愛猫の前歯が抜けているのを見つけたとき、驚きや不安を感じる飼い主さんがいらっしゃいます。子猫なら生え変わりかもしれませんが、成猫の場合は歯周病や歯の吸収、腫瘍などの病気が隠れていることもあります。前歯は食べる・毛づくろい・噛むなど生活に関わる大切な歯です。放置せず、変化に気付いたタイミングで動物病院に相談することが望ましい判断です。本記事では、原因の見分け方から受診の目安、日常ケアまでをQ&A形式でわかりやすく解説します。
猫の前歯がない原因

まず、前歯がない主な原因と、受診の目安、家庭での観察と準備のポイントを整理します。
- 子猫と成猫で前歯がない原因は異なりますか?
- 子猫で前歯がない場合は、3〜6ヶ月頃の乳歯の生え変わりで自然に抜けますが、乳歯が残ったままの二枚歯や、噛み合わせの異常、遊びや転落による外傷でも抜けることがあります。
成猫では、歯周病や歯が溶ける歯頚部吸収病巣、外傷、歯の根や顎の腫瘍などが主な原因です。よだれや口臭、歯茎の赤み、出血、食べにくそうな様子、顔を触られるのを嫌がるなどの変化があれば、なるべく早く動物病院に相談しましょう。成猫の歯周病は進行すると鼻と口がつながる口鼻瘻管や顎の骨折に発展し、食欲低下の原因になることもあります。早期の受診が予防につながります。
- 猫の前歯がない原因として考えられることを教えてください
- 猫の前歯がない場合、考えられる原因はさまざまです。代表的なものとしては以下の9つがあります。
① 歯の生え変わり
② 転落や喧嘩、硬い物を噛むことによる外傷
③ 歯周病の進行
④ 歯頚部吸収病巣(歯が溶けていく病気)
⑤ 歯根の破折や慢性的な咬耗
⑥ 先天的に歯が生えてこない状態
⑦ 歯根や顎にできる腫瘍・嚢胞
⑧免疫の異常などを伴う広い範囲の口内炎
口臭やよだれ、歯茎の赤み、食べ方の変化、顔を触られるのを嫌がるといった様子が続く場合は、レントゲンなどで口腔の状態を確認することが大切です。前歯は小さく気付きにくいため、日頃からお口の中をやさしくチェックする習慣が役立ちます。
- ストレスや栄養不足が猫の歯に影響を与えることはありますか?
- ストレスや栄養の偏りは、前歯が抜ける直接の原因ではありませんが、間接的にお口の中の環境を悪化させることがあります。ストレスが続くと、食欲や免疫力が落ちて歯周病や口内炎が進みやすくなり、偏食が歯への負担につながることもあります。栄養不足では、子猫では歯の発育に影響し、成猫でも傷の治りが遅くなったり感染しやすくなったりします。やわらかい食事は歯垢がつきやすく、硬すぎる骨や角は折れる原因になります。食事量や体重の記録、水分補給、総合栄養食の維持を基本に、ケア用品はかかりつけ医に相談するとよいでしょう。生活環境の変化やトイレの問題など、ストレス要因を見直し、口臭や出血が続くときは早めに診てもらいましょう。
- 猫の前歯がない場合、もとに戻すことは難しいですか?
- 猫の永久歯は一度抜けてしまうと、基本的には自然に再生することはありません。ただし、前歯がなくても、犬歯や奥歯で食事をとることはできるため、食器の高さを調整したり、やわらかさを工夫したりすることで、食生活を続けられる場合がほとんどです。歯科インプラントや義歯は一般的ではありませんが、破折(歯が折れた状態)などで歯根が残っていれば、根管治療で残せるケースもあります。成猫で歯が抜けた場合は、残根の除去や炎症の治療、痛みのコントロールを行いながら、再発を防ぐ口腔ケアを進めます。歯磨きや定期検診、硬すぎる物を避けた食事、歯周病の予防が大切です。早めの発見と継続的なケアが、お口の健康につながります。
猫の前歯がないことによる影響
つづいて、前歯を失ったことによる愛猫の生活への影響に関して見ていきます。
- 猫の前歯がないと日常生活にどのような影響がありますか?
- 猫の前歯がないと、細かい噛み取りや毛づくろいのときにこそげ取る動きがしづらくなったり、食べこぼしなどで口周りが汚れたりする可能性はありますただし、犬歯や奥歯で噛む力は残っているため、原因の治療後は多くの猫が自然と食事に適応していきます。気になる場合は、小粒ややわらかめのフード、ふやかしたごはんを試し、浅めの食器や固定ボウル、高さの調整などで工夫しましょう。食後は口元を軽く拭いてあげ、毛玉や口臭の増加、舌が出やすい、片側で噛んでいる様子が続くときは受診の目安になります。硬いおやつや引っぱり遊びは控えめにし、お口の中の負担を減らすことが大切です。
- 前歯がない猫は、食事や毛づくろいに支障が出ますか?
