犬も心臓病になる?病気の原因や症状、治療法を解説

犬も心臓病になる?病気の原因や症状、治療法を解説

犬の心臓病は目立った症状がでないことが多く、飼い主さんが気付かないうちに進行してしまうことがあります。愛犬が健康で長生きするためにも、小さな変化を見落とさずに早期発見できるように心がけることが重要です。こちらの記事では、犬の心臓病の原因やよくある症状、種類をお伝えしたうえで、検査や治療法、心臓病になった愛犬に対して飼い主さんができるケアについて解説します。

犬の心臓病の原因

犬の心臓病の原因

犬の心臓病にはさまざまな原因があります。予防や早期発見につなげるためには、心臓病になる背景を知っておくことが重要です。遺伝による先天的な原因のほか、加齢による心臓の変性、食生活や運動不足などの生活習慣が原因になることもあります。ここでは、犬の心臓病の代表的な原因を3つに分けて解説します。

遺伝

心臓病は、犬種によって先天的に発症する傾向にあります。例えば、犬の心臓病でよくみられる僧帽弁閉鎖不全症は、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、チワワ、マルチーズ、ポメラニアン、トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザーなどの小型犬に多くみられます。一般的に小型犬は心臓が小さいため、中型犬・大型犬と比較して相対的に僧帽弁にかかる負担が大きいと考えられています。

拡張型心筋症は、ドーベルマン・ピンシャー、ボクサー、グレート・デーン、ゴールデン・レトリバーなどの大型犬に多くみられます。加齢や甲状腺機能低下症が原因になっていることがある一方で、家族性に発生する遺伝的な要素も報告されているので注意が必要です。

加齢

心臓病は、加齢によって発病するケースが報告されています。全身に血液を送る役割を担っている心臓は、常に規則正しく動き続けますが、年齢を重ねるごとに心臓構造に負担がかかり衰えていきます。僧帽弁閉鎖不全症は、高齢になるにつれて僧帽弁(左心房と左心室の間にある心臓の弁)がもろくなったり厚みを増したりして発症しやすいといわれています。また、拡張型心筋症は5〜7歳の中高齢でよくみられる病気です。中高齢になったあたりから心臓検査などの実施を検討してもよいでしょう。

生活習慣による肥満・高血圧

心臓病は、肥満や高血圧によって心臓のポンプ機能が低下すると発症する可能性があります。カロリーの過剰摂取や慢性的な運動不足で肥満になると、内臓脂肪が血管の拡張を邪魔して高血圧を引き起こします。また、塩分過多な食事をしていると血液中のナトリウム濃度が高くなり、これを下げようと水を飲む量が増えます。水を飲む量が増えると、循環血液量が増加して高血圧になります。若齢で心臓病になりやすい犬種でなくても、食事の乱れや運動不足が心臓病の引き金になるケースも報告されているので、注意が必要です。

犬の心臓病でよくある症状

犬の心臓病でよくある症状

犬の心臓病は、目立った症状がないまま進行する疾患です。初期段階では気付きにくいですが、徐々に咳、疲労感、呼吸の乱れなどの変化が現れます。症状によって、病気の進行速度や動物病院でできる処置も異なるため、飼い主さんがいち早く愛犬の変化に気付いて検査を受けることが重要です。ここでは、心臓病でよくある症状について、初期〜重度までの段階別に解説します。

初期症状

心臓病の初期症状は、目立った異常が現れにくいですが、次のような症状がみられることがあります。

  • 睡眠時間が長くなった
  • 遊んでいるとすぐに疲れやすくなった
  • 元気がない
  • 呼吸の乱れが目立つ
  • 起床後・運動後に咳が出る

これらの症状は、ただの体調不良や気分によるものとしてスルーしてしまう飼い主さんもいるので、見逃されやすいです。日常生活を送るなかで「いつもと少し様子が異なる…」と感じたら、早めに動物病院に相談してみてください。動物病院では、心筋バイオマーカー(BNP検査)や血圧検査によって異常の有無を確認できる可能性があります。初期症状で心臓病の可能性を確認できれば、生活習慣の見直しをすることで軽度の症状に進まないように対策は可能です。

軽度の場合

軽度の心臓病になると、次のような症状がみられることがあります。

  • 食事の摂取量が減る
  • 散歩や運動を嫌がるようになる
  • 日常生活で呼吸の乱れや咳が目立つようになる

動物病院を受診すると、心筋バイオマーカー(BNP検査)、超音波検査、血圧検査などで異常の有無を確認できます。この段階で心臓病を発見できれば、中度に進行させないための対策が可能です。状態によっては投薬は不要で、食事や運動量を見直すように指示されます。また、定期検診を受けることで中度に進行したらすぐに投薬をはじめられます。

