猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルス(FCoV)の一部が突然変異することで発症する致命的な感染症と言われています。免疫力の低い子猫や多頭飼育環境の猫によく見られ、進行が早いため早期発見と適切な対応が重要になります。
本記事では猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状について以下の点を中心にご紹介します。
- 猫伝染性腹膜炎(FIP)の概要
- 猫伝染性腹膜炎(FIP)の分類と症状
- 猫伝染性腹膜炎(FIP)の検査・診断
猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の概要

猫伝染性腹膜炎(FIP)の概要について以下で詳しく解説します。
猫伝染性腹膜炎(FIP)とは
FIP(猫伝染性腹膜炎)は「猫コロナウイルス」が猫の体内で変異し、毒性の強いウイルスへと変異することで発症する致死率のある感染症です。2歳以下の若い猫がかかりやすいとされています。
もともと「猫コロナウイルス」は感染しても軽度の症状しか引き起こさず、ほとんどの場合、命に関わることはありません。しかし、このウイルスは増殖する際に遺伝子が変異しやすい性質を持っており、変異が重なることで猫の健康を脅かす「猫伝染性腹膜炎ウイルス」に変化することがあります。このウイルスが原因で発症する病気がFIPです。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の原因
FIP(猫伝染性腹膜炎)は、猫コロナウイルスが突然変異を起こし、病原性を持つことで発症すると考えられています。猫コロナウイルス自体は、さまざまな猫が保有しているウイルスで、軽い腸炎を引き起こす程度の病原性の弱いものです。
しかし、猫の体内でこのウイルスが特定の条件下で突然変異し、病原性の高い猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)へと変化すると、FIPを発症するリスクが高まります。
猫コロナウイルスは、主に感染した猫の排泄物を介して口や鼻から感染します。感染自体は珍しくなく、ほとんどの猫は症状を示さずに過ごします。しかし、一部の猫では、ウイルスが体内で突然変異を起こし、強い病原性を持つFIPウイルスへと変化することがあります。この変異の正確なメカニズムはまだ解明されていません。
FIPの発症には、猫自身の免疫力の低下やストレスが大きく関係していると考えられています。若齢猫(2歳以下 約半分は1歳未満)、多頭飼育環境、遺伝的要因などが発症リスクを高める要素として指摘されています。
しかし、現時点では発症を防ぐ方法は確立されておらず、ワクチンもないため、FIPの予防には猫コロナウイルスへの感染を避けることが重要な対策となります。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の分類と症状

