犬は病気になっても「痛い」や「苦しい」などと訴えることができません。
また、犬は病気であることを悟られないように何でもないふりをします。そのため気付いたときには病気が進行していたということも珍しくありません。
今回は、いま愛犬と暮らしている方も新しく犬を迎える予定の方も、知っておいてほしい犬の病気について解説します。
犬種別や年齢別でかかりやすい病気や自宅でできる健康チェック方法についても解説しているので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
犬に多い病気
愛犬の健康管理をするためには、どのような病気があるのかを知っておく必要があります。
ここでは、犬がかかりやすいといわれている代表的な5つの病気の症状や治療法などについて解説します。
がん
犬でもがんは死亡原因の第1位に挙げられています。
がんの種類は、リンパ腫・肝臓腫瘍・肥満細胞腫・乳腺腫瘍などさまざまです。
がんの発生初期は症状がみられないことがほとんどで、がんが発生する場所によっても症状はさまざまです。以下のような症状が異変として確認できるでしょう。
- 元気や食欲の低下
- 体重の減少
- 体表面のしこりや腫れ
がんの治療法は、病変ができる部位により手術・化学治療・放射線療法が代表的です。近年では免疫療法を取り入れている動物病院もあります。
がんは早期発見できれば、治る可能性のある病気です。早期発見するには、日頃の健康チェックが大切です。
もしがんが見つかった場合は、がんの種類・進行度・治療方法などについて、獣医師としっかり話し合い愛犬のために治療方法を考えてあげましょう。
歯周病
犬のお口の病気でよくあるのが歯周病です。3歳以上の犬で約8割が歯周病であるといわれています。
犬が若い年齢から歯周病になりやすい理由は、お口の環境が人間と異なり歯垢が歯石に変化する期間が早く、3〜5日で歯石が形成されるためです。
歯石を放っておくと歯周病菌が繁殖し、以下のような症状が現れます。
- 口臭が強い
- 口から出血する・飲み水に血が混じる
- 歯が抜ける
さらに歯周病が悪化すると、頬が腫れたり目の下あたりから血膿が出たりすることもあります。また、歯周病はお口だけでなく全身の健康に影響を与える恐れもあります。
歯周病の一番の予防方法は歯磨きです。ただし、犬の歯の形状は人間と異なるうえ、愛犬に「お口を開けて」と言って開けてくれる犬はいません。
歯磨きができるようになるには日頃からの習慣が大切です。動物病院によってはデンタル教室をしている所もあるので、相談してみてはいかがでしょうか。
ヘルニア
ヘルニアとは、臓器の一部が本来あるべき位置から逸脱してしまった状態をいいます。
犬のヘルニアで一番有名なのが椎間板ヘルニアです。
背骨と背骨の間には椎間板とよばれる軟骨があり、なんらかの拍子に椎間板が本来の位置から逸脱してしまうのが椎間板ヘルニアです。脊髄神経の圧迫を受けるため、痛みや麻痺などの神経症状を引き起こします。
椎間板ヘルニアは頚部・胸部・腰部など椎間板がある部分ならどこにでも起こりうる可能性があり、重症度によって内科治療と外科治療に分かれます。
椎間板ヘルニア以外には鼠経ヘルニア・臍ヘルニア・横隔膜ヘルニア・会陰ヘルニアなどにも注意が必要です。
膵炎
膵炎には急性のものと慢性のものがあります。犬が発症しやすい急性膵炎は、膵臓内の消化酵素が活性化され、膵臓が自身を消化することで炎症反応が引き起こされる病気です。
以下に急性膵炎の症状をまとめました。
- 食欲不振
- 下痢・嘔吐
- 発熱
- 震え
またお腹に強い痛みを伴うと、あまり動かなくなったり、特有のポーズ(上半身を下げて下半身は腰を上げる伸びのような態勢)をしたりする場合があります。重症化すると、ショックや多臓器不全など命に関わる怖い病気です。
膵炎の原因ははっきりわかっていませんが、高脂血症・糖尿病・肥満などの基礎疾患や高脂肪食が関与していると考えられています。
高脂肪のおやつをあげている飼い主さんは注意が必要です。
治療は、数日の入院治療で点滴や痛み止め、吐き気止めなどを使用する対症療法です。
また急性膵炎発症後は、低脂肪食による食事のコントロールも重要になります。食事については獣医師の指示にしたがって、決められた量や給餌回数を守るようにしましょう。
異食誤飲
犬は食べ物でないものや食べると危険なものまで食べてしまうことがあります。
特に注意が必要なのは1歳未満の子犬で、異食誤飲で通院する割合が1歳以上の犬と比べおよそ4倍高いです。
食べたものが中毒性のあるものなら、催吐処置や胃洗浄などの処置が必要になるでしょう。
