猫は一日のおよそ半分以上を睡眠に費やす生き物です。飼い主としては「こんなに寝ていて大丈夫?」と心配になるかもしれませんが、猫の睡眠にはしっかりした理由があります。本記事では、猫の平均的な睡眠時間や長く寝る理由、季節・年齢・病気などで睡眠時間が変わる要因、病気との区別ポイント、そして動物病院への相談について解説します。
猫の1日の睡眠時間とは

猫はもともと夜行性ではなく、明け方や夕暮れに活発になる薄明薄暮性の動物です。それでも、私たちの生活リズムとは違い、日中や夜中にも長い時間眠ります。ここでは、猫が一日にどれくらい眠るのか、その平均と個体差について解説します。
平均的な猫の睡眠時間
成猫は約12~18時間眠ります。体力を温存して狩りに備える肉食動物の本能であり、動物園や家庭でもほぼこの範囲内で過ごすことが多いようです。一方、子猫や高齢猫はもっと多く眠ります。子猫は身体が小さいうえに成長ホルモンの分泌も盛んで、1日に20時間近く眠ることも珍しくありません。高齢猫は筋肉量が減って疲れやすいため、寝て過ごす時間がほとんどになることもあります。
睡眠時間が短い猫もいる?
反対に「うちの猫はあまり寝ていない」という場合もあります。興奮しやすかったり活動的だったりする猫は、眠っている時間が短めである場合もあります。おもちゃや運動で刺激を受ける機会が多い猫は、遊んでいる時間が長く、結果として睡眠時間が12時間程度と短めになることもあります。ただし、今までよく寝ていた猫が急に眠らなくなった場合は、何らかの環境変化や体調のサインかもしれないので注意が必要です。
猫がずっと寝ている理由

猫はよく眠る動物ですが、その理由には進化的・生理的な背景があります。まず前提として、猫は肉食動物であり、狩りで獲物を捕まえて食べて生きています。狩りで獲物を捕まえるには多大なエネルギーを要するため、普段から体力を温存しておく必要があります。つまり、野生では何日も獲物を得られないこともありうるため、無駄に動き回って体力を消耗せず、眠って体力を蓄えているのです。
また、家庭猫では捕食者から狙われる危険も少ないため、安心して眠る時間が長くなりがちです。食事はお皿に用意され、暖かい寝床も与えられているので、警戒心をそれほど高める必要がありません。さらに、猫は食事から得るエネルギーの大部分を睡眠によって節約するため、1回の食事で長時間の睡眠をまかなえることもあります。
猫の睡眠時間がいつもよりも長いときに考えられる原因

いつもより猫が長く寝ている場合、なにが原因でしょうか。まず、一般的に季節や年齢、体調といった要因で睡眠時間が変化することがあります。これらについて詳しく解説します。
季節による変化
冬など寒い季節になると、猫は睡眠時間を増やす傾向があります。気温が下がると猫は体温を維持するために活動量を減らし、省エネモードで過ごすようになります。その結果、冬季は睡眠時間が増加し、丸くなって身体を温めながら長時間休むようになります。一方、季節による睡眠時間の変化には個体差もあり、春のほうがよく眠るということもありますが、寒い冬に猫が丸まって寝る姿はよく見られます。
年齢による変化
猫は子猫や高齢猫ほど多く眠ります。先述のとおり、子猫は成長のためのホルモン分泌が活発で、遊び疲れてぐっすりと眠る傾向があります。ただし、活動時間が長いと、その分睡眠時間が減ってしまうこともあります。また、年を取ると筋肉量が減り疲れやすくなるため、高齢猫はより多くの睡眠時間を必要とするのです。
体調不良や病気
最後に考えられるのが体調不良や病気の可能性です。人間でも体調が悪いと長く眠りたくなるように、猫も同様に体調不良が眠りに表れることがあります。体調不良ではなくとも、例えば、手術の後やワクチン接種後、一時的にぐったりして普段より多く眠る場合があります。これは身体が回復するための自然な反応です。それでも、もし急に極端に寝る時間が増えたり、食欲や元気が同時に低下したりした場合は、病気が潜んでいる可能性があります。例えば感染症や腎臓病、肝臓病、心臓病などの慢性疾患や、痛み・疲労を伴う怪我などがあると、猫は普段よりよく眠る傾向があります。
ストレスによる睡眠時間の変化
猫は基本的によく眠る動物ですが、環境の変化などによるストレスが原因で睡眠時間が普段より長くなることもあります。例えば、引っ越しや新しいペットの迎え入れなどで生活環境が変わると、猫は緊張や不安からエネルギーを消耗しないように長く眠る傾向が見られることがあります。また、飼い主さんと遊べず運動不足になったり、構ってもらえない寂しさがストレスとなって眠りがちになることもあります。ほかにも食欲低下や過度のグルーミング(毛づくろい)、毛が抜けるといった症状とともに現れることがあります。一時的に遊び疲れてぐっすり眠っているだけなら問題ありませんが、明らかに最近急に寝てばかりいるという場合はストレスや体調不良のサインかもしれません。普段と様子が違うと感じたら、まずは生活環境や猫の心境に変化がなかったか振り返り、必要に応じてストレス緩和の対策をとってあげましょう。
猫の睡眠時間が長くなりやすい病気

