犬や猫などのペットには、口腔内を清潔に保つためのデンタルケアが欠かせません。ケアがしっかりと行えていないと、ペットの歯には歯石ができてしまいます。
歯石は歯ブラシや歯磨きシートでは取れないため、動物病院での歯石取りが必要です。
歯石を放置していると、日常生活や命に関わる重大な疾患につながる可能性があるため、健康を守るためにも怠ってはいけません。
この記事では、ペットの歯石取りの流れや費用、麻酔下で処置を行う際のメリットとデメリットを解説します。歯石取りを検討する際の参考になれば幸いです。
ペットの歯に歯石が付く原因
歯石が付く原因は、歯磨きなどのデンタルケアがしっかりとできていないことです。食事後に歯磨きをしないでいると、唾液中の成分に細菌が付着し、歯垢(プラーク)が作られます。
歯垢は食後約6〜8時間で形成されますが、軟らかいため歯ブラシや歯磨きシートなどで簡単に除去が可能です。除去をしないまま過ごすと歯垢に唾液中のミネラル分が結合し、歯石へと変化します。
犬や猫などのペットは、人間に比べて歯石ができやすい傾向にあります。人間の口腔内は弱酸性から中性なのに対して、犬と猫は弱アルカリ性です。
犬の口腔内はpHが約8.0〜9.0であり、人間の平均であるpH6.8に比べると高い数値だとわかるでしょう。口腔内が弱アルカリ性である犬と猫は、人間とは違いむし歯ができにくい代わりに、歯石ができやすいという特徴があります。
歯垢が歯石に変わるまでの期間は人間だと25日程度かかるのに対し、犬の場合は3~5日で形成されます。少なくとも3日に1度のペースでデンタルケアを行わなければ、歯石の形成は防げません。
犬や猫が野生で生活していた頃は、肉や骨を噛むことで歯と食べ物が擦れ合って歯磨きの役割を果たしていました。
しかし近年は食べやすいペットフードが多く出回っています。ペットの体格にあわせて一粒の大きさも調整されており、小さい粒なら噛まずに丸飲みしてしまう子もいるでしょう。ペットの食生活が変わったことも歯石ができやすい要因となっています。
動物病院で歯石取りをした方がよい理由
歯石を除去しないまま放置しておくと、健康を害したり命に関わる危険な病気にかかったりする可能性があります。
口腔内のトラブルでは、ペットも人間と同じように歯周病を発病します。歯周病は歯に歯垢が溜まり続けることで、細菌に感染して引き起こされる疾患です。口臭がきつくなり、出血も起こります。また、歯を触られると痛みで嫌がるようになります。
歯周組織が破壊されると治療でもとに戻すことは難しく、歯が抜け落ちてしまう原因となるでしょう。
さらにひどい場合には、歯周病が心臓や腎臓などにも影響を及ぼすこともあります。敗血症などの重篤な疾患を引き起こす例もあり、最終的には死に至る可能性も否定できません。
歯周病のなかでも歯肉の腫れなどの軽い症状であれば、ほとんどの場合は治療が可能です。
歯周病の要因の1つとして、歯石が付着したままだと病原となる菌が繁殖しやすいことがあげられます。歯石は口腔内の細菌を増やし、歯周組織に感染させる可能性がある危険なものです。
一度でも歯石が付いてしまうと、歯磨きや歯磨きシートなどの自宅で可能なデンタルケアでは除去できません。動物病院でスケーラーなどを使った歯石除去の処置が必要となります。
病院以外で歯石取りを行っているところもあるようですが、スケーラーなどの道具を使った歯石取りは医療行為です。免許を持った獣医師でなければ行えないため、動物病院にお願いをしましょう。
歯石の除去はペットの健康を守るためには必要なことです。ペットの歯が歯石で茶色くなっているようなら、早めに歯石取りを検討しましょう。
動物病院で行う歯石取りとは