胃を傷つけたり腸閉塞を起こしたりする可能性があるものは内視鏡や開腹手術が必要になる可能性もあります。
万が一、犬が異物を飲み込んでしまった場合やその可能性がある場合には、早急に動物病院を受診することをおすすめします。
そして一緒にいるときは、犬の行動からはなるべく目を離さないようにしましょう。また、身の回りのものは犬が簡単に取れない場所に片付けるようにすることも大切です。
【犬種別】にかかりやすい病気
犬種によってもかかりやすい病気は異なります。
ここでは、犬種別にかかりやすい病気について解説します。以下で解説する犬種に当てはまらない犬でも発症する可能性はあるので、知識として知っておいてほしい病気です。
ゴールデンレトリバー:外耳炎や耳血腫
ゴールデンレトリバーによくある病気には、外耳炎や耳血腫といった耳の病気があります。
外耳炎の原因は、耳道内での細菌・真菌の増殖や耳ダニの寄生などが考えられます。
耳に痒みが生じるので、後ろ足で耳を引っ掻いたり、頭を振ったりする仕草が見られます。また、外耳炎特有の臭いも特徴的です。
耳血腫は、耳介の内側にある血管が何らかの原因で破れることで、耳介部分に血が溜まって膨れてしまう状態のことです。
耳血腫は外耳炎を伴っていることが多く、後ろ足で耳を掻いたり、頭を激しく振ったりする刺激で起こりやすいといわれています。
耳血腫の治療は、血が溜まった部分を針で刺して血様液を抜くのが一般的です。
外耳炎の治療は点耳薬と動物病院での定期的な耳掃除です。犬の耳の構造上、自宅で耳の奥まで掃除をすることは難しく危険なのでおすすめできません。
ミニチュアダックスフンド:椎間板ヘルニア
ミニチュアダックスフンドによくある病気には、椎間板ヘルニアがあります。
ミニチュアダックスフンドが好発する理由として、椎間板の性質の違いと考えられます。同じようにウェルシュ・コーギーも椎間板の性質により椎間板ヘルニアになりやすい犬種です。
神経への圧迫が軽度の場合は痛みが生じ、神経への圧迫が強いと、ふらつきや立てない・歩けないといった麻痺の症状が現れます。
麻痺が重度になると、膀胱も麻痺して自力排泄ができなくなってしまう可能性のある病気です。
また、稀に脊髄全体に壊死が進行していく脊髄軟化症という病気があります。有効な治療法はなく、脊髄の軟化が呼吸中枢まで達すると死に至る怖い病気です。
普段の生活で気を付けるべき点を以下にまとめました。
- ジャンプをさせない
- ソファやベッドへの飛び乗り・飛び降りを防ぐ
- 床で滑らないように滑り止めマットなどを敷く
上記のような対策でなるべく腰の椎間板に負担がかからないようにしましょう。
ジャックラッセルテリアなど:結膜炎や緑内障
ジャックラッセルテリアやシーズーなどの犬種は、目の病気にかかりやすいといわれています。
結膜炎になると、目を開けにくそうにしたり目ヤニが出たりすることがあります。
緑内障は、眼球の角膜と水晶体の間にある前眼房と呼ばれる部分に、房水という液体が溜まることで眼球内の圧力が高くなる目の疾患です。
目の近くを触られるのを嫌がったり、眼球が膨らんで大きくなったり、瞳孔の奥が緑色や赤っぽい色に見えたりします。最悪の場合は失明にいたってしまうこともある病気です。
いずれの場合も点眼薬での治療が一般的です。点眼回数などは獣医師の指示に従いましょう。
チワワなど:僧帽弁閉鎖不全症
チワワやマルチーズなどで好発するのが僧帽弁閉鎖不全症です。
心臓の左心房に流れてきた血液を左心室に送るときに開く弁(僧帽弁)がうまく閉じなくなり、心臓内で血液の逆流が起こってしまう病気です。
初期段階ではほとんど症状はなく、動物病院で聴診をした際に心雑音が聞こえると指摘されて発覚します。
進行すると、散歩ですぐに疲れたり興奮した際に咳をしたりします。さらに悪化すると、チアノーゼや呼吸困難、肺水腫を起こし死に至る場合もある病気です。
早期発見で病気の進行を遅らせることはできますが、予防や完治が難しい病気ともいわれています。
運動時の疲れやすさや咳などの症状がみられた場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
【年齢別】かかりやすい病気や症状
続いては、年齢別でかかりやすい病気や症状について解説します。
年齢によってもかかりやすい病気や症状は異なります。しかし、以下で解説する病気や症状はその他の年齢でも現れる可能性のある病気や症状なので、こちらも知識として知っておきましょう。
下痢・嘔吐
下痢や嘔吐の症状はどの年齢でも起こる可能性のある症状ですが、子犬や高齢の犬の頻回の下痢や嘔吐は、脱水を起こしやすく衰弱しやすいので注意が必要です。
