犬も人間と同じように、さまざまな病気にかかります。犬がかかる病気の中でも腸閉塞は、死に至る可能性のある大変怖い病気の一つです。腸閉塞は、異物の誤飲などによって引き起こされるため、どんな犬種であっても発症する可能性があり、すべての飼い主さんと愛犬にとって関係のある話です。この記事では、犬の腸閉塞について、その概要や原因、治療方法や予防方法に至るまで、愛犬の健康を守るために欠かせない情報をお伝えします。
犬の腸閉塞とは?
ここではまず、犬の腸閉塞について基本的な内容を説明します。
腸閉塞とは
犬の腸閉塞とは、犬が木片やプラスチック、ボールやビニールなどの異物を誤って飲み込むなどで、腸がつまってしまう病気です。これらの異物は基本的に消化できないため、胃を通過できたとしても、大きさによっては小腸を通り抜けられず、腸管でつまってしまいます。
また異物以外にも、腸管や腹腔内臓器の腫瘍による狭窄や圧迫、腸捻転、腸重積、ヘルニアなどが腸閉塞を引き起こすこともあります。
腸閉塞は、機械的閉塞と機能的閉塞の二つに分類されます。
機械的閉塞は、腸管の中が物理的に塞がれる状態を指し、異物の摂取や腸管の腫瘍、ヘルニアなどによって発生します。これに対し、機能的閉塞(麻痺性腸重積)は、腸管が正常に動かなくなることで生じます。
どちらも同様に緊急の治療が必要で、とくに機械的閉塞は、救急対応を必要とすることが多くあります。放置すると生命を脅かす重篤な状態へと進行する可能性があります。
腸閉塞の原因
犬が腸閉塞を発症する主な原因は、消化できない異物を飲み込んでしまうことです。
犬は好奇心旺盛で、ボールや、かみ砕いたプラスチック片、布、ビニール紐などを口に入れてしまいます。また、ボタンや焼き鳥の串、電池、梅干の種といった日常生活のゴミを誤って口に入れ、それが原因で腸に詰まることもあります。
さらに、腫瘍が大きくなって腸をふさいでしまうこと、あるいはパルボウイルスやジステンパーといった病気、寄生虫の感染が原因で腸捻転を引き起こし、腸閉塞に至る場合もあります。
機械的閉塞の場合
機械的閉塞を起こす原因には、以下のようなものが挙げられます。
- ・異物が腸内に入り込んで物理的に腸を塞いでしまう(異物誤飲)
- ・腸が捻じれてしまう腸捻転
- ・腸の一部が他の部分に入り込む腸重積
- ・腸がヘルニアの袋に入り込む腸ヘルニア
- ・重度の便秘
- ・手術後に腸が正常にくっつかずに癒着を起こす場合など
機能的閉塞の場合
一方で機能的閉塞の原因は、腸の動きをコントロールする神経に問題が起きて、腸が正常に動かなくなることです。
具体的には、神経が何らかの理由でダメージを受けると、腸が物を押し出す力を失い、結果的に食べ物や他の内容物が腸内で止まってしまいます。これは腸に見た目の傷はないけれど、腸の「動き」自体が麻痺してしまう状態を指します。
腸閉塞になりやすい犬種
特定の犬種においては、腸閉塞になりやすい傾向にあることが知られています。
例えば、ジャーマン・シェパードは腸重積、つまり腸の一部が別の部分に滑り込んでしまう状態を起こしやすいとされています。これは腸閉塞の一つで、緊急の治療を要する場合があります。一方、ミニチュア・ダックスフンドには腸内にポリープが形成されやすい傾向があり、これも腸閉塞の原因となる可能性があります。
また、誤飲事故については、とくに若く活発な犬に多い傾向があります。しかし、腸閉塞はあらゆる犬種で発症する可能性があり、特定の犬種だけが影響を受けるわけではありません。
どの犬種であっても、愛犬の行動や健康状態には気を配っておく必要があります。
犬の腸閉塞の症状
犬が腸閉塞を発症した場合、どのような症状が見られるのかを解説します。
腸閉塞の一般的な症状