動物病院によっても歯石取りの方法や方針は異なります。
デンタルケアをメインで行っている病院を探すのもよいでしょう。何件かの病院で診察と相談を行い、ご自身のペットにあった方法を選ぶのもおすすめです。
動物病院ではどのように歯石取りを行うのか、一般的な方法での流れや費用などを解説します。
歯石取りの流れ
ほとんどの病院では日帰りで歯石取りを行っています。歯周病がひどいと歯石取りと同時に抜歯を行うケースもあり、状況によっては数日の入院が必要です。
動物病院で行う歯石取りは全身麻酔を使う方法が多いため、ここでは麻酔を使った方法を紹介します。どのような流れで歯石取りを行うのか、流れを確認しましょう。
まずは事前検査を行います。ペットの種類や年齢などで検査内容は異なりますが、一般的には以下の検査のなかからその子に合ったものを選んで行います。
- 視診・触診・聴診
- 血液検査
- 血液凝固能検査
- 胸部レントゲン検査
- 心電図検査
- 超音波検査
場合によっては歯周病の進行度を確認するため、口腔内のレントゲン検査やCT検査が必要になります。
麻酔のための事前検査は施術当日に行いますが、口腔内の検査は施術日前に行う病院もあるでしょう。口腔内の状態によって方針を決め、歯石取り以外にも抜歯が必要かどうかを判断します。
事前検査で問題がなければ全身麻酔を行います。
全身麻酔は血圧低下が起こりやすいため、まずは血圧低下の防止と脱水改善のために点滴を行うのが一般的です。その後鎮静剤や鎮痛剤などの麻酔前投薬を行い、ペットが落ち着いた状態で麻酔をかけられるように準備します。
通常の麻酔は細い管を気管に入れてガス麻酔を流し込むものです。ペットが起きている状態では管の挿入ができないため、麻酔導入剤でペットを眠らせてから挿入を行います。
麻酔が完全に効いたのを確認して、目に見える歯石の除去に取りかかります。
超音波スケーラーという機械を使うと、大きく固まった歯石を砕いて除去することが可能です。歯のすき間などに残った細かい歯石は、ハンドスケーラーやキュレットという器具で取り除きます。ここまでの処置で目に見える部分の歯石除去は完了です。
歯肉と歯のすき間にある歯周ポケットにも歯石は蓄積されます。
歯周ポケットの歯石も取り除かなければ病気の予防はできません。すき間に細い器具を差し込み、見えない部分の歯石も完全に除去します。
歯石の除去後は歯の表面の凹凸を滑らかにするため、ポリッシングという研磨処置を行います。
ポリッシングは歯垢や歯石の再付着を防ぐのに効果的です。先に粗い粒子の研磨剤で粗削りを行い、仕上げに細かい研磨剤で磨き上げて完了です。
最後に麻酔から目覚めたのを確認してすべての施術が終了となります。問題がなければ当日の帰宅が可能です。
歯石取りの費用相場
料金の相場は麻酔を使った場合と使わない場合で、それぞれ以下のようになります。
- 麻酔なし……5,000~15,000円程(税込)
- 麻酔あり……30,000~70,000円程(税込)
動物病院での診療費は各医院で料金設定が異なるため、同じ内容で歯石取りを行っても料金に違いが出ます。また、ペットの体重や必要な検査・処置の種類によっても費用が大きく変わります。
歯周病が進行している程多くの検査や処置が必要となるため、費用が高くなることを想定しなければなりません。抜歯をした場合には、状況を見て入院での対応を行うケースもあり、入院した日数分の料金が加算されます。
歯周病などの口腔内トラブルがなく、歯石取りのみの処置であれば安く済むでしょう。トラブルが深刻化するまえに歯石取りを行えば、ペットの健康が守られることに加えて費用が安く抑えられるメリットがあります。
歯石取りは麻酔を使用する?
