犬の皮膚炎や胃腸炎の治療に用いられることも少なくないのがステロイドです。ステロイドには即効性があり、使用を始めてすぐに症状が目に見えて改善することもあります。ところが、ステロイドは使い方次第で強い副作用を引き起こすともいわれています。ここではステロイドの副作用が引き起こす症状やその対処法、予防法、ステロイドに代わる治療法や治療薬について解説していきます。
ステロイドの副作用

ステロイドの副作用によってどのような症状が引き起こされるのでしょうか。また、副作用が出た場合どのように対処すればよいのでしょうか。
- 犬がぐったりしているのはステロイドの副作用でしょうか?
- ステロイド剤を使用すると、その副作用により免疫力が低下し、膀胱炎などの感染症にかかりやすくなります。可能性としては、発症した感染症の症状により飼い犬がぐったりしているケースが考えられます。その他には、ステロイド剤の長期間使用によって副腎皮質の機能が低下する、筋肉が落ちる、息が荒くなるといった症状が出て、いつもに比べて元気がなさそうに見えることもあります。
- ステロイドの副作用にはどのような症状があるかを教えてください
- ステロイドの副作用には、多飲多尿、多食、お腹がはる、肝臓が大きくなる、皮膚が薄くなる、息遣いが荒くなる、筋肉が落ちる、感染症にかかりやすくなる、血糖値が上がりやすくなるなどの症状が挙げられます。このなかでとても危険な副作用は免疫機能の低下による感染症の悪化や、新たな感染症の発症です。ステロイド使用中は症状が現れないまま感染症が進行する場合もあり、無症状の細菌性膀胱炎にかかることもあるので注意しましょう。
特に副作用が現れるリスクが高くなるのは、ステロイドの長期間使用や高用量のものを使用した場合です。ステロイドを1ヶ月使用した場合、症例の約7割に副腎予備能の低下が見られたという報告もあります。また、血糖値が上がりやすくなることによる糖尿病発症の危険性もあります。
- ステロイドの副作用はどのくらいの期間続きますか?
- ステロイドを使用している間は副作用が現れたり、すでに現れている副作用が継続したりすることがあります。なお、ステロイドを短期間使用している間に副作用が現れた場合は、ステロイドの使用を止めると副作用が解消されることが多くあります。
- ステロイドで副作用が出たときの対処法を教えてください。
- ステロイド剤の使用により副作用が生じたからといって、急に服用を中止してしまうと危険です。ステロイド剤によって抑えていた病気の症状が再発したり、体内のステロイドホルモンの量が足りなくなったりして、重症化した場合には命を落としてしまうこともあります。ステロイド剤の減薬や断薬を行う場合には、かかりつけの獣医師と相談して飼い犬の体にとって無理のないスケジュールを立てて行ってください。治療方針について疑問を持った場合は、別のクリニックのセカンドオピニオンも選択肢の一つとして考えてもよいでしょう。
ステロイドによる副作用を軽減するポイント

ステロイドによる副作用はどうすれば軽減できるのでしょうか。対処法や予防法について解説します。
- ステロイドは肝臓へ負担がかかると聞きました。何か対策はありますか?
- ステロイドを多量もしくは長期間使用する場合には肝臓へかかる負担は避けられません。肝臓保護作用のある薬も併用して一般的に使われています。肝臓への負担は動物ごとに違いが大きいため、ステロイドを連続使用する間は定期的に肝数値を計測し経過を見守ることで、悪化する前に肝機能障害の兆候に気づくことができるでしょう。
- ステロイドを使うと太りやすくなりますか?
- ステロイドの副作用として食事量が増えることがよく見られます。なかにはあまりにも食欲が亢進(こうしん)しすぎて、ゴミ箱をあさったりする飼い犬もいるほどです。犬自身が満足するまで食べさせると健康を害するほど太ってしまうこともあります。飼い主さん側で食事制限をし、ダイエットフードを混ぜるなどカロリーバランスに注意した対策をとりましょう。
- ステロイドによる胃粘膜障害は予防できますか?
- ステロイドの副作用によって引き起こされる胃粘膜障害は、粘膜保護剤や犬消化管運動機能改善剤を併用することで対処できます。
ステロイドに代わる治療方法
ワンちゃんにステロイドの使用を避けたい場合、ほかの治療法を選ぶことはできるのでしょうか。ステロイドの代替治療の種類と内容について解説します。
- 犬がぐったりしないようにステロイド以外の治療方法を教えてください
- 治療効果を得るためステロイド剤の高用量かつ長期の投与が必要となる、ステロイド剤の減薬または休薬をすると再発を繰り返す、ステロイド剤の副作用が強く継続が困難、といった場合は、ステロイド以外の代替治療を選択あるいは併用することも可能です。
ステロイド以外の治療法や治療薬として、インターフェロン療法、抗ヒスタミン薬、減感作療法、免疫抑制剤(シクロスポリン)、分子標的薬(オクラシチニブ)といったものが候補に挙がります。インターフェロン療法は免疫・炎症の調節などに作用する薬で、アトピーの症状を緩和する効果が期待できます。抗ヒスタミン薬は、体のなかでアレルギー症状を起こす化学伝達物質ヒスタミンの作用を抑えて症状を改善する薬です。減感作療法は、アレルギーの原因物質を特定し意図的に体内に投与することでアレルギー反応に慣れさせ、症状を緩和する治療法です。免疫抑制剤のシクロスポリンは、免疫に関わる血液中のT細胞の働きを阻害する免疫抑制作用により、自己免疫疾患の症状を抑える薬です。分子標的薬のオクラシチニブは、犬のアトピー性皮膚炎に伴う症状やアレルギー性皮膚炎のかゆみを緩和する薬です。
ステロイドの使用に抵抗がある場合は、ステロイド以外の治療法が選択可能かどうかを獣医師に相談してみましょう。
- 幹細胞治療とはどのようなものか教えてください。
- 幹細胞治療は、ステロイドなど従来の治療薬とは異なる作用で炎症を抑え、免疫バランスを調整します。今までの治療で効果が出にくかった犬にも治療効果が期待できます。
また幹細胞治療により症状に改善が見られた場合、ステロイドの減薬が可能になった症例も確認されています。
幹細胞治療と聞くと大変そうなイメージが浮かびますが、実際は点滴により細胞を投与するだけで麻酔をかける必要はありません。手術と比べ、犬にとって体への負担が少ない治療法といえます。
実際の治療の流れとして、まず問診でこれまでの状態や検査結果について聞き取ります。次に、治療を行うにあたって問題がないかを確認するための検査を実施します。そしてその後、培養した細胞を点滴で投与していきます。
編集部まとめ
ここまでステロイドの副作用に関する解説を読んで、ステロイドを飼い犬に投与するのが怖くなってしまった飼い主さんもいるかもしれません。しかし、ステロイドは正しい使い方をすれば様々な症状に有効な薬であり、使用期間が短ければ副作用の出る可能性は低いとされています。治療に用いることを提案された際は、気になることは獣医師に質問して疑問点を解消したうえで使用の判断をしましょう。