愛犬の健康を考える際に見落としがちなのが肛門腺のケアです。肛門腺に分泌物が溜まりすぎると、不快なニオイがしたり、炎症や破裂したりと、トラブルを引き起こす可能性があります。
本記事では動物病院での肛門腺絞りについて以下の点を中心にご紹介します。
- 肛門腺絞りについて
- 肛門腺絞りに気をつけたい犬猫について
- 動物病院で肛門腺絞りを行う前に知っておきたいこと
動物病院での肛門腺絞りについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
肛門腺絞りについて

肛門腺絞りについて以下で詳しく解説します。
肛門腺とは
肛門腺とは、犬や猫の肛門のすぐ近くにあり、左右それぞれのやや下あたり(時計でいうと4時と8時の位置)にある小さな袋状の器官のことを指します。この器官は肛門嚢(こうもんのう)とも呼ばれており、内部には独特な強い臭いのある分泌液がたまります。
この分泌液は、排便時に便と一緒に自然に排出されますが、体質や体調によってうまく排出されずに溜まってしまうこともあります。また、ニオイにはマーキングの役割があり、犬同士がおしりのニオイを嗅ぎ合う行動は、肛門腺の分泌物から相手の情報を確認していると考えられています。
肛門腺絞りが必要な理由
肛門腺絞りは、すべての犬や猫に必要というわけではありませんが、特定の条件や症状がある場合には重要なケアになります。
本来、肛門腺にたまった分泌液は排便時に自然と排出されます。しかし、犬種や年齢、体格、体調などによってはうまく出せないことがあり、溜まったままになると炎症や感染を引き起こすことがあります。
以下のような症状がみられる場合は、肛門腺にトラブルを抱えている可能性があります。
- お尻を床にこすりつける
- 肛門まわりをしきりに舐めて気にする
- お尻の周辺に腫れや赤みや出血、臭いがある
- 落ち着きがなく、動き方や座り方がぎこちない
これらのサインがある場合、肛門腺に分泌液が過剰にたまっていたり、炎症を起こしたりしている可能性があるため、早めにケアを行うことが大切です。放置すると肛門腺炎や、肛門腺破裂という痛みを伴う病気につながることもあります。
肛門腺に分泌物が溜まるとどうなるのか
肛門腺に分泌物が溜まりすぎると、さまざまな不調を引き起こすことがあります。肛門腺液は排便時や強い興奮を感じたときに自然と排出されますが、体質や犬種、体型によってはうまく出せないケースもあります。分泌物がペースト状で粘度がある場合、自力で排出できずに溜まりやすくなります。
分泌液が溜まり続けると、犬は肛門まわりに違和感を覚えるため、床にお尻を擦りつける行動をとることがあります。さらにそのまま放置すると、肛門周囲の皮膚に炎症が起きたり、感染が進行して化膿する肛門嚢炎を引き起こすことがあります。さらに悪化すると、肛門の皮膚が破れて膿や血が出てしまう肛門嚢破裂(こうもんのうはれつ)に至るケースもあります。
こうした症状は強い痛みを伴い、排便が困難になったり、お尻を触られるのを嫌がったりと、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。一度痛みを経験した犬は、肛門周りのケア自体を怖がってしまうこともあるため、早めの対処が重要です。
肛門腺絞りに気をつけたい犬猫について

肛門腺絞りに気をつけたい犬猫について以下で詳しく解説します。
肛門腺絞りが特に必要な犬種
すべての犬に肛門腺絞りが必要なわけではありませんが、犬種や体質によっては分泌物がたまりやすい傾向があります。注意が必要なのは、しっぽが短い犬種や肛門腺の排出がうまくいかない体質の犬、構造的に絞りにくい特徴を持つ犬たちです。
まず、小型犬であるチワワやトイ・プードルは、肛門周囲の筋肉が弱く、自然に分泌物を排出しにくいことがあります。シーズーやコッカースパニエル、ビーグルなども、体質や皮膚の構造から肛門腺が詰まりやすい犬種とされています。
また、ダックスフンドやラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバーなども、分泌物がたまりやすくなる傾向があり、定期的なケアがおすすめです。
そして、高齢犬や肥満気味の犬、運動不足の犬も、筋力の低下や脂肪の影響で分泌物が排出されにくくなるため、注意が必要です。犬種に関係なく、しっぽが短い肛門腺に炎症の既往がある犬もたまりやすいため、状態に応じたケアが求められます。
猫に肛門腺絞りは必要?
排便時に分泌物が自然に排出されるため、健康な状態であれば飼い主が意識的に肛門腺を絞る必要はありません。
しかし何らかの原因で、分泌物がうまく排出されなくなると、次第に粘り気が増してさらに排出が困難になることがあります。こうして分泌物が肛門嚢内に滞留すると、細菌の繁殖や排出口の閉鎖などにより炎症を起こし、肛門嚢炎(こうもんのうえん)に発展することがあります。炎症が悪化すると、痛みや出血、さらに皮膚が破れてしまうなどの深刻な状態に至ることもあります。
猫が肛門をしきりに舐めたり、臭いが強くなったり、排便時に違和感を示したりする場合は、肛門腺のトラブルが疑われます。犬とは異なり、猫はお尻を床に擦り付けるような「お尻歩き」の行動をあまり見せないため、異変に気付くには注意が必要です。
基本的には猫に肛門腺絞りは不要ですが、一度肛門嚢炎を発症した場合は、動物病院で定期的なケアが必要になることもあります。異変を感じたら、早めに獣医師に相談しましょう。
動物病院での肛門腺絞り