歯石取りは大きく分けて麻酔を使う方法と無麻酔で行う方法があります。動物病院で行う歯石取りは麻酔を使う方法が主流ですが、麻酔をしなくても歯石取りは可能です。
そのため、麻酔ありで行っている病院と、麻酔なしで行っている病院があります。麻酔を使うのが心配な場合は、無麻酔で行っている動物病院を探すのもよいでしょう。
麻酔下での歯石取りを行うのメリット・デメリット
各医院のホームページを見ると、麻酔を使用した歯石取りを推奨する獣医さんも多く見られます。
麻酔の使用にはメリットはもちろんのこと、デメリットがあるのも否定できません。どのようなメリットとデメリットがあるのかを解説します。
歯石取りの痛みを軽減できる
麻酔下で歯石取りを行えば、ペットが施術中の痛みを感じることはありません。
歯石取りを完璧に行うためには、痛みを感じる部分も除去を行う必要があります。痛みを感じればペットは嫌がって暴れることもあるでしょう。
除去中に暴れるのはとても危険なことです。器具で口腔内を傷付けてしまったり、びっくりしたペットが思わず獣医師に危害を加えたりする可能性もあります。
安全性を高めるためにも麻酔の使用はメリットが大きいといえます。
歯周ポケットまで掃除できる
歯石取りは目に見える歯の表面だけでなく、歯周ポケットも行います。歯と歯肉の間に細い器具を差し込んで除去を行うため、麻酔下でなければできない処置です。
目に見える部分だけを除去しても、歯周ポケットのなかに歯石が溜まっていたら細菌の増殖は止められません。油断していると歯周病を引き起こす原因となります。
ペットの健康を守るために歯石取りを行うのが目的です。見た目のきれいさだけを考えずに、見えない部分の歯石もしっかりと取り除いてあげましょう。
歯周ポケットの中まで掃除ができるのは、麻酔を使うメリットの1つです。
麻酔そのものがペットの負担になる
麻酔を使うことのデメリットとして、ペットの負担になることがあげられます。麻酔は事前の検査や準備が必要で、短時間で簡単にできるものではありません。
血液検査では注射針で血液を採取されることを負担に感じる子もいるでしょう。臆病な性格の子ならレントゲンで抑えられるのも怖く感じるかもしれません。いくつかの検査や処置が精神的な負担になることもあります。
また、麻酔にはリスクがあり、なかなか目覚めないなどの危険が起こりえる可能性を否定できません。
獣医師が細心の注意を払って行いますが、高齢なペットや持病のあるペットはリスクが高い傾向にあります。ペットの年齢や健康状態によっては、麻酔下での歯石取りを推奨できない場合もあるでしょう。
無麻酔での歯石取りのメリット・デメリット
動物病院のなかでは、無麻酔の歯石取りを行ってくれるところもあります。過去に麻酔で異常があった子は、無麻酔での歯石取りを検討するとよいでしょう。
無麻酔で行う際のメリットとデメリットを解説します。
費用を抑えられる
まずメリットとしてあげられるのが、麻酔を使わない分費用を安く抑えられることです。先述したとおり、麻酔を使うのと使わないのとでは数万円の料金の差があります。
無麻酔では除去できる範囲に限りがあるからという理由もありますが、麻酔を使うよりも大幅に料金を下げられます。
状態が悪く本格的な処置が必要となると、麻酔なしでは不可能ですが、歯石の付着がひどくなれば無麻酔を選んでもよいでしょう。
本格的に歯石が付く前に無麻酔で歯石取りを行ってもらえば費用を安く抑えられます。
歯周ポケットのケアができない
無麻酔のデメリットは、歯周ポケットの中まで歯石除去ができないところです。歯周ポケットのケアを行うには、どうしても多少の出血があり痛みも伴います。
歯石取りを歯周ポケット内まで行う場合には、麻酔を使うしか方法がありません。歯石の付着がひどく歯周ポケット内にも歯石が入り込んでいる可能性があれば、麻酔を使った方法も検討してみましょう。
歯周ポケットに歯石を残したままにしておくのは歯周病の原因となるため危険です。
ペットが動いてしまうことによる怪我の可能性
歯石取りを行っている間にペットが動くと、器具でお顔やお口のなかを傷付けてしまう可能性があります。
おとなしくて恐怖心を感じないペットでない限り、無麻酔で歯石取りを行うのは難しいことです。お口のなかを触られるのを嫌がる子は多いでしょう。
動物病院では処置に慣れた看護師が動かないように固定をしてくれますが、急に動いて怪我をしてしまうリスクはゼロではありません。
無麻酔で歯石取りを行う際には、ご自身のペットがじっとしていられるかなど性格の見極めも必要です。
まとめ
ペットの歯石取りには、麻酔を使って行う方法と無麻酔で行う方法があります。それぞれメリットやデメリットがあるため、どちらがご自身のペットに合っているかを獣医師と話し合いながら決めていきましょう。
歯石を長く放置すると歯周病になり、健康や命を脅かす危険があります。症状が進行してからでは歯を失う可能性もあり、大がかりな処置がペットにとって負担のかかるものとなってしまいます。
ペットの健康を守るためにも早めの対処を行いましょう。
参考文献