猫のトイレに行く回数がいつもより多い、そのような様子に気付いたら要注意です。愛猫が頻繁にトイレに行くのは、実は何らかの体調不良や病気のサインかもしれません。猫は元々あまり水を飲まない動物ですが、おしっこやうんちの回数・量の変化には敏感に気付いてあげる必要があります。この記事では、まず猫の平均的なトイレの回数と量を押さえ、トイレが多いときに考えられる主な病気、そして飼い主さんがチェックすべきポイントや受診のタイミングを解説します。
猫の平均的なトイレの回数と量

日頃から愛猫のトイレ状況を把握するには、1日に何回くらいトイレに行き、どのくらいの量のおしっこやうんちをするのが普通なのかを知っておくことが大切です。猫は個体差がありますが、健康な猫の平均的なトイレ事情は次のとおりです。
猫の平均的なトイレの回数
一般的に成猫は1日におしっこを2~4回程度、うんちは1~2回程度するのが平均的だとされています。もちろん猫の年齢や食事内容、水分摂取量などによって多少前後し、おしっこが1日1回程度と少ない子もいれば、4~5回と多めの子もいます。5回以上おしっこに行く場合はかなり多い部類に入り、何らかの異常が隠れている可能性があります。
一方、うんちは基本的に1日1回が目安ですが、健康な猫でもときには1日くらいうんちが出ないこともあります。大切なのはいつもと比べてどうかという視点で、日頃から愛猫の排泄回数のパターンを把握しておくことが早期発見につながります。
猫の平均的な尿量
おしっこの量にも目安があります。猫は身体が小さいため、人間ほど大量には排尿しませんが、健康な猫の1日のおしっこ総量は体重1kgあたり20~40ml程度とされています。この範囲であれば明らかな異常ではありませんが、60ml/kg以上(4kgなら240ml以上)になると多尿の疑いがあります。実際に毎日のおしっこ量を測るのは難しいため、おしっこの回数や1回あたりの尿の塊の大きさをチェックする習慣をつけましょう。色にも注目で、健康な尿は淡い黄色~透明ですが、腎臓の病気があると色の薄い尿を大量にする傾向があります。逆に膀胱炎などの場合は少量の濃い尿を何度もすることがあります。
猫の平均的な便の量
うんちの量は猫の体格や食事内容によって異なりますが、目安として人間の親指の太さ・長さのウンチが1~2本出れば正常範囲です。形状は少し水分を含んでツヤがあり、色は茶色が健康的です。臭いは人間より強めですが、いつもと同じ程度のニオイなら問題ありません。便の回数や量にも個体差がありますので、日頃の排便パターンを把握しておき、いつもより極端に多い・少ないと感じたら注意が必要です。
猫のトイレが多いときに考えられる病気

