犬の心臓病は、進行度によって症状や治療方針が大きく変わる病気です。
特に高齢犬で多くみられる僧帽弁閉鎖不全症は、見た目ではわかりにくい初期段階があり、飼い主が早期に気付くのが難しいこともあるでしょう。
小さな変化が、心臓病のサインである場合もあります。本記事ではステージ分類をもとに、症状と治療方針の違いを専門的な視点からわかりやすく解説します。
大切な愛犬のために、判断材料を得たい飼い主の方へ向けた内容です。
犬の心臓病の種類

犬の心臓病にはいくつかの主要な種類があり、それぞれ原因や病態が異なります。
まず一般的なのが弁膜の異常による僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)で、心臓内の弁が正しく閉じなくなり血液が逆流する病気です。これは小型犬や高齢犬で頻度が高いタイプです。
次に挙げられるのが心臓の筋肉そのものの機能が低下する心筋症で、拡張型などのタイプがあり、大型犬でみられることがあります。
また、フィラリア症は蚊を介して線虫が心臓や肺動脈に寄生し循環機能を損なう感染症で、放置すると重篤な心不全に進展することがあります。
加えて、先天性心疾患として生まれつき心臓構造に異常がある動脈管開存症もあり、幼齢期から影響が出ることがあるでしょう。
これらを把握することは、適切な検査や治療につながる基礎知識です。
犬の心臓病のステージ分類とは

犬の心臓病は、症状の出方や心臓への負担が一定の順序で進むため、段階を示すステージ分類が用いられています。
この分類は病気の進行度を客観的に把握するための基準で、治療の必要性や介入のタイミングを判断する重要な指標です。
特に僧帽弁閉鎖不全症など進行性の疾患では、ステージを明確にすることで、今の状態に合った管理や治療が選びやすくなります。
ここからは心臓病がどのように進行していくのか、その背景とステージ分類が果たす役割について解説します。
心臓病は段階ごとに進行する病気
犬の心臓病は、単発の病気ではなく進行性の病態です。
例えば心雑音が聴取されても運動や日常生活に支障がない段階から血液の逆流や心臓の拡大、肺水腫を伴う重度の心不全に至るまで、段階的に病態が変化します。
このような段階ごとの変化と対応が、犬の心臓病を管理するうえで重要な視点です。
ステージ分類が重要な理由
犬の心臓病では、病態の進行度合いに応じて適切な治療内容や管理方法が変わるため、明確なステージ分類が治療方針の根拠として重要です。
具体的には、無症状期と心拡大期では治療介入の有無が異なり、心不全期では薬物療法が必須とされます。
このようにステージを明確にすることで治療開始のタイミングや薬剤選択、経過観察計画が科学的に立案でき、治療効果や生活の質向上につながります。
犬の心臓病で多く用いられるステージ分類

犬の心臓病、特に発症頻度が高い僧帽弁閉鎖不全症では、病気の進行度を客観的に判断するためにステージ分類が用いられます。
この分類は、症状の有無や心臓の構造変化を基準に段階を分ける仕組みで、治療開始のタイミングや管理プランを決めるうえで欠かせません。
ステージAからDまで順序立てて整理されており、無症状のリスク段階から心不全を発症している状態まで一貫した基準で評価できます。
これにより見落としの防止や早期介入、さらに適切な生活管理につなげやすくなります。
主に僧帽弁閉鎖不全症で使われる分類

犬の僧帽弁閉鎖不全症で用いられるステージ分類は、病気の進行度に応じてAからDの段階に分ける体系で、特に臨床的評価や治療方針の決定にあたって重要視されます。
これは病態の重さや心不全の臨床症状の有無という評価軸に基づき整理されたものであり、犬の心臓病を体系的に理解するための基準です。
具体的には、リスクのある状態から治療への反応性といった進行段階を区別することで犬の状態に応じた管理や治療戦略が立てられるよう設計されています。
ステージA
ステージAとは、現時点で心臓に構造的な異常がみられないものの、将来的に僧帽弁閉鎖不全症を発症しやすい段階です。
心臓の形や弁の状態には問題が確認されず、雑音や咳などの症状も出ていませんが、発症リスクが高い犬種が対象に含まれます。
この段階では病気として扱われるわけではなく、治療の必要もありません。
ただし発症しやすい犬であることを前提に、日常的な観察や定期的な健康チェックが推奨される位置づけです。
ステージB1、B2

