犬が動物病院で診察を受ける際、噛み癖があると「診てもらえるのか不安」と感じる飼い主さんもいるかもしれません。
ですが、噛む行動には理由があり、正しい対応をすることで診察を受けることも可能とされています。
本記事では噛む癖がある犬は動物病院を受診できるのかについて以下の点を中心にご紹介します。
- 噛む癖がある犬は動物病院を受診できるのか
- 噛む癖がある犬を動物病院に連れて行く際の注意点
- 深刻な噛み癖は動物病院の受診を
噛む癖がある犬は動物病院を受診できるのかについて理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
犬が噛む理由

犬が噛む理由は4つ考えられます。以下で、それぞれの理由について解説します。
ストレスや不安
犬が噛む理由の一つ目に、ストレスや不安が挙げられます。
引っ越しや飼い主の生活リズムの変化など、環境が大きく変わると、犬は強い不安を感じることがあります。
また、知らない方に触れられたり、慣れない場所に連れて行かれたりすることで、警戒心が高まり噛み癖が出ることもあります。
さらに、運動不足や体調不良によるイライラ、過去のトラウマが噛む行動につながるケースもあります。
興奮
犬が噛む理由の二つ目に、興奮が挙げられます。
遊んでいるときや、飼い主に甘えているときなど、気分が高まると加減がきかずに噛んでしまうことがあります。
本来、犬はほかの犬とのじゃれ合いを通して、噛む力の調整を自然と学んでいきます。しかし、親や兄弟と早く離れてしまった犬は、そうした経験が足りず、加減を知らないまま成長してしまうこともあります。
疾患や痛み
犬が噛む理由の三つ目に、疾患や痛みが挙げられます。
歯や歯茎の炎症、関節の痛み、内臓の不調、あるいはケガなど、触れられて痛みを感じた瞬間に反射的に噛んでしまうこともあります。
なかでも、これまで穏やかだった犬が急に噛みつくようになった場合には注意が必要です。
お口のなかがかゆい
犬が噛む理由の四つ目に、お口のなかのかゆみが挙げられます。
生後4〜6ヶ月頃の子犬は、乳歯から永久歯へと生え変わる時期です。この間、歯茎のむずがゆさから、手や家具などを噛んでしまうことがあります。
噛む行動が増えてきたら、まずは歯の生え変わりの状態を確認してみましょう。
犬が噛む場合の対処法

上記では、犬が噛む理由について解説しました。ここでは、対処法について詳しく解説します。
しつけやトレーニング
噛み癖を直すには、しつけとトレーニングが不可欠です。もし噛まれた場合は、「うわっ!」「痛いっ!」などと軽く反応し、その場を離れましょう。1分程距離を取ることで、「噛むと遊びが終わる」と犬に学ばせられます。この行動を繰り返すことで、噛み癖は徐々に改善していきます。
ただし、ほかの方が遊んでくれる状況や、もちゃに夢中になれる環境では効果が薄れます。また、「ダメ!」と強く叱ると犬が委縮し、防衛的に噛んでしまうこともあるため、あくまで驚かせる程度の反応にとどめましょう。
運動
運動も、噛み癖へのおすすめな対処法のひとつです。
運動不足が続くと、犬はエネルギーを持て余し、ストレスがたまって噛む行動に出ることがあります。なかでも、若い犬や活発な犬種は、毎日しっかりと体を動かすことが大切です。
そのため、噛む頻度が増えたと感じたら、まずは運動量を見直してみましょう。運動は、噛み癖の予防だけでなく、心身の健やかな成長にもつながります。
ストレス管理
上記で先述しましたが、犬は環境が不安定だったり、愛情不足を感じていたりすると、不安や孤独が噛む行動として現れることがあります。
そのため、もしストレスの兆候が見られたら、できるだけ早く原因を見つけ、取り除いてあげることが大切です。短時間でもよいので、撫でる、優しく声をかけるといったスキンシップが安心感につながります。
ただし、過度な関わりが逆効果になる犬もいるため、性格や反応をよく観察しながら、無理のない方法で接するようにしましょう。
おもちゃを与える
噛み癖の対処には、噛んでもよいおもちゃも与えることが大切です。
例えば、ロープ状のおもちゃで引っ張り合いをしたり、留守番中におやつ入りの知育玩具を使ったりするのも効果が期待できます。また、おもちゃは複数用意し、日替わりでローテーションさせることで飽きずに楽しめます。
ただし、手をおもちゃと認識してしまうと、噛んでよい対象と誤解する可能性があるため、注意が必要です。一緒に遊ぶことで、おもちゃの楽しさを伝えながら、噛みたい気持ちをコントロールしていきましょう。
やってはいけないこと
噛み癖を直そうとしても、しつけの方法を誤ってしまうと逆効果になることがあります。なかでも、日常のなかでついやってしまいがちな行動が、噛み癖を強めるきっかけになっていることもあります。
以下のような行動は避けるようにしましょう。
- 大声で叱る・叩く
「ダメ!」と怒鳴ったり叩いたりするのは、犬にとって恐怖でしかありません。恐怖心から防衛本能が働き、かえって攻撃的な行動が強まるおそれがあります。信頼関係も壊れてしまうため、感情に任せて叱るのではなく、落ち着いた態度で対応することが大切です。
- 噛まれた後に要求を受け入れる
噛まれた直後におやつやおもちゃを与えてしまうと、「噛めば手に入る」と覚えてしまいます。噛むのをやめたタイミングで褒める、要求に応えるといった工夫をしましょう。
- 壊れたおもちゃをそのまま使う
破れたり壊れたおもちゃは、誤飲やケガのリスクがあります。犬が遊んでいる間は様子を見守り、壊れてしまったおもちゃは早めに処分し、安全性の高いものを選んで与えましょう。
間違った対応を続けると、噛み癖がエスカレートするだけでなく、犬の健康を脅かすことにもつながります。正しい知識で、安心できる関係づくりを目指しましょう。
噛む癖がある犬は動物病院を受診できる?

