犬の脱臼とは?膝蓋骨脱臼(パテラ)の 症状・治療法・予防法を紹介します

犬の脱臼とは?膝蓋骨脱臼(パテラ)の 症状・治療法・予防法を紹介します

犬の膝蓋骨脱臼は、悪化すると歩けなくなってしまうこともある疾患です。膝蓋骨脱臼は、小型犬に見られることが多く、決して珍しい疾患ではありません。初期段階では痛みがあまりないこともありますが、放置すると少しずつ進行してしまうため、適切な治療を行うことが大切です。今回は、犬の膝蓋骨脱臼の症状と治療法、予防法をご紹介します。セルフチェックについても解説するため、小型犬を飼っている方や膝蓋骨脱臼が心配な方はぜひご覧ください。

犬の膝蓋骨脱臼の概要 

犬の膝蓋骨脱臼は膝のお皿の骨が本来あるべき場所からずれてしまう疾患です。痛みの程度はさまざまですが、放っておくと骨の変形を引き起こし、歩行ができなくなる可能性があります。まずは、犬の膝蓋骨脱臼について詳しく解説します。

犬の膝蓋骨脱臼とは

膝蓋骨とは、いわゆる膝のお皿の骨のことです。この膝蓋骨がなんらかの理由で正しい位置から外れてしまうことを膝蓋骨脱臼といいます。膝蓋骨は、英語でpatella(パテラ)というため、膝蓋骨脱臼のことをパテラと呼ぶこともあります。

膝蓋骨は、大腿骨(だいたいこつ)という太ももの骨と脛骨という脛(すね)の骨をつなぐ膝蓋靭帯(しつがいじんたい)によって支えられ、滑車溝というくぼみにおさまっているのが正常です。膝の曲げ伸ばしをすると、動きに合わせて滑車溝のなかで膝蓋骨が上下に動き、膝の動きをサポートするのです。

しかし、なにかの拍子に膝蓋骨がくぼみから外れてしまう場合があり、その状態を膝蓋骨脱臼といいます。生まれつき滑車溝が浅かったり、膝蓋骨を支える靭帯や筋肉に異常があったりすると、滑車溝から膝蓋骨が外れやすい状態になってしまうと考えられています。膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が滑車溝の外側に外れる外方脱臼と、内側に外れる内方脱臼がありますが、犬の膝蓋骨脱臼はほとんどが内側脱臼です。なかには内側と外側の両方に脱臼する膝蓋骨両方向性脱臼と呼ばれる症例もあります。初期であればほとんど痛みがないこともありますが、そのままにしていると徐々に足の骨に負荷がかかり、骨の変形や炎症を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

犬の膝蓋骨脱臼の症状とグレード

犬の膝関節脱臼は、症状に応じて4段階にグレード分けがされています。検査方法には、犬の歩く様子や後ろ足の状態、姿勢などを観察する視診や歩様検査、膝蓋骨を触って脱臼の有無や状態を評価する触診、膝関節の状態と大腿骨や脛骨の変形の程度を確認するレントゲン検査の3つがあります。これらの検査によって膝蓋骨脱臼の状態を評価しグレードを判断します。グレードが高くなる程、重度の脱臼になり、グレード2以上になると手術適応と診断されます。順番に見ていきましょう。  

・グレード1
膝蓋骨は正常な位置にありますが、足を伸ばした状態で膝蓋骨を指で押すと脱臼し手を離すともとに戻る状態です。初期段階のため普段は特に目立った症状が見られないこともあるため、健康診断や身体検査などで偶然発見されることも少なくありません。なにかの拍子に膝蓋骨が外れた際には後ろ足を引きずったり、スキップするような歩き方になったりすることがあります。グレード1の膝蓋骨脱臼と診断されたら、症状が悪化しないようにできる限りの対策をとりましょう。

・グレード2
膝蓋骨が脱臼したりもとに戻ったりと不安定な状態です。指で押したり膝の曲げ伸ばしをしたりすると脱臼と整復が繰り返し起こるのも特徴です。足の屈伸をするとコリコリと音がする場合もあります。脱臼した際には、後ろ足を床に着くことができなくなり、キャンと鳴いたり、足をあげて急に痛がったりする症状が見られます。この段階では、普段は歩くことはできますが、このまま年数が経つと骨の変形を引き起こしたり膝蓋骨を支える靭帯が伸びてしまったりしてグレード3に進行してしまうケースが多々見られます。そのため、外科手術を検討するのもこの時期です。脱臼を繰り返すことで関節炎などを発症し痛みを訴える場合もあります。異変があればすぐに動物病院を受診してください。