動物病院での肛門腺絞りについて以下で詳しく解説します。
動物病院での肛門腺絞りが必要なとき
愛犬や愛猫が普段と違い、おしりを気にするしぐさを見せたときは、肛門腺に異常があるサインかもしれません。もしも違和感や炎症がある場合、放置してしまうと状態が悪化してしまうことがあります。そのため、必要に応じて動物病院での肛門腺ケアを受けましょう。
例えば、お尻を床に擦り付けて歩くような動きは、かゆみや不快感を訴えている可能性があります。また、自身でお尻を舐めたり噛んだりする行動も、何らかの違和感が原因かもしれません。人やほかの動物がお尻を触ろうとしたときに嫌がったり怒ったりする場合も、炎症や痛みがあるサインです。
さらに、排便時に苦しそうにしていたり、肛門周囲に赤みや腫れ、出血が見られたりする場合は注意が必要です。高齢のペットや、肛門腺が詰まりやすいとされる小型犬、肥満傾向のある犬などは、自力で分泌物を排出しづらく、トラブルが起きやすい傾向にあります。
また、稀に寄生虫による感染が原因で肛門付近に違和感を覚えているケースもあるため、便の状態も確認しましょう。白い粒や異物のようなものが混ざっている場合は、動物病院での検便をおすすめします。
動物病院での肛門腺絞りの方法
肛門腺にたまった分泌物をそのままにしておくと、炎症や化膿、ひどい場合には破裂を引き起こすことがあります。動物病院では、愛犬・愛猫の肛門腺の状態に応じて、以下のような処置を行います。
まず、肛門周りの観察から始まります。腫れや赤み、分泌物の溜まり具合を視診や触診によって確認し、状態を把握します。
そのうえで、必要に応じて内側からの肛門腺絞りを行います。これは獣医師が担当し、手袋を装着したうえで指を肛門内に入れ、親指と人差し指で袋状の腺を挟むように圧をかけて分泌物を排出します。重度の炎症や詰まりがある場合には、この方法がおすすめです。処置後は肛門まわりを洗浄・消毒し、炎症があれば抗生剤の投与も行われます。
一方で、状態が軽い場合は外側からの肛門腺絞りで対応します。この処置はトリマーや動物看護師が担当することもあり、肛門の左右を指で軽く挟み、分泌液を外に押し出します。
なお、自宅でケアをすることも可能とされていますが、強く押しすぎると腺や周囲の組織を傷つける危険があります。自宅で行う場合は、事前に動物病院で正しい方法を教わるようにしましょう。
肛門腺のケアは、動物たちの健康を守る大切なお手入れのひとつです。気になる症状があれば、早めに動物病院を受診することをおすすめします。
動物病院で肛門腺絞りを行う前に知っておきたいこと

動物病院で肛門腺絞りを行う前に知っておきたいことを以下で詳しく解説します。
動物病院での肛門腺絞りの料金相場
肛門腺の分泌液がたまっていないか不安な場合は、診察のついでに肛門腺の状態を確認してもらうとよいでしょう。実際に絞る必要があるかどうかもその場で判断してもらえます。
肛門腺絞りの費用は、500円前後で対応している動物病院が多いようです。なかには診察の一環として無料で行ってくれる施設もありますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
また、ペットサロンでもトリミングのオプションとして提供されており、500円前後で依頼できるケースが多いとされています。サロンによってはメニュー表に明記されていることもあるため、予約時に確認しておくのがおすすめです。
いずれにしても、行きつけの病院やサロンに事前に電話などで問い合わせ、料金や対応の可否を確認しておくとよいです。定期的なケアを習慣づけることで、肛門腺のトラブルを未然に防ぐことにつながります。
肛門腺絞りを行うための動物病院の選び方
肛門腺絞りなど、日常的なお手入れを安心して任せるには、信頼できる動物病院を選ぶことが欠かせません。病気の診断や治療はもちろんのこと、予防ケアや生活習慣のアドバイスを行ってくれる動物病院は、飼い主にとって頼もしい存在です。
ここでは、肛門腺ケアを含めた日常のサポートを安心して受けられる動物病院選びのポイントをご紹介します。
- 衛生管理が徹底されていること
お尻周りのケアを行う肛門腺絞りでは、衛生面がとても重要です。清潔な待合室や診察室、消毒が行き届いた器具などが整備されている病院は、感染症リスクを抑える配慮がなされている証拠です。院内の雰囲気を観察することで、衛生管理への意識の高さが見えてくるでしょう。
- スタッフさんの対応が丁寧かどうか
初めての通院前に電話で相談する場面もあるかと思います。そんなとき、親切で丁寧な対応をしてくれるかどうかは、病院選びの大切な判断材料になります。飼い主の不安や質問に対して、真摯に耳を傾けてくれるかを確認しましょう。
- ケアに関する質問にも丁寧に答えてくれるか
肛門腺絞りに限らず、ケアの仕方や頻度、犬種による違いなど、気になることはたくさんあります。そうした質問に対し、動物の様子をしっかり見たうえで、わかりやすく説明してくれる病院は、信頼して通い続けることができるはずです。
- 処置の内容や料金が明確に説明されるか
肛門腺絞りは簡単な処置とされているようですが、どのように行われるのか、料金はいくらかかるのか、事前にしっかりと説明してもらえる病院であれば安心です。もしも分泌物が溜まりやすい体質だったり、ケアが必要な場合にも、納得のいく対応をしてもらえる病院が望ましいでしょう。
日々のケアを安心して任せるためにも、飼い主とペットの双方にとって心地よい関係が築ける動物病院を選びましょう。
肛門腺に分泌物が溜まらないための予防法

