人間と同じように犬も腎不全を発症することをご存知でしょうか。腎不全は不要な老廃物を身体から排出する重要な役割を担っている腎臓に発症する病気です。
年齢を重ねるごとに腎不全の発症リスクは高まっていきますが、腎不全は余命にも大きく関わるほど危険な病気とされています。
では、腎不全を発症するとどのように余命に影響を及ぼすのでしょうか。本記事では、犬の腎不全での余命・症状・緩和ケア・予防法も併せて解説していきます。
愛犬の今後に不安な点がある飼い主さんには有益な情報となります。ぜひ、最後までお付き合いください。
犬の腎不全での余命
犬の腎不全による余命は、腎不全が診断されてから1年半〜2年とされています。
しかし、余命はあくまでも目安でしかありません。症状の進行具合や病気のケアによって余命の日数は前後します。
また腎不全の診断時にステージ4、つまり腎不全末期の状態であった場合の余命は1週間~1ヵ月と極端に短くなります。
飼い主さんにとってはあまりにも唐突で、厳しい現実が突き付けられる可能性も否定できません。なぜなら、腎臓は身体ネットワークの要ともいえる重要な臓器だからです。
さらに、重要な役割を持つ腎臓は沈黙の臓器ベスト3にランクインするほど、厄介な臓器でもあります。気付かないうちに、末期まで症状が進んでいたなんてことも珍しくはないのです。
余命はあくまでも目安ですが、もし腎不全末期であってもお別れとなるそのときまで愛犬に寄り添ってあげることが大切です。
犬の腎不全の原因
症状に気付きにくい恐ろしい病気ですが、そもそも腎不全は一体何が原因で発症する病気なのでしょうか。腎不全の原因として考えられるのは以下の3つに分類されます。
- 急激な血流量の低下
- 細菌によるもの
- 尿路閉塞によるもの
それぞれの内容を詳しくみていきましょう。
出血によるもの
まずは心疾患や出血などによる腎臓への急激な血流量の低下です。ここでの出血とは、大血管手術やカテーテル検査などを行った後に現れる貧血や血清を指しています。
腎臓は心臓から送られる血液の約20%を受け入れるほど、血管が豊富な臓器です。貧血と血清はどちらも血液の流れに異常をきたすため、腎臓機能低下へと影響を及ぼします。
血流の流れが悪くなることで併せるなら、シニア犬も注意が必要です。加齢によって身体機能が低下することに伴い、腎機能も低下するため腎不全の発症リスクが高まります。
腎炎や糖尿病の合併症として、腎不全を発症する危険性も懸念しなければなりません。
細菌によるもの
2つ目はレプトスピラ症などの細菌感染によるものです。
レプトスピラ症は、病原性レプトスピラを保有している動物の尿で汚染された下水・河川・泥などによって皮膚を通して、または汚染された飲食物の摂取によって感染します。
レプトスピラ症の潜伏期間は3~14日程で、感染から症状を発症すると以下の体調不良がみられます。
- 元気食欲消失
- 発熱
- 嘔吐
- 黄疸
- 出血眼球
このような症状が起こりますが、人獣共通感染症ですので飼い主さんにもうつる可能性があります。尿など排せつ物の処理には注意が必要です。
尿路閉塞によるもの
急激に腎不全が引き起こされる場合には、急性腎不全と診断される傾向にあります。急性腎不全を発症する原因になるのが、尿路閉塞(にょうろへいそく)です。
尿管結石や腫瘍が生じると膀胱の尿路を塞いでしまいます。すると、尿が排出されなくなり老廃物が蓄積して腎不全を発症するのです。
尿路を塞いでいる尿管結石や腫瘍を除去すれば、腎臓の機能は回復する傾向にあります。ただし、尿路結石や腫瘍が増大して尿管を傷つけてしまっても、尿の排出が阻害されて腎不全につながります。
原因となる物質を取り出してそのときは回復できても、急性腎不全を何度も繰り返してしまうと腎臓に少しずつダメージが蓄積し、結果的には腎機能障害が残る可能性が懸念されています。
腎臓は基本的に再生しない臓器であるため、ダメージがついてしまう前に治療することが大切です。
犬の腎不全の症状
それでは、犬の腎不全の症状についてもみていきましょう。症状は大まかに3つに分けられます。