・グレード3 
膝蓋骨が常に脱臼している状態です。グレード3になると、膝蓋骨を指で押して正しい位置に整復したとしても指を離すとすぐにまた脱臼してしまいます。この段階では、膝関節を伸ばして歩くことが難しくなり、腰をかがめながら後ろ足を引きずって歩く跛行(はこう)という症状が見られるようになります。大腿骨や脛骨の変形が見られるようにもなってきます。骨が変形すると、靭帯が損傷し断裂したり、膝関節の軟骨が削れてしまったりするリスクもあります。グレード3は、早めに外科手術での治療を開始することが望ましい状態です。

・グレード4
膝蓋骨が常に脱臼している状態です。膝蓋骨を指で押してももとの位置に戻らないため、後ろ足を伸ばすことができず、足先を地面に着けることができなくなります。グレード4になると筋肉の萎縮や大腿骨や脛骨の変形も大きくなるため、骨切り術など大きな手術が必要になることも多く術後の合併症のリスクも高くなります。できるだけグレード4に至るまでに治療が開始できるように早めの受診を心がけましょう。

膝蓋骨脱臼の原因

膝蓋骨脱臼は、事故やけがが原因になっている場合と、生まれつきの問題が原因で引き起こされている場合とがあります。そのため、大きなけががなく、思い当たることがない場合でも膝蓋骨脱臼を発症している可能性があるのです。また、膝蓋骨脱臼を起こしやすい犬種があることもわかっています。ひとつずつ解説します。

先天的膝蓋骨脱臼

生まれつき膝蓋骨がおさまるための滑車溝が浅かったり膝蓋骨を支えている靭帯や膝関節周囲の筋肉のバランスが悪かったりすると膝蓋骨脱臼を起こしやすくなります。また、遺伝的な要因で骨や靭帯、筋肉の形成に異常が生じている場合にも膝蓋骨脱臼の発生リスクが高まります。成長に伴って徐々に脱臼が進行していくケースでは痛みが少なく、症状が悪化するまで膝蓋骨脱臼に気が付きにくいことも特徴です。

後天的膝蓋骨脱臼

後天的膝蓋骨脱臼は、高い所から飛び降りたことによる打撲や交通事故によるけが栄養失調による骨の変形などが原因となるものです。けがをした直後は異常がなさそうに見えても、時間が経ってから脱臼が悪化する場合もあります。痛そうに足をかばって歩いている、歩くときの歩幅が狭い、段差を登りたがらない、スキップのような歩き方をしているなど、いつもと違う様子に気が付いたらすぐに動物病院を受診しましょう。

かかりやすい犬種

膝蓋骨脱臼は、トイプードル、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリア、マルチーズなど5kg未満の小型犬に現れやすい傾向があります。小型犬は体格が小さく、もともと滑車溝が浅いことや、足の内側の靭帯や筋肉が発達していることなどが理由と考えられています。そのため、小型犬では膝蓋骨が内側に向かって外れる内側脱臼がほとんどです。ただし、大型犬でも膝蓋骨脱臼を発症するリスクはゼロではありません。小型犬ではないから大丈夫と思わずに、普段から歩く様子を注意して見ておきましょう。

膝蓋骨脱臼のセルフチェック

膝蓋骨脱臼は症状が進むと治療の難易度があがり、合併症のリスクも高まります。そのため、膝蓋骨脱臼のセルフチェックを行って早期発見し、症状が悪化する前に治療することが大切です。膝蓋骨脱臼を発見するには歩き方をチェックする必要があります。例えば、後ろ足をかばうように歩く、ケンケンやスキップのような歩き方をしている、歩いているときに後ろ足を後方に伸ばすような動作をするときは、膝蓋骨脱臼の初期症状の可能性があります。普段と違った動作をしていないか、日頃からよく観察しておきましょう。特に、後ろ足を後方に伸ばす動作は、脱臼した膝蓋骨をもとに戻すために行っている可能性があります。自分で整復することができているとしても、何度も脱臼を繰り返していると関節炎や靭帯断裂など新たな病気を引き起こすリスクが高まります。次第に痛みがひどくなる可能性があるため注意して見ておきましょう。膝蓋骨脱臼は痛みの程度もさまざまです。あまり痛がっている様子がなくても膝蓋骨脱臼を起こしている場合もあるため、歩く様子がいつもと違う場合は受診をおすすめします。

膝蓋骨脱臼の症状が進むと、歩いているときに膝がガクッと崩れる、背中を丸めて膝を曲げた状態で歩く、後ろ足を片方ずつあげさせると嫌がる、後ろ足がO脚やX脚のように見えるなどの症状が見られます。歩き方や様子が明らかにおかしいと感じる場合は膝蓋骨脱臼の症状が進んでいて手術が必要な可能性が高いといえるでしょう。早めに診察を受けましょう。

