「がんにならないよう健康を気遣いたい」「少しでも長く愛犬と暮らしたい」と願う犬の飼い主さんは多いのではないでしょうか?
しかし、犬も人間と同じようにがんになることがあり、がんで命を落とす犬は全体のおよそ3割とされています。
そこで今回は、犬のがんの症状・種類・治療方法について解説します。
飼い主さんが日頃から気をつけたい健康管理や早期発見のポイントなどもお伝えするので、ぜひ最後までお読みください。
犬もがんになることがある?
犬もがんになることがあり、犬の死因のなかでも上位を占めています。犬のがんは身体のどこにでも発生し、さまざまな症状を経て、最終的に体重低下や食欲減退が起こる悪性疾患です。
6歳以上の中高齢期で発生率が高くなる傾向があるため、特にシニア犬の飼い主さんは毎日の運動や食事量を適切に管理して健康状態を観察しましょう。
また、がんがほかの病気と異なる大きな特徴に、再発と転移があります。治療後、一度消えた腫瘍が再び発生することも少なくありません。
定期的な健康診断を欠かさず、愛犬の様子に異変を感じたら動物病院を受診するようにしましょう。
犬のがんでよくみられる症状
犬のがんは種類が多く、皮膚・呼吸器・泌尿器など発生する場所によって症状も異なります。例えば、お口から胃腸を通り肛門までの消化器にがんができた場合、口腔内や肛門周りにしこりが見つかるでしょう。
よだれや口臭が増え、腫瘍から食べにくさや出血が起こることもあります。また、吐き気・食欲不振・下痢・タール便・血便・体重減少などの症状が現れることもあります。
このように犬のがんは身体のさまざまな場所で発生し、しこりなどのがんとは判別しにくい症状から始まることもあるでしょう。さらには再発や転移といったがん特有の症状にも注意が必要です。
ここからは、一般的な犬のがんの症状を解説しましょう。
食欲不振になる
がんに罹患した動物が食欲不振になるのは珍しいことではありません。しかし、がんにかかった犬も健常なときと同程度の栄養素やエネルギーの補給が必要です。
飼い主さんはそのことを理解したうえで、以下の点に配慮しながら食事させましょう。
- 脱水の改善
- 疼痛の緩和
- 水溶性ビタミンの補給
- 低カリウム血症の補正
食欲低下の対処法として、やわらかく食べやすい形状に調理したり食事を人肌程度に温めて提供したりと工夫してみましょう。
目の前で飼い主さんが食べる真似をする・おいしそうな香りで食欲をそそるなど、少しでも食べさせる工夫をしてみてはいかがでしょうか。
体重減少がみられる
犬の急激な体重減少に気付いたら、がんを疑います。食事の種類や量の記録をもって動物病院に相談しましょう。そのためには、日頃から犬の体重に見合った食事量を守り、散歩量も記録しておくことが大切です。
また、近年の研究結果によると、がんに罹患した犬も健常時と同程度のエネルギー補給が必要なことが明らかになりました。
がん治療にのみ専念するのではなく、今までどおりの食事から栄養や水分を補給することでがんの副作用も軽減され、飢えから解放されてQOLが向上します。
腫れやしこりができる
犬に腫れやしこりができている場合は、がんの可能性を疑い、動物病院を受診しましょう。腫瘍が悪性なのか良性なのか検査が必要ですが、まずは早期発見・治療が重要です。
身体に不自然なしこりや赤い腫れがあり、痛みや痒みなどが出ている場合は、がんは進行している可能性が高いでしょう。ブラッシングやマッサージなど、日頃から犬の身体によく触ってチェックしておくことが大切です。
下痢や嘔吐が続く
腐ったものを拾い食いした・食物アレルギー・ストレスなど、犬の下痢や嘔吐にはさまざまな原因が考えられ、治療方法もさまざまです。
ただし、慢性的な下痢や嘔吐といった消化器症状が続いている場合は、動物病院で検査が必要です。消化管型リンパ腫などの腫瘍性疾患の可能性も否定できません。
犬の下痢や嘔吐が長引く場合は、がんの可能性を疑い、なるべく早めに獣医師に相談しましょう。
咳や呼吸困難になる
犬のがんが進行すると、咳や呼吸困難など呼吸器系の症状が現れることがあります。これは、呼吸器や肺に腫瘍が発生しているためだと考えられます。
放置していると命にかかわる危険性があるので、ただちに動物病院を受診しましょう。悪性腫瘍が進行している場合は食欲不振や体重減少も伴います。
さらには肺水腫や肺炎など疾患の可能性もあるため、早急な検査や治療が必要です。治療法は、気管支炎・ウイルス性鼻気管炎・心臓病など病気によって異なります。
犬によくみられるがんの種類
犬のがんは種類が多く、体腔内にある転移性の肺がん・肝臓がん・腎臓がん・腹腔内の消化器がん・脊髄腫瘍・骨肉腫など筋骨格系のがんなどさまざまです。
