猫は人間と同様にさまざまな病気にかかります。全身を覆う皮毛の中で菌が繁殖しやすいため、特に皮膚の病気にかかりやすいです。
猫がかかる皮膚の病気に疥癬症があります。疥癬症がどのような病気なのかを知っておくと、大切な愛猫の日常を守れるでしょう。
この記事では、疥癬症の特徴・症状から検査・治療法まで詳しく解説します。対処法・予防法についても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
猫の疥癬症とは
猫は全身が毛で覆われているため、見ただけでは皮膚の異常に気付きにくいものです。しかし、猫がかかる病気には皮膚の病気も多く存在します。
その中の1つが疥癬症(かいせんしょう)です。まず疥癬症とはどのような病気なのか、特徴・原因について解説します。
寄生虫による感染症
疥癬症はヒゼンダニという寄生虫が原因で起こる感染症です。ヒゼンダニは猫の毛包・皮膚角質層内に寄生し、表皮を食べながら4〜6週間生息するのが特徴です。
メスダニはオスと交尾しては猫の体表を歩き回って角質層内にトンネルを掘り、寿命が尽きるまでの期間に1日2〜4個ずつ産卵し続けます。
トンネルに産卵された卵は3〜5日で孵化すると、約10〜14日間かけて脱皮を繰り返しながら幼虫・若虫・成虫の順に成長していきます。
こうして皮膚内で繁殖するヒゼンダニの虫体・糞・脱皮殻などに対し、アレルギー反応を起こしている状態が疥癬症です。
ヒゼンダニは宿主の皮膚から離れると、約数時間で感染力が低下します。とはいえ伝染力は強く、接触した別の猫を宿主にして繁殖する可能性も高いです。
人獣共通の伝染病
疥癬症は猫特有ではなく、その他の動物も発症する病気です。ヒゼンダニには犬・ウサギ・牛・馬・羊などの哺乳動物を固有宿主とする種類があります。
主な原因虫は猫小穿孔(しょうせんこう)ヒゼンダニ・犬穿孔ヒゼンダニです。これらはヒトヒゼンダニの変種であり、人間も疥癬症にかかります。
猫小穿孔ヒゼンダニの体長は約0.1〜0.3ミリメートルで、ヒトヒゼンダニはやや大きい約0.2〜0.4ミリメートルです。どちらもオスよりメスの方が大きくなります。
基本的に動物を宿主とするヒゼンダニはヒトの皮膚で繁殖はできませんが、一時的な寄生は可能です。そのため、ペットから飼い主にも伝染します。
さらに、多頭飼いをしていたり数種類の動物を飼っていたりする家庭は、1匹の猫が発症すると人獣関係なく伝染する恐れがあります。
猫の疥癬症にみられる症状
一口に皮膚の病気といっても、その症状は病気によってさまざまです。強く症状が出る場合もあれば、飼い主さんが気付かない程軽度の場合もあります。
疥癬症にはどのような症状がみられるのか、主な3つの症状をご紹介します。ご自分の愛猫にこのような症状がないかどうかをチェックしてみてください。
皮膚の変化・炎症
疥癬症を発症すると、皮膚の炎症症状が顕著に表れます。ヒゼンダニは皮膚のどこにでも生息するため、症状は頭部・頸部を中心に全身にまでおよびます。
初期症状として、表皮の角質が厚くなり鱗状の白色片が認められる鱗屑(りんせつ)が生じやすいです。皮膚がゴワゴワとして老けたようにも見えてきます。
また鱗屑が皮膚から剥離し、フケ(落屑)が目立つようになります。猫にフケが多くみられる場合は、皮膚疾患かアレルギーの可能性が高いです。
さらに進行していくと炎症がますます強くなり、発赤・紅斑性丘疹(こうはんせいきゅうしん)が皮膚の広範囲にみられるようになるでしょう。
皮膚の変化により毛の根元がかさぶたで固まり、抜け毛が増えて脱毛も生じます。脱毛は耳の縁・顔面に多くみられます。
重度のかゆみ
疥癬症の目立った特徴は、アレルギー反応として皮膚に重度のかゆみが生じる点です。かゆみは感染初期からみられ、その他の症状が出ない猫もいます。
猫は後ろ足で身体を掻く姿がよく見られますが、疥癬症を発症すると四六時中掻きむしりたくなるようなかゆみに襲われます。
かゆみは頭部・頸部から生じるケースが多く、頭を振る仕草もかゆみによるものと考えられるでしょう。身体を気にして舐めているのもかゆみのサインです。
もし愛猫が身体を掻く頻度が増えた、またはいつもかゆがる仕草をしている場合には疥癬症を疑うべきです。放置すると症状が全身に広がる危険性が高まります。
出血・化膿
重度のかゆみにより爪で皮膚を掻きむしることで、患部から出血がみられる猫も多いです。出血してもなおかゆみが収まらずさらに掻いてしまいます。
