動物病院での呼吸器疾患にはどのようなものがある?病院へ行くタイミングも併せて解説

動物病院での呼吸器疾患にはどのようなものがある?病院へ行くタイミングも併せて解説

動物の呼吸器疾患は、咳や息苦しさなどの症状から命に関わる状態まで幅広く存在します。病院へ行くべきタイミングを逃さないためにも、代表的な疾患や症状の特徴を知ることは大変重要です。

本記事では動物病院での呼吸器疾患について以下の点を中心にご紹介します。

  • 動物の呼吸器疾患の例
  • 動物病院を受診するタイミング
  • 動物病院での呼吸器治療の検査例

動物病院での呼吸器疾患について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

動物の呼吸器疾患の例

動物の呼吸器疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。以下に解説します。

肺炎

肺炎は動物の代表的な呼吸器疾患で、免疫力が低下している若齢の仔犬や仔猫、高齢の犬猫で発生しやすい病気です。

肺は酸素と二酸化炭素を交換する呼吸器の中枢器官であり、気道を通じて外部環境と直接接しているため、細菌やウイルス、真菌などの病原体が侵入するリスクがあります。

これらの病原体が気管や気管支で炎症を引き起こし、さらに進行して肺胞部にまで感染が広がると肺炎を発症します。

症状は咳、呼吸困難、発熱、元気消失、食欲不振などで、重症化すると生命に関わるケースもあります。

治療は、原因となる病原体に応じて抗生物質や抗真菌薬を投与するほか、酸素療法や栄養管理、十分な水分補給が重要です。特に高齢動物や基礎疾患を持つ動物では、早期診断と迅速な治療が回復の鍵を握ります。

予防策としては、日常の健康管理や定期的なワクチン接種、適切な栄養状態の維持が推奨されます。これらの取り組みにより、動物の健康を守り肺炎のリスクを低減することができます。

気管虚脱

気管虚脱は、気管が平坦化し気道が狭くなる状態を指し、主に小型犬やトイ犬種で発生しやすい疾患です。ヨークシャーテリア、ポメラニアン、ミニチュアプードル、マルチーズ、チワワなどの中〜高齢犬が好発犬種といわれています。

この病態は気管の構造を支えるグリコサミノグリカンやコンドロイチン硫酸の減少による気管輪の軟化が主な原因とされますが、詳細な発症メカニズムは未解明です。

症状として、典型的なガチョウの鳴き声様の乾いた咳、運動不耐性、喘鳴、場合によっては失神やチアノーゼを伴う呼吸困難が見られます。

病状は、気管の閉塞度合いに応じてグレード1(25%減少)からグレード4(90%以上の閉塞)まで分類されます。軽度の場合は体重管理や内科的治療が中心となりますが、重度の場合は酸素投与や冷却、鎮静などの緊急処置が必要です。

また、内科治療で改善が見られない場合には、気管内ステント留置や気管外プロテーゼによる外科的治療が行われることもあります。

気管虚脱は、気道刺激物、慢性気管支炎、肥満、ストレスなどで悪化するため、日常の健康管理や適切な診断が重要です。

気管支炎

気管支炎は、気管支の慢性的な炎症を特徴とする呼吸器疾患で、特に犬で見られますが、猫でも発生します。

主な症状は、2ヶ月以上続く乾いた咳で、運動後や夜間に悪化することが多く、進行すると呼吸困難や痰を伴う咳、場合によっては発熱を伴うこともあります。

原因は、大気汚染、受動喫煙、感染症、アレルギーなどが考えられますが、特定は困難です。

診断は、慢性的な咳を示すほかの疾患(心疾患、肺腫瘍、寄生虫症など)を除外することで行われ、X線検査や気管支鏡検査によって気道の炎症や分泌物を確認します。

治療は内科的アプローチが中心で、抗炎症薬や気管支拡張薬の投与、必要に応じて感染症の治療や酸素療法が行われます。また、悪化要因を回避し、環境を改善することも重要です。

気管支炎の予後は、気道の構造変化が回復しにくいため長期的な管理が必要ですが、適切な治療と環境改善により症状を緩和し、生活の質を向上させることができます。

肺腫瘍

肺腫瘍は犬猫の呼吸器疾患のなかでも珍しい病気ですが、高齢の動物で発症することが多いとされています。

この疾患は、肺そのものから発生する原発性肺腫瘍と、ほかの臓器から肺に転移して生じる転移性肺腫瘍に分類され、後者がより多いとされています。

犬猫の原発性肺腫瘍の大半は悪性で、よく見られるのは肺腺癌です。犬の場合、腫瘍は孤立性で転移が少ない傾向にありますが、猫では診断時点で75%以上がすでに転移しているケースが多いといわれています。

