動物の寿命が延びるにつれ、腫瘍に関する治療の重要性も高まっています。腫瘍は早期発見・治療が鍵となるため、動物病院での適切な診断や治療法が欠かせません。
本記事では、動物病院で行われる腫瘍の治療について以下の点を中心にご紹介します。
- 動物によくみられる腫瘍
- 動物病院で行われる腫瘍の診断
- 動物病院で行われる腫瘍の治療
動物病院で行われる腫瘍の治療について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
動物病院の腫瘍科とは

動物病院の腫瘍科は、犬や猫などの動物が発症する腫瘍の診断や治療を専門とする科目です。腫瘍は動物の死因として多いといわれる要因であり、特に高齢の動物に見られますが、若い動物も腫瘍を発症することがあります。
腫瘍科では、腫瘍の種類や進行度、周辺組織への影響を詳細に評価し、それぞれに合う治療法を提案します。治療法には、外科手術、化学療法、放射線療法、免疫療法などがあり、緩和ケアや終末期ケアも提供されます。
代表的な腫瘍には、肥満細胞腫、乳腺腫瘍、リンパ腫、血管肉腫などがあり、それぞれに応じた治療法を選択します。
また、腫瘍治療を行う際には、動物の年齢や体力、ご家族の意向に配慮しながら治療方針を決定します。腫瘍科は、動物とそのご家族に寄り添い、適切な診療を提供する大切な分野です。
動物によくみられる腫瘍

動物によくみられる腫瘍にはどのようなものがあるのでしょうか。以下に解説します。
乳腺腫瘍
乳腺腫瘍は、犬や猫の乳腺に発生する腫瘍で、主に避妊手術をしていない高齢の雌で見られることが多いとされる腫瘍の一つです。
犬では良性と悪性の割合がほぼ半々とされますが、日本では小型犬の飼育が多い影響もあり、良性が約6割といわれています。一方、猫では約9割が悪性であるため、より積極的な診断と治療が必要です。
乳腺腫瘍の治療の第一選択は外科手術であり、腫瘍の大きさや性質に応じて切除範囲が異なります。良性腫瘍であれば少ない切除で済むこともありますが、悪性腫瘍の場合は広範囲の切除やリンパ節の摘出が必要となることがあります。摘出後は、病理検査を行い腫瘍の性質を確認することが重要です。
また、乳腺腫瘍は女性ホルモンの影響を受けるため、初回発情前に卵巣子宮摘出術を実施することで、発生リスクを低減できるといわれています。お腹にしこりを見つけた際は早期に動物病院を受診することが、治療の成功につながる大切なポイントです。
骨肉腫
骨肉腫は、骨に発生する悪性腫瘍で、大型犬に多く見られるといわれる腫瘍です。骨にできる腫瘍の約85%を占めており、主に四肢に発生することが特徴です。
主な症状は足の痛みや腫れで、レントゲン検査や病理組織診断を用いて確定診断が行われます。
治療法としては、断脚手術や放射線治療が挙げられ、術後には肺への転移を防ぐために化学療法を併用することが推奨されています。
ただし、診断時には目に見えないレベルの転移が始まっていることが多いとされるため、断脚のみの治療では生存期間が平均3〜4ヶ月ほどにとどまることが多いといわれています。
抗がん治療を併用することで、生存期間を1〜2年ほどに延ばすことが期待できます。
骨肉腫の治療には、副作用を伴う抗がん剤の投与も必要となるため、ご家族と医療スタッフが協力して進めることが重要です。すべて克服することは難しい腫瘍ですが、痛みを和らげつつ、少しでも快適な生活を維持するためのケアが求められます。
メラノーマ
メラノーマは、メラニン色素を生成する細胞に発生する悪性腫瘍で、口腔内や眼、皮膚、爪付近など身体のさまざまな部位に見られる腫瘍です。特に犬では口腔内で発生する頻度が高く、口腔内悪性腫瘍の代表例とされています。
初期段階ではほくろのように見えるため、発見が遅れることもありますが、腫瘍が進行すると潰瘍や出血、摂食障害や呼吸困難などの症状が現れることがあります。
治療の第一選択は外科手術であり、腫瘍を可能な限り広範囲に切除する必要があります。
さらに、抗がん剤治療や放射線療法、免疫療法を併用することで、転移の抑制や治療効果の向上を図ります。なかでもメラノーマはリンパ節や肺に転移しやすいため、診断時や治療計画時に転移の有無を確認することが重要です。
悪性度や転移の状況により予後は異なりますが、早期発見と治療により生存期間を延ばすことが期待できます。飼い主は日頃から愛犬の身体を観察し、異常を感じた際には早めに受診することが大切です。
リンパ腫
リンパ腫は、リンパ球と呼ばれる白血球が腫瘍化する血液・リンパ系のがんで、犬では多いとされる腫瘍です。
顎の下や肩、膝裏などのリンパ節が腫れることで気付くこともあれば、元気の低下や食欲不振、嘔吐・下痢などの症状から発見される場合もあります。
リンパ腫は”多中心型”や”胃腸管型”など発生部位による分類や、高悪性度・低悪性度による進行スピードの違いがあり、それぞれに応じた診断と治療が必要です。
診断は、腫れたリンパ節の細胞診や組織診断、場合によっては遺伝子検査を用いて行います。治療は高悪性度の場合、抗がん剤を1〜2週間ごとに投与する化学療法が主流であり、半年程度の治療で寛解を目指します。
一方、低悪性度のリンパ腫では進行が遅いため、経過観察のみとする場合もあります。
リンパ腫は治療により元気な状態を取り戻せることが多いといわれる腫瘍であり、動物の負担をできる限り抑えながら治療を進めることが重要です。早期発見と適切な治療が、よりよい生活を支える鍵となります。
動物病院で行われる腫瘍の診断

