大切な愛猫が突然吐いてしまうと、驚きと不安に襲われるでしょう。苦しそうな姿に、何かの病気ではないかと心配して焦る方もいます。
猫は本来よく吐く動物ですが、なかには病気を患っているケースもあります。そのため、原因をよく見きわめて対処することが必要です。
そこで今回は、猫が吐く場合の原因・対処法について詳しく取り上げます。いつ獣医師に相談すべきかの目安もまとめているので、参考にしてみてください。
猫が吐く場合に考えられる病気は?
人間と同様に動物も体調が悪いと吐くことがあります。愛猫が吐いているのも、まだ気づいていない病気が潜んでいるからかもしれません。
病気の可能性があるなら、即座に見抜いて治療を行う必要があります。適切な処置を行うために、猫が吐く場合に考えられる2つの病気を解説しましょう。
感染症
突然猫が吐いた場合、感染症にかかっている可能性があります。感染症は目に見えないウイルス・細菌によって生じるため、発症するまで気づきにくいものです。
主な感染症の1つとして挙げられるのがパルボウイルス(CPV)です。パルボウイルスは白血球系の細胞を減少させるウイルスで、経口感染により広まります。
嘔吐・下痢・食欲不振といった消化器にかかわる症状とともに、発熱が見られます。外出することが多い猫は、どこで感染するかわからないため注意が必要です。
また、サルモネラ菌をはじめとする細菌による細菌性陽炎(細菌性感染症)とも考えられます。他にもノロウイルス・コロナウイルスなど多くの感染症の危険があります。
内臓の病気
感染症が原因とは考えられない場合は、内臓疾患を疑いましょう。猫も人間に似た内臓疾患を発症し、それに伴って吐いている可能性があります。
内臓疾患の種類はさまざまですが、急性膵炎は激しい嘔吐の症状を起こしやすい疾患です。急性膵炎を患った猫の約50%に嘔吐の症状が見られます。
さらに、猫が多く発症する慢性腎臓病でも嘔吐が生じやすいです。非常に進行してから症状が出ることが多く、完治が難しいため長期間吐くことになるでしょう。
そして消化器系疾患も嘔吐を引き起こします。食道炎・胃炎などに加えて、消化器に発生したがんが嘔吐の原因となる場合もあります。
猫が吐く原因は?
猫が苦しそうに吐いていても、必ずしも病気が原因とは限りません。なぜなら、猫は他の動物と違い日常的によく吐く動物だからです。
では、猫が吐く理由として多く見られる7つの原因を詳しくチェックしましょう。自分の愛猫が吐く原因がこれらに当てはまるかどうか考えてみてください。
毛玉を排出するため
猫が吐くのは毛玉を排出する目的が大きいです。猫は細かな突起がある舌を用いて毛づくろい(グルーミング)し、抜け毛・ゴミを絡め取って除去します。
取り除いた毛は体内に入ってお腹の中で溜まるため時々まとめて排出しなければならず、吐いたり便として出したりします。これは一種の生理現象です。
明らかに毛玉を吐き出している、また吐いた後に元気でいる猫は問題ありません。しかし吐こうとしているのに毛玉が出てこない時は注意しましょう。
毛が胃・腸の中で毛玉のように固まってしまう「毛球症」になっている恐れがあります。この場合は毛玉が体内に残っている不快感から吐いていると思われます。
食べ過ぎ・早食い
食べ過ぎによって吐く猫もいます。大量に流れ込んできたフードに胃が対応しきれず、消化されないまま食後に吐いてしまうのです。
また、肉食動物である猫はフードをあまり噛まずに飲み込んでしまう傾向が強いです。そのためフードが食道に詰まったり、うまく消化できず吐くことがあります。
特にドライフードは水で膨らむため、胃が驚いて反射的に吐いていると考えられます。配合されているタンパク質含量により消化がしにくいケースもあるでしょう。
このような場合、ほとんどの猫が1〜2時間以内に未消化のまま吐き出します。食後すぐに吐くようであれば食べ過ぎ・早食いが原因といえるでしょう。
食事内容を変更した
飼い主さんは猫のことを想ってよりよい食事をさせてあげたいと考えますが、急な食事内容の変更が吐く原因となる恐れがあります。
ドライフードは栄養調整・嗜好性を上げる目的で油脂類がコーティングされています。そのため、水を弾いてしまい消化が遅れているのかもしれません。