猫伝染性腹膜炎(FIP)の分類と症状は以下のとおりです。
初期症状
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、発症すると急速に進行し、場合によっては数日以内に命を落とすこともある危険な病気です。そのため、初期症状を見逃さず、異変を感じたらすぐに動物病院へ相談することが重要です。
FIPの初期症状として、以下のような兆候が見られることがあります。
- 食欲の低下:いつもの食事を残したり、興味を示さなくなる
- 元気がなくなる:遊ばなくなったり、動くことを嫌がる
- 発熱:抱っこした際に体が普段より熱く感じたり、耳を触ると熱を持っている
- 体重の減少:少しずつ痩せてきたと感じる
- 黄疸:耳の内側や白目、お口のなかが黄色っぽく変色している
- 消化器症状:下痢や嘔吐が2日以上続く
- 腹部の膨張:お腹が不自然に膨らんできた
- 呼吸の異常:息苦しそうにしている、呼吸が荒い
これらの症状が見られた場合、早期対応がFIPの治療において重要になります。愛猫の体調に少しでも違和感を感じたら、すぐに動物病院へ相談し、適切な診察を受けるようにしましょう。
ウェットタイプ
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、大きく「ウェットタイプ」と「ドライタイプ」に分類されます。そのなかでもウェットタイプは発症率が高く、進行が速いことが特徴です。
【ウェットタイプの症状】
ウェットタイプは、腹水や胸水と呼ばれる液体が腹部や胸部に溜まるのが大きな特徴です。この蓄積した水分が内臓を圧迫し、次のような症状を引き起こします。
- 腹水の蓄積:お腹が膨らみ、体型が変化する
- 胸水の蓄積:肺が圧迫されることで呼吸困難を引き起こす
- 心嚢水の貯留:心臓の周りに液体が溜まり、血液循環に影響を及ぼす
- 消化器症状:嘔吐や下痢が続く場合がある
- 黄疸:皮膚や白目が黄色くなることがある
ウェットタイプは進行が早く、初期症状が現れてから数日以内に急激に悪化することもあります。そのため、異変に気付いたらできるだけ早く動物病院を受診することが重要です。
FIPは早期の対応が生存率に大きく影響するため、ウェットタイプ特有の腹部の膨らみや呼吸の異常が見られた場合は、速やかに獣医師の診察を受けるようにしましょう。
ドライタイプ
ドライタイプは、さまざまな臓器に小さなしこり(肉芽腫)が形成される「肉芽腫性炎」という特殊な炎症が発生します。
眼に病変が生じると、ぶどう膜炎(目が白く濁る)や虹彩炎(虹彩の腫れや充血)といった症状が現れることがあります。また、脳に影響が及ぶと、眼振(眼球が小刻みに動く)、斜頚(頭が傾く)、麻痺や痙攣などの神経症状を引き起こす可能性があります。
腎臓・肝臓・腸に病変が及ぶと、黄疸や下痢などの消化器症状が見られることがあります。
【ウェットタイプとドライタイプの違い】
FIPの基本的な症状(発熱、食欲不振、体重減少など)は共通していますが、ウェットタイプでは特に体内の水分の異常な蓄積が大きな特徴です。一方、ドライタイプでは中枢神経や眼に病変が現れることがあり、けいれん、麻痺、眼の異常などが主な症状として見られます。
混合タイプ
混合タイプのFIPは、ウェットタイプとドライタイプの両方の特徴を持ち、さまざまな症状が現れることがあるのが特徴です。例えば、ウェットタイプに見られる腹水や胸水の蓄積と、ドライタイプで発生する肉芽腫(小さなしこり)の形成が同時に見られることがあります。
FIPの診断では、まず問診や身体検査を行い、猫の症状や健康状態を確認します。その後、血液検査、X線検査、超音波検査などの画像診断を用いて、体内の異常を詳しく調べます。
また、FIPの確定診断には遺伝子検査が役立つ場合があります。ウェットタイプの場合は、お腹や胸に溜まった液体(腹水・胸水)の検査を行い、FIPに特有の兆候が見られるかどうかを確認します。
これらの検査を総合的に組み合わせることで、FIPの診断を確定し、適切な治療方針を決定します。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の検査・診断と治療

猫伝染性腹膜炎(FIP)の検査・診断と治療について以下で詳しく解説します。
検査・診断
FIPは、ひとつの検査だけで確定診断ができる病気ではありません。そのため、さまざまな検査を組み合わせ、ほかの疾患の可能性を排除しながら診断を進めます。
- 血液検査
血液検査では、貧血の有無や白血球数の変化、黄疸の兆候、高グロブリン血症、そして炎症マーカーであるSAA(血清アミロイドA)の上昇などを確認します。これらの異常が見られる場合、FIPの可能性があるようです。
- 画像検査(レントゲン・超音波検査)
レントゲンや超音波検査を用いて、胸水や腹水の貯留、リンパ節や腎臓の肉芽腫の形成、腹膜炎の有無などを調べます。腹水や胸水が溜まっている場合、画像上では白く映るのが特徴です。
- 胸水・腹水検査
FIPの腹水や胸水は、タンパク質を多く含む粘り気のある液体であることが特徴です。また、FIPによる黄疸の影響で、黄色みがかった腹水・胸水が溜まることもあります。
- 抗体検査
猫伝染性腹膜炎(FIP)の抗体検査では、感染猫の抗体価が上昇する傾向があります。しかし、この抗体価の上昇はFIPウイルス(FIPV)だけでなく、猫腸コロナウイルス(FCoV)の感染によっても引き起こされるため、注意が必要です。血液中の抗体検査ではFIPVとFCoVの区別ができず、抗体価が高いからといって必ずしもFIPと診断されるわけではありません。無症状の猫でも抗体価が高い場合がありますが、その場合はFIPとは診断されないことがほとんどのようです。
- PCR検査
腹水や胸水、血液を用いてPCR検査を実施します。ネココロナウイルスは腸管や糞便に存在しますが、それ以外の部位(腹水・胸水・血液)から検出された場合、FIPの可能性が高いと考えられます。ただし、陰性だからといってFIPを否定できるわけではありません。
FIPの診断には、単一の検査結果だけで判断するのではなく、猫の病歴・症状・各種検査結果を総合的に判断することが重要です。まるでパズルのピースを組み合わせるように、多角的な視点から診断を行います。
治療
近年ではGSやモヌルピラビル、CFSなどによる治療が行われるようになってきています。しかし、FIPを発症すると進行が早く、さまざまなケースでは数日〜数ヵ月で命を落としてしまう可能性が高い病気とされています。
猫伝染性腹膜炎(FIP)は完治するのか
かつてFIP(猫伝染性腹膜炎)は「不治の病」とされていました。しかし、医療の進歩により、完治が期待できる病気へと変わりつつあるようです。
FIPは進行が速く、放置すれば命に関わる危険な病気ですが、早期に適切な治療を行うことで回復が望めることが期待できます。そのため、日頃から愛猫の健康状態をよく観察し、異変があればすぐに動物病院を受診することが重要です。
FIPの治療成功率を高めるためには、できるだけ早い段階で診断し、治療を開始することが重要です。そのため、普段から愛猫の様子を注意深く観察し、食欲低下や元気がないといった初期症状に気付いたら、すぐに動物病院で診察を受けるようにしましょう。また、定期的な健康診断を受けることで、FIPを早期に発見できるかもしれません。
FIP(猫伝染性腹膜炎)の予防

