猫の甲状腺機能亢進症は、猫によく見られる内分泌系の病気で、特に高齢の猫に発症することが多いといわれています。しっかりとした治療を行わないと健康に深刻な影響を与える可能性があります。
本記事では猫の甲状腺の病気について以下の点を中心にご紹介します。
- 猫の甲状腺の病気|甲状腺機能亢進症とは
- 猫の甲状腺機能亢進症の原因・症状
- 猫の甲状腺機能亢進症の検査・治療・予防
猫の甲状腺の病気について理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
猫の甲状腺の病気|甲状腺機能亢進症とは?

猫の甲状腺機能亢進症とは、甲状腺が過剰にホルモンを分泌することによって発生する病気です。
甲状腺は、体内の代謝を調節するホルモンを分泌しています。病気で過剰にホルモンが分泌されると身体の代謝が病的に活発になります。
結果、猫の体内でさまざまな異常が引き起こされ、行動や体調に大きな変化をもたらします。猫の甲状腺機能低下症は稀です。
猫の甲状腺機能亢進症の原因・症状

猫の甲状腺機能亢進症の原因・症状を以下で解説します。
原因
猫の甲状腺機能亢進症の原因は、甲状腺に発生する良性腫瘍や過形成もしくは悪性の腫瘍です。悪性の腫瘍は稀で、頻度は5%以下です。
症状
猫の甲状腺機能亢進症の典型的な症状としては、体重の減少や食欲の増加、頻繁な排尿と飲水、鳴き声が多くなる、興奮しやすくなる、活動量の増加、呼吸や心拍数の上昇、嘔吐や下痢、被毛の状態の悪化(体毛がボサボサして一部まだらに毛が抜ける)などが見られます。
なお、これらの症状はほかの疾患でも見られることがあるため、鑑別が重要です。考えられる鑑別疾患としては、糖尿病、腸での吸収障害や消化不良、腫瘍(特に消化管に発生するリンパ腫)、慢性腎臓病、寄生虫感染などが挙げられます。
甲状腺機能亢進症になる猫・併発しやすい疾患

甲状腺機能亢進症になりやすい猫には、どのような特徴があるのでしょうか。
併発しやすい疾患も併せて解説します。
甲状腺機能亢進症になりやすい猫
甲状腺機能亢進症は、年齢を重ねた猫での発症リスクが高いです。日本では2002年に9歳以上の猫で8.9%の有病率が報告されており、世界で地域差はあるものの、おおよそ9歳以上で約10%前後との研究報告が多く、高齢猫がなりやすいと言えます。また、シャム猫、バーミーズ猫などは発症リスクが低いとされています。
ヨウ素欠乏食やその他の栄養成分が発症関連因子である可能性があるとして世界中で調査が行われているものの、未だにはっきりしたことは分かっていません。
併発しやすい疾患
猫の甲状腺機能亢進症は、心臓病を併発することが珍しくありません。この心疾患は、甲状腺機能亢進症の直接的な影響で起こる場合もあれば、別の原因による場合もあります。特に臨床症状がある猫や治療前に心エコーで異常が確認されていた猫では継続的なモニタリングが重要です。
猫の甲状腺機能亢進症は、腎機能低下を併発している可能性が高いです。甲状腺機能が悪いままだと腎機能が悪化していくリスクが高いため、早めに治療を開始してT4(血清サイロキシン4)の値を下げておくことが大事です。
猫の甲状腺機能亢進症の検査・治療・予防