中度の場合

中度の心臓病になると、次のような症状がみられることがあります。

  • 動くこと自体を嫌がるようになる
  • 食事の摂取量が大幅に減る
  • 動いてなくても苦しそうな呼吸をする
  • 常に咳をしている

動物病院では、心筋バイオマーカー(BNP検査)、超音波検査、レントゲン検査、血液検査などで異常の有無を確認できます。軽度から中度に進行すると生活習慣を見直すだけでは心臓の負担を助けることができないため、投薬が必要です。投薬は腎臓に負担がかかるので、常日頃から心拍数・呼吸数・心エコー・血圧の測定をして、最小限の薬の量で心臓をコントロールすることが重要です。

重度の場合

重度の心臓病になると、次のような症状がみられることがあります。

  • じっとしていても呼吸困難になる
  • 呼吸困難になった後に意識を失う
  • ほとんど食事を摂らなくなる
  • 腹水が溜まる

動物病院では、心筋バイオマーカー(BNP検査)、超音波検査、レントゲン検査、血液検査などで異常の有無を確認できます。生活習慣の見直しと投薬を徹底しなければ、寿命が急激に縮んでしまう可能性があります。肺水腫などの合併症を引き起こすと、強心薬、血管拡張剤、ループ利尿剤、利尿降圧剤、抗アルドステロン性利尿剤などの薬を組み合わせて、心臓や身体への負担を軽減させなければなりません。ただし、利尿降圧剤の過剰投与は腎機能障害に直結するので、極力少なく済ませるための調整が必要です。

犬の心臓病の種類

犬の心臓病の種類

犬の心臓病には、複数の種類があります。適切な治療をするためには、適切な検査と診断が欠かせません。ここでは、代表的な心臓病の種類について、それぞれの特徴を解説します。

僧帽弁閉鎖不全症

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、高齢の小型犬によくみられる心臓病です。左心房と左心室の間にある僧帽弁が閉じなくなることで血液が逆流する状態を指します。初期段階では心雑音が聞こえるのみで、その他の症状は現れにくいです。進行すると、心臓のポンプ機能の低下によって左心房が大きくなり、咳を誘発します。重症化すると肺水腫を起こし、呼吸困難・腎不全・失神など命に関わるリスクも潜んでいます。

動物病院を受診すると、内科療法で症状緩和・進行抑制、外科手術で弁の修復が可能です。また、自宅では、できる限り安静に過ごし、呼吸数・心拍数などの定期的な観察が求められます。

肺動脈弁狭窄症

犬の肺動脈弁狭窄症は、先天性の心臓病です。右心室と肺をつなげる肺動脈弁が狭くなったり開きにくくなったりすることで血流の流れが阻害されて、肺に血液が届きにくくなる状態を指します。肺への血液供給量が減ると、心臓にかかる圧力が増加して、全身に水が溜まる腹水・浮腫み・ふらつき・失神などの症状を引き起こします。

動物病院を受診すると、内科療法で心負担の軽減、カテーテルや外科的治療による弁の拡張や修復が可能です。自宅では、疲労やふらつく様子がみられるときには運動量を減らして、呼吸数・心拍数などの定期的な観察が求められます。

動脈管開存症

犬の動脈管開存症は、胎児期に大動脈と肺動脈をつなぐ動脈管が開いたまま残ってしまう心臓病です。本来、出生後すぐに動脈管は閉じるのが正常ですが、開いたまま残ると、心臓や肺に血流が大量に流れて負荷がかかる先天性疾患につながります。咳・呼吸困難・心肥大・肺水腫を引き起こし、重症化すると心臓機能の低下によって死亡するリスクを持ち合わせています。

動物病院では、早期発見できた動脈管開存症に対してカテーテル閉鎖や外科手術による治療が可能です。一方で、進行してアイゼンメンジャー症候群と診断されると、手術ができないので、内科療法で症状緩和を目指します。

心室中隔欠損症

犬の心室中隔欠損症は、先天性の心臓病です。左右の心室を隔てる壁に先天的な穴が開いていることで、左心室から右心室に血液が流れ込み、心臓に大きな負担がかかる状態を指します。心肥大、肺への血流増加から肺水腫・咳・呼吸困難などにつながります。中度に進行すると心不全のリスクが高まるので、内科的に心負担の軽減や体液バランスの調整、重度に進行すると人工心肺による欠損孔閉鎖手術・血液調整するための姑息手術が必要です。

