動物病院で接種するワクチンは、ペットの健康を守るだけではなく、ペットから飼い主さんへの感染リスクを軽減するために欠かせないものです。基本的には安全性が高いとされていますが、ごく稀に副反応を引き起こすことがあるため、予防接種に不安を抱く飼い主さんもいます。この記事では、動物病院で実施されるワクチンの種類をお伝えしたうえで、副反応の発症率、よくある症状、対処方法について解説します。
動物病院で実施されるワクチンの種類

動物病院では、犬や猫のほかにもさまざまなペットに対してワクチン接種を実施しています。種類としては犬用と猫用とその他の3パターンです。ここでは、動物病院で実施されるワクチンの種類を解説します。
犬向けワクチン
犬に使うワクチンは、狂犬病ワクチンと混合ワクチンの2種類に分類されます。混合ワクチンはさらに、対処したい感染症やその種類に応じて「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」の2つに区分されています。
狂犬病ワクチンは日本国内ですべての飼い犬に接種が義務付けられているものです。狂犬病は人獣共通感染症であり、一度発症するとほぼ100%死亡する恐ろしい病気です。日本では長年発生していませんが、海外では今でも発生しているため、予防接種を行うことが重要とされています。狂犬病ワクチンは生後91日以上の犬に対して年に1回の接種が義務付けられており、接種後は狂犬病予防注射済票が交付されます。
一方、混合ワクチンのコアワクチンは、すべての犬種に接種が推奨されるもので、犬パルボウイルス、犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス1型感染症、犬アデノウイルス2型感染症などの致命的な感染症を予防します。これらの病気は重篤な症状を引き起こすことがあるため、適切な時期に接種することが大切です。一般的に生後8週齢頃から3〜4週間隔で2〜3回の接種を行い、その後は1年に1回の追加接種が推奨されています。
ノンコアワクチンは、犬の生活環境やリスク要因によって接種を検討するワクチンで、パラインフルエンザ、犬コロナウイルス感染症、犬レプトスピラ感染症などに対応しています。例えば、ドッグランやペットホテルを頻繁に利用する場合や、多くの犬と接触する機会がある場合は、パラインフルエンザのワクチン接種が勧められることがあります。また、野生動物と接触する可能性がある環境では、レプトスピラ感染症のワクチンが有効かもしれません。
適切なワクチン接種スケジュールは犬の年齢や健康状態、生活環境によって異なるため、かかりつけの獣医師と相談して決めるのが適切です。
猫向けワクチン
猫に使うワクチンは混合ワクチンであり、犬と同様に「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」の2種類に区分されます。
ワクチンの種類 | 接種目的 | 対処したい感染症 |
コアワクチン | すべての猫へ接種を推奨 | ・猫ウイルス性鼻気管炎・猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)・猫カリシウイルス |
ノンコアワクチン | 生活環境により推奨 | ・猫白血病ウイルス感染症・猫クラミジア感染症 |
コアワクチンは、ウイルスの感染力が強く、ほおっておくと重症化しやすい感染症を予防するために接種が推奨されています。一方、ノンコアワクチンは外で飼われている猫や多頭飼いされているケースにおいて接種が推奨されています。
その他の動物に用いられるワクチン
動物用のワクチンには、犬や猫のほかに、小動物や馬といった幅広い動物を対象にしたワクチンがあります。これらのワクチンのなかには、海外では使用されているものの日本では未承認のものもあるため、実際に打つかどうかは十分に検討しなければなりません。
- フェレット:ジステンパーのワクチン
- うさぎ:サギウイルス性出血病、ミックスマトーシスのワクチン
- 馬:破傷風やインフルエンザのワクチン
犬猫以外の動物に対するワクチンの情報は少ないです。
ワクチン接種による副反応の発症率

動物病院でのワクチン接種は、基本的に安全性の高いものが使用されていますが、ごくまれに副反応を発症します。一般的には、軽度の副反応が100頭のうち1頭程度、重度の副反応は1,000〜1万頭のうち1頭未満の発症率です。年齢、種類、基礎疾患の有無、アレルギーの有無、その日の体調などを含む複数の要因によってリスクは変動します。
ワクチン接種の副反応で起こりうる症状

