猫を飼っている方のなかには、トキソプラズマ症という病気を聞いたことがあり、不安を感じている方もいるでしょう。
特に妊娠を考えている場合や小さな子どもがいる家庭では、猫から人へ感染する可能性が気になるはずです。しかし、正しい知識を知り、適切な検査や予防を行えば過度に心配する必要はありません。
この記事では、猫のトキソプラズマ症の基本的な知識から検査方法や費用の目安、検査を受けるタイミングまでわかりやすく解説します。
さらに、飼い主への感染リスクや日常でできる対策も紹介するので、猫と安心感を持って暮らせるよう順番に確認しましょう。
猫のトキソプラズマ症の概要

猫のトキソプラズマ症は、寄生虫によって引き起こされる感染症の一つです。猫だけでなく、人やほかの動物にも関わることがあるため、基本的な知識を知っておくと安心感につながります。
とはいえ、すべての猫が発症するわけではなく、感染しても症状が目立ちにくいケースも少なくありません。
ここでは猫のトキソプラズマ症とはどのような病気なのかをはじめ、主な原因や現れやすい症状、どのような経路で感染するのか解説します。
猫のトキソプラズマ症とは
猫のトキソプラズマ症とは、トキソプラズマ原虫と呼ばれる寄生虫が体内に入り込むことで起こる感染症です。
トキソプラズマは単細胞生物の原虫の一種で、猫だけでなくほとんどの哺乳類や鳥類にも感染します。ただし、人に感染する可能性のある虫体を体外へ排出できるのはネコ科の動物だけです。
猫の体内で有性生殖を行ったトキソプラズマは、糞のなかにオーシストと呼ばれる大変丈夫な形態で排出されます。
このオーシストは一般的な消毒薬では死滅しにくく、土や水のなかで数ヶ月生き続けることもあります。
そのため、猫の糞で汚染された土や水が感染源になる場合もあるのが特徴です。一方で豚や牛、鶏などネコ科以外の動物から人にうつるケースは、感染した肉を生で食べた場合などに限られます。
猫のトキソプラズマ症の原因や症状

猫のトキソプラズマ症はトキソプラズマ原虫に初めて感染したときに起こり、猫が初感染すると腸の細胞のなかで寄生虫が増え、感染から3〜5日以降に糞の中へ虫体が排出されます。
この排出は1週間ほど続き、その後は通常再び排出されることはほとんどないといわれています。そのため、すでに感染して排出を終えた猫は基本的に大きな危険はありません。
一方で、まだ感染していない猫はいつ感染するか予測がつかないため注意が必要です。
症状はさまざまです。
- 食欲不振
- 発熱
- 下痢
- 嘔吐
肺炎や肝障害、黄疸などを伴うこともあり、重い場合には脳や肺などに影響がおよびます。
ただし、ほとんどの猫は無症状で経過するため、飼い主が気付きにくい点も特徴です。子猫では下痢や神経症状、肺炎などが見られることもあり、免疫が未熟な場合は重症化する可能性もあります。
猫のトキソプラズマ症の感染経路
トキソプラズマ原虫はネコ科動物の腸の粘膜や体内の組織で増え、さまざまな経路でうつる可能性があります。
主な感染のきっかけは、筋肉のなかにトキソプラズマのシスト(嚢胞)を持つ、ネズミや小鳥などの中間宿主を捕食する行動です。
また、すでに感染した猫の糞に含まれるオーシストを口にしてしまうことでも感染します。
排出されたオーシストは、1〜2日ほどで感染力を持つようになり、土や水のなかで長く生き続ける場合があります。猫が体をなめることでお口に入ることもあり、知らないうちに感染するのも大きな特徴です。
屋外に出てネズミや小鳥を捕まえる機会が多い猫や、土や水に触れる環境で生活している場合は、感染のリスクが高まると考えられています。
猫のトキソプラズマ症の検査方法と費用

猫のトキソプラズマ症が気になる場合、まず知っておきたいのが検査の方法と費用の目安です。
トキソプラズマ感染は外見の症状だけでは判断が難しく、正確に確認するには動物病院での検査が必要です。
血液を使って抗体の有無を調べる検査が一般的で、感染の可能性を把握する手がかりになります。
また、動物病院によって検査の内容や料金が異なる場合もあるため、あらかじめ相場を知っておくとよいでしょう。
猫のトキソプラズマ症の検査方法
猫のトキソプラズマ症を調べる場合、動物病院で血液検査を行う方法が一般的です。少量の血液を採取し、トキソプラズマに対する抗体の有無を確認することで、過去に感染したことがあるかを調べます。
ほとんどの病院では院内で検査するのではなく、外部の検査機関へ血液を送り結果を確認するため、外注の関係で少し時間がかかることを理解しておきましょう。
また、トキソプラズマ検査は一般的な検査ではないため、すべての動物病院で実施できるとは限りません。受診前に検査できるかどうかを問い合わせておきましょう。
なお、抗体が陽性だった場合は過去に感染歴があり、すでに虫体の排出を終えている可能性が高いと考えられます。
症状によっては糞便検査や眼科検査、神経学的検査などを行うこともありますが、虫体そのものを見つけることは難しく複数の検査結果を総合して判断することがほとんどです。
猫のトキソプラズマ症の検査費用の相場