肛門腺に分泌物が溜まらないための予防法は以下のとおりです。
犬の予防法
肛門腺に関するトラブルを未然に防ぐためには、日頃のケアと観察が何より大切です。少しの変化にいち早く気付くことで、大きなトラブルになる前に対処できることがあります。以下のようなポイントを意識して、愛犬の健康管理に役立てましょう。
- 毎日の観察を習慣に
便の状態や肛門周辺の様子は、日常的にチェックするようにしましょう。便がやわらかすぎたり、肛門のまわりに赤みや腫れ、違和感がある場合には、肛門腺に分泌物が溜まっている可能性があります。
- 適切な体重の維持
肥満になると肛門腺が圧迫されにくくなり、分泌液の排出が難しくなります。食事内容の見直しや適度な運動を取り入れ、理想体重を維持することが予防につながります。
- 自然な排便をサポートする工夫
食物繊維が豊富なフードを選んだり、運動を取り入れることで、しっかりとした便を排泄できるようにし、排便時に肛門腺も自然と刺激されるようになります。
- 定期的な肛門腺のチェックとケア
自力で分泌液を出しにくい犬種や個体には、1~2ヶ月に1度の肛門腺絞りが推奨されます。家庭で難しい場合は、動物病院やトリミングサロンでケアしてもらうのもよいでしょう。
- 健康診断で全体のチェックを
年に1回の健康診断を受けることで、肛門腺だけでなく全身の状態を把握することができます。早期発見・早期対処のためにも、定期的な診察を習慣化しましょう。
猫の予防法
猫の肛門腺トラブルを防ぐためには、日常の気配りが大きな鍵になります。肛門腺の分泌物がたまりやすい猫には、飼い主のサポートが重要です。以下のような点に注意して、健康的な状態を維持していきましょう。
- 排便の状態を整えることが第一歩
健康的な便をしているかどうかは、肛門腺の自然な排出に大きく関わります。軟便や便秘が続くと分泌物が排出されにくくなり、溜まりやすくなる傾向があります。普段から便の状態を観察し、気になる変化があればフードや生活習慣の見直しをしてみましょう。
- 肥満にさせないよう注意を
身体に脂肪がつきすぎると、便が腺をしっかりと圧迫できなくなり、分泌物が排出されにくくなったり、おしりを自分でそうじできなくなったりすることがあります。体重管理は肛門腺のケアだけでなく、さまざまな健康維持にもつながります。日頃の食事量や運動量に気を配ることが大切です。
- 先天的にたまりやすいタイプもいる
なかには体質的に分泌液が溜まりやすい猫もおり、そういった子は定期的に動物病院で肛門腺の状態を確認してもらうと安心です。場合によっては、獣医師から手術による根本的な治療を提案されることもあります。
まとめ

ここまで動物病院での肛門腺絞りについてお伝えしてきました。動物病院での肛門腺絞りについての要点をまとめると以下のとおりです。
- 肛門腺絞りは、すべての犬や猫に必要というわけではないが、特定の条件や症状がある場合には必要になる可能性がある
- 肛門腺絞りに特に気をつけたい犬は、肛門周囲の筋肉が弱いチワワやトイ・プードルといった小型犬が挙げられる。また猫の場合は、基本的に肛門腺絞りは不要ではあるが、一度肛門嚢炎を発症した場合は、動物病院で検査が必要である
- 肛門腺絞りを行うための動物病院の選び方は、衛生管理が徹底されていることやスタッフさんの対応が丁寧であるかなどが挙げられる
肛門腺のケアは、見た目ではわかりづらいからこそ、定期的なチェックと適切な処置が大切です。自宅でのケアに不安がある場合や、トラブルを繰り返してしまう場合は、動物病院での肛門腺絞りを習慣にし、炎症や破裂などのリスクを防ぎましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。