心筋症

犬の心筋症は、心筋の異常が原因で心臓の動きが悪くなる心臓病です。肥大型、拘束型、拡張型の3つのタイプに区分されます。

  • 肥大型:心筋が厚くなることで収縮や拡張が困難になる
  • 拘束型:心臓内部が硬くなって動きが制限される
  • 拡張型:心臓の収縮力が弱くなり心臓が拡大する

どのタイプにおいても疲労感、呼吸困難、失神などの症状がみられ、心不全や血栓症などの重篤な合併症を伴うリスクを持ち合わせています。動物病院では、症状緩和・進行抑制のための内科療法が行われます。自宅では、呼吸数・行動変化の観察が重要です。

不整脈疾患

犬の不整脈疾患は、心臓の心拍リズムに異常が生じる心臓病です。心拍数が早くなる頻脈性不整脈、心拍数が遅くなる徐脈性不整脈の2つのタイプに区分されます。症状の進行により心臓の機能が低下すると、血液が循環しなくなることで失神するリスクが高まります。また、疲労感、睡眠時間の増加、活動量の低下、水が溜まることで腹水・胸水・心囊水・浮腫みなどの症状が現れます。

動物病院を受診すると、頻脈性不整脈に対しては心拍数を抑える薬、徐脈性不整脈に対しては心拍数を上げる薬の投与が主流です。また、ペースメーカーを設置するための外科的手術を実施する場合もあります。自宅では、常日頃から心拍数の乱れ、ふらつき、失神の有無を観察して記録することが重要です。

犬の心臓病の検査方法

犬の心臓病の検査方法

犬の心臓病を正確に診断するためには、複数の検査を組み合わせて実施する必要があります。飼い主さんの観察した結果だけでは心臓病の種類や進行度までは判断できません。ここでは、動物病院で実施されている心臓病の検査方法について解説します。

聴診・身体検査

犬の心臓病を診断するための第一歩として、獣医師による聴診と身体検査です。心拍数・呼吸数・体温測定など基本的なバイタルサインを確認して、心音や肺音を注意深く聞き取ります。中でも心雑音の有無は、僧帽弁閉鎖不全症や心筋症の可能性を判断するために重要です。ただし、心臓に異常がなくても無害性雑音や貧血時にも心雑音が出ることがあるので、聴診のみで判断することはできません。

そこで、聴診や身体検査で心臓病の可能性が疑われるのであれば、ほかの検査と組み合わせる必要があります。身体検査は、特殊な機器を使わないのでシンプルではありますが、獣医師の経験と技術力に依存するため、信頼できる動物病院を探しましょう。

レントゲン・心エコー

レントゲン検査と心エコー(超音波)検査は、犬の心臓の状態を画像で可視化する検査です。レントゲン検査では、心臓の陰影(大きさ・形)、肺や気管、胸水の有無から心臓病の可能性を判断します。特に、心不全でよくみられる肺水腫の診断に有効です。心エコーでは、心臓の内腔や弁膜の構造、動き、異常な血流、血流の方向や速さから心臓病の可能性を判断します。痛みやリスクがないので犬への負担が少ない点も評価されています。

血液検査・心電図

血液検査と心電図は、犬の心臓病を総合的に診断するために必要な検査です。血液検査では、全身状態を把握したり、心臓薬による副作用が起きていないかを確認したりできます。心電図では、伝導の異常や心臓のどの部分に負担が起きているのかを検出可能です。聴診検査で異常がみられなくても、心電図の波形から心臓病の疑いが生じるケースもあるので、精度の高さが評価されています。

犬の心臓病の治療法

犬の心臓病の治療法

犬の心臓病に対する治療方法は、種類や進行度によって異なります。一般的に心臓病を完治させることは困難ですが、適切な治療と自宅管理を組み合わせることで、症状の緩和や進行の抑制が期待できます。ここでは、代表的な心臓病の治療法について解説します。

薬物療法

薬物療法は、心臓病が中度以上に進行している場合に用いられる基本的な治療法です。病気の種類、症状、進行度によって薬を使い分けます。代表的な薬の種類は、次のとおりです。

  • 強心薬:心臓の動きを助ける
  • 血管拡張剤:僧帽弁閉鎖不全症で苦しむ身体を楽にする
  • 利尿剤:咳の沈静化、心臓の負担を軽減する
  • 利尿降圧剤:肺水腫による咳を抑える

これらの薬を単独もしくは組み合わせて服用し、症状の進行を抑えます。薬の種類と量は、定期的な検査結果をもとに調整されるので、継続的に通院して、獣医師からの指示を遵守する必要があります。