ステージB1とB2は、僧帽弁閉鎖不全症における構造的な心疾患があるものの、心不全症状がまだ出ていない段階を示します。
B1は、心エコーやレントゲンなどで確認される心拡大が基準値内に収まっている段階であり、ほとんどの場合は無症状です。そのため、経過観察が中心となります。
一方でB2は僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)による僧帽弁逆流が進行し、心臓の左心房や左心室の拡大が検査で確認されるものの、症状は出ていない段階です。ここからは治療開始の検討が重要です。
ステージC
ステージCは、僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)において、心不全症状が現れた段階を示す重要な区分です。
これはACVIMが示す分類で、心臓の弁の逆流と心臓構造の変化が進行し、肺に水が溜まる肺水腫などの心不全徴候が出現する状態を含みます。
肺水腫が発生すると呼吸困難や頻呼吸、運動不耐性などの症状が生じるため、標準的な心不全治療が必要です。
ステージCと判定されるのはこれらの症状が現在あるいは過去に認められ、心不全に対する治療が適用される状態であり、症状が改善しても引き続きこのステージとして扱われます。
ステージD
心臓病のステージDは、僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)における進行した心不全の段階です。
この段階では、心不全に対する標準的な治療に十分に反応しない、もしくは持続的に臨床症状が見られる状態が特徴です。
標準治療とは利尿薬や強心薬などを用いた治療を指し、これらを適切に実施しても呼吸困難や倦怠感などのうっ血性心不全の症状が改善しない、再発を繰り返す場合にステージDと評価されます。
治療の強化や緩和ケア、外科的選択肢の検討など通常の治療戦略からの転換が必要な段階です。
ステージごとに見られやすい症状

犬の心臓病は、進行度によって現れやすい症状が変化します。初期の段階では外見上ほとんど変化がなく、気付きにくいサインも含まれるため、飼い主が異常を見逃してしまうことがあります。
しかし進行すると、呼吸や活動量にわかりやすい変化が生じ、さらに悪化すれば命に関わる状態に至る可能性もあるでしょう。
重症化を防ぐには、各ステージで起こりやすい変化を理解し、早期の受診や治療につなげることが重要です。
飼い主が段階的な症状を把握しておくことで状態の悪化をより早く察知でき、適切な対応がしやすくなります。
初期段階で気づきにくいサイン
犬の心臓病で初期段階の場合では明確な症状が出ず、血液循環の能力が低下し始めても見た目には変化が乏しいことがあります。
高齢犬で発症しやすい僧帽弁閉鎖不全症や心筋症では、明らかな呼吸困難や咳といった顕著な徴候が出現する前に運動を嫌がったり、以前より静かに過ごす時間が増えたりといった微妙な行動の変化が見られます。
こうした初期の変化はほかの加齢性の変化と区別がつきにくいため、定期的な健康診断や聴診での心雑音の評価が早期発見につながるでしょう。
進行に伴って現れる症状

犬の心臓病が進行すると、心臓のポンプ機能低下や血液循環の障害が徐々に強くなり、体全体へ十分な酸素と栄養を供給できなくなります。
このため、軽度の進行期では運動時の息切れや疲れやすさや呼吸数の増加など安静時以外での呼吸や行動の変化がみられる傾向です。
これらの症状は、病状が進むにつれて心臓の負担が増し、肺水腫や心不全の臨床徴候が明確になることで飼い主や獣医師による観察で発見されやすくなります。
緊急受診が必要な症状
犬の心臓病が進行し心不全や肺水腫が発生すると、命に関わる緊急状態になる可能性があります。例えば、呼吸が速くなったり苦しそうになったりするなどが症状として現れます。
これらは心臓の機能低下に伴って肺への血液うっ滞や全身への血流不全が進行するため、酸素供給が不足した結果として生じる症状です。
これらは飼い主が観察できる徴候のひとつであり、緊急受診が必要な目安です。
心臓病のステージ別の治療方針

心臓病の治療方針は、症状の進行度や心臓機能の低下具合によって大きく変わります。
初期段階では、まだ生活に大きな支障が出ていないため、状態の推移を慎重に観察しながら必要な検査を行う姿勢が重視されます。
一方で、心臓に負担がかかり始める段階になると、進行を遅らせるための投薬治療が選択されることが多くなるでしょう。
さらに病状が進み、呼吸状態の悪化や循環不全が疑われる段階では早期の措置が求められるため、入院管理や酸素吸入などの集中治療が必要となるケースが増えます。
ステージによって治療の目的と方法が変わるため、各段階で適切な対応を把握しておくことが重要です。
経過観察が中心となるケース
犬の心臓病では症状がまだ出現していない段階や病態の進行が緩やかな場合、積極的な薬物治療を行わず、定期的な検査と観察を中心に管理するケースがあります。
こうした観察中心の管理は症状が明確になる以前の状態を正確に把握し、進行の早期兆候を逃さないために重要です。
投薬治療が始まるタイミング