また、単に新しいおやつが体に合わないこともあります。特定のフード・おやつを食べた時だけ吐くようであれば、元の食事に戻して様子を見てください。
さらに、治療の一貫として食事療法を行う場合には食事内容が大きく変わりやすいため、体が拒否反応を示しているとも考えられるでしょう。
一方、老猫の場合は若い頃と同じ食事を続ける方が危険です。フードの固さ・大きさが現在の弱った体に合わずに吐いてしまいます。
空腹
嘔吐物に目立った内容物がなく、胃液だけを吐き出しているような状態の場合、胃酸過多になっていると思われます。胃酸過多の原因の1つは空腹です。
長時間何も食べずに空腹のままでいると、胃酸が増えて逆流し吐き気を催します。胃酸が過度に増え粘膜が炎症を起こし、さらなる吐き気につながるでしょう。
食事の間隔が空いている時に吐き、食事をきちんと摂っている時には吐かないのであれば、空腹が原因と思われます。食事の間隔に注意を払いましょう。
食べてはいけないものを食べてしまった
人が食べるものを猫に与える飼い主さんもいます。しかし人が食べるものには猫にとってアレルギーとなる食べ物が多くあり、安易に与えてはいけません。
猫が食べてはいけないものの中で嘔吐を起こすのは、主に玉ねぎ・ニンニク・チョコレート・ココアなどです。これらは猫にとって中毒物質となります。
嘔吐だけでなく下痢・溶血性貧血・血色素尿を起こすこともあり、最悪の場合死に至ります。生魚も頻繁に与えると、神経障害・心不全になるリスクが高まり危険です。
また嘔吐とは直接関係しませんが、ビタミンA・Dを含む食べ物を長期的に与えると、ビタミンE欠乏症・視力障害・関節の痛みを引き起こします。
猫自身が好んで食べていてもすぐに食べるのをやめさせましょう。猫が誤って口にしないように、触れられない場所に保管するなどの対処が必要です。
誤飲
猫にとって家の中は危険があふれています。人が普段使用しているもの、落として気づかずにいたものを口にし、誤飲してしまうケースがあります。
例として靴ひも・ボタン・縫い針などが挙げられるでしょう。特に靴ひものような長い形状のものは、腸閉塞を引き起こすリスクがあります。
飼い主さんのアクセサリーやいつも遊んでいる猫用のおもちゃが破損しているなら、これらの小さなパーツを誤飲した可能性もあります。
部屋を荒らした跡がある、または見当たらないものがあり、猫が吐こうとしても吐けず苦しそうにしている場合はまず誤飲を疑いましょう。
ストレス
前述した胃酸過多の原因としてストレスも挙げられます。猫は環境の変化によって大きなストレスを感じやすい非常に敏感な動物です。
たとえば引越し・模様替えなどの住環境の変化、家族に赤ちゃんが生まれたり新しい猫を迎えたりといった家族構成の変化にストレスを感じやすいです。
また、来客・周囲の騒音のような出来事も猫の負担になり得ます。デリケートな性格の猫が吐いている場合は安心できる環境を用意してあげましょう。
猫が吐いた場合の対処法
猫が吐いたら、まず嘔吐物の状態をチェックします。誤飲した異物が含まれていないか、血が混じっていないか、異臭がしないかをよく確認してください。
毛玉・未消化のフードを吐いた猫は、その後すぐに元気に行動できるケースが多いです。引き続き関心を払いつつも特別な処置は必要ありません。
吐いているのが透明な液体のみの場合、水もしくは胃液の可能性が高いです。また、黄色い液体は空腹により胃酸に胆汁が混じったものと思われます。
問題は少ないですが、吐いた後の猫は疲れています。口の中が不快になったり喉が渇いたりするので、飲み水を用意してしばらく様子を見ましょう。
もし異物が混じっていたり異臭がしたりする場合はすぐに動物病院を受診してください。吐いた原因を明らかにするためには嘔吐物を持参するのがおすすめです。
おそらく水分量が多いため、ティッシュのように水を吸うものではなくラップなどでくるんでおくと、嘔吐物の状態が判別しやすくなります。
持参できない状態なら写真・動画を撮影するか、嘔吐物の状態・吐いた時の状況を詳しくメモして説明できるように備えておくとよいでしょう。
獣医師に相談する目安は?
