動物病院ではどのような点滴療法が行われる?治療の種類や流れ、注意点を解説

動物病院ではどのような点滴療法が行われる?治療の種類や流れ、注意点を解説

動物病院では、ペットに施す治療の一つとして点滴療法がよく行われています。人間と同じように注射を利用し、体内にダイレクトに薬液を投入するため、さまざまな症状を緩和したり、体の回復を導く一助となるでしょう。投薬の仕方次第では、症状を即座に緩和できる場合もあります。本記事では、動物病院で行われる点滴治療がどういった目的で行われているのか、点滴療法が必要になりやすい病気について解説します。点滴療法の基本的な流れや、治療を受ける前の注意点について見ていきましょう。

動物病院で行われる点滴療法

動物病院で行われる点滴療法

点滴療法は輸液療法(ゆえきりょうほう)と呼ばれ、人間に行われる点滴と同じように動物の病気やケガの治療に対して広く用いられる方法の一つです。脱水症状を呈したペットに対する処置はもちろん、重篤な症状を呈するペットに対しても行われるもので、珍しい治療方法ではありません。

ペットの場合、点滴療法を行う目的はさまざまです。主な目的は脱水状態緩和です。何らかの原因で水分が摂れなかったり、下痢や嘔吐などで体に必要な水分が失われた場合などに行われます。また、点滴療法には、薬剤の投与などの役割もあります。食欲不振で経口から薬を摂取しづらい場合や、即効性が求められる場合には点滴療法と同時に薬剤の投与も行われることがあります。

さらに、点滴療法は手術時(麻酔前後や麻酔中)に体が必要としている水分摂取の補助として行われたり、循環血液量を増やして血圧をコントロールすることを目的に行われる場合もあります。肝臓や腎臓に疾患を抱えるペットについては、定期的に点滴を行って、臓器が必要としている血液量を増やし、臓器の働きを促進させる為に行われる場合もあります。

点滴療法の種類

点滴療法の種類

ペットの点滴療法には、皮下点滴と静脈点滴の2種類があります。人間の場合、点滴を行なえる部位は静脈のみですが、皮下組織(皮膚の下)に余裕があるペットは皮下に輸液剤を投与する皮下点滴が可能です。

それぞれの点滴療法は、薬液の浸透速度が異なるため使われる場面も異なります。ペットの治療においても特徴に応じて使い分けがあるので、その点も踏まえて特徴を見ていきましょう。

皮下点滴

皮下点滴は、動物にのみ行われる点滴療法です。主に肩甲骨と肩甲骨の間の皮膚が伸びる部分に輸液剤を投与するやり方で、ペットに対してよく行われる点滴方法です。

皮下点滴が多用される理由については、短時間(数分)で必要な点滴量を迅速に投与できるからです。その為、入院は必要なく診察時にその場で治療できます。

また、皮下点滴の特徴として、点滴後に皮膚にラクダのコブのような膨らみができる点があげられるでしょう。輸液が毛細血管を通じてゆっくりと身体に吸収されていくため、点滴直後は針を刺して輸液剤を投与した周辺部位がぽっこりと膨らみます。しかしこの膨らみは一時的なもの(約半日〜一日)なので安心してください。また、輸液剤といえども水分なので、重力で胸や足の方に溜まってくる場合もありますが、同様に徐々に体に吸収されます。

静脈点滴

静脈点滴は、人間の処置でもよく用いられる点滴療法です。前足や後ろ足に輸液剤を投与するルートを確保し、持続的に輸液剤を投与する方法になります。血管に直接投与できるため、皮下点滴と比べて即効性があるのが特徴です。

一定のスピードで輸液剤を投与する機器を使うため、ご自宅では難しい治療方法です。

点滴療法が用いられる病気

点滴療法が用いられる病気

ペットの病気には点滴療法が用いられるものがいくつもあります。症状によっては、点滴療法を常用して対処しなければならないケースもあります。ペットが罹患する可能性のある、点滴療法が用いられる病気についていくつか解説します。