猫の甲状腺機能亢進症の検査・治療・予防について以下で解説します。
診断に必要な検査
甲状腺機能亢進症の診断には、いくつかの検査が必要です。以下の方法が主に用いられます。
- 視触診・聴診
甲状腺機能亢進症が進行すると、痩せが進んだり、甲状腺が大きくなることがあります。獣医師は、猫の首の部分を触診し、甲状腺が腫れているかを確認します。病気でも必ずしも腫れるとは限らないため、腫れていなくても病気が除外できるわけではありません。また甲状腺機能亢進症では心拍数が上がります。聴診で確認します。
- 血液検査
血液検査は甲状腺機能亢進症の確定診断に重要です。甲状腺ホルモン(T4)の数値が基準値を超えていれば、甲状腺機能亢進症が疑われます。
- 超音波検査
超音波検査は、甲状腺の状態や腫瘍の大きさ、形状を詳細に評価することができます。良性腫瘍か悪性腫瘍かどうかの鑑別所見としても重要です。必要に応じてCTやシンチグラフィなども検討されます。
- 血圧測定
甲状腺機能亢進症が原因で高血圧が引き起こされることがあります。高齢の猫では、血圧の異常が出ることが多いため、定期的な血圧測定が重要です。
- 眼科検査
甲状腺機能亢進症による高血圧が原因で、眼底出血や網膜剥離が引き起こされることがあります。目に違和感があるように見える場合は、視力を評価します。
- X線検査
X線検査は、心臓や肺など、ほかの臓器に影響を与えている可能性がある場合に使用されます。特に、肥大型心筋症などの心疾患との鑑別もX線検査を参考に行われます。
治療
甲状腺機能亢進症の治療について、以下に解説します。
①内科的療法
甲状腺機能亢進症の治療において、内科的療法は一般的な方法です。しかし、根治的な治療ではなくあくまでも対症療法です。
甲状腺ホルモンの合成を阻害する薬物を内服します。基本的には生涯にわたる長期の投薬が必要です。
投薬前後に血液検査を行い、甲状腺ホルモンの濃度を確認します。その後、定期的に血液検査を繰り返して薬の投与量を調整します。薬の過剰による甲状腺機能低下症を防ぐため、投薬量が決まった後も定期的なチェックが必要です。
薬の副作用には、食欲不振や嘔吐、下痢、感染症、肝臓への影響などが見られることがあるため、投薬後の体調に異常を感じた場合はすぐに獣医師へ相談しましょう。怠薬すると症状が戻ったり悪化しますので、通院を定期的に行うことが大切です。
②外科的療法
甲状腺機能亢進症の治療において、外科的療法は日本における唯一の根治的な治療法となります。
外科的療法は、甲状腺悪性腫瘍が発生している場合や、内科治療が効果を示さない場合に検討されます。状態に応じて両方または片方の甲状腺を摘出します。
手術後は甲状腺ホルモンの過剰な分泌がなくなるため、逆に甲状腺機能が低下することがあります。両方の甲状腺を全摘出した場合には生涯にわたって甲状腺ホルモン剤を補充することがあります。片側のみ摘出した場合は、補充の必要はほぼありません。
③食事療法
甲状腺機能亢進症の治療において、食事療法は内科治療と並行して行う補助的な治療法です。甲状腺ホルモンの材料となるヨウ素を制限する専用の療法食を使用します。多頭飼いの場合などは行うことが難しくなります。
④放射線療法
猫の甲状腺機能亢進症に対する根本的な治療法には、外科的に甲状腺を摘出する手術と、放射性ヨードによる治療の2つがあります。現在、日本国内では動物に対する放射性ヨード治療は行われていませんが、すでに治療が可能な欧米のほか2024年には韓国でもこの治療法が承認されており、日本でも今後導入が進む可能性があります。
治療にかかる費用
猫の甲状腺機能亢進症の治療費は、選択する治療方法や動物病院によって異なりますが、内科的な投薬治療の場合、1回の受診でおおよそ1〜1.5万円程度です。外科的治療(甲状腺の摘出手術)を行う場合、入院費用を含めて10万円以上かかることもあります。
早期発見
猫の甲状腺機能亢進症は、予防できる病気ではなく、早期発見が重要です。猫の食欲や体重、被毛や皮膚の状態などをチェックし、異常が見られた場合は受診することが大切です。採血でT4の値をチェックすることが診断に必要です。
まとめ

猫の甲状腺の病気についての要点をまとめると以下のとおりです。
- 猫の甲状腺機能亢進症は、過剰な甲状腺ホルモン分泌によって発生する病気。高齢猫での有病率は約9%程度
- 猫の甲状腺機能亢進症は、採血による早期診断が重要。食欲亢進や体重減少、興奮しやすさ、毛ヅヤに異常が見られた場合は受診する
- 猫の甲状腺機能亢進症は予防が困難なため、血液検査などによる早期発見と治療の選択が重要である
猫の甲状腺機能亢進症は高齢の猫に見られることが多い病気であり、心臓や腎臓への影響を減らすためにも早期発見と継続的な治療が重要です。
定期的な健康診断や、異常な様子があれば早めに獣医師に相談することが猫の健康維持につながります。
【参考文献】
- 猫の甲状腺機能亢進症|ペット栄養学会誌 第18巻第1号 _2015.4
- Journal of Feline Medicine andSurgery|National Library of Medicine