- 多飲多尿・尿量が少ない
- 食欲不振
- 嘔吐がみられる
上記の内容を詳しくお伝えしていきましょう。
多飲多尿・尿量が少ない
症状の1つ目は先述しているとおり、尿量が変化することです。尿管結石や腫瘍の発生によって尿路が塞がれてしまうため、尿量が少なくなる傾向にあります。
反対に多飲多尿になる場合もあります。腎性尿崩症(じんせいにょうほうしょう)とも呼ばれており、尿を生成する腎臓の機能に異常があるため、水分が再吸収されず過剰に排出される病気です。
水分が過剰に排出されることから、強い喉の渇きを自覚するようになります。どんどん水分が体内から失われていくため、十分な水分補給を行わないと脱水症状を引き起こす可能性も否定できません。
脱水症状になれば、低血圧・ショック状態などの症状を引き起こすことがあります。異常に水を飲む場合は、動物病院で受診しましょう。
食欲不振
症状の2つ目は、味覚や嗅覚の変化に伴う食欲低下です。腎臓の働きが正常ではなくなることで、代謝だけではなく味覚や嗅覚にも異常が生じるとされています。
食欲不振に陥ると必然的に体調不良になる可能性が高くなります。特に変わったことはしていないのに、急に食欲不振になっているのであれば腎不全を疑うべきでしょう。
食欲不振は腎不全以外にも、さまざまな病気の症状として挙げられるものです。愛犬に悪影響が出ていると感じたら、まずは獣医師に相談することをおすすめします。
嘔吐がみられる
症状の3つ目は、口腔内の急激な変化や胃の潰瘍による嘔吐です。代謝が異常をきたすと、以下のような症状が体の内部で進行していきます。
- 筋力低下
- 脱水症状
- 低カリウム血症
- 高カルシウム血症
- 無気力
上記の症状が進行すると、吐き気や嘔吐につながることが判明しています。
食欲不振と嘔吐によって著しく体重減少がみられることも特徴です。嘔吐が続くようであれば、ほかの症状も出ていないかチェックしましょう。
愛犬の様子見をするよりも、動物病院で受診することに留意してください。
犬の腎不全の検査方法
もしかしたら腎不全かもしれないと感じたら、気になるのは検査方法です。ここからは腎不全の疑いがある場合に行われる検査方法を紹介していきます。
よく行われる3つの検査方法について、詳しくみていきましょう。
尿検査
腎不全を発症している場合には、尿に明らかな異常がみられる傾向にあります。そのため、尿検査は必ずといっていいほど行われるでしょう。
尿検査は濃縮能力を確認するための比重のチェックと、尿にタンパク質が漏れ出ていないかを主に検査しますが、それ以外に結石や出血の有無、尿糖なども確認します。
タンパク質のほかにも、筋肉に関係する物質や血液に関する物質などの老廃物に異常がないかもチェックします。腎不全以外の病気が潜んでいる可能性がないか見逃さないためにも、重要な検査です。
血液検査
血液検査では、尿検査の数値が腎臓によって変化しているのかをより明確にしていくために行う検査方法です。
そこで血液検査を通して、下記の数値データをチェックしています。
- ナトリウム(Na)
- カリウム(K)
- クロール(Cl)
- 尿素窒素(BUN)
- クレアチニン(Cre)
- リン(IP)
- CBC
上記以外の数値も出ますので、尿検査と同様にほかの病気が関わっていないかをダブルチェックしていきます。
エコー検査
エコー検査では、腎臓の大きさや形態に異常がないかを調べます。
ただし腎臓の大きさは、生まれつき片側の腎臓が小さい犬もいるため、大きさが違うからといって一概に腎不全であるとは判断できません。
また、腎臓に水のたまる嚢胞(のうほう)ができて、少しずつ腎機能の低下が進んでいく多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)もエコー検査により診断できます。
人間が人間ドックでさまざまな病気の可能性がないかチェックするように、犬も合併症やほかの病気が隠れていないかをいくつかの検査で絞り込んでいきます。
犬の腎不全における緩和ケア