慢性腎不全

慢性腎不全は、腎臓の機能低下が継続している状態です。機能が低下してしまう原因はおもに、加齢や腎炎のような腎臓の病気です。ほかにも、高血圧症や心臓病などといった別の病気が根底にあるケースもあるでしょう。

ペットが慢性腎不全にかかった際、点滴療法には次のような効果があります。

  • 脱水症状を緩和したり予防したりする(食欲を戻したり、活気づけたりする)
  • 腎臓にいく血液量を増やし、体内にある老廃物の排出を促す
  • ミネラルのバランスを調整する

慢性腎不全は、症状が徐々に悪化していくため、飼い主さんが気が付いたときには病気がかなり進行してしまっているケースが少なくありません。点滴療法は病気の根本治療ではなく、それ以上の病気の悪化を防いだり、脱水状態の緩和や食欲の回復を促すために行われると考えてください。

急性腎不全

急性腎不全は、数時間ないし数日で症状が進行してしまう病気です。放置すると危険な状態に陥りますが、すぐさま対処すれば回復する見込みもある病気です。

急性腎不全の場合、点滴療法は慢性腎不全と同じく、脱水症状を緩和したり、腎臓にいく血液量を増やし老廃物を排出するのを助けたりする目的で行われます。症状を緩和しながら体調を安定させ、腎臓の機能が回復するのをサポートする役割があります。

下痢や嘔吐

下痢や嘔吐のように、単純な風邪や体調不良が原因で起こる症状にも、点滴療法が用いられる場合があります。ペットが頻回な下痢や嘔吐を起こしてしまうと、脱水症状を起こすケースも少なくありません。無理に口から摂取させると、より大きな反応(嘔吐や下痢)を引き起こしてしまうこともあるため、点滴療法によって対処する場合があります。

ペットたちの体は約60%が水分でできています。体内の水分が枯渇すると喉が渇くだけではなく、体内の細胞や細胞間にある水分も干上がってしまいます。水分が足りなくなってしまうと体内のイオンバランスが崩れ、より体調不良を引き起こす原因にもなります。

水分補給はこうした不調を改善する効果もあるので、ひどい下痢や嘔吐になってしまった際には、一般状態を少しでも緩和することを目的に、点滴療法が行われることがあります。

動物病院での点滴療法の流れ

動物病院での点滴療法の流れ

動物病院での点滴療法は、治療方針が入院なのか通院なのかでも異なります。ペットの性格や病気の状態次第で、どちらの点滴療法を行うべきかは変わるでしょう。飼い主さんとしても、ペットが適切な点滴療法を受けられるよう努める必要があります。点滴療法が行われる流れについて把握し、適切なサポートができるよう備えましょう。

検査と治療方針の決定

動物病院での検査ののちに適切な治療方針が確定されます。身体検査(聴診・視診・触診など)はもちろん、血液検査や尿検査、循環器疾患が疑われる場合には画像検査なども行い、内適切な点滴療法の治療期間や投与量、輸液剤の種類を決めます。

点滴療法を開始した後もこうした検査は定期的に実施され、症状の改善が認められるかどうかを判断しています。

入院での点滴管理

入院にて点滴療法を行う際は、静脈点滴が行われることが多いです。静脈点滴の場合、輸液剤を投与するのに早くても数時間、一般的には半日〜1日程度かかるため、処置は入院下で行われるケースが多いです。

静脈点滴はカテーテルを前足などの血管に留置して行われます。また、容態が急変した場合に必要な薬剤の投与にも、このカテーテルは有用です。一般状態(体温・心拍・呼吸)の変化がないかも確認しながら処置を行います。

通院による点滴治療

通院による点滴治療は、おもに皮下点滴で行われることが多いです。先述の通り、皮下点滴は輸液剤を投与するのに必要な時間が短時間で、入院は必要なく診察時にその場で治療できます。