また、猫の爪・口腔内には多くの細菌が存在します。そのため、傷ついた患部を放置したり猫が舐めたりすると傷に細菌が入り、化膿することもあるでしょう。
ヒゼンダニが生息する皮膚は汚染されており、バリア機能も損なわれている状態です。出血するまで見過ごしていると、ほかの病気にかかるリスクも高まります。
猫の疥癬症を見つけるための検査
前述したような症状がみられても、すべて疥癬症が原因とは限りません。疥癬症を患っているかどうかを診断するには、検査が必要不可欠です。
疥癬症の検査にはいくつか種類がありますが、ここでは代表的な2つの検査を取り上げます。検査の特徴・診断基準などを確認しましょう。
皮膚掻爬検査
ヒゼンダニをはじめ、皮膚・毛穴の内部で生息する寄生虫を検出するために行われる検査が皮膚掻爬(そうは)検査です。
まず鋭匙(えいひ)というスプーン状の器具を使い、皮膚の病変部から被毛・落屑を採取します。病変によっては採取する箇所・深さを調整するのが大切です。
そして採取した被毛・落屑に10〜20%水酸化カリウム溶液を加え、顕微鏡でヒゼンダニの存在が確認された場合に疥癬症と診断されます。
皮膚掻爬検査は簡単かつ短時間で確定診断ができるため、疥癬症の診断で多く用いられます。とはいえ、疥癬症の猫すべてでヒゼンダニが発見されるとは限りません。
セロテープ法
セロテープ法は名前のとおり、透明なセロハンテープを皮膚の病変部へ直接押しつけて表皮に付着している細胞・寄生虫・卵などを鏡検する検査です。
セロハンテープの代わりにスライドガラスを用いる検査と合わせて、皮膚押捺塗抹(おうなつとまつ)検査またはスタンプ検査とも呼ばれています。
ただし、スライドガラスよりもセロハンテープの方が凹凸が多い顔面・四肢の検査がしやすく、身体の小さい子猫にも用いやすいです。
表皮に付着しているものを直接検査できるため、皮膚掻爬検査と同等に疥癬症を診断しやすい手軽な検査となっています。
猫の疥癬症に有効な治療法
検査によって疥癬症と診断されたら、これ以上症状を悪化させたり感染を広げたりしないためにもすぐに治療を行う必要があります。
疥癬症治療で重要なのは、原因となるヒゼンダニの駆除です。ここからは、猫の疥癬症に有効とされる2つの治療法について解説します。
投薬治療
ヒゼンダニの駆除には、抗寄生虫薬の投薬治療が適切です。症状が軽度であれば、皮膚に薬剤を滴下するスポットタイプのセラメクチンが用いられます。
また、疥癬症の治療では注射もしくは内服で使用されるイベルメクチンも、多くの症例で効果が認められています。
イベルメクチンは週に1回投与が基本です。そして2週間後には、かゆみをはじめとする諸症状がほとんど収まるまでに高い効果を発揮します。
このような結果を受け、検査で虫体が検出できなかった場合の類症識別法として、イベルメクチンによる診断的治療を行うケースもある程です。
多くの場合、1回の投薬治療で完治させるのは難しいため、複数回にわたる治療が行われます。自己判断で治療を中断しないようにしてください。
薬浴
症状を放置してしまうと、患部の二次感染および被毛・落屑による飛散が生じる危険があります。また投薬は卵には効かないため、薬浴を行うのが有効です。
殺虫効果のある薬浴剤を用い、動物病院もしくは獣医師の指導のもと自宅で1〜2週間に1回を目安にシャンプーを行います。薬浴剤はアミトラズが効果的です。
イベルメクチンの投与およびアミトラズ薬浴を併用して治療を進めることで、より高い効果を発揮するとされています。
ただし薬浴用の薬剤は副作用が出る可能性もあり、頻繁に使用するのはかえって猫への負担が大きくなります。使用期間の目安は守りましょう。
そして、飼い主さんの方も薬浴をする際は手袋をして薬剤に直接触れないようにします。薬浴方法については獣医師の指示にしっかり従ってください。
猫が疥癬症を発症したら飼い主がするべき対処法
大切な愛猫が疥癬症を発症したら、飼い主さんは猫および自分自身を守るために適切な対処を行う必要があります。伝染してしまうと状況がさらに悪化するからです。
ここからは、飼い主さんが自宅で取るべき3つの対処法を、とり上げます。実際に猫が感染してしまう前によく確認して備えておきましょう。
隔離する
まず大切なのは、疥癬症を発症した猫を隔離することです。感染猫と直接接触すると、ヒゼンダニが移動し感染してしまいます。
