犬の肥満細胞腫ってどのような病気?グレードや診断方法、治療法について解説

犬の肥満細胞腫ってどのような病気?グレードや診断方法、治療法について解説

犬の体に小さなしこりを見つけたとき、気のせいか、単なるイボかとそのままにしていませんか。

その小さなしこりは、皮膚に発生する悪性腫瘍のなかでも特によく見られる、肥満細胞腫かもしれません。

肥満という単語がついていますが、体型とは関係なくどのような犬にも発生する可能性のある病気です。

犬の肥満細胞腫を見た目で判断するのは難しく、放っておくと転移が広がり、命に関わる恐れがあります。

早期発見と早期治療が生存率を大きく左右するため、どのような病気なのかを理解しておきましょう。

本記事では、犬の肥満細胞腫の特徴やグレード、診断方法などについてわかりやすく解説します。

犬の肥満細胞腫とは

聴診器をかけているコーギー

犬の肥満細胞腫は、皮膚にできる悪性腫瘍としてよく見られる病気です。肥満細胞が腫瘍化することで発生し、赤みやかゆみ、腫れなどのさまざまな症状が現れます。

見た目で判断するのは難しく、早期発見と治療開始がとても重要です。まずは、肥満細胞腫の特徴や発生するメカニズム、予後についてわかりやすく解説します。

肥満細胞腫の特徴

肥満細胞腫と聞くと太っている犬が発症すると考えがちですが、肥満とは関係がありません。肥満細胞腫は犬の皮膚や皮下でよく見られる悪性の腫瘍で、体の中にある肥満細胞が腫瘍化し、増殖したりリンパ節や全身に転移したりする病気です。

犬の腫瘍全体の約20%を占めるとされています。また、肥満細胞腫は小さなイボや赤み、脱毛などのさまざまな症状が現れるため、見た目での判断は難しいのが特徴です。

しこりやその周辺の赤み、湿疹があるなど、見た目や体調に違和感を覚えたときは早めに獣医師に相談するようにしましょう。

肥満細胞腫が発生するメカニズム

こま

肥満細胞腫は、アレルギーや免疫に関与する肥満細胞が異常に増殖することで発生し、そのほとんどが悪性の腫瘍です。

肥満細胞腫は、外からの異物に対してアレルギー反応や炎症反応を起こす役割のある白血球の一つで、皮膚や粘膜などに存在します。

この肥満細胞腫のなかには、炎症を起こすヒスタミンという物質が蓄えられており、異物が侵入すると放出されるのが正常な反応です。

腫瘍化した肥満細胞である肥満細胞腫のなかにもヒスタミンは含まれており、刺激を受けて過剰に放出すると吐き気や下痢、胃潰瘍などの炎症を引き起こします

また、突発的にヒスタミンが放出されると急激にショック状態になる可能性もあるため、早期発見と治療開始が重要です。

肥満細胞腫の予後

公園で犬と遊ぶ女性

犬の肥満細胞腫の予後は、グレードや進行度完全切除ができたかどうかなどによって異なります。例えば、低グレードであれば手術で根治する可能性がありますが、高グレードになると予後は厳しいことがほとんどです。

高グレードの場合、再発や転移のリスクが高く、グレード3になると適切な治療をした場合でも生存期間は平均6ヶ月程度とされています。

治療の選択肢は複数あり、個体によって必要な治療法は異なるため、獣医師と相談したうえで納得できる方法を選択することが大切です。

肥満細胞腫のグレード

診察中のヨークシャテリア

犬の肥満細胞腫は、3つのグレードに分類されています。グレードは、腫瘍の悪性度を表わしており、悪性度が低いものがグレード1、高いものがグレード3の順番です。

グレードによって治療方針や予後が大きく異なるため、適切な治療を選択できるよう、それぞれの特徴を理解しておきましょう。

グレード1

グレード1は皮膚にできることが多く、比較的小さなしこりで、悪性度が低い肥満細胞腫です。 転移や再発も起こりにくく、3年生存率は約90%とされています。

経過観察は必要ですが、切除手術を行うことで根治を見込める段階です。この段階で適切な処置ができれば、予後は良好で長生きにも期待できるでしょう。

ただし、低グレードでも再発のリスクはあるため、獣医師との治療計画の相談や定期的な検査が重要です。

グレード2

グレード2は、悪性度が中程度の肥満細胞腫で、完全切除できれば根治する可能性がある段階です。しかし、リンパ節や臓器、皮膚などに転移することもあり、3年生存率は約55%とされています。