膝蓋骨脱臼の治療法

膝蓋骨脱臼は、放っておくとどんどん症状が進行し、歩くことが困難になってしまう可能性があります。そのため、膝蓋骨脱臼と診断された場合は、グレードや症状、年齢や状況などを考慮し、適した治療方法を選択する必要があります。獣医とよく相談しながら治療方法を決めましょう。

主な治療法は、投薬での治療滑車造溝術脛骨粗面転移術の3種類です。それぞれ順番に解説します。

投薬での治療

脱臼の頻度が低い場合や優先して治療をするべきほかの疾患がある場合、高齢の犬で靭帯などの組織が弱く、手術後の回復が難しいと判断される場合などには、手術ではなく投薬での治療を行います。薬には、痛みや炎症を抑えるための鎮痛薬や関節炎を予防するサプリメントなどがあります。手術を行わない場合は、症状の悪化を防ぐための体重管理や環境の見直しなどを行い、膝への負担をやわらげるような対策が大切です。しかし、投薬治療は根本的な治療にはならないため、時間が経つと膝蓋骨脱臼が進行し、手術が必要な状態になってしまう可能性もあります。また、骨格の成長期に当たる若い犬の場合は、膝蓋骨脱臼によって骨格や筋肉の形成に悪影響を及ぼす場合があるため、積極的に手術を行うケースもあります。

滑車造溝術

膝蓋骨は滑車溝という骨のくぼみにおさまっているのが通常です。しかし、膝蓋骨脱臼を発症する犬はこの滑車溝が浅く、膝蓋骨がおさまりにくい状態になっていることがあります。そこで浅い滑車溝を深くする目的で行うのが滑車造溝術です。大腿骨の滑車溝に当たる部分の骨を切除して溝を深くすることでくぼみに膝蓋骨がきちんとおさまり、脱臼を防ぐ効果が期待できます。

脛骨粗面転移術

脛骨粗面転移術は、脛骨という脛の骨を切り膝蓋骨と靭帯脛骨のアライメントを整える手術です。膝蓋骨につながる膝蓋靭帯は、脛骨の脛骨粗面という場所に付着しています。この脛骨粗面を内側または外側に移動させて膝蓋骨が正常な位置になるように調整することで、膝蓋骨に異常な力がかかるのを防ぎます。脛骨粗面を移動させるために一度骨を切り離す必要がありますが、脱臼のリスクを大幅に下げられることがメリットです。

膝蓋骨脱臼の予防法

先天性膝蓋骨脱臼の場合は予防する手段はないと思うかもしれません。しかし、膝蓋骨脱臼の悪化を防ぐためにできることはあります。膝蓋骨脱臼を予防するためには、犬の膝に負担をかけないことが大切です。以下に具体的な方法をご紹介します。

体重管理

犬の膝に負担をかけないためには体重を適正に管理することが重要です。体重が適正量を超えると膝に荷重がかかり、膝蓋骨脱臼のリスクを高めてしまいます。食事の内容を見直したり、負担のない範囲での運動を促したりして体重が増えすぎないように気を付けましょう。ただし、高い所から飛び降りたり後ろ足で跳ねさせたりなどの激しい運動は、膝の関節に大きな負担をかけてしまいます。特別に運動をさせようとするのではなく、毎日のお散歩や遊びのなかで必要な運動量を確保できるように心がけましょう。

床材の見直し

ほとんどが室内で飼われる小型犬は、部屋のなかを駆け回るなど活動的に遊ぶことがほとんどでしょう。ただし、ツルツル滑りやすいフローリングは膝蓋骨脱臼のリスクを高めるため注意が必要です。足の裏で踏ん張ることができず、転んだ拍子に脱臼したり、けがをしたりする危険があるため、タイルやフローリングなどの床材は避けましょう。床材の変更が難しい場合はカーペットやマットを敷くだけでも犬の膝への負担をやわらげることができます。

まとめ

犬の膝蓋骨脱臼の症状、治療法、予防法について解説しました。膝蓋骨脱臼は、症状が進行すると手術によるリスクも高くなるため、早期発見し治療を行うことが重要です。特に小型犬は膝蓋骨脱臼を起こしやすいため、普段から気を付けて様子を見ておく必要があるでしょう。犬の様子がいつもと違う、セルフチェックの項目に当てはまっているなど、気になる症状があるときは早めに動物病院を受診することが大切です。

参考文献