猫の病気は人間に感染する?病気の種類と症状、予防法について解説

猫と飼い主

猫を家族として迎える家庭が増えるなかで、「猫から人間に病気がうつることはあるの?」と疑問を持つ方も少なくないでしょう。

猫は清潔な動物として知られていますが、実は人と同じように細菌やウイルス、寄生虫などに感染する場合があります。

そして一部は、人間にも感染する人獣共通感染症と呼ばれる病気です。

長く幸せに猫との生活を楽しむためにも健康管理は大切です。

本記事では、猫から人へ感染する可能性のある代表的な病気や感染しやすい方の特徴、日常生活での予防策などを公的機関の情報をもとにわかりやすく解説します。

猫から人間に感染する人獣共通感染症とは

前足を舐めるキジシロ猫

人獣共通感染症とは、動物から人へ、あるいは逆に人から動物へ感染する病原体が原因となる病気の総称です。

厚生労働省の資料によると、人と動物との共通感染症はすべての感染症のうち約半数を占めるとされ、飼い猫や飼い犬をはじめとしたペットとの生活で無視できないテーマです。

猫を飼ううえでは、咬まれたりひっかかれたり、糞や排泄物、ノミ、ダニなどに起因して人へ感染が成立するケースが報告されています。

例えば、猫ひっかき病やトキソプラズマ症、パスツレラ症などが代表的です。

ただし、上記の病気に感染したからといって重症化するわけではなく、多くの場合は軽い症状で済んだり無症状だったりします。

とはいえ、発症した場合には人の身体に影響を及ぼす可能性もあるため、知識をもっての予防が大切です。

また持病がある方や免疫力が低下している方などは特に注意するとよいでしょう。

猫から人間に感染する主な病気

猫を抱えた獣医の上半身

人獣共通感染症とは、動物と人間のあいだでうつる病気の総称です。

厚生労働省によると、現在確認されている感染症のうち約6割が動物由来とされており、なかには猫を介して感染するものもあります。

感染経路は、主に下記3点です。

  • 猫に咬まれたりひっかかれたりした傷口から侵入
  • 猫の糞尿や唾液に含まれる病原体の経口感染
  • ノミやダニなどの外部寄生虫を介した媒介

猫自身は症状が出ないケースも多く、見た目が元気でも感染源になっていることがあります。

そのため飼い主が正しい知識を持ったうえでの対処が重要です。

感染症のリスクを正しく理解し、過剰に怖がらず、必要な予防を行うことが猫との共生で欠かせません。

猫ひっかき病

猫の爪

猫ひっかき病は、猫のノミを介して保菌されることがあるバルトネラ菌が原因となる病気です。

猫にひっかかれたり咬まれたりすることで人に感染し、典型的には近くのリンパ節が腫れ、発熱や頭痛、倦怠感を伴うことがある病気です。

東京都の人と動物との共通感染症一覧でも、猫ひっかき病が掲載されています。

一般的には自然軽快するケースが少なくありませんが、免疫力が低下している方や高齢の方、子どもでは症状が長引くこともあります。

猫との接触時にはひっかき傷、咬み傷を作らないように注意が大切です。

予防ポイントは下記3点です。

  • 猫に引っかかれたり咬まれたりしたらすぐに流水と石けんで洗う
  • 過剰なスキンシップを避ける
  • ノミ対策を行う

バルトネラ菌はノミを介して猫に感染します。ノミを媒介する感染症を防ぐためにも、定期的な予防が大切です。

特に子どもや高齢の方、免疫が低下している方はお顔周りでの接触を避けることが推奨されます。

トキソプラズマ症

トイレをする猫

トキソプラズマ症は、トキソプラズマ・ゴンディイという寄生虫が原因で、猫の糞中に排出された卵がお口から体内に入ることで感染が成立する病気です。

猫自身はほとんど無症状ですが、人では特に妊娠中に感染すると胎児に影響を及ぼすリスクがあることが知られています。

東京都の資料でも提示されています。

妊娠している方、または妊娠を予定している方は特に注意が必要です。

猫のトイレ掃除時には手袋やマスクを着用し、掃除後には手を洗うなどの対策が推奨されます。

予防ポイントは下記3点です。

  • 猫のトイレ掃除は手袋を使用して毎日行う
  • 生肉を扱う際は十分に加熱する
  • 妊婦は猫の糞便に直接触れない

トキソプラズマは猫以外にも、豚や羊などの肉にも存在するため、食生活と衛生管理の両面で注意が必要です。

重度熱性血小板減少症候群(SFTS)

