愛犬が家族の誰かがいなくなると吠え続けたり、不安そうにすることがあります。そんな時は飼い主として、どう対処すれば良いのでしょうか。犬が見せるこれらの行動は「分離不安症」と呼ばれ、飼い主が不在の際に特に見られる症状です。この記事では、分離不安症の原因、症状、そして愛犬を支えるための適切な対応方法について解説します。分離不安症は決して珍しいものではなく、正しい知識と理解に基づいたケアで改善できる問題です。愛犬が安心して過ごせる環境を整えるためのヒントが、この記事で見つけられれば幸いです。
犬の分離不安症について
まずは、分離不安症とはどのような症状なのかを解説していきます。合わせて、分離不安症になりやすい犬種となりにくい犬種についてもご紹介します。
分離不安症とは
分離不安症は、犬が飼い主や家族と離れることによって感じる強いストレスや不安が原因で発生します。犬は群れを形成する動物であり、自然界では群れから離れることは危険を伴うため、その本能が現代のペットとしての生活の中でも影響を与えています。特に、人間との強い絆を築くことで知られる犬種では、その絆が離れ離れになることへの恐怖として表れるのです。
分離不安症の犬は、飼い主が外出する際に極度のストレスを感じることがあります。ストレスを感じた結果、過剰な吠え声、家具や壁などの破壊行為、不適切な場所での排泄などの問題行動が生じることがあります。また、ストレスが原因で、犬自身が健康上の問題を引き起こす可能性もあります。例えば、過剰な噛みつきによる皮膚の問題、食欲不振、消化器系の問題などがあります。
分離不安症になりやすい犬種となりにくい犬種
分離不安症には、なりやすい犬種となりにくい犬種が存在します。一般的に、甘えん坊で飼い主への依存度が高い犬種は、分離不安症になりやすいとされています。具体的には小型犬のトイ・プードルやミニチュア・ダックスフンド、マルチーズ、中・大型犬の柴犬、ラブラドルレトリバーなどが当てはまります。
一方、お留守番が得意で自立心が高い犬種は分離不安症になりにくいとされ、例えばボストンテリアやフレンチブルドッグなどが該当します。犬を迎える際は、その犬種の特性を理解し、生活環境や家族構成に合った選択をすることが重要です。
分離不安症の症状
犬が分離不安症を発症するとさまざまな症状が現れますが、飼い主がいる場合といない場合で症状が異なることが多いです。ここでは、飼い主がいる場合といない場合にわけて分離不安症の症状を解説していきます。
飼い主がいる時の症状
飼い主が側にいる時に現れる分離不安症の症状には以下のようなものがあります。
・過剰に甘える
犬が常に飼い主の側にいようとし、他の家族や来客にはあまり関心を示さない場合があります。例えば、飼い主が座るとすぐに膝の上に乗ってくる、トイレや風呂場までついてくるなどの行動が該当します。
・過度に注目を求める
分離不安症の犬は、飼い主の注目を集めようとする行動が顕著になります。例えばしつこく遊びをねだる、頻繁に鳴く、あるいは飼い主の手を舐め続けるなどの行動です。
・パニックになる
飼い主が視界から消えると、犬がパニックに陥ることもあります。これは、例えば飼い主が部屋を出たり、家を出る準備を始めたりすると、犬が過剰に吠えたり、飼い主に飛びついたりするなどして、離れないように試みる行動を指します。
留守番中の症状
飼い主が不在の際に分離不安症を持つ犬が示す主な症状は以下の通りです。
・過剰に吠えたり泣く
飼い主が家を出ると、犬は不安から過剰に吠えたり、泣き声を上げたりします。特に、長時間の留守番では、このような行動が長引くこともあります。
・不適切な排泄をする
分離不安症の犬は、トイレのしつけができている場合でも、飼い主が不在の際に家の中で排泄することがあります。これは、不安やストレスの高まりが原因で起こる行動といえます。
・家具やドアを破壊する
犬が家具を噛んだり、ドアや壁を掻きむしったりするのも、分離不安の一つの表れです。これは不安を紛らわせようとする犬の試みで、犬が感じているストレスが深刻であることが分かりやすい症状です。