動物病院では、腫瘍の診断はどのように行われるのでしょうか。以下に解説します。
問診・視診・触診
腫瘍の診断では、まず問診・視診・触診が重要なステップとなります。
問診では、飼い主からしこりや異常に気付いた時期、動物の病歴、過去の治療歴などを詳しく伺います。これにより、腫瘍の発生時期や進行度、ほかの病気との関連性を確認します。
続いて、視診・触診により、実際にしこりや病変部を確認し診察します。
触診では、しこりが周囲の組織やリンパ節に浸潤しているかを確認し、悪性腫瘍の可能性を判断します。なかでも、しこりが周囲の組織にへばりついている場合には悪性が疑われます。
これらの診察を通じて、腫瘍を疑うべきかを判断し、次の検査や治療方針の指針とします。視診・触診はシンプルでありながら、腫瘍診断の基礎となる重要なプロセスです。
組織検査
腫瘍の診断では、まず細胞診が行われることが多いです。
細胞診は、病変部から細胞を採取し、顕微鏡で観察する簡易的な検査です。この方法で腫瘍の種類や良性・悪性の可能性をスクリーニングできますが、診断がつかない場合や悪性が疑われる場合には、さらに精度の高い病理組織検査が必要です。
病理組織検査では、広範囲の組織を採取し詳細に分析します。この検査により腫瘍の種類や特性を正確に把握でき、治療方針や予後の見通しを決定する重要な情報が得られます。
また、腫瘍の一部を採取する場合だけでなく、完全切除を行うことで診断と治療を同時に行えることもあります。
病理組織検査は、腫瘍の診断と治療計画を立てるうえで欠かせない検査です。正確な診断をもとに、よりよい治療を行うために重要な役割を果たします。
画像診断
画像診断は、腫瘍の構造や周囲組織への影響、ほかの臓器への転移の有無を確認するために重要な検査です。
レントゲンや超音波(エコー)検査を組み合わせることで、腫瘍の早期発見が可能になり、検診としても有効とされています。
なかでもゴールデンレトリバーなど、腫瘍疾患の発症率が高い犬種では、お腹のなかに腫瘍ができることが多いといわれ、日常生活でしこりを見つけるのは困難です。そのため、8歳を超えたら年に1回のレントゲンや超音波検査が推奨されます。
腫瘍が疑われる場合、画像診断に加えて針の検査(FNA)を実施し、さらに詳細な評価が必要な際にはCT検査や外科的検査に進みます。
その際、麻酔前検査として血液検査や画像検査を併用し、動物の状態を確認して精密検査を行います。
画像診断は腫瘍の早期発見と正確な診断に欠かせない手段です。
動物病院で行われる腫瘍の治療