重度熱性血小板減少症候群(SFTS)は、ダニを媒介とするウイルス感染症で、猫を含む動物が保有する場合があります。

人へ感染すると発熱、消化器症状、皮下出血、血小板減少などの重篤な症状を伴い、場合によっては死亡に至ることもあるため、注意が必要です。

東京都の一覧では、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)も記載されています。

屋外へ出る猫やノミ、ダニが付着している猫を飼っている場合には、特に注意し、定期的な駆除や健康チェックを行うことが重要です。

予防ポイントは下記3点です。

  • 猫が屋外に出る際はダニ除けの首輪や薬剤を活用する
  • ダニがいる季節はできるだけ屋内飼育を徹底する
  • 病気の猫に素手で触らない

SFTSは致死率が高く、2024年時点でも国内で死亡例が報告されています。特に高齢の方や基礎疾患のある方は注意しましょう。

皮膚真菌症

皮膚真菌症とは、猫の皮膚や毛、環境中にいる真菌(例:マイクロスポルム属)が人に感染して、脱毛、発赤、かゆみなどの皮膚症状を引き起こす病気です。

特に猫と密接に過ごしていたり、猫が外との接触が多かったりする場合には、皮膚に異変が現れることがあります。

東京都の資料にも、皮膚糸状菌症(皮膚真菌症)が掲載されています。

日常では、猫のブラッシングや爪切り、敷物やタオルの洗浄などをこまめに行い、真菌の繁殖を抑えるようにしましょう。

予防ポイントは下記3点です。

  • 猫のブラッシングやシャンプーを定期的に行う
  • 猫の寝床や毛布は清潔に保つ
  • 感染が疑われたら動物病院で検査を受ける

感染力が高いため、家族全員に広がる前に早期対応が重要です。

パスツレラ症

猫 噛みつき

パスツレラ症は、猫の口腔内に常在しているパスツレラ菌が原因となり、咬まれた傷口から菌が侵入し人に感染する場合があります。

人では傷口の腫れ、痛み、発熱などが現れることもあり、場合によっては蜂窩織炎や肺炎に進行する可能性もある病気です。

東京都の一覧にも記載があります。

猫と触れ合った後に、傷がある場合は速やかに流水と石けんで洗浄し、消毒、清潔を保つことが感染リスクを下げるポイントです。

予防ポイントは下記5点です。

  • 水と石けんで洗浄しアルコール消毒を行う
  • 傷口が深い場合は医療機関で抗生物質の投与を受ける
  • 爪をこまめに切る
  • 過度なじゃれつきを避ける
  • 猫のお口周辺への接触を控える

軽い傷でも感染する可能性があるため、猫との接触後のケアを怠らないことが大切です。

カンピロバクター感染症

猫用トイレの猫砂を掃除するアジア人女性

カンピロバクター菌は猫の糞便から人へ感染する経路があるとされ、胃腸炎を引き起こす原因となる菌です。

東京都の人と動物との共通感染症一覧には、サルモネラやカンピロバクターなどの腸管系の感染症が記載されています。

特に猫が外出自由で、糞便を片付けない環境ではリスクが高まるため、猫のトイレ掃除をこまめに行うことで予防できます。

予防ポイントは下記4点です。

  • トイレ掃除は手袋を使用し手洗いと消毒を行う
  • トイレ以外の場所で排泄した場合は速やかに洗浄消毒する
  • 生肉や未殺菌乳製品の摂取を避ける
  • ペットの糞を処理した後すぐに手を洗う習慣をつける

衛生管理を意識することで、日常生活のなかでも感染リスクを大幅に減らすことができます。

サルモネラ症

サルモネラ菌は猫、犬、鳥類の糞便や汚染された食物から人へ感染し、発熱、腹痛、下痢、嘔吐などの胃腸症状が出る菌です。

東京都の資料にもサルモネラ症が掲載されています。

特に猫に生肉を与えていたり、糞便処理が不十分だったりする場合は、飼い主自身の手洗いとペットの食事管理を徹底することが重要です。

予防ポイントは下記4点です。

  • 排泄物や吐しゃ物の処理時は手袋を着用する
  • 生肉や卵を与えない
  • トイレ掃除や猫の世話の後は石けんで手洗いする
  • 台所周りで猫を遊ばせず衛生エリアを分ける