外科的治療

心臓病の種類によっては、外的手術をすることで根本改善が見込めるケースがあります。先天疾患とされる動脈管開存症の場合、早期発見できればカテーテル閉鎖や外科手術による治療が可能です。僧帽弁閉鎖不全症の場合、外科手術で弁の修復が可能な場合があります。

すべての動物病院で心臓病の外科的手術が受けられるわけではありません。リスクがあることを十分に理解したうえで、術前検査やアフターフォローまで丁寧に対応してもらえる動物病院を探して相談するようにしてください。

食事療法・サプリメント

心臓病になった犬は、薬物療法や外科的治療のほかにも日常生活での食事管理が重要です。塩分を控えた療法食に切り替えることで心臓への負担を軽減できたり、肥満による進行を遅らせることができるからです。最近では心臓病の犬向けのサプリメントも増えています。ただし、薬物療法とは異なり、効果が証明されているわけではありません。サプリメントの有効性や安全性については不透明な部分があるため、自己判断ではなく、かかりつけの獣医師に相談して様子を見ながら与えるようにしてください。

犬が心臓病と診断されたら?飼い主さんができること

犬が心臓病と診断されたら?飼い主さんができること

愛犬が心臓病になった際には、飼い主さんの献身的なサポートが欠かせません。動物病院での治療に加えて、日々の観察や生活習慣の改善を徹底することで、心臓病の進行を遅らせて寿命を伸ばすことにつながるからです。ここでは、犬が心臓病と診断された際、飼い主さんができることについて解説します。

運動量を減らす

犬が心臓病と診断されたら、心臓への負担を軽減するために運動量を制限することが大切です。散歩中しか排泄をしない犬もいるので、完全に運動制限をかけることは困難なケースもあります。初期段階であれば、排泄のために短時間の散歩をすることは問題ありません。ただし、階段や坂道など心拍数が上がるような行動は極力避けて、飼い主さんが抱っこして移動するなど、心臓への負担が少なく済むような配慮が必要です。散歩中、舌や唇の粘膜が紫色に変色するチアノーゼの症状が現れた場合、酸欠の可能性があるので、早急に動物病院を受診してください。

塩分を控える

犬が心臓病と診断されたら、血圧や循環系に悪影響を与えて心臓への負担になる塩分の摂取制限が必要です。市販のドッグフードには、塩分が多く含まれている傾向にあるため、成分表をよく確認するようにしてください。動物病院を受診すれば、心臓病の犬が安心して食べられる療法食を処方してくれる場合があるので、栄養バランスを保ちながら塩分の摂取量を減らせます。また、人間の食べ物は犬にとって塩分過多になるので与えないことが原則です。

急激な温度変化を避ける

犬が心臓病と診断されたら、心臓への負担を抑えるために急激な温度変化に晒されないような生活環境への配慮が必要です。冬場のシャンプーや入浴は温度変化が大きくなりやすいです。温かいお湯で身体を洗った後に寒い部屋でドライヤーをすると、心臓発作のリスクを高めます。温かいお湯を使った後は、必ず温かい部屋に移動してからドライヤーをするようにしてください。日常生活でも、エアコンや服装などで気温の差が生じにくい環境に整えることで、心臓病の犬への負担を軽減できます。

定期受診と処方薬の投与を継続する

犬の心臓病は、完治がむずかしい病気といわれています。そのため、症状の進行を抑えるために定期的な動物病院の受診と処方薬の継続的な投与が欠かせません。心臓薬には、血管拡張剤、強心剤、利尿剤などさまざまな種類があり、単独もしくは組み合わせで服用することで、心臓への負担を軽減し、合併症のリスクを下げます。「犬の調子が良さそうだから」などの理由で、飼い主さんが勝手に投薬の頻度や量を変えると、症状が急激に悪化する恐れがあるので厳禁です。

また、定期的に血液検査や心エコーを行うことで、全身の状態や心臓薬の副作用の可能性をモニタリングできます。適切な治療を続けるためにも、かかりつけの獣医師と密に連携をとりながら処方薬や治療方針を調整しましょう。

まとめ

まとめ

犬の心臓病は、早期発見・早期治療をすることで病気の進行を遅らせることができます。初期症状は目立ちにくいため、毎日一緒に過ごしている飼い主さんでも見落としてしまうことがありますが、日々の観察と定期的な検診をすることで、愛犬の健康を守ることにつながります。心臓病と診断されても適切な治療と自宅でのケアによって、いつもどおりの生活を送ることが可能です。家族の一員である愛犬が健康に長生きできるよう、小さな変化に気付いたときは動物病院を受診しましょう。

【参考文献】