猫は腎臓病になりやすい?検査や治療方法について解説します

猫は腎臓病になりやすい?検査や治療方法について解説します

高齢猫の死因の中で最も多いと言われる病気が腎臓病です。腎臓がダメージを受けて正常に機能しなくなる病気である腎臓病。何らかの原因によって急に発症する急性腎臓病と、老齢期に多く、時間をかけて発症する慢性腎臓病の2つがあります。決して珍しい病気ではない猫の腎臓病とはどのような病気なのでしょうか。症状や検査、治療方法などについて解説します。

猫の腎臓病について

猫の腎臓病について

猫の腎臓病は、高齢猫の死因として最も多い病気と言われています。15歳以上の猫の約80%が慢性腎臓病に罹っていたという報告があるほど、猫の腎臓病は珍しくない病気です。猫の腎臓病とはどのようなものなのかをご紹介します。

腎臓の役割

腎臓とは、体の左右にひとつずつあるそら豆のような形をした臓器です。腎臓は糸球体と尿細管から成る、ネフロンという構造物がたくさん集まってできています。糸球体では体に必要な成分が多く含まれた原尿が作られ、尿細管で必要な水分やミネラルが再吸収されます。その後、老廃物が濃縮された尿が体外へと排出される仕組みです。

腎臓の主な役割は、全身から腎臓へ運ばれた血液から不要な老廃物を尿として排出する浄化機能です。そのほか、血液中の水分やミネラルのバランスを調整する機能、血液を作る指示や血圧調整ホルモンを作る機能を有しています。

猫の腎臓病

腎臓病にかかると、腎臓本来の機能が低下してしまいます。猫の腎臓病の場合は尿細管にダメージが起きやすいのが特徴です。

猫の腎臓病には、急性腎臓病と慢性腎臓病の2つがあります。それぞれの特徴などを見ていきましょう。

・急性腎臓病

腎臓機能が急激に低下して、尿毒症などの症状が現れるのが急性腎臓病です。急性腎臓病の原因は、尿路結石などによって尿道や尿管が詰まることや、感染症による炎症、腎臓に悪影響を与えるものを食べてしまうことが挙げられます。尿道閉塞は、特に若いオスの猫に多い症状です。定期的に尿の状態をチェックしておきましょう。また、調子が悪そうに見えたとき、人間の薬やユリ科の植物を食べてしまった場合は、早めに病院を受診してください。

・慢性腎臓病

長い期間をかけて腎臓機能が徐々に低下していく状態が慢性腎臓病です。一般的に、腎臓の機能低下や構造異常が3ヶ月以上続いた場合は慢性腎臓病と診断されます。主な原因は、加齢により少しずつダメージが蓄積することです。また、急性腎臓病によるダメージが残って、のちに発症する場合もあります。そのほか、細菌や猫伝染性腹膜炎といったウイルス感染、外傷、免疫疾患、尿路閉塞などが挙げられます。

慢性腎臓病の場合は、診断された時点で原因がわからないことも多くあります。特に老齢期に発症することが多く、死因になることも多い病気です。

猫は腎臓病になりやすい

猫は元々、砂漠地帯に住んでいました。そのため、猫の腎臓は水分を吸収して濃いおしっこを作る仕組みになっています。これにより腎臓に負担がかかり、腎臓病になりやすいのではないかと言われています。

猫の腎臓病の症状

猫の腎臓病の症状

猫が腎臓病に罹ると、どのような症状が出るのでしょうか。急性腎臓病と慢性腎臓病のそれぞれの症状について解説します。

急性腎臓病の症状

急性腎臓病の初期段階では、元気がなくなる、水を飲む量が減る、おしっこの量が減ったりまったく出なくなったりといった症状が現れます。進行すると、脱水症状、嘔吐、体温低下、けいれんなどが起こります。

慢性腎臓病の症状

慢性腎臓病では、IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)推奨の、IRIS腎臓病ステージングによってステージ1からステージ4に分類されます。それぞれのステージに応じた治療方針に従い治療していきます。なお、ステージは検査結果の内容を踏まえて分類されます。