また、周囲の正常組織にも広がりやすいため、完全に取り切るには広範囲での切除が必要です。適切な治療で予後が良好なこともあれば、転移や再発で進行してしまうことも少なくありません。

グレード1に近いグレード2なのか、グレード3に近いグレード2であるのかによって予後が大きく異なります。グレード2と診断された場合は、より詳しい評価を行ったうえで、治療方針を決めることが大切です。

グレード3

グレード3は、成長や進行速度が速く、肥満細胞腫のなかでも悪性度がとても高い段階です。診断時にはすでに転移していることもよくあり、3年生存率は約15%とされています。

手術で腫瘍を切除しても根治は難しく、十分な治療を行っても転移や再発が起こることがほとんどです。

手術で腫瘍の周囲を広範囲で切除したうえで、放射線治療や内科的治療を行います。症状が進行している場合は、QOLの向上を目指して、ヒスタミン放出を抑える薬の投与を行う緩和的治療を検討することもあります。

肥満細胞腫の診断方法

犬(動物・ペット)の診療をする女性の獣医

犬の肥満細胞腫は、まず、麻酔なしで行う細胞診という検査や転移のチェック、CT検査などを行います。ただし、これだけでは正確なグレードの評価や治療方針の決定が難しいため、病理検査と遺伝子検査も必要です。

ここでは、病理検査と遺伝子検査の目的や概要をわかりやすく解説します。

病理検査

病理検査は、摘出した腫瘍組織から腫瘍が肥満細胞腫であるかどうかの確定診断や、グレードの評価を目的とした検査です。外科手術で摘出した腫瘍を検査機関に提出し、顕微鏡で組織構造を分析します。

手術前の検査では予測できないグレードを判断し、追加治療や再手術などの今後の治療方針を決定するためにも、とても重要な検査です。

ただし、グレードの判定は病理診断医の主観的な評価になるため、同じ腫瘍であっても診断が一致するとは限りません。明らかに悪性度が低ければグレード1、悪性度がとても高い場合はグレード3と評価されますが、どちらともいえないものはグレード2に分類される傾向があります。

そのため、グレード2と判断された場合は見た目でわかる変化や体調の変化、そのほかの所見から、より詳しく評価する必要があるでしょう。

遺伝子検査

遺伝子検査は、細胞を少量採取して腫瘍細胞の遺伝子異常を確認する検査です。なかでも、腫瘍の悪性度や治療薬の効きやすさなどを予測するために、c-kit遺伝子と呼ばれる遺伝子の変異を調べます。

c-kit遺伝子に変異が見られると、内科的治療で用いられる分子標的薬という薬が効果的であることがわかっています。治療方針を検討するためにも、必要な検査といえるでしょう。

ただし、遺伝子検査で変異が見られなかった場合でも分子標的薬に反応することはあります。遺伝子検査はあくまで予測であり、投薬で反応を見ながら治療を進めていくと理解しておくとよいでしょう。

肥満細胞腫の症状

「もち」と「こま」

犬の肥満細胞腫はさまざまなバリエーションで症状が現れるため、見た目での判断が難しい病気です。少しでも早く診断と治療が行えるように、よく見られる症状や部位などを確認しておきましょう。

ここでは、肥満細胞腫の疑われる症状と出現しやすい部位を解説します。

肥満細胞腫の症状

犬の肥満細胞腫で現れる症状はさまざまで、初期段階では見た目での判断は難しいとされています。そのなかでも、注意すべき症状は以下のとおりです。

  • 皮膚のしこり
  • 赤み
  • 脱毛
  • 下痢
  • 嘔吐
  • 食欲不振

上記のような症状が複数見られる場合や、しこりが大きくなったり小さくなったりしている場合は、早めに動物病院へ行くようにしましょう。しこりを触るとヒスタミンが突発的に放出され、重篤な状態になる恐れもあるため、自己判断するのは危険です。

また、病気が進行しているとヒスタミン放出の影響によって、下痢や嘔吐などの胃潰瘍症状や出血症状などが現れることもあります。犬の体に違和感があるのであれば、まずは獣医師に相談しましょう。