猫がずっと寝ているように見える背景には、いくつかの病気が潜んでいる可能性も考えられます。身体の不調や慢性疾患によって活動量が落ち、結果的に睡眠時間が延びてしまうことがあるためです。ここでは猫の睡眠時間が長くなりやすい代表的な病気について解説します。それぞれの病気では、猫にどのような変化が現れるのか、確認してみましょう。
甲状腺機能低下症と過眠の関係
甲状腺機能低下症は、全身の代謝を高める甲状腺ホルモンの分泌量が低下する病気です。猫では発生頻度は高くありませんが、高齢猫やほかの疾患治療後にまれに見られます。甲状腺ホルモンが不足すると新陳代謝が落ち込むため、なんとなく元気がなく動きが鈍くなるほか、睡眠時間の延長、体重増加(肥満)、被毛の脱毛などの症状が見られます。
身体のエネルギー産生が低下するため、猫は常にだるそうにして長く眠りがち(過眠傾向)になるのです。食欲も低下しやすくなるため、太っているのに食べる量は少ない、といった矛盾した状態が起こることもあります。この病気自体は猫では珍しいものの、症状が進むと心臓や消化器にも負担がかかるため注意が必要です。
治療には甲状腺ホルモン剤の投与などが行われ、適切に管理することで症状の改善が期待できます。愛猫の様子が高齢でもないのに急に動かず寝てばかり・太ってきたのに食欲がないという場合、甲状腺の機能低下が隠れていないか獣医師に相談してみましょう。
心臓疾患と過眠の関係
心臓の病気も、猫を活動的でなくさせ無気力状態に見せる大きな原因の一つです。特に肥大型心筋症など猫に多い心臓病では、心臓の筋肉が分厚く肥大してポンプ機能が低下するため、全身に送り出される血液量が減ってしまいます。その結果、身体が酸素不足・エネルギー不足になり少し動いただけでも疲れやすくなり、猫は動きたがらず休む時間が増えます。
飼い主から見ると、なんとなく元気がない・あまり動かない・高い所に登らなくなったといった変化として現れます。実際に心筋症など心疾患の猫に共通する代表的な症状として、無気力(活発さの低下)や食欲低下、嘔吐、体重減少などが挙げられます。猫は不調を隠す動物なので症状に気付きにくいですが、進行すると呼吸が荒くなる、咳をする、後肢が麻痺するといった重い症状が出ることもあります。普段よりも明らかに静かで寝てばかりおり、呼んでも反応が鈍いようなら、早めに獣医師の診察を受けましょう。心臓の病気は早期発見・治療が何より重要です。
慢性腎臓病と過眠の関係
慢性腎臓病(CKD)も猫の睡眠時間を長くさせる代表的な病気です。腎臓の機能が慢性的に低下するこの病気では、老廃物の排出がうまくいかなくなるため、身体にさまざまな不調が現れます。特に腎臓病が進行してくると貧血(赤血球が減る)や高尿素血症による全身の倦怠感が強まり、猫は常に疲れているような状態になります。その結果、活動量が落ちて以前よりよく寝るようになる傾向が見られます。
例えば、水を飲む量・尿の量が増えてきた・体重が減ってきたといった腎臓病特有の症状とともに、最近なんだか寝てばかりで起きてこないという場合は要注意です。実際、腎臓の機能が大部分失われ末期になると、ほとんど一日中寝たきりになるほど衰弱するケースもあります。慢性腎臓病は高齢の猫では発症率が高く、早期には症状が出にくいぶん見逃されがちです。日頃から飲水量や尿量、寝ている時間などに気を配り、いつもより寝る時間が長い・起きていても元気がないと感じたら、早めに動物病院で検査を受けることをおすすめします。
猫がずっと寝ているときにチェックするポイント