噛み癖のある犬でも、動物病院を受診することは可能とされています。動物病院のスタッフさんは噛んでしまう犬への対応も想定内としており、必要な知識や経験をもとに丁寧に対処されています。
ただし、処置の内容によっては安全性の配慮が必要な場合もあるため、事前に噛み癖があることを伝えておくとスムーズです。また、愛犬が緊張しすぎないよう、飼い主さんの落ち着いた対応や協力もとても重要です。
「噛むかもしれないから…」と受診をためらってしまうと、症状が悪化する恐れもあります。気になることがあれば、遠慮せず動物病院に相談してみましょう。
噛む癖がある犬を動物病院に連れて行く際の注意点

噛む癖がある犬を動物病院に連れて行く際には、どのような注意点があるのでしょうか。以下に2つの注意点を解説します。
噛む癖があることを事前に伝える
噛み癖のある犬を動物病院に連れて行く際は、事前に噛む可能性があることを伝えておくことが大切です。まずは電話で症状を説明し、その子の性格や行動の特徴もあわせて相談してみましょう。病院によっては「まずは飼い主さんだけ来てください」といった案内をしてくれることもあります。
動物病院のスタッフさんは、噛んでしまう犬への対応にも慣れており、特別なこととはとらえてないとされています。ただ、犬にとっては、体調が悪いなかで見知らぬ場所に連れてこられ、何をされるのかわからない状況です。
そのため、あらかじめ性格や癖を伝えておくと、犬にとってもスタッフさんにとっても、より安全性の高い穏やかな診療につながります。
できるだけリラックスさせた状態で連れて行く
噛み癖のある犬を動物病院に連れて行く際は、できるだけリラックスした状態で受診できるよう、事前の配慮も大切です。飼い主さんの緊張は愛犬にも伝わるため、不安な様子を見せず、落ち着いた態度で寄り添ってあげましょう。
診察中はそっと声をかけて気をそらしたり、優しく励ますことも効果が期待できます。また、診察台の上で犬の顔をスタッフさんに向ける行為は、恐怖心をあおる可能性があるため避けましょう。
さらに、処置に立ち会うかどうかは、犬の性格や診療内容によって判断されることが多いとされているため、希望がある場合は事前に伝えておくことが大切です。
口輪やエリザベスカラーが必要な場面では、飼い主さんが装着することでスムーズに進むこともあります。サイズの合ったものをあらかじめ用意しておくと、万が一のときにも落ち着いて対応できます。
深刻な噛み癖は動物病院の受診を