・自傷行為
過剰に自分を舐めたり、噛みつきによる自傷行為がある場合も、分離不安症の重要なサインです。犬が不安やストレスにより自分自身を傷つける行動に出てしまっているため、他の症状と比較しても特に深刻な状態であると言えるでしょう。
犬が分離不安症になる原因
犬が分離不安症を発症する背景には、様々な要因が関わっています。ここでは、分離不安症になる原因として考えられる主な要因について解説していきます。
過去の生育環境
犬が幼い頃にした経験は、分離不安症の発症に大きく影響します。例えば、子犬時代に一人で長時間留守番を強いられた経験、飼い主に遺棄された体験、あるいは保護施設で生活し、多くの人による世話を受けてきた経験などがあると、分離不安症のリスクが高まります。このような経験をした犬は安定した愛情や信頼関係を築くことが難しくなってしまい、結果として不安感を増大させてしまうと考えられます。
環境の変化
犬の生活環境において大きな変化があった場合も分離不安症の原因となります。具体的には、引っ越しや家族構成の変化、飼い主の進学や就職に伴う生活リズムの変化、ペットホテルや他人の家に一時的に預け入れられた場合などが挙げられます。さらに、家族が増えたり、飼い主のライフスタイルが大きく変わったりすることも、犬にとっては大きなストレスとなり得ます。これらの生活環境の変化は、犬が感じる安心感や日常の安定性を揺るがせ、不安感を増幅させる要因となります。
怖い思いをした経験
犬が過去に恐怖を感じた経験がある場合は、その恐怖体験が分離不安症の発症に影響を与えることがあります。例えば、留守番中に地震や雷、大きな物音などに驚かされた経験や、飼い主が長期にわたって不在になったことによる空腹感や恐怖感などがこれに当たります。このような恐怖体験は犬にとって深刻なストレスとなり、その後の行動や心理状態に悪影響を及ぼすことがあります。特に、これらの体験が若い時期に起きた場合は影響が長期化する可能性があります。
病気
犬の分離不安症は、場合によっては物理的な病気が原因で発症することもあります。例えば甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症、神経疾患、脳腫瘍などの疾患は、犬に痛みや不快感をもたらし、ストレスを増加させることがあります。また、胎児期に母犬が過度のストレスを経験したことが、子犬の精神的な健康に影響を与えることもあります。病気が原因で犬の行動や感情状態に変化がもたらされ、分離不安症のリスクを高める可能性があるのです。
加齢
加齢による身体的な変化も、犬の分離不安症に影響を与える要因となります。例えば視力や聴力が低下することで、犬は不安感を増大させます。また、老齢による認知症は、犬の行動や心理状態にも深刻な影響を及ぼすことがあります。年を取るにつれて、犬は従来の環境やルーティンに対してより敏感になり、変化に対する不安を感じやすくなるのです。このため、高齢の犬は分離不安症を発症するリスクが高まります。
分離不安症の愛犬への接し方
では、分離不安症になってしまった愛犬にはどのように接すれば良いのでしょうか。ここでは分離不安症の犬に対する適切な接し方と、避けた方が良い接し方について解説します。
要求に応じない
犬が食べ物や遊びを求めて吠えたり、飛びついたりする行動は、「要求行動」と呼ばれます。要求行動に対して簡単に応じるのは避けましょう。たとえば、犬が何か欲しがっているときに「何か欲しいの?」と声をかけるのではなく、毅然とした態度で接することが大切です。
飼い主が犬との接触時間や長さをコントロールすることも重要です。犬が勝手に近づいてきて遊びを要求しても、無視して反応を示さないようにしてください。犬が諦めて離れた時、そのタイミングで犬を呼び戻し、愛情を示したり遊んだりすると良いでしょう。こうすることで、犬に対して飼い主がリーダーシップを持っていることを理解させることができます。