腸の通過障害が軽度の場合、食欲不振、嘔吐、ガス及び便の排出ができない、下痢、腹痛といった症状が見られます。これらの症状が長引くと、体重減少にもつながります。
また腸内でガスが蓄積することにより、犬のお腹がふくれてきます。
腸閉塞が悪化した場合
腸閉塞が悪化し、完全な閉塞が発生したり、腸粘膜に損傷が生じた場合、腸内細菌の毒素が体内に侵入し、ショック状態に至ることもあります。
また、閉塞部分が充血したり、穴が開いたりすると、激しい腹痛を引き起こし、犬がお腹をかばって背中を丸める姿勢を取ることがあります。
これらの症状は、犬の腸閉塞が重篤な状態にあることを示しています。速やかに、獣医師による診断と治療が必要です。
犬の腸閉塞の受診判断
犬の腸閉塞が疑われる場合、速やかに受診することが望ましいです。ではその判断について、どのようなポイントがあるかを解説します。
腸閉塞の症状を見抜くポイント
犬が異物を飲み込み腸閉塞を発症した場合、元気がなくなる、下痢や食欲不振、嘔吐、腹部を痛がるそぶりを見せるなどの症状が挙げられます。これらの症状が見られる場合、犬が何らかの異物を誤って飲み込み、それが腸をふさいでいる可能性があります。
とくに重要なポイントは、嘔吐です。胃に近い上部小腸(十二指腸)での異物による閉塞が原因である場合、嘔吐やげっぷを繰り返し行うことがあります。これらの嘔吐物からは、腐敗臭のような強い臭いがすることもあります。
さらに、犬の呼吸が浅く速くなる、元気がまったくなくなるなどの症状が加わった場合は、腸閉塞が悪化している可能性が高いと考えられます。これらの症状は犬が重大な苦痛を感じている証拠であり、速やかに獣医師の診察を受けるべき緊急のサインです。放置しておくと最悪の場合、犬の腸管が壊死し、死に至ります。
判断に迷う場合は、医師に相談する
腸閉塞の症状が見られたり、誤って異物を飲み込んでしまった可能性があったりする場合は、ためらわずに獣医師に相談しましょう。
腸閉塞は、放置すればするほど状況が悪化し、犬の生命に危険を及ぼす可能性が高まります。そのため、犬の健康に対する小さな変化も見逃さず、早めの段階で専門家の意見を求めることが、愛犬の命を守ることにつながります。
犬の腸閉塞の診断と治療
腸閉塞が疑われ受診した場合、どのように検査を行い治療方針が決定するかについて見てみましょう。
腸閉塞の診断方法
犬の腸閉塞の診断は、正確な原因を特定し、適切な治療法を決定するために不可欠です。腸閉塞を診断するために用いられる方法には、以下のものがあります。
・血液検査
血液検査を行うことで、炎症の有無や肝臓の機能など、犬の全体的な健康状態を把握できます。
・X線検査
X線検査は、X線に写るものであれば、異物が腸内に存在するかどうかを判断するのに役立ちます。
・X線造影検査
X線に写らない異物や特定の状態を詳しく調べるためには、X線造影検査が行われます。この検査では、造影剤を用いて腸の中を観察します。造影剤が肛門の方へ流れない場合は、異物が腸管内にあることが確認できます。
・超音波検査
超音波検査は、X線に写らない異物や腫瘍、腸の重積などを確認するのに適しています。これにより、腸閉塞の原因となっている具体的な状態をより詳しく調べることが可能になります。
・腸生検・病理組織学検査
また、腸内に腫瘍やその他の塊が存在する場合には、腸生検や病理組織学検査が行われます。これにより、塊が腫瘍であるかどうか、また腫瘍である場合はそれが良性か悪性かを確認することができます。
・試験的開腹
上記の検査だけでは原因が特定できない場合、犬の全身状態が許せば、試験的開腹が行われます。これは全身麻酔を施した上でお腹を開け、直接腸内の状態を調べる方法です。
これにより、腸閉塞の原因を正確に特定し、適切な治療法を決定することができます。
腸閉塞の外科手術
