猫の皮膚病が治らない…。もしかすると「扁平上皮癌」かも知れません。
猫の扁平上皮癌は、皮膚や粘膜に存在する細胞が癌化し、増殖する悪性の腫瘍です。
猫の皮膚や口腔などさまざまな部位に発生し、早期発見が重要です。
本記事では猫の扁平上皮癌について以下の点を中心にご紹介します。
- 猫の扁平上皮癌でみられる症状
- 猫の扁平上皮癌の原因
- 猫の扁平上皮癌における治療法
猫の扁平上皮癌について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
猫の扁平上皮癌とは
猫の扁平上皮癌は、主に高齢の猫に見られる悪性の皮膚腫瘍です。また、白猫や、白毛を含む猫にも多くなる傾向にあります。
猫の扁平上皮癌は、身体のさまざまな部分で発生しますが、特に耳、鼻、足など、皮膚が薄い部分や色素の薄い箇所に好発します。
猫の扁平上皮癌は、皮膚や粘膜に存在する「扁平上皮細胞」が癌化して増殖し、発生します。特に、耳の先端や上下のまぶた、鼻先の濡れている箇所、指先に発生しやすく、指先にできた場合は骨にまで広がることがあります。
また、皮膚だけでなく口腔内にも見られることがあります。特に歯茎や舌にできた場合は、迅速に進行し、広範囲に及ぶことが特徴です。
猫の扁平上皮癌における治療の選択肢としては、外科的手術や放射線療法などがありますが、早期発見と迅速な対応が重要です。
猫の扁平上皮癌の症状
猫の扁平上皮癌の初期症状は微細で、皮膚や粘膜の軽度の変化から始まるため、初期段階では皮膚炎や小さな傷との区別が難しいことがあります。
扁平上皮癌の見た目は多様で、以下のような症状が見られることがあります。
- かさぶたのある浅い傷のように見える
- 傷がえぐれたように見える、潰瘍・ただれのような病変
- 赤みを帯びた硬い盛り上がりが見られる
また、これらは1カ所だけでなく、複数カ所に多発して、カリフラワー状に発生することもあります。
特に耳の先端、眼瞼(上下のまぶた)、鼻鏡(鼻先の濡れている箇所)、指先などの皮膚が突然赤くなったり、ただれたりする場合は、扁平上皮癌の可能性が高いと考えられます。
怪我や軽い皮膚炎であれば、数日の内に小さくなるものですが、扁平上皮癌は日ごとに病変が広がり、特に潰瘍を作って周囲がただれていく特徴があります。
さらに、足の指に発生した場合は、腫れや痛み、爪の喪失、跛行などを引き起こすことがあります。
口腔内で発生する扁平上皮癌の場合は、初期では粘膜が赤くなることから始まり、腫瘍が大きくなると以下のような症状が見られます。
- 飲水や食事がし辛そう、またはできなくなる
- 涎の増加
- 出血
- 生臭い口臭など
また、鼻腔にできる扁平上皮癌では、鼻出血などの症状が現れることもあります。
扁平上皮癌が進行すると、ただれや潰瘍が大きくなり、膿や出血による悪臭が生じることもあります。また、元気や食欲がなくなってきます。
猫の扁平上皮癌は進行が早いため、これらの症状に気づいたら速やかに動物病院で診察を受けることが重要です。
早期発見と適切な治療が、猫の健康と生存率につながります。
猫の扁平上皮癌の原因
猫の扁平上皮癌は、環境要因や、遺伝的要因などが複雑に絡み合って発症するといわれています。
猫の扁平上皮癌の発生原因は明確に解明されていませんが、以下のような要因が関連していると考えられています。
- 白猫や、白毛を含む猫
- 紫外線・日光への曝露
- パピローマ(乳頭腫)ウイルス
- タバコの受動喫煙
- ノミ除け首輪
- 10歳以上の高齢猫
特に、色素の薄い皮膚や白色系の毛色を持つ猫が太陽光線(紫外線)に長時間晒されると、扁平上皮癌のリスクを高めると考えられています。しかし、シャムやヒマラヤン、ペルシャ猫では扁平上皮癌の発症リスクは低いといわれています。
加えて、パピローマウイルスの感染も扁平上皮癌の発生に関与している可能性があり、特に日光とは無関係な場所にできる皮膚の扁平上皮癌において、その関連が指摘されています。
さらに口腔内の扁平上皮癌に関しては、ノミ取り首輪の使用、缶詰フードの大量摂取、タバコの煙への暴露などが関係しているといわれていますが、これらの因果関係はまだ明確には分かっていません。