猫のトキソプラズマ症の検査費用は、検査の種類や動物病院によって異なります。
一般的に多く行われる血液検査(抗体検査)の場合、5,000円(税込)前後が目安で、トキソプラズマ抗体検査として7,700円(税込)ほどかかることもあります。
また糞便検査でオーシストの有無を調べる場合は安く、800〜2,500円(税込)ほど、平均すると1,200〜1,500円(税込)ほどで行われることがほとんどです。
ただし、血液検査を外部の検査機関に依頼する場合や、ほかの検査をあわせて実施する場合は費用が高くなる可能性もあります。
詳しい料金は動物病院ごとに異なるため、検査を希望する際は事前に費用を確認しておきましょう。
猫のトキソプラズマ症の検査を受けるタイミング

新しく猫を迎えるときや家族の生活環境が変わる場面では、猫のトキソプラズマ症の感染状況を確認しておくと安心感につながります。
また、飼い主が妊娠を考えている場合や妊娠が判明したときには、トキソプラズマ感染について不安を感じる方も少なくありません。
このようなタイミングで猫の状態を把握しておくことで、過度な心配を減らしながら適切な対策をとることができます。
新しく猫を飼うとき
新しく猫を迎えるときは、トキソプラズマ症の感染状況を確認しておきましょう。
特に多頭飼育の環境では、感染した猫がほかの猫の感染源になることがあるため、予防的な検査を行うとよいでしょう。
猫がオーシストを排出するのはほとんどの場合、初めて感染した後1〜3週間ほどです。特に1歳未満の子猫で見られることがほとんどです。
排出されたオーシストは2〜3日で成熟し、感染力を持つようになります。
トキソプラズマ症はほとんど症状が出ないこともあり、ほかの病気と見分けがつきにくいため、正確な判断には検査が必要です。
飼い主が妊娠を計画しているときや判明したとき

飼い主が妊娠を計画しているときや妊娠がわかった場合には、愛猫のトキソプラズマ感染歴を確認しておくとよいでしょう。
トキソプラズマは人にも感染する寄生虫ですが、妊娠前に感染して抗体を持っている場合、赤ちゃんへの影響はほとんどないといわれています。
一方で、これまで感染したことがない方が妊娠中に初めて感染すると、胎児に影響が及ぶ可能性があるため注意が必要です。
猫の感染状況を調べるには、トキソプラズマ抗体検査を行います。少量の血液で検査でき、数日で結果を確認できます。
もし猫の抗体が陽性であれば、すでに過去に感染しており、妊娠期間中に新たにオーシストを排出する可能性は低いでしょう。
反対に抗体が陰性の場合は、これまで感染していない可能性があり、今後初感染する可能性も考えられます。
猫のトキソプラズマ症の治療法

猫のトキソプラズマ症は、ほとんどの場合症状がほとんど見られないまま経過しますが、体調の変化が見られる場合には適切な治療が必要です。
治療では、トキソプラズマの増殖を抑える薬を使う方法や発熱や食欲不振などの症状をやわらげる対症療法が行われます。
猫の状態や症状の程度によって治療内容が変わることもあるため、獣医師の判断に基づいた対応が大切です。
ここでは、猫のトキソプラズマ症で行われる主な治療方法を、薬物療法と対症療法の観点からわかりやすく解説します。
薬物療法
猫のトキソプラズマ症の治療では、寄生虫の増殖を抑えるために抗生物質や抗菌薬を使う方法が中心です。
治療はすぐに終わるわけではなく、症状が落ち着くまで少なくとも4週間ほど継続して投与するケースが一般的です。
猫の体調や症状の程度によって薬の種類や期間は変わるため、獣医師の指示に従いながら治療を進めましょう。
また、発熱や下痢などの症状が見られる場合には、それぞれの状態に合わせた薬を併用しながら回復を目指していきます。
対症療法
猫のトキソプラズマ症では、薬で寄生虫の増殖を抑える治療とあわせて、症状に応じた対症療法も行われます。
例えば下痢や食欲低下によって脱水や体力の低下が見られる場合には、点滴による水分補給や十分な栄養管理を行い、全身の状態を整えていくことが大切です。
また症状にあわせて整腸剤や吐き気止め、点眼薬、抗けいれん薬などを使用することもあります。
なお、現在の治療では猫の体からトキソプラズマを取り除いたり、オーシストの排泄を防いだりする薬はありません。
そのため慢性的に経過する場合には、症状を見ながら治療を続けていくことが大切です。
猫のトキソプラズマ症は飼い主にも感染する?