症状は、咳、呼吸困難、体重減少、元気消失などが見られますが、無症状のケースもあります。診断にはX線撮影やCT撮影が用いられ、病変の大きさや転移の有無を評価します。

治療では、孤立性の腫瘍に対し外科的切除が第一選択であり、部分的肺葉切除や全肺葉切除が行われます。転移性肺腫瘍や進行がんの場合には、抗がん剤や放射線療法が適用されることもあります。

予後は腫瘍の大きさや転移の有無、悪性度によって大きく異なり、診断や治療の早期介入が重要です。

こんな症状が出たら動物病院へ

ペットに以下のような症状が見られた場合は、早急に動物病院を受診することをおすすめします。普段と違う呼吸の仕方や異常な症状は、深刻な疾患の兆候である可能性があります。

  1. 呼吸の異常
    呼吸が普段より速い、苦しそう、鼻の穴を大きく開ける、またはお口を開けて呼吸している場合は注意が必要です。特に、猫は普段鼻呼吸をするため、お口を開けた呼吸は危険なサインです。また、息を吸うときに”ヒューヒュー””ズーズー”といった音がする場合も異常の可能性があります。
  2. 咳やチアノーゼ
    咳が続く、舌や歯茎が青紫色になるチアノーゼが見られる場合は、気道閉塞や心疾患、肺炎などの疑いがあります。なかでも舌が青くなる場合は緊急性が高いため、すぐに受診しましょう。
  3. 異常な動作
    上を向いて呼吸をする、伏せることができない、胸や肩を大きく動かしている呼吸が続いている場合も異常です。
  4. その他
    くしゃみや鼻水が続く、痰を吐きたそうな仕草、睡眠時の無呼吸、いびきの悪化なども注意すべき兆候です。

呼吸の異常は急速に悪化することがあるため、症状を確認したら迷わず動物病院を受診しましょう。普段の呼吸状態を把握し、症状の動画を撮影しておくと、診察時に役立ちます。

動物病院での呼吸器治療の検査例

ミニチュアダックスフンドと看護師

動物病院での呼吸器治療の検査にはどのようなものがあるのでしょうか。以下に解説します。

問診

呼吸器症状を主訴として受診した場合、まずは飼い主から詳細な問診を行います。これまでの病歴や現在の症状、発症の時期、頻度、症状が現れる状況などを確認します。特に、自宅での安静時や睡眠時の1分間の呼吸数を事前に計測しておくと診断の助けになります。

また、咳やいびき、眠っているときの呼吸姿勢、苦しそうなときの呼吸の動画を撮影して持参すると、診察の重要な手がかりとなります。

飼育環境について、室内外の環境や、どのような状況で症状が悪化するかを具体的に確認します。症状が強く呼吸が苦しい場合には、酸素室で休ませながら問診を行い、動物の状態を落ち着かせたうえで診察を進めます。

その後、視診、聴診、触診を通して呼吸音や咳の状態を詳しく確認します。待合室から診察台に移動する間の呼吸の様子も診断の参考にします。また、診察時に呼吸状態を記録するビデオ撮影を行い、治療の経過観察に活用することもあります。

問診と身体検査の段階で、疾患部位の絞り込みを行い、次の検査や治療方針の基礎を築きますが、このプロセスには20〜30分程度を要します。

レントゲン検査

呼吸が荒い、咳、異常な呼吸音がある場合、胸部のレントゲン検査は重要な診断手段となります。この検査では、肺、気管、気管支、心臓などの異常を確認します。

例えば、肺が白く見える場合は、全体的に白く見えるのか、局所的に白く見えるのか、もしくは過度に黒く映る所はないかなどをチェックし鑑別します。

また胸の中に液体貯留がないか、リンパ節の腫脹が見られないか、血管や気管支の蛇行などが無いかを確認することも重要です。心臓の大きさはVHSという指標を用いて測定し、心臓病が呼吸器症状の原因かどうかを判断します。

レントゲン検査は呼吸器疾患の診断に有効とされていますが、単独ではすべての疾患を特定できないため、血液検査や超音波検査と組み合わせて総合的に診断されます。呼吸の異常が見られたら、早急に動物病院で相談しましょう。

CT検査

CT検査は、X線検査では確認が難しい鼻腔や副鼻腔、心臓周囲、横隔膜前の肺野などの微細構造を評価するために有用とされる検査です。

高解像度の画像により、頭部や胸部の詳細な異常を確認できますが、正確な撮影には全身麻酔が必要で、呼吸や体動を制御する必要があります。

近年の技術進歩により、多列検出器型ヘリカルCT装置を用いた胸部の迅速な撮影が可能になったといわれていますが、動物特有の速い呼吸数や体動には依然として課題が残ります。