「最近トイレに行く回数が多い」と感じたら、まずはおしっこの出方や量を観察しつつ、次のような病気の可能性を考えてみてください。それぞれ症状や対処法が異なりますので、代表的なものを押さえておきましょう。
膀胱炎
膀胱炎とは膀胱に炎症が起きた状態で、猫では細菌感染による膀胱炎は少なく、原因不明の特発性膀胱炎が多いことが知られています。症状の特徴は頻尿、血尿、排尿時の痛みなどで、トイレに何度も出入りするのに少量しか出ない、あるいはトイレ以外の場所で粗相してしまうこともあります。
痛みから排尿時に鳴くこともあり、炎症が長引くと元気消失や食欲低下を招くこともあります。オス猫では膀胱炎が悪化して尿道に砂状の結晶が詰まると尿道閉塞を起こすことがあるため注意が必要です。膀胱炎そのものは命に直結するケースは少ないものの、チクチクと刺すような痛みが続くため猫にとって大きなストレスです。頻尿や血尿が見られたら、悪化する前に早めに受診しましょう。
糖尿病、腎臓病
お水をたくさん飲んで大量のおしっこをする場合に考えられるのが、糖尿病や慢性腎臓病といった全身性の病気です。これらの病気では多飲多尿が典型的なサインとなります。糖尿病はインスリンというホルモンの作用不足で血糖値が上がる病気で、中高齢の猫で増えており、初期症状として多飲多尿がよく見られます。食べているのに痩せる、食欲が変化するなども糖尿病のサインです。
一方、慢性腎臓病(腎不全)は腎臓の機能が徐々に低下する高齢猫に多い病気で、こちらも初期には多飲多尿が現れます。腎臓の病気では尿が薄く大量に出るため、おしっこの色が薄くなるのが特徴です。進行すると食欲不振や嘔吐、脱水など全身症状が出てきます。糖尿病や腎臓病の場合、急を要する緊急状態になることは膀胱炎や尿道閉塞と比べれば少ないですが、放置すれば症状が悪化して命に関わることもあります。多飲多尿に気付いたら数日のうちに動物病院で血液検査を受け、必要な治療を始めることが大切です。
尿道閉塞
オスの成猫で特に注意したいのが尿道閉塞です。尿道閉塞とは、膀胱から尿を外に出す細い管(尿道)が結石や粘液栓などで詰まってしまい、おしっこが出せない状態を指します。尿道が完全に塞がると数時間~半日程度で腎臓に尿が溜まって機能不全(急性腎障害)に陥り、命を落とす危険がある緊急度の高い症状です。
症状は膀胱炎とよく似ており区別が難しいのですが、尿道閉塞では何度もトイレに行くのにほとんど尿が出ない、排尿姿勢をとって踏ん張っているのに出ないといった状態になります。加えて、陰部をしきりになめたり、苦しそうに鳴いたり、嘔吐やふらつきを示すこともあります。オス猫で頻尿の様子が見られたら「詰まってしまったのでは?」と疑い、半日でも様子見はせずただちに動物病院へ連れて行ってください。早期にカテーテルで閉塞を解除すれば、元気になることも多いです。逆に発見が遅れると命を落とす危険が高まるので、「頻尿だけど元気だからもう少し様子を見よう」とは考えず、できるだけ早く受診するようにしましょう。
猫のトイレが多いときに観察すべきこと

愛猫がいつもよりトイレに行く回数が多いと感じたら、まず以下のポイントをチェックしてみましょう。これらを獣医師に伝えることで、原因の推測や診断の助けになります。
水を飲む量
飲水量の変化は重要な観察ポイントです。普段より水をたくさん飲んでいるようなら、糖尿病や腎臓病などによる多飲多尿が疑われます。健康な猫の1日の飲水量は体重1kgあたり0~50ml程度ですが、猫の場合は、体重に関わらず250mlを超えたら多飲と考えます。一方、膀胱炎など下部尿路のトラブルでは逆に水を飲む量は普段と変わらないか減ることもあります。お水を飲まない状態が続くと脱水を起こしやすいため、おしっこが出にくそうなときも新鮮な水をすぐ飲めるようにしてあげることが大事です。
食べる量
食欲や食事量の変化も見逃せません。糖尿病の初期には食べているのに体重が減る(多食と体重減少)ことがありますし、甲状腺機能亢進症でも食欲旺盛になる傾向があります。逆に腎臓病が進行している場合や、膀胱炎の痛みが強い場合は食欲不振になることが多いです。普段よりご飯を残していないか、食べ方にムラがないかを確認しましょう。また体重の増減も重要な手がかりです。短期間で痩せてきた場合は腎臓病や糖尿病など慢性的な病気の可能性がありますし、逆に急激な体重減少は重篤な状態の兆候かもしれません。定期的に体重を測る習慣があるとよいでしょう。
体調の変化
おトイレ以外の全身状態の変化もあわせて観察してください。具体的には元気の有無、動きはいつもどおりか、遊びたがるかどうか、嘔吐はないか、ぐったりしていないかといった点です。また、おしっこの色やニオイも確認しましょう。ピンク色や赤い尿が出ていれば血尿の可能性がありますし、強いアンモニア臭や腐敗臭が感じられる場合は感染症の疑いがあります。排泄時の様子では、踏ん張り具合や鳴き声、姿勢の違いもポイントです。異変をできるだけ詳しくメモして、受診時に獣医師へ伝えるようにしましょう。
猫のトイレが多いときの受診サイン