犬によくみられるがんにはリンパ腫など血液リンパ系のがんがあり、肥満細胞腫・乳腺腫瘍など体表にみられる皮膚がんや乳腺のがんが多いことが特徴でしょう。
また、肛門嚢アポクリン腺がん・膀胱がん・膀胱腫瘍など肛門回りにも観察が必要です。高齢の犬の皮膚によく発生する軟部組織肉腫は、転移しにくい特徴があるため摘出手術で完治することも珍しくありません。
一方、悪性黒色腫(メラノーマ)は肺などに転移しやすいので、早期発見・治療が重要です。
リンパ腫
犬のリンパ腫は、免疫細胞のがん化により全身のリンパ節に発生する悪性腫瘍です。転移しやすく、リンパ節や肝臓・脾臓など免疫を司る臓器に発生することが少なくありません。
リンパ腫は腫瘍性疾患で、症状は5つの型によって異なるのも特徴でしょう。なかでも発生率が高い多中心型リンパ種は、皮膚の赤みやリンパ節の腫れなどの初期症状に続き、元気消失・食欲の低下・嘔吐・下痢など深刻な症状に移行します。
治療法は抗がん剤を使用した多剤併用療法ですが、進行した場合はQOLの向上を目的とした緩和ケアを行うことになる完治が難しい病気です。
毎日のスキンシップや健康観察が大切で、少しでも症状が現れたら動物病院を受診して早期発見・治療に努めるようにしましょう。
肥満細胞腫
肥満細胞腫は、中高齢の犬によくみられる皮膚がんの1つで、体内の肥満細胞が腫瘍化して増殖する疾患です。
発症すると、皮膚や皮膚下にしこりができたり、リンパ節やほかの臓器に転移したりします。肥満細胞腫は犬の皮膚に複数発生することもあり、進行とともに赤味・痒み・腫れ・脱毛などの症状を引き起こすこともあるので注意しましょう。
また、胃潰瘍・嘔吐・下痢・血圧低下など全身症状に広がる恐れもあるので、ずっとあるからと放置せずに細胞診検査をすることが大切です。
治療は手術によって肥満細胞腫を取りきることが重要で、早期発見・治療によって助かる可能性は高まります。普段から愛犬の身体をよく触ってあげて、皮膚に何か異常を見つけたら早めに動物病院を受診するようにしましょう。
ただし、手術の際は、腫瘍部位と上下左右にそれぞれ約3㎝のマージンが必要です。傷口が予想以上に大きくなることから、最近は経口投与タイプの抗がん剤も選択肢の一つになっていることに注意しましょう。
骨肉腫
犬の骨肉腫とは、足や関節の周囲に発生する悪性腫瘍です。大型犬の主に四肢の骨に発生しやすく、骨にできるがんの約85%を占めています。
強い痛みを抑える治療のため、外科的な断脚術を行う可能性が高いがんです。高い確率で肺転移などを引き起こす予後不良の疾患なので、注意が必要でしょう。
骨肉腫の完治は難しいですが、少しでも長く元気な状態を保つには抗がん剤治療が必要です。家族と動物病院の連携のもとがんに立ち向かおうとする強い意志が求められるでしょう。
乳腺腫瘍
左右5対ある犬の乳腺にしこりができたら乳腺腫瘍を疑い、動物病院で検査を受けるようにしましょう。良性と悪性の割合はほぼ50%ですが、早期に発見して手術を行うことで治すことが可能です。
診断にはしこりに針を刺して細胞検査を行いますが、手術をしてみないと良性か悪性の腫瘍なのか判別できません。
ホルモンの影響が大きいため、避妊手術を受けていない高齢の雌の犬に発生傾向が高いとされています。初回発情前に避妊手術を行うことで、乳腺腫瘍発生リスクが大変低く抑えられることにも注意しておきましょう。
高齢での避妊手術は乳腺腫瘍の予防には効果はないものの、子宮や卵巣に異常をきたしている場合は乳腺腫瘍の手術と同時に避妊手術を検討します。高齢では子宮蓄膿症のリスクもあるためで、全身状態が良好であれば避妊手術を推奨される場合が多いでしょう。
皮膚がん
犬の皮膚がんには、皮膚形質細胞腫・扁平上皮がんなどさまざまな種類があります。なかでも特に犬によくみられる皮膚がんは、前述した肥満細胞腫でしょう。
ほかにも、メラニン色素産生細胞由来の悪性腫瘍であるメラノーマは、口腔内・口唇・皮膚に発生します。このような皮膚がんは腫瘍性疾患のため予防法はなく、原因もよくわかっていません。
治療は切除手術のほか、レーザー治療・放射線治療・凍結療法・局所治療などがあります。早期発見のため、日々の健康観察と動物病院での定期検診を行うことが重要です。
犬ががんになる原因
犬のがんの原因は、細胞分裂の際に遺伝子異常を持つがん細胞が発生し、それが無制限に増殖することで発症するためと考えられています。
ほかにも遺伝的要因・年齢・肥満や運動不足による内臓の筋肉の衰え・免疫などの個体差などが関係していますが、はっきりした原因は解明されていません。
正常な状態でもがん細胞は毎日発生していますが、健康で若い犬ならまだ免疫力が高いため、がんを罹患する確率も軽減されるでしょう。
また、雌犬は雄犬に比べ腫瘍の症例数が多い傾向があり、その原因は避妊をしていない場合の乳腺腫瘍の発生が多いためだとされています。
