老犬がかかりやすい病気は、心臓病・腎臓病・肝臓病・がん・子宮蓄膿症(雌)・前立腺炎(雄)・ホルモン異常(甲状腺など)・膀胱結石など、人間の高齢者とかかる病気にそれ程違いはありません。
老犬は認知症だけでなく、白内障や緑内障など高齢に特有の病気にもかかります。動物は言葉で訴えられないため、飼い主が日常の観察を通して、適切なケアを行う必要があります。
動物病院で獣医に診てもらうことで、適切な治療と処方を受けることも可能です。この記事では、老犬がかかりやすい病気、主な症状や対処法を解説します。
老犬がかかりやすい病気
野生の動物は死ぬ直前まで元気に振るまうそうです。一方で人間に飼われている犬は安全な環境で過ごしているので、人間と同じように老いとともに病気にかかります。
特に動物病院で診てもらわなければ、元気がなくなって看病しながら最期を看取るケースになるでしょう。しかし、現在はペットも家族の一員という考えから、何かあれば人間と変わらず動物病院で治療してもらうことが一般的となりました。
室内飼いが一般化したことで犬の寿命は延び、現在では15年以上生きる犬も珍しくありません。
ここでは、老犬がかかりやすい病気を解説します。
認知症
犬も認知症にかかります。正しくは、認知機能不全と呼びます。常に接している飼い主であれば、あらゆる場面でもしかしたら認知症ではないかと気付くでしょう。
例えば散歩のときに同じ所をぐるぐる回る、単調に吠え続ける、これまでと違う行動をとるなどです。特にしつけを忘れることが顕著で、トイレの場所がわからなくなることも少なくありません。
ほかに、生活が昼夜逆転する・飼い主を忘れるなどさまざまな症状が現れることがあります。原因は、脳の血管の出血や脳炎・脳腫瘍・脳の老化などが考えられています。
心臓病
老犬によく見られるのが心臓病といわれています。動物病院で獣医に診察してもらわないとわからないところですが、普段の症状として、運動や興奮したときに咳が出るようになると心臓病の疑いがあります。
風邪と間違えやすいですが、老犬になりなかなか咳がとまらなかったり安静にしていても咳が出るようになったりしたら動物病院に診てもらいましょう。好きだった散歩を嫌がるようになって座り込んでしまうときも何らかの疾患にかかっているとみてよいでしょう。
腎臓病
老犬のよくかかる病気に慢性腎臓病です。 老境に入ると腎臓の機能がどんどん弱くなっていきます。この病気は徐々に進行するため、症状に気付くのが遅くなる傾向が強いです。
症状としては、水をたくさん飲むようになり、尿もたくさんするようになります。初期症状として水を多く飲むようになりますが、症状は改善せず、徐々に目立ってくるため飼い主は気付くことが多いです。
さらに進行すると嘔吐や貧血、食欲低下が見られ、どんどん元気がなくなっていきます。腎臓病は治ることがないため、根本的な治療法はありませんが、処方薬および点滴によって進行を遅らせ延命することができます。
白内障
加齢により起こる目の病気には老齢性白内障があります。
目が白く濁ってくるので早期に気付きやすい病気です。視力が徐々に低下していくため、ボールや人の動きなどを追えなくなったり、物にぶつかりやすくなったりします。
また、糖尿病などが原因で発症するケースも多く見られます。
なお加齢と共に生理的な変化として起こる核硬化症も目が白く見え、見た目では白内障と区別ができません。愛犬に目が見えにくい様子があるなど、気になることがあれば獣医師の診察を受けましょう。
視力が徐々に低下していくため、ボールや人の動きなどを追えなくなったり、物にぶつかりやすくなったりします。また、糖尿病などが原因で発症するケースも多く見られます。
内分泌系の病気
内分泌系の病気はホルモンバランスが崩れることによって起こる疾患です。主に皮膚のトラブルであり毛周期の乱れがメインとなります。
症状としては脱毛です。頭部や横腹・太もも後部などから始まり、全身に広がることがあります。身体の抵抗力も弱ってくるので常在微生物の増殖を伴うケースもあります。
ストレスが原因の場合もありますが、老犬の場合は内分泌系の病気が考えられるので脱毛などの症状が見られたら動物病院で診てもらうようにしましょう。
また、内分泌系において臨床現場では血液検査の異常も重要視されています。内分泌系には、ほかにクッシング症候群、アジソン病、甲状腺機能低下症、糖尿病などがあります。
一口に内分泌系の疾患として一括りにできません。老犬が罹患する病気は人間と同じくらい多岐にわたっています。
老犬がかかりやすい病気による主な症状
