シェイキングマッサージ
- パーカッションマッサージ
ストローキングマッサージは、身体にやさしく触りながら行うもので、身体に触られることに慣れることが目的です。
ニーディングマッサージは、揉んだり、つねったりして行う方法です。やさしく引っ張ってつまむ方法を表層マッサージといい、筋肉の緊張を和らげる効果があります。一方で筋肉までしっかりつまむ深層マッサージは、筋肉の緊張を増強させる効果があります。
フリクションマッサージは、身体を強く揉んだり、さすったりする方法です。血流やリンパの流れをよくしたり、癒着を和らげたりする目的があります。
シェイキングマッサージは、筋肉の一部または全体的に振動させる方法です。強めのマッサージを行った後のリラックスが目的です。
パーカッションマッサージは、筋肉をリズムよくたたいて行うマッサージ法で、リラックスや血流をよくする効果があります。
運動療法
運動療法は、実際に身体を動かして症状の回復を促進させる方法です。人が身体の一部を動かす他動的運動療法と人が補助しながら動かす補助的運動療法、動物自らが補助なしで動かす自動的運動療法に分けられます。
他動的運動療法では、関節の動かせる範囲をひろげる運動や、屈伸運動などが行われます。補助的運動療法は、起立訓練や歩行訓練などが主です。
自動的運動療法では、階段の昇降やジョギングなどが行われます。それぞれ損傷した原因や程度、年齢などに応じた適切な運動が行われます。
水中療法
水中療法(ハイドロセラピー)は、水の特性を活用してプールなどで行うリハビリ法です。水には、浮力や抵抗力、温熱などの特性があり、これらを活かして治療が行われます。
痛みを伴わずに筋肉のトレーニングや体幹を鍛えることが可能です。また体力や持久力を向上させるので健康な動物の予防的な運動療法としても活用されています。
動物病院のリハビリ科の診療対象
動物病院のリハビリ科では、神経学的疾患や整形学的疾患、加齢に伴う運動機能低下、健康維持などを対象とした診療を行っています。
ここでは、それぞれの疾患や目的について詳しく紹介していきます。
神経学的疾患
神経学的疾患は脳や脊髄など神経組織に何らかの異常をきたし、さまざまな症状が現れる疾患です。代表的な疾患は以下のとおりです。
- 椎間板ヘルニア
- 腫瘍
- 変性性脊髄症などの脊髄疾患
- 外傷による神経損傷
神経学的疾患では、麻痺や歩行異常、起き上がれないなど重症度に応じて多様な症状が出現します。
整形学的疾患
整形学的疾患には、骨折や脱臼、筋肉や腱の損傷、断裂などがあげられます。レントゲンを使用して明確に診断できる疾患もあれば、先天性や特発性などにより診断が難しい疾患があるのです。
飼い主さんが伝えた情報をもとに、症状を把握し、痛みの部位と支障をきたしている動作を確認します。必要時はCTやMRI、血液検査などを行います。
整形学的疾患を抱える動物は、痛みにより動くことが困難なケースも少なくありません。
自宅での生活動作をスマートフォンやビデオカメラを使用して録画しておくと、診断の役に立つのでおすすめしています。
シニアケア
医療技術や食事、栄養管理の進歩により動物の寿命が延びる傾向にあります。同時に加齢により日常生活動作に支障をきたし、介護を必要とする動物が増えているのです。
介護負担が増えると、飼い主の精神面にも支障をきたかねません。そのため、動物と飼い主の生活の質を維持するためにも、早期の対応が求められます。
リハビリテーション科では、加齢による筋炎の治療を行うことで痛みを和らげたり、筋肉を強くするための運動療法を行ったりします。
毎日一緒に生活していると気付かないことはありますが、こまめに動物の様子を観察し、必要があれば受診するようにしましょう。
健康維持や肥満
動物病院のリハビリテーション科では、特に大きな怪我や病気がなくても、健康維持やコンディショニングを目的とした診療が行われています。
また肥満の犬に対して体型維持や栄養指導を行うのです。適度な運動や健康管理を継続することで、怪我や病気の予防になります。また、スポーツをする犬のコンディショニングにもつながるのです。