また、猫エイズ(猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症)との関連も考えられ、免疫力が低下している猫は扁平上皮癌を発症しやすくなる可能性があります。
これらの要因を総合すると、扁平上皮癌の発生には紫外線の影響、ウイルス感染、生活環境など複数の要因が絡み合っていることが推測されます。
したがって、特にリスクが高いとされる猫に対しては、日光への露出を避ける、適切な環境管理をするなどの予防策が推奨されます。
猫の扁平上皮癌の検査・診断
猫の扁平上皮癌の診断には、さまざまな検査方法が用いられます。これらの検査は、癌の存在、位置、および進行度を特定するために重要です。
検査はX線検査、細胞診、病理組織検査、画像検査(CT・MRI)などを組み合わせて行われます。
X線検査
X線検査は、扁平上皮癌の診断初期段階において、また患部の転移状況を確認する上で極めて重要な役割を果たします。足指に腫瘍が発見された場合、特にこの検査は、肺癌からの転移と原発性の判断をするために不可欠です。このX線検査により、獣医師は腫瘍の原発巣とその転移像をある程度推察することができるため、その後の適切な治療計画を立案します。
細胞診
細胞診は、腫瘍の表面から細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査です。潰瘍やただれがある場合に、ガラス板を押し当てて細胞を採取します。この方法で腫瘍細胞が見られるかどうかを確認し、腫瘍の性質を推測します。
ただし、細胞診で確定診断には至らないことがあり、病変が腫瘍であっても腫瘍細胞が見つからないこともあります。
炎症や細菌感染が同時に起こっている場合、それらを示す細胞像が観察されることもあります。
病理組織検査
病理組織検査は、腫瘍を外科的に切除し、その組織を顕微鏡で詳しく調べる検査です。
病理組織検査は、腫瘍の種類やがん細胞の特性、悪性度を正確に判断するのに役立つ方法です。特に口腔内腫瘍の診断には、外観だけではなく、病理組織検査による詳細な分析が必要です。
手術前にはX線検査やCT、MRIなどの画像診断を併用して、腫瘍の広がりを把握します。
画像検査(CT・MRI)
CTやMRIは、扁平上皮癌の詳細な画像診断に用いられる検査です。これらの画像検査は、腫瘍の正確な位置、大きさ、周囲の組織や骨への影響を詳細に評価する為に行われます。
特に、腫瘍が骨を侵しているかどうか、また転移の有無を確認する為にも重要です。
CTやMRIは、外科手術や放射線治療の計画を立てる際にも役立ち、治療範囲や照射部位の決定に不可欠です。
猫の扁平上皮癌の治療法
猫の扁平上皮癌は、その発生場所や進行度によって治療法が異なります。
主に外科的切除、放射線療法、化学療法、および食事療法が選択肢として挙げられます。
これらの治療法を適切に組み合わせることで、猫の生活の質(QOL)を維持しつつ、可能な限り寿命を延ばすことを目指します。
外科的切除
腫瘍の外科的切除は、特に上顎・舌・喉頭・咽頭以外で発生した扁平上皮癌に対して、第一の治療選択とされます。皮膚にできた扁平上皮癌は、外科的に取り除ける可能性があり、完治が望める為です。
また、ごく初期の状態で、腫瘍が5mm以下程と小さく、周囲の組織に広がっていない場合は、腫瘍を凍結して壊死させる治療が行われる場合もあります。
しかし鼻腔や口腔の腫瘍が大きい場合や骨に広がっている場合は、その部分の手術後にうまく嚥下できなかったり、消化器の機能障害を伴うことがあり、その場合胃瘻チューブや食道チューブの設置などが必要になります。また、眼瞼や鼻鏡の腫瘍は切除できる範囲が限られる為、切除しきれない場合は、放射線療法や化学療法を併用し、腫瘍の増大を遅らせるという方法もあります。
放射線療法