老犬にはかかりやすい病気がいくつかあります。人間と同じように加齢とともに動作が緩慢になります。犬の寿命は15年くらいなのでみるみる衰えていくこともあるようです。
それでも、目で見てすぐに気付くこともあれば、大変な状態になるまでわからないケースも少なくありません。限界まで元気に見せる動物の本能があるのかもしれません。
ここでは、老犬になると出てくるさまざまな症状を解説します。
足腰の衰え
犬の老化は足腰に現れやすいです。足腰の筋肉、さらには関節が衰えていきます。筋肉が衰えると、犬は歩くことや走ることを避けるようになるでしょう。
運動不足が筋肉の衰えに拍車をかけてしまうので、可能な限り、犬を散歩に連れていくことが推奨されます。どうしても嫌がったり足の動きがおかしく感じたりするようでしたら、骨関節炎になっている可能性も考えられます。
この場合は痛みも伴うので足を触られるのを極端に嫌がったり、触って吠えたりするようなことがあれば、症状がかなり進行している証拠になるでしょう。
感覚が鈍くなる
老犬になると視覚、聴覚、嗅覚などの感覚が鈍ってきます。これは老化現象であり、病気とは区別して考える必要があります。視覚・聴覚・嗅覚など五感といわれる感覚器の能力が低下します。
視覚ならば白内障も疑われますし、単なる衰えではなく病気が関係しているケースも否定できません。犬の場合、聴覚や嗅覚が衰えると動き回ることができなくなります。
無理に動いて室内だとあらゆるものにぶつかってしまうこともあるでしょう。暑さや寒さに鈍感になったり、喉の渇きも忘れがちになったりするようでしたら、そこからあらゆる病気にかかるケースもあります。
粗相が増える
一番わかりやすいのがトイレの失敗です。仔犬の頃にしっかりトイレトレーニングをしていれば、室内で失敗はありません。屋外でトイレをするようにしつけている家庭もあるようですが屋内のトイレトレーニングは犬を飼っていくうえで基本的なものです。
そのため室内で決められた場所でトイレができない、粗相の回数が増えた場合は、腎臓病腎の疑いさらには認知症も疑った方がよいかもしれません。
糖尿病の疑いもあるので、その場合はインスリン注射が必要となる場合もあります。
食欲の低下
野生動物が最終的に命を落とす原因の多くは、食欲の減退による栄養不足です。あらゆる機能の衰えから食べることができなくなり、身体が衰弱して死んでしまいます。
トイレの変化と同様に、食欲の低下は最もわかりやすいサインであり、さまざまな病気を疑う必要があるでしょう。
老犬になると、あらゆる病気が食欲の低下につながります。食欲の低下は徐々に進行するのが一般的ですが、急激な食欲低下の場合はできるだけ早く動物病院で診てもらいましょう。
徘徊
意味もなくあたりを徘徊するようになれば認知症を疑ってみましょう。飼い犬も人間と同様に認知症になります。寿命が延びると認知症になりやすくなる点も人間と同様です。
一般的な初期症状としては動作が緩慢になる、ものにぶつかりやすくなる、粗相の回数が増えるなどです。
飼い主の動向を注視し後をついてくる性質がありますが、意味もなく徘徊するようになれば、認知症の初期サインかもしれません。
夜泣き
飼い犬が夜泣きをするときは寂しいときなどが一般的です。ほかには痛みなどを訴えるために夜泣きをする場合もあります。
意味もなく夜泣きをすることはないので、なんらかのサインであり、サインを見逃さないようにしましょう。
寂しい場合は添い寝をすることで落ち着いて眠りについてくれますが、夜泣きが毎日続く場合、病気のサインが疑われます。痛みや外傷がない場合、内部的な問題が考えられるため、早めに動物病院で診察を受けましょう。
老犬が病気になったときの対処法
犬は言葉で伝えることができないため、身体に異常がある場合は、飼い主が注意深く察する必要があります。判断材料としては、普段と違うかどうかです。
普段から気をつけておかないと愛犬の身体の変化に気付いてあげることができません。動作に明らかな異常が見られたら、速やかに動物病院で診察を受けましょう。
ここでは老犬が病気になったときの対処法を解説します。
かかりつけの病院に受診する
普段と明らかに様子が違うようなら何かしら病気を抱えているケースがほとんどです。老犬の場合はあらゆる疾患が考えられるので、いつもと違う変化に気付いたらできるだけ早く動物病院に連れていきましょう。
予防接種などを受けているかかりつけの病院でしたら勝手がわかるので安心です。犬も一度行った病院のことはよく覚えているので、何度も行ったことのある病院か初めての病院かはよくわかっています。
不安なく診察が受けられるように、かかりつけの病院で受診してもらうようにしましょう。