動物病院のリハビリ科を受診するメリット
動物病院のリハビリ科を受診することには、主に3つのメリットがあります。病院を早期に受診することで、生活に支障をきたしている症状にいち早く対応できます。
早期発見と早期治療は治療効果を高めます。ここからはそれぞれのメリットについて詳しく紹介していきます。
専門スタッフによるリハビリを受けられる
まず一つ目は、専門スタッフによるリハビリを受けられることです。
動物に対するリハビリテーションは、獣医師や看護師以外にも日頃からスタッフとして働いている方や人に対する理学療法士の資格を持っている方が担当する場合があります。
いずれのスタッフも、動物とに精通しており、身体の仕組みや疾患に関する知識も豊富なため、安心感を持って任せられます。
オーダーメイドのリハビリを受けられる
二つ目は動物それぞれに対するオーダーメイドのリハビリテーションを受けられることです。
医師の診察のもと、変化を見落とさず、そのときの症状に応じて担当スタッフが個別のリハビリテーションプログラムを立案します。
動物の症状に応じた的確な治療を行うので、リハビリの効果がより高まります。
家庭ではできないアプローチができる
三つ目は、自宅では実施が難しいリハビリに取り組める点です。病院でのリハビリテーションは専用の機械を使ったり、専門スタッフによるリハビリが組み込まれたりするので自宅ではできないアプローチができます。
また、病院環境下では、リハビリに集中しやすく効果的な治療が可能です。
動物病院のリハビリ科での診療の流れ
動物病院のリハビリ診療は、以下の4つのステップで進行します。
- 診察で医師に症状を相談する
- 初回日を予約する
- 予約日にリハビリを実施
- 次回予約
この流れを繰り返し、目標が達成するとリハビリは修了というかたちになるのです。まずは医師がリハビリの必要性を診察で決めます。リハビリが適応になった場合は、混み具合にもよりますが当日か別日にリハビリテーション科へ向かい、プログラムの立案が可能です。
動物の年齢や症状、生活環境、今何が困っていてどうしていきたいのかを詳しく聴取しプログラムを組み立てていきます。
リハビリのプログラムが立案できれば、実際に運動やマッサージを実施します。終了次第次回の予約を取り終了という流れです。
この流れを繰り返し、目標が達成できれば卒業、達成できていなければ再度予約して必要時にプログラムを更新していきます。
動物病院のリハビリ料金の目安
動物病院のリハビリ料金は、動物の大きさや体重、実施されるプログラムによって異なります。1回のリハビリ料金の目安は以下のようになっています。
- リハビリ指導料 2,000~5,000円(税込)
- 施術料 6,000~8,000円(税込)
- 水中トレッドミル 4,000~5,000円(税込)
病院によっては、運動療法やマッサージ療法それぞれに料金が設定されていたり、すべての療法を施術料に含めていたりと、料金設定が異なります。
また大きさで値段が変わる病院が多く、大型犬が一番設定が高いようです。さらに病院特有の治療やプログラムがあるので、値段の目安は施設ごとに変わってきます。
リハビリを検討している場合は、事前に料金体系を確認することが重要です。
まとめ
本記事では、動物病院のリハビリ科についてご紹介しました。リハビリを早期に行うことは動物の苦痛を軽減し、日常生活の質(QOL)を向上させることが期待できます。
また予防医療を実施しているため、怪我や病気以外はなくても動物の身体の動きや体型、日常生活で悩みがある方は一度相談してみるとよいでしょう。
リハビリ科を受診しようと考えている方は、近隣の動物病院で提供されているプログラムが、飼育中の動物の症状に適しているのかを事前に確認することが大切です。
その際に料金や予約方法などを確認しておくことで不安を軽減し、安心感を持ってx受診の一歩を踏み出せます。
参考文献