動物病院で行われる腫瘍の治療には、どのようなものがあるのでしょうか。
外科療法
外科療法は、腫瘍を手術で摘出する治療法で、さまざまな腫瘍において根治を目指す第一選択の治療手段です。腫瘍をすべて摘出できなくても、手術によって症状を緩和し、痛みや苦痛を軽減することが可能といわれています。
腫瘍の種類や発生場所によっては、周囲の骨や隣接するリンパ節を同時に切除する場合もあります。また、根治的な目的だけでなく、腫瘍が引き起こす痛みや不快感を和らげる緩和的治療として外科療法が行われることもあります。
外科療法は、腫瘍治療の中核となる方法の一つであり、早期の手術が治療効果を高める鍵となります。腫瘍の状態や進行度に応じた適切な外科的介入が、動物のQOLを大きく向上させることにつながります。
化学療法
化学療法は、抗がん剤を使用して腫瘍細胞の増殖を抑え、再発や転移を防ぐ治療法です。
リンパ腫のように抗がん剤が有効な腫瘍や、外科手術で完全切除ができなかった場合、また術後にがんの脈管内浸潤が認められた場合に行われることが多いとされています。
従来の抗がん剤は正常な細胞にも影響を与えるため、副作用が起こりやすい側面がありましたが、最近ではがん細胞を標的に攻撃する分子標的薬が開発され、副作用を軽減しながら治療できるようになっています。これらは経口薬として自宅で投与可能な場合もあります。
抗がん剤治療には、副作用として嘔吐や下痢、食欲不振、免疫低下などが起こる可能性がありますが、軽度で、動物が普段どおりの生活を送れるケースがほとんどです。
副作用が重い場合には、治療内容を調整し、動物への負担をできる限り抑える工夫も行われています。
放射線療法
放射線療法は、高エネルギーX線を用いて腫瘍を治療する先進的な方法です。
外科手術に続き、悪性腫瘍の治療法として効果が期待されており、主に外科療法が困難な場合や腫瘍の不完全切除後、さらに抗がん剤が効果を発揮しにくいケースで有効とされています。
治療は、腫瘍をすべて取り除くことを目指す”根治的治療”と、症状を緩和し生活の質を向上させる”緩和的治療”のどちらにも対応可能とされています。ただし、放射線治療には特殊な設備が必要なため、治療が可能な施設が限られており、高度医療施設への紹介が必要となることがあります。
腫瘍の種類や進行度によっては効果が期待できる治療法であり、ペットの健康を支える重要な選択肢の一つです。獣医師との相談を通じて適切な治療方針を検討することが求められます。
緩和治療
緩和治療は、動物の負担を軽減し、生活の質(QOL)を向上させるための重要な治療法です。
栄養管理や痛みの軽減を中心に行われ、腫瘍治療の初期段階から最終段階まで、ほかの治療と並行して実施されます。適切な緩和ケアを取り入れることで、動物が痛みを感じにくくなり、日常生活に近い状態を取り戻せる可能性があります。
緩和治療は、がん治療を行うかどうかに関わらず、必要に応じて柔軟に行うべき治療です。動物が感じる痛みや苦しみを和らげることで、体重減少を防ぎ、穏やかな日々を過ごせるよう支援します。家族とともに治療計画を立てることで、動物が安心して自宅で過ごし、穏やかに最期を迎えられるようサポートします。
リスクが少なく、家族の負担も軽減できる緩和治療は、腫瘍治療に欠かせない重要な要素です。
定期的に健康診断を受けよう

愛するペットを健康に保つためには、定期的な健康診断が欠かせません。健康診断は、病気を”早期発見・早期治療”するだけでなく、リスクの低減や健康維持のための重要な機会となります。診断では、病歴確認や体重測定、血液検査、尿検査などを行い、ペットの健康状態を総合的に把握します。
高齢になる前に健康診断を受けることで、疾患を早期に発見し、負担の少ない治療を行うことができます。これにより治療の選択肢が広がり、ペットの体調を長く良好に保てるだけでなく、飼い主にとっても安心につながります。
さらに、日々のケアや変化に気付くことも大切です。ペットの健康状態に合わせた検査内容を提案してもらうため、ぜひかかりつけの動物病院に相談してみてください。
定期的な健康診断が、ペットとの穏やかで健やかな生活を守る大切な一歩です。
まとめ

ここまで、動物病院で行われる腫瘍の治療についてお伝えしてきました。要点をまとめると以下のとおりです。
- 動物によく見られる腫瘍には、乳腺腫瘍、骨肉腫、メラノーマ、リンパ腫がある。それぞれ発生部位や進行の速さが異なり、早期発見と適切な治療が重要で、外科手術や化学療法、放射線療法を組み合わせて行う
- 動物病院での腫瘍診断は、問診・視診・触診を基本に、細胞診や病理組織検査、レントゲンや超音波などの画像診断を組み合わせ、腫瘍の種類や進行度を詳細に評価する
- 動物病院での腫瘍治療には、外科療法、化学療法、放射線療法、緩和治療がある。腫瘍の種類や進行度に応じた治療法を選択し、ペットの負担を軽減しながら生活の質を向上させる
腫瘍治療は早期発見と適切な診断が重要です。飼い主が異変に気付き、獣医師と連携することで、動物に合った治療を選択し、負担を軽減しながら健康を守ることができます。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。