CT検査は単独では限界があるため、病理学的な情報や気管支鏡検査などを組み合わせることで、より正確な診断が可能になるとされています。

例えば、気道や肺の異常を特定するためにCTで描出された画像を活用し、病変の詳細をさらに確認します。また、病理所見や疾患経過データの蓄積が進むことで、CT画像の診断精度が向上し、臨床的により有用になると期待されています。

呼吸器疾患の診断では、CT検査とほかの検査の組み合わせが正確な治療計画の基盤となります。

血液検査

呼吸器疾患が疑われる場合、血液検査は重要な診断ツールとなります。完全血球計算(CBC)では白血球数を測定し、炎症の有無や程度を確認します。

さらに、血液生化学検査では腎臓や肝臓などの内臓機能を評価し、炎症が肺以外の臓器に原因を持つ可能性を排除します。検査項目には、電解質(Na、K、Cl)、BUN、Cre、GPT/ALT、ALPなどが含まれ、全体的な健康状態を把握します。

また、C反応性蛋白(CRP)の測定により、炎症反応がどの程度活発かを評価します。これらの数値は、肺炎などの呼吸器疾患の診断に役立ちます。

すでにほかの動物病院で検査を受けている場合は、その結果を参考にしつつ、必要であれば再検査を行います。血液検査は呼吸器疾患の診断精度を高め、治療方針を決定するための重要なステップです。

気管支鏡検査

気管支鏡検査は、細くやわらかい内視鏡を使用して喉頭、気管、気管支、肺の内部を詳しく観察する検査です。

X線やCT検査で気道や肺に異常な影が見られた際に、その原因を調べる確定診断の手段として行われます。検査は全身麻酔下で行われ、異物除去や腫瘍切除などの治療も可能とされています。

気管支鏡を用いて、病変が確認された場合には一部を採取する生検を実施し、詳細な診断を行います。

また、気管支肺胞洗浄やブラッシングにより、気管支や肺胞領域から細胞成分や病原体を採取して病因を特定します。これにより、感染症、腫瘍、アレルギーなどの病態を診断し、適切な治療方針を立てることができます。

気管支鏡検査は、呼吸器疾患の原因を明確にし、正確な治療につなげるための重要な検査です。

動物病院へ行く前にやっておくとよいこと

猫と飼い主

動物病院へ行く前はどのようなことに注意するとよいでしょうか。以下に解説します。

症状を撮影しておく

動物が病気の兆候を見せるとき、動物病院での診察をスムーズに進めるために症状を記録しておくことが大切です。特に、呼吸器系の問題など一時的な症状の場合、診察時には緊張や環境の変化で症状が隠れることがあります。

そのため、自宅での自然な状態をスマートフォンなどで動画撮影しておくと、獣医師に正確な情報を伝えるのに役立ちます。

撮影する際は、症状が現れた瞬間や状態がわかりやすい場面を記録しましょう。

こうした準備を行うことで、診断の精度が向上し、適切な治療方針が提案されやすくなります。

絶食が必要になる場合もある

動物病院での診察や検査のために、受診当日に絶食が必要な場合があります。特に血液検査や麻酔を伴う検査が予定されている場合、診察時間の約10〜12時間前からの絶食が推奨されることが多いとされています。

ただし、生後6ヶ月未満の動物や特定の病状によっては絶食が危険となる場合もあるため、事前にホームドクターや動物病院に確認することが重要です。

水分については、飲水を禁止されることはあまりありませんが、詳細は予約時に確認しましょう。また、当日の朝に服用中の薬がある場合は、薬の種類に応じて対応が異なるため、かかりつけの獣医師に指示を仰いでください。

適切な準備を行うことで、検査がスムーズに進み、正確な診断につながります。

まとめ

ここまで動物病院での呼吸器疾患についてお伝えしてきました。
動物病院での呼吸器疾患の要点をまとめると以下のとおりです。

  • 動物の呼吸器疾患には、肺炎や気管虚脱、気管支炎、肺腫瘍などがあり、咳や呼吸困難が主な症状となる。早期診断と適切な治療が動物の健康維持に重要である
  • 呼吸が速い、苦しそう、咳が続く、舌が青紫色になるなどの異常が見られたら、早急に動物病院を受診する必要がある。診察に役立つことがあるため、動画を撮影しておくとよい
  • 動物病院での呼吸器治療の検査には、問診、レントゲン、CT、血液検査、気管支鏡などがあり、症状や疾患に応じた検査を組み合わせて診断を行う

動物の呼吸器疾患は早期発見と適切な治療が鍵です。咳や呼吸の異常などの初期症状を見逃さず、適切なタイミングで動物病院を受診することで、病気の進行を防ぎ、ペットの健康を守ることができます。

普段から呼吸状態や体調の変化に注意を払い、気になる症状があれば早めに獣医師に相談しましょう。

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献