犬の症状が出現しやすい部位

犬の肥満細胞腫のほとんどは皮膚に発生するのが特徴です。皮膚に発生する割合は腫瘍全体の7〜12%で、悪性皮膚腫瘍の11〜27%を占めています。

主な発生部位は以下のとおりです。

  • 体幹と会陰部は50%
  • 四肢は40%
  • 頭頸部は10%

上記以外にも、口腔や気管、鼻咽頭でも発生することがあります。日々のスキンシップで皮膚をよく観察し、気になるものがあれば獣医師に相談するとよいでしょう。

肥満細胞腫の治療方法

獣医さんと犬

犬の肥満細胞腫の治療法は、大きく3つに分けられます。

  • 内科的治療
  • 外科的治療
  • 放射線治療

それぞれでどのような治療を行うのかを理解し、効果的な治療法を選択できるようにしましょう。

内科的治療

内科的治療は、グレードが高く転移や再発のリスクがある場合や、腫瘍が全身に転移しているときなどに用いられます。具体的な治療法は、以下のとおりです。

  • ステロイドホルモン剤
  • 抗がん剤
  • 分子標的薬

ステロイドは、炎症やアレルギー反応を抑えるために投与する薬で、肥満細胞の増殖やヒスタミンの放出を抑制する効果に期待できます。よく用いられる治療法ですが、治療効果は長く続かないため、ほかの治療と併用して行うことがほとんどです。

抗がん剤は、腫瘍をコントロールするために用いられる方法で、副作用のリスクがあるといわれているため、投与は動物病院で行います。

分子標的薬は、腫瘍をピンポイントに標的として、細胞を選択的に抑制できる治療法です。効果の有無がはっきりしているため、遺伝子検査で変異を確認して行います。

ただし、遺伝子に変異がなくても反応することがあるため、実際に投薬して判断する方がよいでしょう。自宅で内服できるメリットもあるため、獣医師と相談するのがおすすめです。

外科的治療

こたろう エリザベスカラー

外科的治療は、犬の肥満細胞腫で根治を目指す治療に有効とされている方法です。特に、転移がなければ適切な外科手術を行うことで根治を目指せるでしょう。

手術を行う際は犬に全身麻酔をかけ、腫瘍細胞を取り除きます。その際、目に見えないレベルで周囲に広がっている可能性を考慮して、腫瘍の周囲2〜3cmの余裕をもって切除するのが一般的です。

取り残しがあると再発のリスクがあるため、高グレードの場合はより広範囲の切除が必要になることもあります。取り残しがあった場合は、再手術や放射線治療などが検討されます。

放射線治療

放射線治療は、基本的には外科手術だけでは取り切れなかった場合に行う治療法です。目に見えないレベルで取り残した肥満細胞腫には、約85〜95%の確率で局所再発を予防する効果が期待できます。

ただし、腫瘍細胞の数が多い場合や、すでに転移してしまっている場合などは、放射線のみでの根治は見込めません。根治を目的としない放射線治療としては、一定期間腫瘍の成長をコントロールしたり、局所治療の負担軽減を目的として行うこともあります。

肥満細胞腫の予防方法

犬のケアをする女性

犬の肥満細胞腫に対して、明確な予防方法は確立されていません。そのため、早期発見と早期治療が有効な対策の一つといえるでしょう。具体的には、普段からスキンシップを取り、しこりや腫れ、赤みなどの症状が現れていないかを確認します。

特に、しこりの大きさが急に変わったり、その周辺に赤みや腫れが現れたりしている場合は、早めに獣医師に相談しましょう。飼い主自身のチェックだけでなく、獣医師による定期的な健診も大切です。

また、嘔吐や下痢などの消化器症状がある場合は、病状の悪化やほかの病気の併発が疑われます。すぐに動物病院に相談して検査を行いましょう。

肥満細胞腫の手術を行った後も注意が必要です。特に、高グレードの肥満細胞腫は再発リスクが高まるため、手術後も通院が欠かせません。再発すると初回の治療よりも根治が難しくなるため、治療方針をしっかりと相談するようにしましょう。

まとめ

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犬の肥満細胞腫は皮膚によく見られる病気で、その腫瘍のほとんどは悪性腫瘍です。

しこりや赤み、腫れなどの見た目の症状が現れますが、ほかの病気でも見られる変化のため、見た目や感触だけで判断するのは難しいとされています。

肥満細胞腫の治療は、遺伝子検査や病理検査で正確なグレードを評価したうえで、適切な方法を選択するのが一般的です。

低グレードで発見できれば手術による根治が見込めますが、高グレードの場合は転移のリスクが高まるため、内科的治療や放射線治療などが必要になるでしょう。

犬の肥満細胞腫に対する明確な予防方法は確立されておらず、早期発見と早期治療が有効な対策です。そのためには、飼い主の気付きが欠かせません。

日頃からスキンシップを取ることを心がけ、皮膚の違和感を見つけたら様子見をせずに、早めに獣医師に相談しましょう。

参考文献