動物病院でワクチン接種した後に起こる副反応は、軽度のものから重度のものまでさまざまです。通常の体調不良と同じような症状が出る場合もあるため、ワクチン接種の副反応で起こりうる症状を解説します。
発熱、倦怠感
動物病院でのワクチン接種をした後、副反応の反応として挙げられるのが発熱や倦怠感です。ワクチン接種によって、体内で軽い炎症反応のようなものが起こるのが原因とされています。いつも元気いっぱいのペットがおとなしく寝ていたり、食欲がなくなったりしている場合は、副反応が出ている可能性が高いでしょう。
食欲不振
動物病院でワクチン接種後に、食事量が極端に減ったり、まったくフードに手をつけようとしなかったりする場合も副反応が出ている可能性が高いです。発熱や倦怠感が根本原因で起こる症状になります。ワクチン接種後は食事や水分が取れているかどうかをしっかりと確認しましょう。
腫れや痛み
動物病院でワクチン接種した後、注射針を刺した部位が軽く腫れたり痛みが出たりすれば、それも副反応の一種です。細い注射針を皮膚に直接刺すために起こる症状(→局所に注入された薬に液性免疫が賦活するためと考えられています)で、数日で自然治癒しますが、腫れている部分を無理に触ると、範囲が大きくなる恐れがあるため注意してください。
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックとは、ワクチン接種より10分〜1時間以内に発症する緊急性の高い副反応です。どういった症状が出るかは個体差がありますが、次のような症状が出たらアナフィラキシーの可能性があります。
- ぐったりとする
- 舌が青くなる
- 低体温
- 低血圧
- 呼吸困難
- 嘔吐
- 下痢
アナフィラキシーは、下手をすると命を落としてしまう危険な状態です。嘔吐や下痢などわかりやすい症状がある一方で、低体温や低血圧のようにわかりにくい症状もあるため、ワクチン接種後はより一層注意深くペットを見ておく必要があるでしょう。
ワクチン関連肉腫
猫がワクチン接種すると、肩甲骨の間や肩背部、体幹部など直接注射を打つ部位から癌を患う場合があります。これはワクチン関連肉腫と呼ばれる副反応です。基本的には猫に見られますが、ごく稀に犬にも見られます。
また、ワクチン関連肉腫は、そのほとんどが悪性で再発もしやすいです。完治がとても難しいうえに局所浸潤性が高いため、背骨を削ったり足を切断するといった規模の大きな手術をしなければなりません。
ただし、近年、アジュバント(ワクチン効果を高めるための添加剤)が改良されたこともあり、肉腫の発生率は極めて少なくなりました。また、接種部位を変えてゆくことで(腿、肩など)さらにリスクを分散できるとの研究もあります。
ワクチン接種で副反応が出た際の対処方法