多くの場合、猫が吐く原因は病気以外のところにありますが、飼い主さんとしては吐いているのに獣医師に相談しなくてもよいのか心配になるかもしれません。
獣医師に相談するのは、以下の2つの状況が見られた場合を目安にしてみてください。愛猫の様子をよく確認して適切な時に診察を受けましょう。
繰り返し吐く場合
1日に何度も吐いている、あるいは何日も続けて吐いているなら、誤飲・病気が原因と考えられます。早めに獣医師に相談し、治療が必要です。
嘔吐物がピンク色または赤茶色をしている時は血が混じっている状態です。内臓を損傷している病気の確率が上がるため、決して放置しないでください。
吐いている原因にかかわりなく、繰り返し吐くことは体力を消耗し脱水症状を起こしやすいです。体が弱り、他の病気に感染するリスクも上がります。
仕事などで外出する機会が多い飼い主さんも、猫が一度吐いたら経過を注意深く見守りましょう。そして繰り返し吐くようなら即座に受診してください。
元気がない状態が続く場合
吐いた後にぐったりして食欲が戻らず、元気がない状態がしばらく続くことがあります。このような時は病気が疑われるため、すぐに受診しましょう。
さらに下痢を伴っていると、病気か中毒性のあるものを食べてしまった可能性が考えられます。深刻な事態であると予想され、素早い処置が重要です。
そわそわと動き回って落ち着かない、物陰に隠れるなど普段と違う様子の場合は腹部に痛みがあるかもしれないので、こちらも早めの受診がおすすめです。
猫が吐いた後の注意点は?
吐いた直後は誤えんの恐れがあるため、背中を擦ってはいけません。気分が悪い時に触れられるのを嫌う動物でもあり、余計なストレスともなります。
そして猫が吐いた後に経過観察する際は、猫が欲しがっていないのに無理に水を飲ませたりフードを与えたりすることは決してしないでください。
トラブルを起こした胃腸は過敏になっていて水でさえ刺激となり、吐き終わってようやく収まった胃腸運動が再開されてしまい状態が悪化する恐れがあります。
吐き出したフードを食べる猫がいますが、これは早食いしたために未消化のまま出たものなので心配ありません。柔らかいフードを与えるのもよいでしょう。
ただし食べさせる量はしばらく様子を見るべきです。噛まずに食べるのが習慣で猫自身が直すのは難しく、また早食いをして吐くことになりかねません。
動物病院に連れて行く際は、キャリーケースを揺らさないように注意するべきです。なるべくストレスを与えずリラックスできるようにしましょう。
猫の嘔吐を予防するためにできることは?
猫は日常的によく吐く動物であるとはいえ、頻繁に吐いていると猫もストレス・疲労・不調を抱えることになりかねません。
猫が吐くのを防ぐために飼い主さんができる2つの予防法をご紹介します。日頃からよく気にかけてあげることで猫が吐く原因を減らしましょう。
毛玉のケアをしっかり行ってあげる
毛玉を吐き出そうとして吐く回数が増えているのであれば、グルーミングで飲み込む毛の量を減少させることで嘔吐自体を抑えられます。
有効なのは定期的なブラッシングです。短毛種であれば1週間に最低でも1~2回、長毛種・換毛期の猫であれば軽くでも毎日ブラッシングしてあげましょう。
長毛種なのに毛玉を吐かない、または吐きにくそうにしている猫には、胃を刺激して毛玉が吐きやすくなる猫草を食べさせることで症状が緩和するかもしれません。
猫草以外にも毛玉をコントロールするフードは多くあります。吐き出せなくても便として排出できる確率が上がるため、他のフードと合わせて与えてみましょう。
フードを与えすぎないようにする・分けて与える
食べ過ぎ・早食いが癖になっている猫に対しては、フードの量を調整しましょう。一度にまとめて盛らず、少量に分けて与える回数を増やしてみてください。
また子猫・老猫が丸呑みして詰まらせる傾向にあるなら、フードを細かくしたりお湯・スープでふやかしたりして喉を通りやすくするのがおすすめです。
夜から朝にかけては空腹時間が長くなってしまいます。朝方に胃液を吐く猫は、夜中に少量のフードを与えて空腹時間を調整すると改善できると思われます。
与え方だけでなくフードの内容も重要です。アレルギーのあるものが含まれていないか、栄養不足になっていないかなど改めて検討し直してみましょう。
まとめ
この記事では猫が吐く場合に考えられる原因・対処法を解説しました。病気以外の原因が多くあることを知って、少し安心した方もいるでしょう。
とはいえ、吐くのは体内に不調を感じている時です。なるべく早く原因を探り、適切な対処をすることで猫の苦しさを軽減してあげられます。
猫にとって突然環境・食事が変化するのは大きなストレスとなります。心の状態が体の健康にも影響するため、十分なケアを行いましょう。
飼い主さんには大切な愛猫が健康を保ち、いつまでも元気で過ごせるように環境を整える責任があります。不安な時はぜひ獣医師にご相談ください。
参考文献