・ステージ1

ステージ1は、血中クレアチニン1.6㎎/dL以下、残存腎機能33%以上の場合。この段階では症状が見られず、血液検査では異常なしと診断されることもあります。

・ステージ2

ステージ2は、血中クレアチニン1.6~2.8㎎/dL、残存腎機能33~25%の場合。多く水を飲んで大量におしっこを出す、多飲多尿の症状が見られます。腎機能が低下するため、毒素を上手く濃縮できず、薄い尿がたくさん排出されます。これにより水分不足になり、水をたくさん飲むようになるのです。

この段階では、ほとんどの場合が元気で食欲もあるのが特徴です。体調維持に必要な腎機能は残っていますが、残存腎機能は本来の4分の1程度にまで落ちています。再生医療によって、機能低下や症状進行の抑制が期待できます。

・ステージ3

ステージ3は、血中クレアチニン2.8~5㎎/dL、残存腎機能25~10%以下の場合です。この段階になると尿毒症を発症します。老廃物などの有害物質を尿中に十分に排出できず、血液中の有害物質濃度が高くなります。これに伴い、口腔や胃の粘膜が荒れたり、口内炎や胃炎などになりやすくなったりします。

症状としては、食欲の低下、嘔吐が現れます。また、赤血球成熟のために必要なエリスロポエチンというホルモンが分泌できずに、貧血の症状が出ることもあるでしょう。ステージ3では、再生医療を行うことで、症状の進行抑制、生活の質の維持や改善が期待できます。

・ステージ4

末期段階であるステージ4は、血中クレアチニン5㎎/dL以上、残存腎機能5%以下の場合。ステージ4では、重篤な臨床症状が現れます。尿毒症が進行し、積極的治療を行わないと、死に至る段階です。

猫の腎臓病の検査

猫の腎臓病の検査

猫の腎臓病の検査は、主に血液検査、尿検査、画像検査によって行われます。それぞれの検査について見ていきましょう。なお、腎臓病の診断はそれぞれの数値や猫の状態を見て、相互的に判断されます。

血液検査

尿になる前の体液の状態から見るのが血液検査です。筋肉の運動による代謝物であるクレアチニン(CRE)や、タンパク質の代謝物である尿素窒素(BUN)の濃度を検査します。高濃度の場合は機能低下が疑われます。また、タンパク質の分解時にできる物質である対称性ジメチルアルギニン(SDMA)の検査は、早い段階で腎機能の低下を検出できるものとして注目されています。

なお、血液検査の数値が基準値以内であっても、数値が上昇を続けている場合などは危険なサインです。ひとつの数値結果によらず、総合的に判断することが大切です。

尿検査

腎臓でろ過した結果作られる尿による検査です。尿検査では、尿比重や尿中タンパク質クレアチニン比をチェックします。尿比重とは、水を1とした場合の尿の重さ比のことです。これにより尿の濃さがわかります。腎機能が低下すると薄い尿しか作られなくなるため、尿比重は重要なチェックポイントです。尿中タンパク質クレアチニン比は、尿のタンパク質濃度をクレアチン濃度で割って算出するものです。この検査では、腎機能の低下によって尿にタンパク質が漏れ出ているかどうかを調べることができます。

画像検査

X線検査や超音波検査といった画像検査では、血液検査や尿検査ではわからない部分を知ることができます。X線検査では、腎臓の肥大や萎縮といった形状変形や、尿路結石の有無などの検査が可能です。超音波検査では、腎臓の大きさの他にも、構造の異常がないかどうかも見ることができます。

猫の腎臓病の治療

猫の腎臓病の治療

それでは、猫の腎臓病にはどのような治療法があるのでしょうか。ここでは、急性腎臓病と慢性腎臓病の主な治療法や、今後期待されている先進的な治療法について解説します。

急性腎臓病の主な治療

急性腎臓病の場合は、その原因にアプローチする治療法が選択されます。初期段階で治療を行えば、腎機能が回復する可能性もあります。気になる点がある場合は、早めに動物病院で診てもらいましょう。

・点滴

点滴は入院して行うのが一般的です。水分や電解質などを点滴投与する治療法です。

・透析

人工透析や腹膜透析を行う治療法です。ただし、透析は実施できる施設が限られています。透析治療を希望する場合は、対応可能な施設を探しましょう。

慢性腎臓病の主な治療

慢性腎臓病の主な治療法は以下の通りです。

・食事療法

タンパク質やミネラルが調整された腎臓病用の療法食を食べさせることで治療を行うのが、食事療法です。腎臓の負担になる、タンパク質、リン、ナトリウムを抑えた食事や、エネルギー源になる脂質が多く含まれている食事を与えても良いでしょう。

