かわいい家族の一員として、愛猫と一緒に暮らしている方はたくさんいらっしゃることでしょう。また、一緒に暮らした経験のある方も多いのではないでしょうか?
我が家のかわいい愛猫がもしも病気やけがをしたら……と心配になり、日頃から動物病院へ定期的に検診に連れて行ったり、ペット保険に加入して備えている飼い主さんもいらっしゃるでしょう。
大切な家族の一員だからこそ、愛猫の病気やけがの予防をして元気に長生きしてほしいと思うのは当然のことです。
この記事では猫の心配な病気の一つでもある悪性腫瘍(がん)のなかでも、扁平上皮がんについてお伝えします。扁平上皮がんとはどのようながんなのか、原因や症状、治療方法、発症しやすい部位などについて解説します。
扁平上皮がんとは
扁平上皮がん(へんぺいじょうひがん)とは、体の表面や体内への入り口にあたる扁平上皮細胞の悪性腫瘍(がん)です。
扁平上皮細胞は、皮膚や粘膜に存在します。この扁平上皮細胞ががん化して発生します。そのため体のさまざまな部位に発生するがんです。耳の周りや鼻、目、口の中などの顔面に多くみられます。
猫の口のなかにできる腫瘍の多くが、扁平上皮がんといわれています。
猫の扁平上皮がんは、進行が早いのが特徴です。気が付いた時には、かなりがんが進行している場合もあります。早期の発見、治療が大切な病気だといえるでしょう。
猫の扁平上皮がんの原因
猫の扁平上皮がんの原因は、はっきりと分かっていません。ですが、次のような要因が発症リスクを高めているといわれています。
- 紫外線による刺激
- パピローマウイルス
- ノミ除け首輪
- 人の喫煙による受動喫煙
- 年齢
それぞれ理由を解説します。
紫外線による刺激
皮膚の扁平上皮がんに関しては、白色系で外に出て過ごすことが多い猫は太陽光線(紫外線)の影響で発病のリスクが高まるといわれています。
色素の薄い白猫や被毛が薄い部分(鼻や耳)に発症しやすい傾向があるため、完全に室内飼いのほうがよいでしょう。
パピローマウイルス
パピローマウイルスが関与している可能性があると指摘されています。パピローマウイルスは自然界に存在しているウイルスです。猫の皮膚に傷などがある場合、そこから感染することがあります。
このパピローマウイルスが原因だといわれている病気に、乳頭腫があります。猫にできるのはめずらしい良性の腫瘍です。
パピローマウイルスが扁平上皮がんの発症リスクと因果関係があるのかは、まだはっきりしていません。
ノミ除け首輪
ノミ除け首輪の使用で、扁平上皮がんを発症しやすいとの指摘があります。ノミ対策でコストが安く済むため使用される方もいらっしゃるでしょう。
因果関係ははっきりと分かっていないものの、扁平上皮がんの発症に関与しているといわれています。ノミが気になる場合は、まず動物病院へ連れて行き相談をすることをおすすめします。
人の喫煙による受動喫煙
口のなかにできる扁平上皮がんの要因として、飼い主さんの喫煙による受動喫煙があります。
タバコの煙には多くの発がん性物質が含まれており、扁平上皮がんだけではなく多くの腫瘍や病気に影響するため注意が必要です。
年齢
高齢になった猫は、体力や免疫力の低下によって扁平上皮がんを含む多くの腫瘍性疾患にかかりやすいです。中でも特に扁平上皮がんは進行が早いため、早期に発見することが大切です。
扁平上皮がんだけではなく、高齢の猫にはさまざまな病気のリスクが高まります。
他にも扁平上皮がんの原因として指摘されているものに、猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症)があります。感染症により免疫力の低下している場合、発症しやすいといわれています。
はっきりとした原因は分かっていないものの、扁平上皮がんを発症する猫に多くみられる要因と考えられています。扁平上皮がんの予防としては、紫外線対策(窓にUVカットフィルムを貼るなど)や猫のいる部屋での喫煙を避ける、定期的に動物病院で健康チェックを行うなどが挙げられます。特に高齢の猫は、扁平上皮がんだけではなくさまざまな病気のリスクが高いので、しっかりと身体の健康状態をチェックしておくとよいでしょう。
扁平上皮がんはうつる?
