犬のてんかんは、脳の異常な電気信号によって繰り返し起こる発作性の病気です。突然のけいれんや意識喪失に驚く飼い主さんがほとんどでしょう。
症状や前兆を理解しておくことで、冷静に対応しやすくなります。発症年齢や犬種によっても傾向があるため、日頃から注意深く観察することが重要です。本記事では、犬のてんかんの代表的な症状や発作の種類、見分け方、対処法、そして日常生活でのケアについて、わかりやすく解説します。
犬のてんかん症状

まず最初に犬のてんかんで見られる代表的な症状や発作のタイプについて理解を深めましょう。
- てんかん発作ではどのような症状が現れますか?
- 犬のてんかん発作では、突然倒れて手足を激しくけいれんさせる、意識を失う、お口からよだれや泡を吹く、排尿・排便を伴うといった全身的な症状が見られることがあります。発作中は飼い主さんの呼びかけに反応しないことが多く、数十秒から数分で自然に治まるのが一般的です。また、全身ではなく顔面のぴくつきや、一方向にぐるぐる回る行動など、身体の一部だけに異常が出る部分発作(焦点性発作)もあります。発作後には一時的にふらついたり、混乱したりする回復期があり、一時的に普段と異なる行動を取ることがあります。
- てんかん発作が起こるメカニズムを教えてください
- てんかん発作は、脳内の神経細胞が異常な電気活動を起こすことによって発生します。通常、神経細胞は一定のリズムで情報を伝達していますが、てんかんではその電気的なバランスが崩れ、一部の細胞が突然過剰に興奮することで発作が引き起こされます。これにより、けいれんや意識の喪失、異常行動などの症状が現れます。原因には遺伝的素因や脳の構造的異常、脳へのダメージ、代謝異常などがあり、明確な誘因がなく繰り返し起こるのが特徴です。発作の種類や頻度は個体差が大きく、診断には経過観察や血液検査やMRIなどの検査が欠かせません。
- てんかんを発症しやすい犬種や年齢はありますか?
- はい、てんかんの発症には遺伝的な傾向があるとされ、特定の犬種で発症例が多く報告されています。代表的な犬種には、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、シェットランド・シープドッグ、ビーグル、ボーダー・コリー、トイ・プードル、ダックスフンド、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなどが含まれます。年齢では、生後6ヶ月〜6歳頃に初めての発作が現れるケースが多く、特発性てんかんと診断されるケースが一般的です。ただし、これ以外の年齢や犬種でも発症の可能性はあるため、異常があれば早めに動物病院で相談することが大切です。
- 発作時間が長引くときに注意すべきリスクを教えてください
- 発作が5分以上続く状態は、てんかん重積と呼ばれ、極めて危険です。脳や全身への酸素供給が不足し、呼吸不全や体温上昇、心臓や肝臓などの臓器に深刻なダメージを与える可能性があります。また、けいれんによる筋肉の過度な収縮が続くことで、二次的な障害を引き起こすリスクもあります。命に関わる状態に至るリスクが高まるため、1回の発作が5分以上続いたり、短時間で発作が何度も起きたり、発作後に意識が戻らない、異常な行動が長引くといった場合には、ただちに動物病院を受診する必要があります。
犬のてんかん症状の兆候を見分けるポイント
ここでは、てんかん発作の兆候を見逃さないために注目すべき行動や変化のポイントを解説します。
- てんかん発作の前兆として現れやすい行動を教えてください
- てんかん発作の直前には、通常と異なる行動や仕草が見られることがあり、これを前兆(予兆)と呼びます。代表的な前兆には、そわそわと落ち着かなくなる、狭い場所に隠れる、飼い主さんに過剰に甘える、呼んでも反応が鈍いといった変化が挙げられます。また、遠くをじっと見つめる、意味もなく吠える、震える、身体を舐め続けるなどの行動が現れることもあります。こうしたサインは数分前から現れることが多く、発作を予測するヒントになります。発作のたびに同様の行動が繰り返されるようであれば、記録しておくことで診断の手がかりになります。
- よだれや落ち着きのなさは発作の兆候ですか?