腎臓は1度ダメージを受けると元に戻ることはありません。ですが、症状を緩和したりこれ以上症状が進行しないようにケアすることは可能です。
犬の腎不全における緩和ケアについても解説していきましょう。
薬や食事の管理
腎不全のステージ2からは細かく薬や食事の管理をして、症状の進行を防ぐことが一般的です。腎臓病用の食事療法が検討されるのも、このステージ2からになります。
この点を踏まえても腎不全においては、ステージ2をどのように乗り越えていくかがカギといっても過言ではありません。
腎臓病の食事療法ではナトリウムやリンが制限され、数値が安定するまでは4〜6週ごとにモニタリングを行います。血清濃度が安定すれば12週ごとというように間隔を伸ばして様子をみていくことになるでしょう。
食事の内容は、獣医師の指示に従ってください。
一緒に過ごす時間を増やす
緩和ケアは体だけでなく、愛犬のメンタルヘルスケアがとても大切です。愛犬からしてみれば、言葉でコミュニケーションを取れないため、何をされているのかもわからず大きな不安が押し寄せます。
愛犬が少しでも気を紛らわせられるよう、一緒に過ごす時間を増やしていきましょう。
お互いに話すことはできませんが、一緒に過ごすことで愛犬に飼い主さんの気持ちを伝えることはできます。
飼い主さんもつらいですが、犬は人間の感情変化に機敏なため、なるべく笑顔で優しく接することを心がけましょう。
点滴などの処置を受ける
食事を摂取することが難しかったり脱水症状が起きたりしている場合には、点滴による処置が適用されることもあります。
薬の服用が難しい状態である場合も、点滴から服用する方法がとられるケースがあります。愛犬の状態に合わせて処置が行われますが、なるべく寄り添ってあげましょう。
犬の腎不全の予防法
ここからは飼い主さんが1番知りたいであろう犬の腎不全の予防法についてお話していきます。
3つの予防法をお伝えしていきますが、そのうちの2つは意識するだけで日常に取り入れられる方法です。
今からでもできることから取り入れてみてください。
食事による栄養管理
薬や食事の管理でも先述しているとおり、ステージ2以降では食事療法が適用されます。ナトリウムやリンが制限された食事内容に切り替わる可能性が高いです。
療養用のドッグフードも販売されていますが、食事の内容は獣医師の指示やアドバイスに従うようにしましょう。
動物病院によっては療養用ドッグフードのサンプルを提供してくれるところもあります。
水分補給
日頃から水分補給をこまめに行えるようにしておくことが、犬の腎不全の予防につながります。例えば、何箇所かに水飲み場を設置したり、数時間置きに水分補給を促したりするのが効果的です。
また、犬の飲み水は刺激とならないよう、常温のものを準備するように心がけましょう。なお、水分補給を促すだけでなく、愛犬がどのくらいの水を平均で飲むのかについても観察しましょう。
そうすることで異変があったときにも早期発見・早期治療につなげられるのでおすすめです。
定期健診を受ける
予防方法で重要なのは、定期健診です。日頃のケアはもちろん大切ですが、犬は人間に弱みをみせないよう隠す習性があります。
言葉でコミュニケーションを取ることも難しいため、不調を隠されると発見が遅れて取り返しのつかない状況になる可能性も否定できません。
愛犬の健康を守り、何か異常が起きてしまっても早期発見・早期治療できるように努めましょう。
まとめ
今回は、犬の腎不全での余命・症状・緩和ケア・予防法も併せて解説していきました。
腎臓は身体ネットワークの要ともいえる重要な臓器です。重要な役割を担っていながら、沈黙の臓器とも呼ばれるほど水面下で静かに病気を進行させる厄介な臓器でもあります。
そのため、愛犬の行動に違和感を覚えたら、まずは動物病院へ受診することを心がけてください。様子見をしている間にも、病気は一刻一刻と進行しています。
腎臓はダメージを受けると元に戻りません。もし、腎不全を発症してしまってもダメージをできるだけ小さくすることが大切です。
普段の生活から早期発見・早期治療につなげられるように留意していきましょう。
参考文献