扁平上皮がんと診断された場合、飼い主さんが気になるのは感染や転移といった問題です。特に猫を多頭飼いしている方は、不安になるでしょう。また、がんと聞くと転移するイメージを持つ方も少なくないのではないでしょうか。猫の扁平上皮がんの感染、転移について解説します。
扁平上皮がんの感染について
扁平上皮がんは、他の猫や人に感染することはありません。猫の扁平上皮がんは感染症ではなく、自らの扁平上皮細胞ががん化して発症するためです。空気感染など外からの原因で発症するものではありません。
扁平上皮がんの感染はありませんが、注意する点はあります。扁平上皮がんが原因で炎症や自壊を起こしてしまっている部分を不衛生な状態のままにしておくと、そこから細菌などが入り感染症を起こす場合があります。もし進行しそのような状態になった場合の適切なケア方法を、獣医師からしっかりと教わりましょう。
扁平上皮がんが転移しやすい部位
扁平上皮がんは、発生した部位で深く浸潤することが多いです。この部位近くのリンパ節に転移する場合がありますが、遠隔転移はまれなケースといわれます。
しかし扁平上皮がんが転移しやすい部位は、皮膚に発症した場合と口の中に発症した場合で違いがあります。
皮膚にできた扁平上皮がんの場合は、他への転移はまれです。発生した皮膚の表面で広がっていきます。ただし、例外もあります。猫の指先に発生した扁平上皮がんの場合は、指の骨や周囲のリンパ節へ転移することがあります。
口の中にできた扁平上皮がんの場合は、口の粘膜(歯茎)に発生するタイプがほとんどですが進行すると顎骨まで広がることも多いです。
また舌に発生するタイプの扁平上皮がんもあり、下顎のリンパ節や肺など離れた臓器に転移する場合があります。
猫の扁平上皮がんの症状
猫の扁平上皮がんの症状として、次の4つがあげられます。このような症状が現れた時は、早めに動物病院に連れて行くとよいでしょう。
日頃から猫とのスキンシップやブラッシングの際に、体毛や皮膚の状態をチェックしておくと変化に早めに気が付くことができます。
かさぶたができたように見える
皮膚の扁平上皮がんでは、初期の段階では皮膚炎やけがとの区別が難しいです。扁平上皮がんが発症しやすい被毛の薄い部位(耳や鼻、目の周り)に、かさぶたができたように見える場合は要注意です。
最初に気が付いた時から、広がっているようであれば、早めに動物病院へ連れて行きましょう。
深くえぐれた傷に見える
深くえぐられた傷のように見えることもあります。外傷や皮膚炎と勘違いしやすい病変なのでこちらも区別が難しいです。
多頭飼いや外に出る猫の場合、ケンカをしてケガをする可能性もあるかもしれませんが、そのようなことがないのにも関わらず、えぐられたような傷がありひどくなっているような場合は、早めに動物病院へ連れて行きましょう。
潰瘍やただれのように見える
皮膚の扁平上皮がんでは、潰瘍をつくってただれていくのが特徴です。被毛の薄い耳や鼻、目のほかにも指先に扁平上皮がんが発生する場合があります。
皮膚が突然赤くなり、ただれてくる場合は、早めに動物病院へ連れて行くのがよいでしょう。猫自身も症状が進むにつれて痒みや違和感を覚え、自分で引っかいたり舐めたりすることもあります。。
赤く硬い盛り上がりができる
病変が進行すると、腫瘍組織の盛り上がりが形成され、そこから出血したり、膿が溜まることもあります。
他にも鼻に扁平上皮がんが発生した場合は、くしゃみや鼻水、鼻血がみられることもあります。
口の中に発生した場合は特にわかりづらく、初期症状では口腔内の粘膜が少し赤みを帯びる程度なので口内炎や歯周病との区別が難しいです。
また、腫瘍が大きくなるに連れて食べづらくなったり、食べるスピードが遅くなったりするのでそういった症状がないかよく観察しましょう。普段からデンタルケアを行うようにすると、気が付きやすくなります。
猫では口の中をあまり見せてくれない子も多いのでなかなか確認できない、変化が分からない場合は早めに動物病院へ連れて行きましょう。