ワクチン接種の副反応は命に関わる場合がありますが、飼い主さんが迅速かつ適切な対応ができれば問題ないため、過度に不安がる必要はありません。ここでは、ワクチン接種で副反応が出た際の対処方法を解説します。
軽度の副反応は自宅療養
ワクチン接種後のペットの様子がいつもと違うなら、まずは様子を見てください。ワクチンを打つと、軽度の副反応として食欲が低下してしまうペットがいます。脱水症状やエネルギー不足に気を付けるべきですが、水をしっかり飲んでいて、トイレの回数も減っていなければ深刻な問題ではありません。
軽度の副反応には以下のような症状が該当します。
- ぐったりしている
- 軽く食欲が減っている
- 注射した部分が熱を持っている
軽度の副反応は、発症後数時間から1日程度で回復する可能性が高いため、まずは自宅で安静にして様子を見ましょう。
ただし、いつまでたっても症状が治らなかったり、時間が経過して悪化すれば重度の副反応に発展する可能性もあります。
重度の副反応は動物病院を受診
アナフィラキシーショックのように注射を打ってからすぐにアレルギー反応が出た際は、緊急性が高いため、すぐに動物病院への受診が必要です。また軽度の副反応が数日続いても回復しないのであれば免疫力が低下してさらに悪化する恐れがあるため、動物病院での処置を検討するべきです。
動物病院を受診すれば、症状に応じてステロイドの投与、点滴、酸素吸入など自宅療養以上にさまざまな治療を行えます。適切な治療をしてもらうためにも、ワクチン接種をしてからの様子や過去の医療履歴などをしっかりと獣医に伝えましょう。
副反応の予防策
ワクチン接種による副反応を100%防ぐことは不可能ですが、飼い主さんとしていくつか注意をしておくと、発生するリスクを軽減できます。ここでは、副反応の予防策を解説します。
健康状態が優れているときに接種する
ワクチン接種は、必ずペットの体調が優れているときに行いましょう。体調を崩しているときにワクチンを打ってしまうと、体内の免疫機能が正常に動かず、副反応を発生させるリスクが高まるからです。もともとワクチン接種の予定を入れていたとしても、健康状態によっては延期することでペットの命や健康を守ることにつながります。
接種当日は朝からペットの様子をよく観察し、元気がなかったり食欲がなかったりする場合は獣医師に相談しましょう。また、ワクチン接種前には体温測定を行うことも大切です。平熱より高い場合や、何らかの感染症が疑われる兆候(咳、くしゃみ、鼻水など)がある場合も接種を見送るべきでしょう。妊娠中や授乳中のペットは、特別な配慮が必要になるため、事前に獣医師と相談することをおすすめします。
過去の副反応歴を報告する
過去にワクチン接種をして副反応が出た場合、再度同じような症状が発生する可能性があるため、必ず獣医に報告するようにしてください。アナフィラキシーショックはもちろん、食欲不振や下痢、嘔吐など経過観察で回復した症状も含めて伝えると、獣医の判断でワクチン接種を見送ったり、以前と異なるタイプのワクチンを打ったりすることが可能です。接種前に抗ヒスタミン剤の投与を行ったり、「プレ投与」と呼ばれるアレルギーテストができる場合もあるため、事前報告をして再発を予防しましょう。
接種後30分は動物病院で待機する
ワクチン接種の副反応のなかでもアナフィラキシーショックのように重度な反応ほど、短時間で症状が現れやすいです。そのためすぐに帰宅するのではなくて、動物病院の待合室で30分ほど様子を見ると、万が一のアナフィラキシーショックがでてもすぐに対処できます。接種後、待合室の待機を義務づけている動物病院もあるので、その場合は獣医の指示に従いましょう。薬品やほかのペットの匂いが混ざっている待合室は、ペットにとってストレスになる場合もあるため、そこは相談しながら待機場所や待機時間を調整するべきです。
2〜3日は激しい運動とシャンプーを避ける
ワクチン接種では、アナフィラキシーショックや軽度の副反応の症状が見られなくとも、免疫機能が刺激されていることで体力が一時的に低下しています。そのため、2〜3日は激しい運動とシャンプーを避けるようにしてください。散歩ができないとストレスになってしまう子は、いつもよりも散歩を短めにしたり、興奮するような場所を避けて体を動かすと安心です。また、シャワーの代わりにペットシートや濡らしたタオルで体を拭いてあげると、清潔感を保てます。
接種当日はペットの様子をよく観察する
ワクチン接種の副反応は、さまざまな症状があるからこそ、小さな変化を見落とさないためにも、ペットの様子をよく観察するようにしてください。食事の摂取量やトイレの頻度、注射を打った場所の変化を注意深く観察することで、万が一の副反応にも即時対応が可能です。また、夜間に副反応が悪化するリスクに備えて、動物救急病院の場所を事前に調べておくと、急な体調変化にもすぐ対応できるでしょう。
まとめ

動物病院へのワクチン接種は、原則として安全性が高いとされているものの、副反応のリスクもあるため注意が必要です。特にアナフィラキシーショックが発生した場合は、すぐに動物病院で適切な処置をしなければ命に関わります。逆に飼い主さんがペットの変化に気付いて、すぐに動物病院で対応できれば、命と健康を守れるので安心してください。さらに、副反応の発生リスクを下げるための予防もできるため、不安要素が残るのであれば、かかりつけの動物病院に相談しましょう。