猫のトキソプラズマ症が人にも感染するのではと不安に感じる飼い主の方も少なくありません。特に妊娠中の場合は、赤ちゃんへの影響が気になることもあるでしょう。
ここでは、妊娠中のリスクの考え方や感染を防ぐために意識したい対処法、日常で実践できる衛生管理のポイントをわかりやすく解説します。
妊娠中の場合のリスク
妊娠中のトキソプラズマ感染は、お腹の赤ちゃんへの影響が心配されることがあります。ただし、すべての感染が問題になるわけではありません。
赤ちゃんに影響が出る可能性があるのは、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合に限られます。
妊娠前にすでに感染して抗体を持っている場合は、赤ちゃんへの影響を過度に心配する必要はありません。
一方、これまで感染したことがない女性が妊娠中に初感染した場合、30%ほどが胎盤を通じて胎児へ感染する可能性があるといわれています。
まれに流産や胎児への影響が起こることもあるため、注意が必要です。妊娠を予定している方や妊娠中の方は、トキソプラズマを正しく理解し、猫との生活でも衛生管理を意識することが大切です。
感染しないための対処法
トキソプラズマの虫体は猫の糞のなかに排出された後も、土や水のなかで数ヶ月生き続けることがあります。
糞が乾いてほこりのように舞いあがり、周囲の土や水に混ざると間接的な感染につながる可能性もあります。
猫の糞は直接触れないよう注意し、処理した袋はしっかり口を閉じて捨てましょう。
また、庭の土や砂に触れるときは手袋を着用し、作業後は石けんで十分に手を洗うことが大切です。猫の糞を庭に埋めたり排水口に流したりすると、環境中に虫体が広がる恐れがあります。
さらに生肉にはトキソプラズマが存在する可能性があるため、調理の際は十分に加熱し、包丁やまな板もよく洗うなど衛生管理を徹底しましょう。
手洗いを徹底して猫の糞には触れない
トキソプラズマ症の感染予防の基本は猫の糞に直接触れないことです。
特に妊娠中の方がいる家庭では、猫のトイレ掃除を妊婦が行わないよう配慮することが望ましいでしょう。
どうしても掃除を行う必要がある場合はマスクや手袋を着用し、作業後に石けんで十分な手洗いを行うなど、糞がお口に入らないよう注意することが大切です。
また、猫のトイレは毎日掃除して清潔に保ち、糞は残さず処理するようにします。定期的に熱湯で洗浄することで衛生状態を保ちやすいでしょう。
手指にはさまざまな病原体が付着する可能性があるため、掃除後は石けんでしっかり洗い流しましょう。手洗いが難しい場合は、消毒用ハンドジェルを活用するのも有効です。
妊娠中は猫のトイレ掃除は家族に任せる
妊娠中は、猫のトイレ掃除をできるだけ家族に任せましょう。妊婦以外の家族がトイレの片づけを担当し、毎日きれいな状態を保つよう心がけることが重要です。
猫に触れること自体は大きな問題になることは少ないですが、キスや頬ずりなどの濃厚なふれあいは控え、触れた後は手洗いを行う習慣をつけましょう。
猫をトキソプラズマ症に感染させないための対策

トキソプラズマ感染を防ぐためには、まず猫を感染させない生活環境を整えることが大切です。
トキソプラズマはほとんどの哺乳類や鳥類に感染する寄生虫で、感染したネズミや野鳥を猫が捕まえて食べることで感染する場合があります。
また、野良猫の糞に含まれる虫体に触れることで感染する可能性もあります。そのため猫は屋外へ出さず、完全な室内飼いを心がけることが重要です。
さらに、猫に生肉を与えないことも大切なポイントです。豚肉や牛肉、鶏肉などの肉にはトキソプラズマが存在する可能性があるため、加熱していない肉や生ハムなどの食肉加工品は避けるようにします。
また、野良猫との接触を防ぎ、庭や土など汚染の可能性がある場所に近づけないことも予防につながります。
まとめ

猫のトキソプラズマ症は、トキソプラズマ原虫という寄生虫によって起こる感染症で、猫だけでなく人にも関係する病気です。
猫が初めて感染したときに糞の中へ虫体を排出する可能性があるため、感染の仕組みや予防方法を知っておくことが人への感染を防ぎます。
検査は主に血液検査で抗体の有無を調べ、必要に応じて糞便検査などが行われます。費用は数千円程度が目安です。
新しく猫を迎えるときや、飼い主が妊娠を考えている場合には検査を検討するとよいでしょう。
感染を防ぐためには室内飼育を心がけ、生肉を与えないこと、猫の糞に触れないことなど日常の衛生管理が重要です。
正しい知識と対策を取り入れることで、猫と不安なく暮らすことができます。
参考文献