- 猫の前歯がないと、食べ物を細かく噛み取ったり、毛づくろいで毛をつまんで整えたりする動きが苦手になる可能性があります。また、フードの粒を落としやすかったり、毛玉が増えやすくなったりすることも考えられます。しかし、多くの猫は工夫次第で元気に暮らせます。食事は小粒ややわらかいものを使い、ふやかしたごはんや浅めの食器、高さの調整などで食べやすさを補いましょう。毛づくろいが難しいときは、コームでの補助や水分・栄養管理の見直しが役立ちます。食後は口周りを拭き、舌が出やすい場合は乾燥を防ぐケアを。食べこぼし対策にフードマットも有効です。口臭や出血、片側で噛む様子が続くときは、原因の確認と治療をおすすめします。
動物病院での治療方法と自宅でのケア方法

最後に、受診の目安と診察・検査、治療の選択肢、帰宅後ケアと再発予防の要点を具体的にまとめて整理します。
- 猫の前歯が抜けてしまった場合、動物病院を受診すべきですか?
- 猫の前歯が抜けていることに気付いたとき、「様子を見ても大丈夫かな?」と迷うこともあるかもしれません。成猫の場合は、歯周病や外傷、歯が溶ける病気、腫瘍などが隠れている可能性もあるため、受診がおすすめです。口臭や出血、食欲や元気の低下、顔を触られるのを嫌がるなどの様子があるときは特に注意しましょう。子猫の3〜6ヶ月なら生え変わりのこともありますが、乳歯が残っている、強い臭いがある、ぐったりしている場合は相談を。抜けた歯の写真や食事量の変化、症状の経過をメモしておくと、診察時に役立ちます。早めの対応が、その子の快適な暮らしにつながります。
- 猫の前歯がない場合の動物病院での治療方法を教えてください
- 猫の前歯が抜けたときは、まず視診に加えてレントゲンや歯科用の検査で、歯根や顎の骨の状態を確認します。歯周病や歯が溶ける病気があれば、歯石除去や抜歯の処置が検討され、痛みや炎症があるときは鎮痛薬や抗菌薬が使われます。破折や強い炎症がある場合は、麻酔下での処置が必要になることもあり、持病や年齢に応じて治療方針を決めて行きます。残っている歯の根があれば取り除き、再発を防ぐために自宅での口腔ケアの方法を教えてもらえることもあります。歯をもとに戻すのは難しくても、痛みや感染を防ぐケアによって、猫は快適に過ごせるようになります。
- 前歯がない猫の食事で工夫すべき点を教えてください
- 前歯がない猫には、少しの工夫で食べやすさをサポートできます。フードは小粒ややわらかいものを選び、ふやかすことで飲み込みやすく整います。食器は浅めで滑らず、少し高さのある台を使うと首の負担を減らせます。1回量を減らして回数を増やす、水分はスープやぬるま湯で補うのも効果的です。丸飲みや片側だけで噛む様子があれば、手から少しずつ与えて様子を見ましょう。食後は口元をやさしく拭き、毛づくろいが難しい子にはコームなどで補助します。食器の下に滑り止めやフードマットを敷くと、こぼれ対策にもなります。出血や食べづらさが続くときは、かかりつけに相談してみましょう。
- 残っている歯を守るための口腔ケア方法はありますか?
- 残っている歯を守るためには、無理なく続けられるケアが大切です。まずは指にガーゼを巻いて、歯や歯茎をやさしくなでるところから始めましょう。慣れてきたら猫用のペーストを使い、指ブラシ→歯ブラシへと少しずつ移行します。奥から手前へ、片側ずつ短時間で切り上げるのがポイントです。水分をしっかり摂れるようにし、デンタル用フードやジェルは主治医に相談してみてください。口臭や出血、歯茎の腫れが続くときは診てもらいましょう。ケアが難しい日は無理せずお休みしても構いません。嫌がったときはすぐにやめて褒めて終えることで、猫の気持ちも守れます。少しずつ続けていくことが何よりの予防になります。
- ほかの歯が抜けるのを防ぐための予防策を教えてください
- ほかの歯を守るには、毎日のちょっとした積み重ねが効果的です。まずはガーゼ拭きから始めて、慣れてきたら指ブラシや歯ブラシに移行しましょう。硬い骨や引っぱり遊び、落下や衝突は避け、口周りのケガも防ぎます。水分をこまめに補い、食器は浅くて滑らないものを少し高めに設置すると、食べやすさがアップします。デンタルフードやジェルの使用は、主治医に相談してみてください。口臭や出血、食べ方の変化が見られたら早めの受診を。歯みがきが難しい日はガーゼで拭くだけでも構いません。無理せず続けることが、歯の健康を守るいちばんの近道です。
編集部まとめ
猫の前歯がなくても、原因を見極めて適切なケアをすれば、元気に過ごせることがほとんどです。見た目の変化や食べ方の違いに不安を覚えても、飼い主さんの気付きと生活の工夫が支えになります。食事や歯みがきのスタイルをその子に合わせて調整し、少しずつ快適な毎日へ近づけていきましょう。口臭や出血、食べ方の変化が気になるときは、動物病院で無理なく続けられるケア方法を相談し、愛猫の健康のために継続していきましょう。