また日々点滴治療が必要な状態のペットについては、自宅で飼い主さんが皮下点滴を行うことを勧められる場合もあります。これに関しては、各々の動物病院の方針がありますので、必ずしも可能かどうかはわかりません。もしもかかりつけの獣医さんから自宅での皮下点滴を勧められた場合には、動物病院での点滴治療の際に、飼い主さんがスキルを学び、しっかりと練習した後に臨む必要があります。

点滴前と治療中の注意点

点滴前と治療中の注意点

日々点滴を行う必要がある際の注意点は、ペットの状態について自己判断しないことです。また、自分で不調を訴えられないペットに代わり、飼い主さんがきちんと状態を伝える必要があるため、日ごろからペットの様子を観察しておく必要があります。

より正確でスムーズな受診ができるように、注意点について見ていきましょう。

来院前の様子を伝える

動物病院で点滴をする際は、来院前のペットの様子を獣医さんに伝えましょう。点滴治療がどれだけスムーズにできたとしても、針を刺したり、ペットの動きを制限しなければならないタイミングがあるため、多少なりともペットにストレスがかかります。

来院前に少しでも普段と様子が違うなら、ペットの体調が思わしくないケースもあるので、そうした状態はきちんと獣医さんに伝えてください。獣医さんはそうした問診の情報と検査結果から、ペットにその時必要な点滴治療法、を判断します。なるべく正確な状態を伝えられるように日々ペットの様子を観察しておくことが大切です。

点滴を打つ部分を清潔に保ち感染予防に努める

自宅でペットに皮下点滴を行う際は、点滴を行う前の消毒が大事です。必要以上に潔癖になる必要はありませんが、必ず、穿刺部位は消毒しましょう。

点滴中のストレスに配慮する

先述の通り、ペットは点滴中に多少なりともストレスを感じます。針を刺されると誰だって痛みを感じます。また入院して点滴療法を行う場合は、ペットは慣れない空間で過ごさなければならず不安を覚えるのも無理もありません。

しかし、点滴治療が必要な子にとって、点滴は体調を整えるための一助にもなるので、積極的にやっていく必要がある場合もあります。、飼い主さんは治療を頑張ったペットを褒めてあげたり、ストレスを発散させてあげるように努めてあげてください。治療前や治療後にペットの好きな遊びやおやつを与えるなどして、リラックスして過ごせるような環境を整えてあげましょう。

自己判断で治療を中断しない

昨今の情報の溢れる社会では、ペットを気にかけるあまりついつい自分で調べた情報をうのみにしてしまったり、自己判断で治療を辞めてしまう飼い主さんも少なくありません。ペットを思っての行動ではあるものの、基本的にこれらの行為はやってはいけません。

点滴療法に限らず、治療の中止や継続は獣医さんに相談した上で判断するようにしましょう。ペットがしんどそうだから、注射を嫌がるからと勝手に治療を中断することは、取り返しがつかない事態を引き起こしてしまう可能性もあります。。症状が安定している場合でも、継続的な点滴療法が必須となるケースもあるため、些細なことでも必ず獣医さんに相談しましょう。。

まとめ

まとめ

ペットの点滴療法は大きく分けて静脈点滴と皮下点滴の2種類に分けられます。いずれもメリットとデメリットがあります。その時の状態によって、選択される方法も異なります。

継続的な点滴治療が必要になってしまった場合に大切なことは、その子に必要な治療を、飼い主さんの無理のない範囲で行うことです。その際には自己判断で決定せず、必ず獣医さんに相談した上で、みんなにとってベストな方法を見つけましょう。

点滴治療に限らず、治療は二人三脚で行っていくことが大切です。

些細なことでも相談してみてください。きっとかかりつけの獣医さんは、家族全員にとってより良い治療方法を提案してくれることでしょう。

【参考文献】