放射線療法は、外科手術だけでは完全に取り除けない腫瘍や、手術後に残存するがん細胞を除去する補助的な治療方法として用いられることがあります。特に、口腔内の扁平上皮癌に対して放射線療法を適用する場合、期待できる効果は限定的な場合が少なくないとされています。しかし、外科的切除と組み合わせることによって、生存期間を延ばすことが可能になることがあります。近年においては、放射線治療法の技術革新が進み、よりがん細胞による周囲の正常組織へのダメージを抑えるのが可能になっています。これらの新しい放射線治療法の開発により、今後の治療成績の向上が期待されています。
化学療法
化学療法(抗がん剤)は、扁平上皮癌の進行抑制や、扁平上皮癌による骨破壊の抑制、疼痛緩和を目的として行われます。
しかし、化学療法だけでの治療が常に十分に効果が期待できるわけではなく、放射線療法と組み合わせて行われることで力を発揮します。近年では腫瘍組織に直接抗がん剤を投与する方法などが試みられることがあります。
また、がんが進行すると、口腔内の痛みが増し、食事の摂取が困難になることがよくあります。そこで化学療法とは別に、抗炎症薬や抗生物質などの注射や経口薬による痛みの管理が重要な役割を果たします。
これらの治療の組み合わせにより、扁平上皮癌の治療成果を高めることが期待されています。
食事療法
口腔の扁平上皮癌の場合、腫瘍が大きくなると、水分や食事の摂取が困難になることがあります。その場合、「胃ろうチューブ」や「食道チューブ」を通じて、栄養状態の維持を目的とした食事療法が重要になります。
食道チューブは食道から太目の管を、胃ろうチューブは腹部から皮膚を通して太目の管を設置します。どちらも設置するときに麻酔が必要になる為、体力が落ち切った状態ではリスクを伴います。
また、外科的切除で下顎を半分または全て切除した場合や、舌も切除した場合も、チューブを通じて、栄養や水分を胃へ入れられるようにすることもあります。
しかし、顎や舌を切除することで猫の顔が大きく変わるため、飼い主がショックを受けたり、受け入れられなかったりする可能性があります。治療方法は医師とよく相談して決めましょう。
フードは、暖かく、柔らかくて食べやすいものを与えてあげましょう。
また、病気の進行によって脱水症状が見られることもあるため、水分補給や点滴による補液療法も併せて行われることがあります。
これらの治療法は、猫の状態や腫瘍の特性、飼い主の意向によって選択されます。
扁平上皮癌に対する治療は、猫のQOLを維持しつつ、できるだけ苦痛なく穏やかに過ごせるようにしてあげることが大切です。
猫の扁平上皮癌の予後
猫の扁平上皮癌は、特に口腔内に発生した場合、予後は厳しいものとされています。
治療方法や腫瘍の位置、手術が可能かどうかによっても生存期間は変わりますが、外科治療後の中央生存期間は約1〜3ヶ月とされ、1年生存率は約10%と低い傾向にあります。
しかし、腫瘍を外科的に切除できた場合は、より長く生存する可能性もあります。
口腔の扁平上皮癌は効果的な治療法がまだ確立されておらず、1年後の生存率は低いといわれています。
特に、舌や扁桃、咽頭、下顎などに発生した扁平上皮癌は、大きくなると飲食が困難になり、栄養や水分を確保するために食道チューブや胃瘻チューブの設置が必要になることもあります。
扁平上皮癌は強い局所浸潤を示し、外科的な完全切除が難しいことから、再発率は高い傾向にあり、全体的に見ても予後は厳しい状況です。
猫の扁平上皮癌は、早期発見・早期治療が重要であり、治りにくいただれや皮膚炎が見られた場合は、速やかに動物病院を受診することが推奨されます。
まとめ
ここまで猫の扁平上皮癌についてお伝えしてきました。
猫の扁平上皮癌の要点をまとめると以下の通りです。
- 猫の扁平上皮癌でみられる症状として、皮膚や粘膜の赤み、潰瘍、ただれ、食事摂取の困難さが挙げられる
- 猫の扁平上皮癌の原因は分かっていないが、主に紫外線への長時間露出、色素の薄い皮膚や白色系の毛色が影響していると考えられている
- 猫の扁平上皮癌における治療法として、主に外科的切除が挙げられる。そのほか放射線療法や化学療法、食事療法が適用・併用されることもある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。