犬のがんの治療方法
犬のがんの治療法には、外科手術・抗がん剤療法・放射線療法・免疫細胞療法・BMR療法などさまざまなものがあります。がんの種類や場所・身体の状態などによって治療法は異なります。
早期発見できれば治せる可能性が高くなるので、気になる症状があれば早めに獣医師に相談することが大切です。
ここからは、犬のがんの治療法についてそれぞれ詳しく解説していきましょう。
外科手術によるがんの摘出
犬のがんの外科手術は、がんそのもの・がんの疑いのある部位を摘出する治療法です。初期のがんであれば切除できる可能性も高く、完治も期待できるでしょう。
口腔内や肛門にできたがんは外科手術で摘出しますが、転移がない場合は完治が期待できます。胃や腸など内臓のがんは手術で取り除きますが、予後の栄養状態が悪くなる危険性もあります。
ただし、完全切除できない場合でも、ある程度切除することでほか臓器への圧迫や巻き込みを遅らせることは可能でしょう。そのため、治療成績は初回の腫瘍の完全切除に大きくかかっており、QOLの向上と数年の延命効果が期待できます。
化学療法(抗がん剤治療)
化学療法は、血液を介して全身に抗がん剤を投与してがん細胞の増殖を抑制する治療法です。白血球数・貧血・肝臓や腎臓および全身状態のモニタリングが必須ですが、手術などで身体を傷つけることなく、腫瘍の縮小や成長の遅延が期待できるのがメリットです。
また、血管から全身に抗がん剤を投与できるため、白血病やリンパ腫など手術では取りきれない全身性の腫瘍の治療などにも適しているでしょう。
例えば、リンパ腫など全身性のがん疾患は抗がん剤に大変よく反応するため、約80%の症例で効果があることがわかっています。血管肉腫に抗がん剤治療を行った場合に平均的な生存期間が3倍近く延びたという報告もあります。
一方で、吐き気や食欲低下など副作用が起こる可能性があるというデメリットもあります。しっかりと獣医師の元で投与量を調節して副作用を抑えつつ、犬のQOLを保つようにしましょう。
放射線治療
放射線治療は、身体の外側から高エネルギーの放射線を腫瘍に集中照射することで、がん細胞の増殖を抑制する治療法です。
放射線によって腫瘍を小さくしたり、がん細胞が増殖する速度を抑えたりする効果が期待できます。
また、大きすぎる腫瘍や手術が難しい場所にある腫瘍でも治療を行えるのがメリットです。 ただし、放射線治療は全身に施せるわけではありません。
身体の一部分に限った腫瘍に対して用いられ、照射したところ以外のがん細胞には効果がないため、放射線治療は外科手術と同じく局所療法に分類されます。
緩和ケア(痛み管理)
犬のがんに対する緩和ケアでは、痛みを上手に管理することで治療をスムーズに進めたり、がんの進行を遅らせたりします。
快適な緩和ケアのプランでは、鎮痛薬・麻薬・栄養補助食品およびマッサージ・理学療法などのチームを編成する場合もあるでしょう。
食欲不振からの脱水症を防ぐため、獣医師と飼い主さんがチームを組み、在宅で皮下点滴を行う必要があるかもしれません。
終末期の緩和ケアでは身体の痛みをうまく管理しつつ、最後まで犬のQOLを保つことに重点が置かれます。
犬のがんの早期発見のポイントは?
犬のがんの早期発見には、動物病院で定期的な健康診断を受けることが欠かせません。また、飼い主さんは日頃からバランスのよい食事と運動の量を管理しておくことが大切です。
犬のがんには、以下のような症状があるので、少しでも気になる症状が見つかれば動物病院を受診しましょう。
- 食欲減退
- 体重減少
- 腹囲膨満
- しこり・腫れ
- 咳・鼻汁・鼻血
- 元気消失・散歩に行きたがらない・途中で座り込む
- 慢性的な下痢・嘔吐
- 血尿・頻尿
- 肢や身体の痛み・ふらつき・麻痺
- けいれん・発作
しこりや腫れは形や大きさにも注意が必要で、1cm以上の大きさ・不規則な形・毛の抜けや炎症などがある場合は獣医師に相談しましょう。
口腔内・耳の中・指先・肛門周辺にがんの症状が見られることもあるので、日常的によく触って全身を健康観察することが大切です。
まとめ
今回は犬のがんについて、種類や症例から予防法までを解説してきました。
あまり知られていないかもしれませんが、日本の条例ではペットの健康・安全を保持するために獣医師による毎年1回以上の健康診断が義務付けられています。
飼い主さんは日常的に心身の健康管理を行い疾病などの予防に努めるとともに、定期的に健康状態を把握する必要があるとも明記されています。
がんに限らず疾病や傷害があった場合には、速やかに獣医師による診療を受けて必要な治療を行いましょう。本記事が、長く元気に愛犬と暮らすための一助になれば幸いです。
参考文献