内容が合っていれば市販のフードを食べさせる場合もありますし、病院処方の療法食を与えたり、サプリを与えたりする場合もあります。食事療法を行う場合は、担当の獣医師とよく相談し、猫に合った内容や方法で行っていくようにしましょう。

・投薬治療

慢性肝臓病の治療薬としては、ベナゼプリル、テルミサルタン、ベラプロストナトリウムの3つが認可されています。ベナゼプリルやテルミサルタンは、慢性腎不全や腎臓病における尿タンパク質の漏出を抑制する効果があると言われています。ベラプロストナトリウムは、ステージ2~3における腎機能低下を抑え、症状を改善する効果が期待されている薬剤です。処方される薬は、症状や猫の状態を見て判断されます。

・再生医療

猫の腎臓病に適応可能な再生医療として、幹細胞治療が注目されています。幹細胞治療は、幹細胞が持っている炎症や組織の繊維化を抑える働きを利用して腎臓の炎症を抑制し、腎機能の維持と回復が期待できる先進的な治療のひとつです。実際の治療は、点滴または注射によって細胞を注入するため麻酔も不要です。点滴の場合は半日程度の入院となり、注射の場合は入院の必要はありません。ただし、特に点滴を用いた再生医療の場合は費用が高額になりますので注意しておきましょう。

実用化が期待されるAIM薬

まだ実用化には至っていませんが、動物や人の血液中に存在するAIMというタンパク質を活用した治療薬の開発が行われています。AIMは体の老廃物を除去する「マクロファージ」という免疫細胞を働かせる作用があると言われているのですが、猫の体内ではAIMが機能しづらいため老廃物が排出されづらくなっているのではないか、という点に目を向けたものです。この治療薬開発がもし上手くいけば、猫の寿命を30年程度まで伸ばすこともできるのではないか、と言われています。費用の問題で一時中断されたこともありましたが、その後多くの寄付が集まり研究を再開しています。実用化に向けて着々と研究が進められています。

猫の腎臓病の予防方法

猫の腎臓病の予防方法

腎臓病は身近な猫の病気ではありますが、普段の生活から予防することもできます。簡単にできる予防方法をご紹介しますので、日頃から意識して取り組んでみてはいかがでしょうか。

水をたくさん飲ませる

腎臓病の原因にもなる尿路結石や膀胱炎は、水分をたくさん取ることで予防できます。猫によって水の飲み方には好みがありますので、性格や好みに合った方法でたっぷりと水を与えましょう。水はこまめに取り替えて清潔を保つことが大切です。また、ミネラルを多く含む硬水は尿路結石の原因になりますので避けた方が良いでしょう。ミネラルが少ない軟水である日本の水道水を与えるのがおすすめです。

ストレスを減らす

病気にはストレスは大敵です。日頃から猫がストレスを溜めない環境を整えてあげましょう。仲の悪い同居猫や犬がいないか、室内で自由に過ごせているか、高い所に登れる場所があるか、お気に入りのスペースや隠れる場所があるか、トイレは清潔かなど、ストレスとなる要因を極力除いた環境作りをおすすめします。

また、遊びもストレス解消になります。猫の狩猟本能を満たしてやるためにも、意識して遊びの時間を作るようにしてみましょう。

食事に気を遣う

日々の食事の内容に気を遣うのも腎臓病予防としては大切です。特に高齢猫の場合は、タンパク質が高すぎると腎臓に負担をかけてしまいます。30%程度を目安に、良質なタンパク質が入っているフードを選んで与えると良いでしょう。DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸を含むフードもおすすめです。また、水分不足を補うためには、ウェットフードを与えるのもひとつの手です。

まとめ

まとめ

猫の腎臓病は高齢猫にとって最も多い死因となるほどポピュラーな病気です。急性と慢性の2種類があり、慢性の場合は検査結果などによって4つのステージに分けられます。腎臓病と診断されたら、食事療法や投薬、再生医療治療などによって治療が行われます。治療の際には、猫の状態や飼い主の希望などを踏まえ、信頼できる獣医師と相談しながら決めましょう。腎臓病予防のためには、日頃からたくさん水分を取ること、ストレスを溜めないこと、食事に気を遣うように気を付けておくことがポイントです。

参考文献