多頭飼育の家庭は、これ以上感染を広げないために感染猫および同居動物たちの部屋を分け、互いが行き来しない環境を整えなければなりません。
飼い主さんはお世話のために接触を避けられませんが、治癒するまでは感染猫を必要以上に撫でたり抱っこしたりといった過度な接触は避けましょう。
世話をしている時に服または身体にヒゼンダニが付着している可能性もあるため、同居動物たちのお世話をする際は十分注意してください。
使用器具は熱湯消毒する
ヒゼンダニは高温に弱い点が特徴です。50度以上の高温に10分以上さらされると死滅することが明らかになっています。
よって、感染猫に使用した治療器具ならびに食器・トイレなどは、使ったらなるべく熱湯消毒をしましょう。鍋でお湯を沸かし煮沸消毒するのがおすすめです。
愛用している首輪・おもちゃ、さらにベッド・カーペットにもヒゼンダニは付着しているでしょう。天日干しではなく、熱湯消毒で死滅させてください。
感染猫が使ったタオル・ブラシを同居猫が共有することで、伝染するケースも多いです。使用するものは分け、念のためすべて消毒するのがよいでしょう。
また、ヒゼンダニは乾燥に弱く湿度が低い場所が苦手です。消毒した器具はもちろん、洗えないものもよく乾燥させるようにします。
生活環境をこまめに掃除する
感染猫の身の回りをきれいに整えて治療を行っていても、部屋自体の掃除が十分でなければまた感染する可能性が高いです。
感染猫が通った場所にはヒゼンダニがいると考えて、こまめに掃除するよう心がけてください。丁寧に掃除機をかけて吸引・除去しましょう。
ダニの死骸・糞は空気中に舞い上がるため、掃除機の出力を上げてゆっくりとかけるのがポイントです。なお、生きているダニは取れないので注意しましょう。
同居猫に疥癬症の症状が出ていなくても、すでに感染している可能性もあります。家全体をしっかりと掃除し、ヒゼンダニのいない空間に整えましょう。
猫の疥癬症を予防するには?
愛猫を疥癬症で苦しませないためには、そもそも感染させないことが重要です。誰にでも感染するリスクはありますが、予防策を講じておくことで被害を抑えられます。
そこでここからは、感染予防のために注意しておくべき2つのポイントを解説します。飼い主さん自身の感染予防ともなるため、ぜひ覚えておいてください。
野良猫と接触させない
疥癬症に感染する経路として特に有力なのは、野良猫との接触です。野良猫は不衛生な環境で生活しており、ダニ・ノミに寄生されている確率が高いといえます。
よく外出する猫は、野良猫と接触したり不衛生な場所へ自ら入って行ったりすることもありますが、飼い主さんはそのことに気付けません。
知らない内に愛猫が感染してしまわないように、完全室内飼育にするのがよい予防策となります。事故・ウイルス感染などあらゆる危険から猫を守れます。
また、野良猫を保護する場合には早めに検査を行い、疥癬症でないと診断されてから同居猫と会わせるようにしましょう。
定期的にノミダニの予防・駆除剤を使用する
外出させないようにしていても、思わぬところから脱走してしまう猫もいます。そのような猫の感染予防には、ノミダニの予防・駆除薬の使用が効果的です。
ヒゼンダニは体温より低い温度では動きが鈍く、16度以下では動きません。冬から春へと気温が高くなってくる頃は活発化しやすく、特に対策が必要です。
動物病院で処方される予防・駆除剤を定期的に使用するようおすすめします。自宅で使用できるものが多いため、用法・用量を守って適切に使いましょう。
また、意外と油断してしまうのが冬の時期です。暖房・加湿器を使用し高温多湿になった室内は、ダニが生息しやすい環境となっています。
猫のノミダニ予防をするとともに、家の中もノミダニ対策を行ってください。気がついた時にするのではなく、定期的に行うことが重要です。
まとめ
この記事では、猫がかかる疥癬症の症状・検査・治療法を解説しました。疥癬症は強い症状が出るため、猫も人も感染するとつらい思いをします。
まずは猫の行動範囲について確認し、感染予防を心がけましょう。もし感染してしまった場合にも、異変に早く気付き検査・治療を行うのが大切です。
すべての病気を避けるのは不可能ですが、愛猫がなるべく苦しまないように対策を講じることはできるでしょう。ぜひ日頃から健康チェックを行ってください。
参考文献