- はい、よだれの増加や落ち着きのなさは、てんかん発作の前兆として現れる場合があります。発作直前には、不安や緊張により唾液の分泌が増え、口元から泡のようなよだれが出るケースもあります。また、意味もなくウロウロ歩き回る、狭い場所に入り込もうとする、飼い主さんに過剰にすり寄るなどの落ち着きのなさも、脳内の異常な電気活動が始まりかけているサインである可能性があります。ただし、こうした行動はほかの病気やストレス反応でも見られるため、繰り返し発作の前に現れる場合には、記録を取り、早めに獣医師に相談しておくと、対応がスムーズになります。
- てんかん症状とふらつきや失神の見分け方を教えてください
- てんかん発作とふらつき・失神は見た目が似ていることがありますが、いくつかの違いがあります。てんかん発作では、突然倒れ、けいれんや硬直、よだれ、排尿・排便を伴うことが多く、発作後にしばらく混乱やふらつきが続く回復期が見られるのが特徴です。一方、失神は心臓や循環器の異常によって一時的に脳への血流が減少し、急に崩れるように倒れますが、短時間で意識が回復し、けいれんや回復期は通常伴いません。動画で様子を記録しておくと、獣医師による判断に役立ち、正確な診断と、適切な治療方針の判断に役立ちます。
犬のてんかん症状が起きたときの対処法

ここでは、犬のてんかん発作が実際に起きたときに飼い主さんが取るべき適切な対処法について解説します。
- てんかん発作中はどのように対処するのがよいですか?
- てんかん発作中は、飼い主さんが冷静に対応し、犬を観察することが基本となります。まず、犬を無理に押さえつけたり声をかけ続けたりせず、発作中は静かに見守りましょう。家具の角や階段など、周囲の危険なものを取り除き、けがを防ぐ環境を整えることが優先です。また、発作の様子をスマートフォンなどで録画しておくと、獣医師の診断にとても役立ちます。発作は通常1〜2分以内に治まりますが、5分以上続く場合や繰り返す場合は緊急対応が必要です。お口に手を入れたり物をくわえさせたりするのは危険なため、避けてください。
- 発作時間の計測方法と記録の仕方を教えてください
- 発作が始まったら、飼い主さん自身が冷静になることが大切です。
すぐに時計やスマートフォンで時刻を確認し、発作が終わるまでの時間、すなわち、けいれんや意識の消失が始まった時点から、動きが落ち着くまでを発作時間として記録します。発作が複数回ある場合は、それぞれの発作の開始・終了時刻と間隔も記録しておきましょう。また、発作中の様子を動画で残すと、獣医師が診断するうえで大きな参考になります。さらに、発作の前兆や回復までの状態、環境や状況などもあわせて記録しておくと、診断精度の向上や、今後の治療方針の決定に役立ちます。
- お口に物を入れて舌を保護する必要はありますか?
- 犬のてんかん発作中に舌を噛まないよう、お口に物を入れる必要はありません。むしろ、これは危険な対応であり、絶対に避けてください。発作中の犬は無意識に顎を強く閉じるため、物を入れようとすると飼い主さんが指を噛まれて大けがをする恐れがあります。また、犬自身がお口に入れた物を誤飲・窒息するリスクもあるため、大変危険です。実際に犬が舌を噛んで重傷を負うことはまれであり、特別な処置は必要ありません。発作中は静かに見守ってあげましょう。誤った対処を避けるためにも、正しい知識をもとに落ち着いて対応することが大切です。
編集部まとめ
犬のてんかん発作には、飼い主さんの冷静な対応と備えが欠かせません。日頃から愛犬の様子を観察し、兆候に気付けるようになることで、発作への対応や受診の判断がしやすくなります。発作の記録や行動の整理は診断や治療に役立ち、生活の質を守ることにもつながります。てんかんは継続的なケアが必要ですが、適切な対応により多くの犬が穏やかな日常を過ごせます。飼い主さんがてんかんの正しい情報を理解し、愛犬に寄り添うことで健やかな毎日を過ごしましょう。