犬の心臓病に対する投薬治療は、無症状期の経過観察から一歩進んだ病態に移行した段階で開始されるのが臨床の基本的な流れです。
こうしたタイミングで治療を開始することにより、心負荷の軽減や症状悪化の予防につなげることが狙いです。治療開始の判断は、複数の検査所見と臨床評価の総合的判断によって行われます。
具体的な治療の選択肢としては、心臓負荷を軽減するACE阻害薬、心筋収縮を支える強心薬、体液貯留を改善する利尿薬などが内科管理の中心として挙げられています。
これらの薬剤は、病態や症状の程度に応じて組み合わせて使用することが専門書でも紹介されており、治療効果のモニタリングと副作用管理を行いつつ調整されます。
入院や集中治療が必要になる場合
犬の心臓病が進行し入院や集中治療が必要になる場合とは、家庭での内科管理や通常の投薬だけでは対応できない重篤な状態に陥ったケースを指します。
特に重度の心不全や肺水腫のような急性症状が出現すると、呼吸困難や循環不全が進行し、専門的な治療環境での管理が不可欠です。
肺水腫は心臓のポンプ機能低下により肺に水分がたまって呼吸が困難になる状態で、迅速な対応が求められる重篤な合併症として臨床で認識されています。
肺水腫を発症した犬は、家庭でのケアでは改善が困難なことがほとんどで酸素吸入、静脈点滴による利尿薬の投与や全身のモニタリングなどを行うために入院管理や集中治療が必要とされます。
こうした集中治療は、循環器の専門的ケアが可能な医療施設で行われ、症状が落ち着くまで継続的に処置とモニタリングを行うことが重要です。
重篤な呼吸や循環症状を放置すると予後不良となるリスクが高いため、これらの兆候が現れた時点で獣医師が入院治療の適応を判断します。
心臓病を持つ犬と暮らすうえでの注意点

心臓病を持つ犬と暮らす際は、日常生活のすべてが心臓への負担に影響するという前提を理解することが重要です。
そのため生活環境を整えつつ、体調の小さな変化に気付ける観察力が欠かせません。ここからは運動の調整や食事管理、定期受診の重要性について解説します。
運動や生活環境の調整
心臓病を持つ犬は、過度な運動や極端な環境変化が心臓への負担を増大させるリスクがあるため、日常生活における運動や環境の調整が基本的なケアとして重要です。
こうした環境調整は、心疾患を悪化させる要因を減らし、治療効果を高める日常ケアとして位置づけられています。
食事管理のポイント

犬の心臓病、特に心不全を併発した状態では、食事内容が循環器の負担や全身栄養状態に影響します。
心不全が進行した犬は塩分が過剰であると体内の水分貯留や循環負担が増す可能性があるため、全体のナトリウム摂取量を把握し、獣医師と相談しながら適正範囲を目指すことが大切です。
また体重管理は食事の基本管理の一つで、このため、食事の総カロリーや栄養バランスなどを必要に応じて食事内容で調整する姿勢が重要です。
日常での体調チェック方法
日々の変化を具体的な数値や観察項目で記録しておくことも、病状管理として大切です。
普段から、散歩を嫌がったり疲れやすかったりする、食欲がなくなるなどの体の変化がないか、継続的に観察することが重要です。
定期的な受診と健康診断の重要性
犬の心臓病は進行性であり、見た目の症状が軽くても内部では負担が大きくなっていることがあるため、定期的な検査による進行度の把握が大切です。
また薬物治療中の犬は、腎機能や電解質バランスを確認する血液検査も重要です。
特に利尿薬やACE阻害薬を使用している場合、腎臓の値やカリウム濃度の変化を定期的に確認することが治療の安全性に直接関わります。
進行度が安定しているケースでも、症状が変化する前に治療の調整が必要になるため、定期的な受診が病気の悪化防止につながります。
飼い主が症状を把握しづらい段階でも、検査によって心臓の負担増大が早期に発見できるため、重症化リスクを下げられるでしょう。
まとめ

心臓病は、進行に伴って症状や必要なケアが変わるためステージごとの特徴を理解し、適切なタイミングで治療方針を見直すことが大切です。
日常生活では運動量や体調チェックを丁寧に行い、わずかな変化も放置しない姿勢が犬の負担を軽減します。
さらに定期的な受診や検査を続けることで、症状が表れる前の段階で悪化を防ぐ手立てが取れます。
正しい知識と早期の対応が、犬の生活の質を守る方法です。気になる症状や生活面の悩みがある方は、獣医師に相談してみましょう。
参考文献