腸閉塞の治療方法は、状態の重さや原因によって異なります。軽度の場合は、投薬などの内科的治療で改善することもあります。
内科的治療を行う例としては、腸に腫瘍ができていて、化学療法(抗がん剤治療)で治療の効果が期待できる場合が挙げられます。化学療法は、手術で取り除ききれない腫瘍や、腫瘍を縮小させてから手術を行う場合などに用いられます。
また、腸の動きが麻痺して通過障害が起こっている場合は、通過を促すための薬物療法などが選択されることがあります。
こうしたケースを除き、異物が腸内に詰まって腸閉塞を引き起こしている場合は、手術によって直接腸を切開して異物を取り除きます。さらに、腸閉塞が原因で腸管が長時間圧迫され、その結果壊死が起きている場合は、患部の腸管を部分的に切除する手術が行われます。
腸重積、つまり腸の一部が別の部分に滑り込むことで腸が変形したり壊死したりする場合も、同様に腸管を切除する手術が必要になることがあります。
外科手術にかかる費用
犬の外科手術にかかる費用は、治療が必要な病状や手術の複雑さ、入院期間などによって変わるため、一概には言えません。いずれにせよ、犬の治療には少なくない費用がかかります。手術を検討する際は、あらかじめ獣医師に費用の見積もりを依頼し、詳細を確認することが大切です。
犬の腸閉塞の予防と注意点
犬の腸閉塞を予防する方法と、どのような点にとくに注意すべきかを説明します。
小さな異物の誤飲に注意する
犬の腸閉塞予防における重要な注意点は、犬が異物を誤飲しないようにすることです。異物誤飲は腸閉塞を引き起こす原因のうち大きな割合を占めます。これは、飼い主が注意することである程度防ぐことができます。
家の中では、イヌの届く範囲に興味を示すものを置きっぱなしにしないことが重要です。
小さいものは皮弁と共に排泄することが多いですが、胃穿孔、腸穿孔の危険もあります。テニスボール、ゴルフボール、リンゴやトウモロコシの芯を丸飲みしてしまったケースもあります。発泡スチロールやタオル、衣服、絨毯なども、犬が誤飲しないよう十分に注意するようにしましょう。
散歩中の拾い食いも誤飲の一因となり得ます。犬が食べ物を見つけても素通りするための訓練や、口にくわえたものを渡してもらう訓練を行うことで、このリスクを減らすことができます。
散歩中に地面に落ちているものを何でも食べてしまう犬の場合は、口輪の使用を検討することも有効です。
犬の健康状態をしっかりと観察する
犬の健康状態をしっかり観察することも、腸閉塞を含むさまざまな病気の予防において非常に重要です。とくに腫瘍による腸閉塞の場合、飼い主が気付かぬうちに犬の症状が進行してしまうことがあります。
腫瘍は高齢犬に多いため、嘔吐、便の変化、体重の減少などの小さな兆候を見逃さず、もしこれらの症状が見られた際には早急に病院へ連れて行くことが大切です。早期発見と早期治療が、犬の健康を守る鍵となります。
また、寄生虫やウイルスが原因で腸閉塞を起こす場合もあります。これらの感染症は、特に若い犬や免疫力が落ちている犬にとって大きなリスクとなります。
感染を防ぐためには、定期的なワクチン接種や予防薬の投与が効果的です。飼い主が日頃から予防措置を講じることで、さまざまな健康リスクから愛犬を守ることができます。
編集部まとめ
腸閉塞は、放置すると命を落とす可能性もある非常に怖い病気です。一方で、適切な知識と早期対応によって、予防や治療も可能です。腸閉塞の原因を知り、犬の普段の行動を注意深く観察することで、リスクを最小限に抑えることができます。
また、観察以外に重要なのが定期的な検診です。異物誤飲以外にも、加齢など別の原因が引き金となって発症する可能性もあるからです。
いずれにせよ、病気の早期発見と迅速な治療開始が犬の命、健康を守ります。愛犬が健康で快適な生活を送るために、日々のケアや予防方法を実践してみてください。