FIP(猫伝染性腹膜炎)の予防方法は以下のとおりです。
外飼い・多頭飼いを避ける
FIPの感染リスクを抑えるためには、室内飼いを徹底し、多頭飼いを避けることがおすすめです。もし多頭飼いをする場合は、感染の疑いがある猫とほかの猫の生活スペースを分けるなど、適切な管理が必要になります。
新しい猫を迎える際には、すぐに既存の猫と接触させるのではなく、約3ヵ月間の隔離期間を設けることが推奨されます。また、猫同士が共有する環境を整えるために、トイレ、ごはん皿、水飲み場などは別々に用意することが重要です。
これらの対策を行うことで、FIPを含む感染症のリスクを減らし、猫たちが安全に過ごせる環境を整えることができます。
愛猫が快適に過ごせるよう環境を整える
FIPの感染を防ぐためには、室内飼いを徹底し、できるだけ多頭飼いを避けることが望ましいです。もし多頭飼いをする場合は、感染の可能性がある猫とほかの猫の生活スペースを分けるなど、適切な管理が必要になります。
また、新しい猫を迎える際には、すぐに既存の猫と接触させるのではなく、約3ヵ月間の隔離期間を設けることが推奨されます。さらに、猫同士が共有するスペースを小さくし、トイレやごはん皿、水飲み場などは個別に用意することが重要です。
定期的に健康チェックを行う
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、できるだけ早く投薬治療を開始することが回復への重要な鍵となります。そのため、定期的な健康診断を受けて愛猫の健康状態をチェックすることが、早期発見・早期治療につながります。
FIPが疑われる場合、以下のような検査が行われます。
- 腹水・胸水の検査
お腹や胸に溜まった液体の性状を調べ、FIP特有の特徴があるかを確認します。
- 超音波検査
体内にしこり(肉芽腫)があるかどうかを調べます。
- PCR検査
ウイルスの遺伝子を検出し、FIPの可能性を判断します。
どの検査が必要かは猫の状態によって異なるため、獣医師と相談しながら愛猫に合った検査・治療方針を決めることが大切です。早期の診断と治療が、FIPと闘うための最善の方法となります。
まとめ

ここまで猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状についてお伝えしてきました。猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状の要点をまとめると以下のとおりです。
- FIP(猫伝染性腹膜炎)は「猫コロナウイルス」が猫の体内で変異し、毒性の強いウイルスへと進化することで発症する致死率のある感染症のことを指す。このウイルスは増殖する際に遺伝子が変異しやすい性質を持っており、変異が重なることで猫の健康を脅かす「猫伝染性腹膜炎ウイルス」に変化することがある
- 猫伝染性腹膜炎(FIP)の分類には、ウェットタイプやドライタイプなどで分けられる。ウェットタイプは腹水や胸水と呼ばれる液体が腹部や胸部に溜まるのが大きな特徴。ドライタイプはさまざまな臓器に小さなしこり(肉芽腫)が形成される「肉芽腫性炎」という特殊な炎症が発生する
- 猫伝染性腹膜炎(FIP)の検査には、貧血の有無や白血球数の変化、黄疸の兆候、高グロブリン血症、そして炎症マーカーであるSAA(血清アミロイドA)の上昇などを確認する血液検査やレントゲンや超音波検査を用いて、胸水や腹水の貯留、リンパ節や腎臓の肉芽腫の形成、腹膜炎の有無などを調べる画像検査などが挙げられる
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、進行が早く命に関わる病気ですが、早期発見と適切な治療によって症状の改善が期待できる場合もあります。日頃から愛猫の体調を注意深く観察し、異変を感じたらすぐに動物病院を受診することが大切です。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。