噛む行動に悩んだとき、飼い主さんは「しつけでどうにかしなければ」と考えてしまう傾向にあります。しかし、その背景には身体の不調や強い不安が隠れている場合もあります。
なかでも、脈絡のない攻撃行動や異常な恐怖反応が見られる場合には、獣医師による診察や検査、または薬によるサポートが必要になることもあります。
そうしたケースでは、行動学の知識をもつ獣医行動診療科の受診がおすすめです。身体と心の両面から原因を探ることで、犬にも飼い主さんにも負担の少ない方法で改善を目指せます。
行動診療科は全国に広がってきており、「お住まいの地域+獣医行動診療科」で検索すれば見つけやすいでしょう。
噛み癖を動物病院で治療する方法

最後に、噛み癖を動物病院で治療する方法を解説します
環境改善
噛み癖の改善には、動物病院での診察と合わせて生活環境の見直しも欠かせません。ストレスや不安が原因となっている場合、身の回りにある「落ち着かない要素」が行動に影響を与えることがあります。
例えば、常に音や人間の出入りがある環境で過ごしていたり、休めるスペースが確保されていなかったりすると、犬は緊張状態になりやすくなります。
動物病院では、こうしたストレスの背景を獣医師が見極めながら、飼育環境の整え方をアドバイスしてくれます。環境の改善は、薬やトレーニングでは補えない重要な治療の一環です。
行動修正
噛み癖の治療には、獣医師の指導のもとで行う行動修正トレーニングが行われます。これは単なるしつけではなく、犬が噛むという行動を起こす原因や状況を見極めながら、望ましい行動へと導いていく方法です。
例えば、「噛む前に見せるサイン」を観察し、噛む前に回避行動をとる練習をしたり、落ち着いて過ごせる時間や空間を増やすことで、噛む必要がないと犬自身が学習していきます。
獣医師は個々の性格や生活環境に合わせてプログラムを提案してくれるため、自宅での対応がしやすくなるとされています。薬や環境調整と並行して行動修正を取り入れることで、根本的な改善が期待できます。
薬物療法
薬物療法と聞くと不安を感じる方もいるかもしれませんが、噛み癖の背景に強い不安や恐怖がある場合、行動修正を円滑に進めるためのサポートとして薬を使用することがあります。
例えば、恐怖や不安から攻撃行動を起こす犬には、気持ちを落ち着けるための抗不安薬や、セロトニンの働きを調整する薬が処方されることもあります。
その結果、犬が安心して刺激を受け入れやすくなり、行動療法との相乗効果が期待できます。現在、犬の攻撃行動に特化した薬はありませんが、三環系抗うつ薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などが使用されるケースがあります。
効果が現れるまでに数週間かかることもあるため、獣医師の指導のもとで計画的に使うことが大切です
外科的療法
噛み癖に対する治療法としては、環境改善、行動修正、薬物療法に加えて、外科的療法が選択されることもあります。例えば、雄性ホルモンであるテストステロンが影響している攻撃行動には、去勢手術が行われることがあります。ただし、性ホルモンによる興奮や縄張り意識を和らげる効果が期待されます。
また、過去に咬傷事故を起こした大型犬には、犬歯を切断する手術が選択されることもあります。これは殺傷力の低下を目的としており、飼い主の不安を軽減する手段のひとつです。さらに、発情周期や偽妊娠による攻撃行動が見られる雌犬に対しては、避妊手術が検討されることもあります。
これらの外科的療法は、攻撃行動の背後にある身体的な要因に働きかけ、行動修正をよりよく進めるための補助的な役割を果たします。
まとめ

ここまで噛む癖がある犬は動物病院を受診できるのかについてお伝えしてきました。
噛む癖がある犬は動物病院を受診できるのかについて、要点をまとめると以下のとおりです。
- 噛み癖のある犬でも、動物病院を受診することは可能とされているが、処置の内容によっては安全性の配慮が必要な場合もあるため、事前に噛み癖があることを伝えることが推奨されている
- 噛み癖のある犬を動物病院に連れて行く際は、事前に性格や行動を伝えることと、できるだけリラックスした状態で受診できるよう配慮することが大切で、飼い主さんの落ち着いた対応や準備が、犬の不安軽減と安全性の高い診療につながる
- 脈絡のない攻撃行動や異常な恐怖反応が見られる場合には、獣医師による診察や検査、または薬によるサポート以外にも、行動学の知識をもつ獣医行動診療科の受診がおすすめ
犬の噛み癖には、ストレスや興奮、痛み、歯の生え変わりなどさまざまな原因があります。しつけや環境の見直しに加え、動物病院での診察や治療も選択肢のひとつです。行動修正や薬物療法、外科的処置が効果が期待できる場合もあり、噛む理由に応じた対応が求められます。
本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。