迎えてすぐの子犬が嘔吐や下痢をした場合は、環境が変わったことによるストレスや寄生虫感染が考えられるでしょう。高齢の犬の場合は、何らかの基礎疾患が原因となっている可能性も考えられます。あまり様子を見ずに早めに動物病院を受診するようにしましょう。
下痢をした場合は、便を持って動物病院を受診するのがおすすめです。嘔吐した場合は、どのようなものを吐いたのか持っていくか写真を撮ると、動物病院を受診した際に説明しやすいのでおすすめです。
心臓疾患
心臓疾患には先天性の疾患と後天性の疾患があります。
先天性の心臓疾患は、生まれつき心臓やその周囲の構造的な異常によるものです。犬で多くみられる先天性の心臓疾患は、心室中隔欠損症・動脈管開存症・大動脈弁狭窄症・肺動脈弁狭窄症などです。
後天性の心臓疾患は7歳以上の犬でリスクが高くなります。前述した僧帽弁閉鎖不全症のほかに、肥大型心筋症・拡張型心筋症・心嚢水の貯留などがあります。
- 運動するとすぐに疲れる
- 呼吸が早い
- 興奮すると咳き込む
- チアノーゼが見られる
- 失神する
上記のような症状がある場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
糖尿病
犬の糖尿病は、インスリンの分泌が正常に行われないI型糖尿病が大半を占めています。7歳以上の犬は糖尿病を発症するリスクが高くなってきます。
糖尿病の初期症状は、飲水量と排尿量が増えるのが特徴です。重症化すると、糖尿病性ケトアシドーシスとよばれる重篤な状態になり、命に関わる病気です。
糖尿病になると、低血糖の症状に気を付けながら、飼い主さんによる毎日のインスリンを注射する必要があります。インスリンの投与量や投与するタイミングはかかりつけの獣医師の指示に従いましょう。
水を飲む量が多く、いつも以上に尿の量が多い場合は、早めに動物病院で診てもらいましょう。
骨折
骨折は、活発な1歳以下の犬や小型犬によくみられます。抱っこや高い所からの落下事故によっても骨折する可能性があります。
足を挙げたままにしたり、痛がったりするなどの症状がみられたら、早急に整形手術を行っている動物病院を受診しましょう。
骨折の状態や部位によって、外科手術やギプス固定、運動制限など治療方法が変わってきます。
愛犬の体調不良のチェック方法
病気を早期に発見するためには、愛犬のいつもと違う小さな異変に気付いてあげる必要があります。
具体的にどのようなところに気を付けて様子を観察したらよいか、自宅でできる愛犬の体調チェックの項目をご紹介します。
- 活力(元気)はいつもと変わりないか
- 食欲はいつもと変わりないか
- 口臭や歯茎の色に異常はないか
- 目が充血したり目ヤニが出てたりしていないか
- 耳を痒そうに掻いたり振ったりしていないか
- 被毛の状態はつやがあるか・脱毛している箇所はないか
- 尿の量や色はいつもと変わりないか
- 便の状態は正常か
- 皮膚にしこりや腫れはないか
- 歩き方は普段と変わらないか
上記のような項目を普段から様子を観察するためにも、日頃から愛犬の全身を触る習慣をつけると、異変に気付きやすいでしょう。少しでも当てはまる場合は、早めにかかりつけの獣医師に相談することをおすすめします。
愛犬の体調不良を起こさないためには
体調不良を見過ごさないためには前述したような体調チェックを日頃から行い、愛犬の異変に早期に気付くことが大切です。
また、犬でも肥満がさまざまな病気のリスクを高めるため、肥満にさせないように気を付ける必要があります。
そのためには、適切な食事管理や犬種に適した運動量の確保など健康的な生活になるように心がけることが、体調不良を起こさせないためには重要です。
症状がなくても気になるときは受診を
愛犬の小さな異変に気付けるのは、日常をともに過ごす飼い主さんのみです。
前述したような体調チェック項目に当てはまらなくても、なんとなくいつもと様子がおかしいと感じたときは、動物病院を受診し獣医師に相談しましょう。
まとめ
今回は犬がかかりやすい病気について解説しました。犬にもさまざまな病気があることがわかったのではないでしょうか。
犬の治療費は公的保険がないため全額負担です。ペット保険に加入することも選択肢の一つですが、治療費は依然として高額になることが多いです。
愛犬は不調を言葉で伝えられないため、一緒に暮らす飼い主さんが日々の観察で気付くことが、病気の早期発見につながります。
大切な愛犬と末永く暮らせるように、日頃の健康チェックと動物病院での定期的な健康診断を受けるようにしましょう。
参考文献