老犬が安静に過ごせる生活習慣を作る
犬の場合は散歩が日課です。散歩すらできなくなるようでしたら、老境にさしかかっているのは間違いありません。
それでも、少しでも身体を動かした方がよいので、短い距離でも散歩するようにしましょう。家の中でも少し遊ばせる程度の軽い運動を取り入れるとよいでしょう。
簡単な運動以外は、安静に過ごせる環境づくりをします。ドッグフードも老犬用にするなど生活習慣の改善を行っていきましょう。
身体に負荷のかからない環境を作る
快適な生活環境を作ることは長生きにつながります。徘徊しても、ものにぶつからないようなできるだけフラットな空間づくりをしましょう。室内の温度も適温に設定します。
床は滑りやすいフローリングは踏んばりが効かないので足腰を痛めるもととなります。すべりにくいタイルマットやコルクマットなどを生活空間に敷き詰めるとよいでしょう。
寒くならないように、できるだけ暖かい環境を整えましょう。
家のなかでも日当たりのよいところがベストです。飼い主からも死角がなく、老犬の状況を常に把握できるような環境づくりに努めましょう。
老犬が病気になったときの通院費用の目安
老犬が病気やケガをした場合、動物病院での診察が一般的ですが、動物には公的な保険制度がありません。保険会社などが用意しているペット保険などがありますが、加入している方は少なく、治療費は全額飼い主の負担となります。
治療費は動物病院によってさまざまですが、通院費用の目安となる数値が獣医師会などで発表されています。
※いずれも中央値
- 初診料:1,386円
- 再診料:726円
- 時間外診療平日:2,324円
- 時間外診療休診日:2,646円
- 時間外診療深夜:4,513円
- 調剤量内用(1回あたり):249円
- 調剤量外用(1回あたり):23円
- 入院料中型犬:3,491円
老犬が病気になったときの通院回数の目安
10歳を過ぎると犬も老境に入り、老犬と呼ばれるようになります。身体に何らかの異常を抱えるようになるのもこの頃です。常に注意をしていても、目ではっきりわかるようにならなければ身体の異常に気付くことは少ないでしょう。
個体差もありますが、老犬になって食欲が減退してくると腎機能の低下などが疑われます。
そのときに動物病院で診てもらった際、初診から処方箋を受けると、病気や症状にもよりますが、初診から薬を処方して1~2週間後の再診となります。病状が落ち着いているのであれば1ヶ月に1度程度に感覚をあけ、その後も問題なければ3~4ヶ月に1度の受診パターンとなります。
老犬が病気になったときの心構え
飼い主は、愛犬が老犬になって終焉を迎えるまで世話をしなければいけません。最初は可愛いから飼ってみたいという軽い気持ちであっても、そこから家族の一員としてのつきあいが始まります。
犬は身体の調子が悪くても痛みがあっても言葉を話すことができません。動物の習性として何事もないかのようにふるまうこともあります。そのため、飼い主が普段から犬の様子を注視し、何か変わったことがないかを判断するようにしましょう。
何か変わったことを感じたとき、すなわち病気になったときにするべきことを頭に入れておくのもよいでしょう。変化を感じても四六時中ついておくのも大変です。
最終的には動物病院で診ることになりますが、病気になったときに考えることやすべきことを日頃から考えておく必要があります。
老犬の場合は、動きが緩慢になってくるので何をしていても心配になるものです。ちょっとした病気から回復が遅れて後遺症が残ることもあります。また、介護の必要性も出てくるでしょう。
犬の寿命は人間と比べて短く、生まれてから死ぬまでの一生を見届けることになります。当然、死ぬまでに幾度かの病気を乗り越え、最後は食べる力がなくなって死んでいくのが一般的です。
飼い主になるということは、老犬が病気になっていよいよ最後というときに看取るまでのしっかりとした心構えが必要です。
まとめ
犬を飼育するなら多くの場合、生まれたての赤ちゃんか仔犬のときから飼うケースが多いでしょう。なかには、譲ってもらって成犬のうちから飼い始めるケースもあるかもしれません。
つきあいも数年から十数年になります。これだけの期間一緒にいるということは、犬といっても家族の一員と思って間違いありません。
老犬になると、さまざまな病気にかかりやすくなります。ちょっとしたことで元気がなくなるケースもあるでしょう。
生き物ですから最後まで責任を持って飼うのは当然のことです。
老犬になってさらに世話が大変になってきますが、そういった覚悟をしっかりともって最後を見届けてあげましょう。
参考文献