また、犬は何でも好きなことをして良い「自由」を持っているわけではないということを示すのも重要です。犬が家族に何かしてほしいときは、先に基本的な命令(お座りや待てなど)に従うことを求めるようにしましょう。服従訓練を厳格に行うことで、犬は飼い主の指示に従うことの重要性を学びます。
自立させる
分離不安症の犬の自立を促すためには、適切な訓練が必要です。特に、お気に入りの毛布や敷物などを使った「待て」の訓練が効果的です。
敷物の上での「待て」の訓練によって、犬は待つことの価値を学習します。初めは短時間から始め、徐々に待つ時間を延ばしていきます。犬がうまく待てたときには、ご褒美を与えることで、この訓練をより効果的にします。
さらに、敷物の上におもちゃを置き、犬がそれで遊ぶようにします。これにより、犬は自分のスペースで安心して遊ぶことができるようになり、自立心を育むのに役立ちます。このような訓練は、犬が自分で安心できる空間を見つける手助けとなり、分離不安症の改善に寄与します。
このような訓練の際に犬が泣いたり鳴いたりするときは、静かになるまで待つことが大切です。この間、飼い主は犬に反応せず、静かになるのをじっと待つようにします。犬が静かになったら、それを褒めることで、自立への一歩を踏み出すことができます。
避けた方が良い対応方法
ついやってしまいがちですが、実は分離不安症状の犬には避けた方が良い対応も存在します。
・叱る
分離不安症は、犬がパニック状態にあるときに起こります。例えば、家具が壊された後に叱っても、実際には何の効果もありません。犬が犯した行動に対して叱責しても、愛犬の不安を増大させ、状況を悪化させてしまう可能性が高いでしょう。罰を与えることは、愛犬の心理的な健康に悪影響を及ぼすため、避けるべきです。
・閉じ込める
犬が家の中で暴れることを防ぐために犬を閉じ込めることは、おすすめできません。閉じ込められた犬は、ストレスを感じて排泄物で汚したりすることもありますし、自傷行為に発展する可能性もあります。さらに、閉じ込められた場所自体が犬にとって恐怖の対象になってしまうこともあります。
・他のペットを飼う
「もう一匹犬や猫を迎えれば、愛犬の孤独感が解消されるかもしれない」と考えることもあるかもしれません。しかし、分離不安症の犬が求めているのは飼い主の存在であり、新しいペットではありません。新しいペットを迎えることは、家庭内のストレスを増加させることになりかねません。
分離不安症の病院での治療
これまで解説したように分離不安症の犬には適切な対応方法がありますが、病院で専門的な治療を受けるというアプローチも存在します。
薬物療法
薬物療法は、犬の不安やストレスを軽減するために実施されます。具体的には、抗不安薬や抗うつ薬などが処方されることがあります。これらの薬は、犬の脳内の化学物質のバランスを調整することで、犬を落ち着いた状態にする効果があります。しかし、薬物療法は獣医師の指導のもとで慎重に行う必要があり、犬の個体差や健康状態に応じて適切な薬剤と投与量を選択することが重要です。また、薬物療法は犬の状態に応じて他の治療法と組み合わせて使用されることが多いです。
行動療法
行動療法は、犬の行動を徐々に変えていくことを目的としています。行動療法では犬が分離不安を感じる状況を徐々に慣れさせ、不安を軽減するためのトレーニングを行います。例えば、犬が留守番をする時間を徐々に延長していく、犬がリラックスできるような環境を作る、特定の信号を使って安心感を与えるなどの方法があります。時間がかかることが多いですが、犬の行動パターンを根本から変えることが可能なのが行動療法です。
まとめ
愛犬が分離不安症に苦しんでいると感じたら、まずはその原因や背景を理解しましょう。犬の過去の経験や現在の生活環境、健康状態が分離不安症の発症に大きく影響しています。犬の要求には応じ過ぎず、自立を促す訓練を行い、間違った対応方法は避けることが大切です。もし必要なら、獣医師と相談の上で薬物療法や行動療法を検討してみてください。この記事が愛犬との生活がより豊かになる一助になれば幸いです。