頻繁にトイレに行く症状が見られたら、基本的には早めの受診を検討してください。特に下記のような場合は緊急性が高い可能性がありますので、すぐに動物病院で診察を受けましょう。
- 何度もトイレに行くのに、一度の尿量が極端に少ないとき
- 排尿時に苦痛のサイン(鳴く・踏ん張る・陰部を頻繁になめる)があるとき
- 尿に血が混じっている、または濁っているとき
- 嘔吐や食欲不振、著しい元気消失を伴うとき
一方で、おしっこの量が多く回数も増えているが猫は元気という場合は、急変する可能性は低いものの糖尿病や腎臓病の可能性があります。数日中には受診して検査を受けるようにし、早めに対応しましょう。いつもと違う点が一つでもあれば、早めに動物病院で相談することが愛猫の健康を守ることにつながります。
猫のトイレが多いときに病院で行われる検査と治療

何らかの病気が疑われる場合は精密検査を行い、原因に応じて治療をすることになります。本章では、猫のトイレが多いときに行われる検査とその治療について解説します。
検査方法
頻繁な排泄の症状で動物病院を受診すると、まず獣医師による問診と身体検査が行われます。症状や普段のトイレ状況、水を飲む量などを聞かれますので、前述の観察ポイントを伝えましょう。触診では膀胱のハリ具合や腎臓の大きさなどを確認します。そのうえで必要に応じ、以下のような検査が実施されます。
- 尿検査
新鮮な尿を試験紙や顕微鏡で調べ、潜血反応の有無(血尿)やタンパクの量、pH値、結晶の有無などを確認します。 - 尿培養
膀胱炎の原因菌を調べるために尿を培養して細菌検査を行うことがあります。細菌が検出されれば、その種類に応じた適切な抗生剤選択につながります。 - 血液検査
採血して腎臓の値(BUNやクレアチニン、SDMAなど)や血糖値、電解質バランスなど全身の状態を確認します。 - 画像診断
レントゲン検査や超音波(エコー)検査で膀胱結石や尿路の腫瘍がないか確認します。
治療方法
検査結果に基づいて、原因となる病気に対する治療が行われます。その内容は病気によってさまざまですが、主なものを紹介します。
- 膀胱炎の治療
細菌性膀胱炎であれば適切な抗生剤の投与を行います。特発性膀胱炎の場合、細菌はいないので抗生剤は無効で、痛みを和らげる鎮痛剤や消炎剤、膀胱の痙攣を抑える薬などが用いられることがあります。 - 尿石症の治療
尿路結石が確認された場合、まず結石対応の処方食(療法食)による治療を試みます。ストルバイト結石であれば酸性尿化するフードで溶解できる可能性があります。溶けない種類の結石や結石が原因の尿道閉塞がある場合は、カテーテルで尿道を通して生理食塩水で膀胱へ逆流洗浄する処置や、膀胱切開手術による結石摘出手術が必要になることもあります。重症例では再発防止のため尿道を広げる尿道拡張手術(会陰部尿道瘻造設術)が行われるケースもあります。 - 尿道閉塞の治療
オス猫の尿道閉塞は一刻を争うため、ただちに尿道カテーテルを挿入して詰まりを解消します。 - 糖尿病の治療
糖尿病と診断された場合、基本となるのはインスリン注射による血糖コントロールです。あわせて食事療法(低炭水化物・高蛋白の糖尿病管理食)を開始します。血糖値を下げる飲み薬が使える場合もありますが、状況によって獣医師が判断します。 - 慢性腎臓病の治療
腎臓病は完治が難しい病気ですが、食事療法と対症療法によって進行を遅らせ、できるだけ快適に生活できるようにします。
以上のように、トイレの異常と一口にいっても原因に応じた多様な検査・治療法があります。飼い主さんにできることは早期発見と早期治療のサポートです。いつもと違うサインを感じたら、できるだけ早めに専門家の判断を仰ぐようにしましょう。
まとめ

猫のトイレ事情(おしっこの回数・量、うんちの回数・量)は、健康状態を知る重要なバロメーターです。本記事で解説したように、頻尿なのか多尿なのかを見極め、水の飲み方や食欲など総合的にチェックすることが大切です。少しでも異常が疑われる場合は早めに動物病院へ相談・受診し、必要な検査を受けましょう。膀胱炎や尿道閉塞など下部尿路の病気は早期発見・治療で元気な状態に戻せる可能性が高いとされています。一方、慢性腎臓病や糖尿病といった病気も、適切な治療によって症状をコントロールしながら生活の質を維持していくことが可能です。愛猫が快適で健康に過ごせるよう、日頃からトイレチェックを習慣にし、「おかしいな?」と思ったら早めに受診するようにしましょう。
参考文献