猫の様子をよく観察することで、眠っているときでも体調の異変に気付くことができます。次のような点を確認してみてください。
いつもと違う場所で寝ていないか
いつもはリラックスして家族のそばで寝ている猫が、急に物陰に隠れるようになったり、普段と異なる場所で寝たりする場合は注意が必要です。隠れて眠っている猫は、体調が悪くて静かにしていたい・怖いことがあって避難している可能性があります。また、普段は飼い主から離れて寝る猫が、急に飼い主の近くで落ち着かずに寝ている場合も、何らかの不安や体調不良のサインかもしれません。これらの変化に気付いたら、猫の様子を細かく観察するとともに、必要に応じて動物病院に相談しましょう。
寝ている姿勢に不自然さはないか
猫の眠っている姿勢も観察ポイントです。正常な猫はまるでぬいぐるみのようにやわらかく伸びて寝ることも多いですが、横たわったままぐったりしている・常にうずくまった姿勢で寝ているなどの姿勢は要注意です。こうした姿勢は緊急性の高い病気や痛みを示すことがあり、身体を横たえられないほど呼吸に不安があったり、極度のだるさで動けない状態であったりする場合があります。また、しわくちゃに縮こまった状態で寝ているときは、関節痛や腰痛で姿勢が取れない可能性もあります。このように不自然な寝姿が続く場合は、放置せず動物病院で診てもらいましょう。
呼吸に変化はないか
寝ているときの呼吸も大切なチェック項目です。正常な猫の呼吸は鼻呼吸で、寝ているときの呼吸数は1分間に15~25回程度が目安です。安静時でも30回以上に増える場合は呼吸が速すぎると判断します。猫は通常お腹と胸が一緒に膨らむ腹式呼吸をしていますが、口を開けて呼吸をしたり、肩だけが上下したりする場合は呼吸困難の可能性があります。さらに、寝ているときにひくひくと鼻が動く、胸を大きく上下させている、あえぐような音がするなどの異常が見られたら、緊急を要する恐れがあります。深刻な呼吸の異常はすぐに獣医師の診察を受ける必要があります。
猫の睡眠時間の相談は動物病院でできる?

愛猫がいつもより長く寝ており、それ以外にも体調が悪そうな状態であれば、動物病院で獣医師に相談すると安心です。睡眠時間や寝方について不安があるときは、動物病院で相談できます。相談せずに放っておくと、さらに病状を悪化させてしまう恐れもあります。獣医師は猫の正常な睡眠パターンや健康状態を把握しており、必要に応じて身体検査や血液検査を提案してくれます。特に、最近急に眠りが増えた・いつもと違う場所・姿勢で寝ている・呼吸が荒いなど気になるサインがあれば、かかりつけの動物病院で相談しましょう。
まとめ

猫は生来よく眠る動物であり、成猫で1日12~18時間、子猫や高齢猫では20時間前後眠ることが珍しくありません。肉食動物の本能からエネルギーを節約し、活動時間に備えているためです。ただし、これまでの平均よりも極端に長く眠るようになった場合は、季節や年齢の変化のほかに病気のサインも考えられます。寒い季節や成長期などを除いて、長時間眠ったままで食事や排泄にまったく起きない場合は要注意です。睡眠時間の変化に加え、睡眠中の姿勢や呼吸、周囲での様子(寝床の場所・態度)も確認し、異常を感じたら早めに動物病院に相談してください。安心できる環境と適切なケアで、猫が健康的な睡眠を取れるように見守りましょう。
参考文献