サルモネラ菌は加熱で死滅するので、危険性のあるものは加熱して与えるとよいでしょう。

家庭内での衛生意識を高めることが、サルモネラ感染を防ぐ有力な方法です。

感染に気を付けたほうがよい人の特徴

キャリーバッグに猫を入れる女性

すべての人が猫から感染症にかかるわけではありませんが、以下のような条件に当てはまる方は、感染リスクがやや高まると考えられます。

ご自身やご家族が該当する場合は特に予防を意識しましょう。

子どもや高齢の方

幼い子どもや高齢の方は免疫機能が安定していなかったり、低下していたりするため、猫からの感染症が症状として現れやすい傾向があります。

例えばひっかき傷による猫ひっかき病で、リンパ節の腫れや発熱が長引くこともあります。

日常の接触時には、爪や爪の間、毛の間などに目を配ることが重要です。

妊娠中の方

妊娠中の方は、特にトキソプラズマ症に対する注意が必要です。

妊娠初期に感染すると胎盤を通して胎児に感染する可能性があります。

妊婦自身が猫のトイレ掃除を控え、どうしても行う場合は糞便に触れないよう手袋とマスクを使用するなどの対策が勧められます。

猫の健康状態を定期的にチェックし、異変があれば獣医師へ相談も大切です。

免疫が低下している方

体内で抗体を作る機能が低下している方(糖尿病、がん治療中、ステロイド使用中など)は、通常では無症状で済む人獣共通感染症でも重篤化するリスクがあります。

猫を飼っている場合は、定期的に動物病院で健康チェックを受けるとよいでしょう。

日常でできる感染予防

猫

猫と快適に暮らすためには、日常的な予防が何よりも重要です。

以下の対策を習慣化し、ご自身や家族の健康を守りましょう。

猫のトイレ掃除はこまめに行う

猫の排泄物には病原体が含まれる可能性があります。

特に屋外から戻った猫の場合や糞便が乾燥して飛散しやすい状況では衛生リスクが増します。

糞便や尿を見つけたら速やかに処理し、トイレ後には手洗いを忘れずに行いましょう。

猫と過度なスキンシップを控える

猫とお顔を近づける、口移しでエサを与える、ベッドで一緒に寝るなど、親密すぎる接触が人と動物間での病原体伝播リスクを高める可能性があります。

東京都の資料では、動物のお口の中や爪に細菌、ウイルスなどがいる場合があると明記されています。

もちろんスキンシップ自体を否定するものではなく、適切な距離と衛生管理が鍵です。

手洗いを習慣にする

猫を触った後、トイレ掃除の後、食事の前には石けんと流水での手洗いを徹底しましょう。

外から戻った猫を撫でた後や、猫の寝床、敷物に触れた後も同様です。

動物との暮らしを快適なものにする基本中の基本です。

外に出る猫は特に注意してケアする

自由に屋外を出入りする猫は、ノミ、ダニ、汚染物質、ほかの動物からの病原体を持ち帰るリスクが高まります。

室内飼育を基本とする、屋外に出るならノミやダニ駆除を定期的に実施する、帰宅後の足ふきや爪チェックを行うなどの工夫が有効です。

また、外猫と家猫を同時に飼う場合は、食器、トイレ、寝床を分けることで病原体の拡散を防げます。

動物病院を受診すべき猫の症状

動物病院で獣医師に診察を受ける猫と女性

人体への感染を防ぐためにも、猫自身の健康管理を怠らないことが重要です。

以下のような症状が見られたら、早めに獣医師を受診しましょう。

下痢や嘔吐、食欲不振

猫が下痢、嘔吐、食欲不振などを示す場合、消化器系の病気や寄生虫、細菌、ウイルス感染の可能性があります。

放置するとほかの症状へ波及する場合もあるため、受診を検討してはどうでしょうか。

皮膚のかゆみ、脱毛

猫の皮膚が赤くなったりかゆがったり、脱毛があったりする場合は皮膚糸状菌症やノミやダニの感染、アレルギー性皮膚炎が疑われます。

感染を防ぐためにも早期の診断と治療が重要です。

特に円形の脱毛やかゆみが見られる場合は、すぐに受診をおすすめします。

咳やくしゃみ、呼吸が荒い

呼吸器系の異常(咳やくしゃみ、呼吸が速い、荒いなど)が出た場合、猫が感染症に罹っている可能性があります。

猫自身の診察と同時に、飼い主も手洗いや接触後の衛生管理を心がけましょう。

涙や目やにが増えた

猫の眼がうるうるして目やにが多かったり、まぶたが腫れていたりする場合、結膜炎や眼の感染症の可能性があります。

人への伝染の可能性をゼロにはできないため、早めに動物病院への相談が推奨されます。

まとめ

獣医と猫

猫との暮らしは、癒やしや楽しみを与えてくれますが、同時に猫から人へうつるかもしれない病気との観点を持つことも大切です。

人獣共通感染症の枠組みを理解すれば、過剰に不安になる必要はありませんが、日常的な予防と衛生管理は欠かせません。

子ども、高齢の方、妊娠中の方、免疫が低下している方と猫が暮らす場合には、特に注意を払う必要があります。

また、トイレ掃除や手洗い、スキンシップ、屋外の出入りなどにも配慮しましょう。

猫自身が異変を示した場合には、飼い主として早期に動物病院を受診させることが、人と動物双方の健康を守る鍵です。

猫と長く健康に暮らしていくためには、猫の健康だけでなくご自身とご家族の体調管理も重要です。

正しい情報を知り、適切な行動を選んでいきましょう。

参考文献