その他にも涎や出血、口臭の悪化、顔貌の変化など様々な症状がありますがどのような症状であれ、いつもと違う様子が見られたら動物病院に相談することをおすすめします。かかりつけの動物病院を持つことが大切です。人間と同じように、定期的に健康診断を受けましょう。
猫の扁平上皮がんの治療方法
猫の扁平上皮がんの治療の基本は、外科的治療です。腫瘍部分とその周囲の組織を大きく切除します。周囲に広がりやすいため、広範囲を切除することになります。
広範囲の切除ができない、完全に切除ができない場合には、腫瘍の一部分を切除する場合があります。これは腫瘍が引き起こしている問題を一時的に解消する緩和目的の治療方法です。
ただし、顎や舌など切除することで食事がとれなくなる場合や、他の器官への浸潤や転移がみられる場合、手術に耐えられる体力がない場合などは外科的治療を行わず抗がん剤や放射線治療による内科的治療を行うことがあります。
抗がん剤のみの治療では、あまり有効性が示されておらず併用して行うことが多く、放射線治療では、頻回に全身麻酔をかけるため麻酔による体への負担を十分考慮しなければなりません。
どのような治療方法を選ぶかは、獣医師としっかりと話し合うことが大切です。
外科的治療では広範囲を切除することになるため、猫の見た目の変化も大きくなります。大きな見た目の変化にショックを受ける飼い主さんもいます。事前に手術をしたらどのような見た目になるのかを獣医師と十分話し合いましょう。
また、切除した部位によっては術後にごはんを食べたり水を飲んだりすることが難しくなることがあります。食道や胃にチューブを通す手術を同時に行い、そこからごはんを食べさせる生活になることもあります。
また、腫瘍性疾患の治療では治療費が高額になる傾向にあります。どの治療がどのくらい費用がかかるのかや動物病院によって費用の差もありますので、治療費の面でも獣医師としっかり相談することをおすすめします。
扁平上皮がんは、高齢になってから発症する場合が多いです。そのため、積極的な治療をしないという選択肢もあります。痛みの緩和や栄養のサポートなどを中心に行い、猫が落ち着いて過ごせる環境をつくり、ストレスを感じにくい生活を続けていくことも大切なことでしょう。
どのような治療方法でもメリット、デメリットがあります。獣医師としっかりと相談して、猫にとってどの方法がよいのかを考え早めに対応する必要があるでしょう。
猫の扁平上皮がんの好発部位と発症しやすい品種
猫の扁平上皮がんが発生しやすい部位と、発症しやすい品種については次のとおりです。
好発部位
扁平上皮がんは、扁平上皮細胞が存在する部位なら発症する可能性があります。猫の場合は、被毛の薄い耳の中や鼻、目、口のなかにできることが多いです。また指先にできることもあります。
発症しやすい猫の品種
白い猫で外で過ごす時間が多いと扁平上皮がんの発症リスクが高い傾向にあります。
しかし、特定の品種の猫が発症しやすいという傾向はありません。白色の体毛の猫に限らず、扁平上皮がんを発症する場合があります。
まとめ
大切な家族の一員でもある愛猫には、元気に長生きしてほしいですね。
日頃からスキンシップやブラッシングなどの時間には、愛猫の健康チェックも行いましょう。体にしこりがないか、口の中に異常がないか、食欲や行動に変化がないかなどを観察することが、病気の早期発見につながります。
人は猫の言葉が分かりません。だからこそ、ちょっとした仕草や行動の変化に気付いてあげることが大切です。普段の当たり前の様子を知っておくことが、異変に気付く第一歩になります。
この記事では猫の扁平上皮がんについて解説しましたが、どのような病気であっても早期発見や早期治療で予後は大きく変わってきます。定期的な健康診断やワクチン接種といった予防医療も、愛猫の健康を守るうえで欠かせません。
少しでも気になることがあれば、自己判断せず、早めに動物病院に連れて行くことをおすすめします。信頼できるかかりつけ医を持っておくと、いざというときにも頼りになるでしょう。